「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
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2024年5月30日

「平和的生存権」の意義

▼Q 「平和的生存権」という言葉を耳にしました。どんな権利なのでしょうか?

▼A 日本国憲法の前文には「われらは、全世界の国民が、ひとしく恐怖と欠乏から免かれ、平和のうちに生存する権利を有することを確認する」と定められています。この「平和のうちに生存する権利」が平和的生存権です。戦争放棄(9条)や幸福追求権(13条)を根拠とする考えもあります。

この平和的生存権は、裁判で国を訴えて「平和的に生存させよ」と求められるような具体的権利ではないと考えられています。

しかし、具体的権利性を認めた裁判例もあります。例えば、2008年の自衛隊イラク派遣差し止め訴訟判決で、名古屋高裁は「憲法9条に違反する国の行為によって、個人の生命、自由が侵害されたり、戦争の遂行等への加担・協力を強制されたりするような場合には、裁判所に対し、違憲行為の差止請求や損害賠償請求等の方法によって救済を求めることができる場合がある」としました。国民の権利を守るために踏み込んだ判決と言えます。

平和的生存権は、すべての基本的人権保障の基礎となる具体的かつ重要な人権です。ウクライナ、パレスチナなど、最大の人権侵害というべき戦争・武力紛争が絶えない今日の国際社会においては、世界の人々が平和に生きるために必要不可欠なものです。

これを機会に、平和的生存権の存在意義とその重要性について一緒に考えてみませんか。

西日本新聞 5月30日分掲載(池田 慎)

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