「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2020年5月27日

休業命令は出せなかったの?

▼Q 緊急事態宣言が出ていたとき、新型コロナウイルスのニュースを見た子どもに「どうして営業を続ける店に『やめなさい』と命令しないの」と聞かれました。どう答えればよかったのでしょうか。

▼A なぜ休業要請止まりで、強制的な休業命令が出されなかったのか、疑問に思ったのでしょうね。緊急事態宣言や休業要請は、改正新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づきます。そもそも行政は法に定められたこと以外できず、特措法では休業命令を認めていません。さらに、法に定めれば何でもできるわけではありません。

飲食店やスポーツジムの経営者は、営業を続けることで生計を立て、生活しています。これらは本来、自由な権利です。ただ、公共の福祉の観点から、制約せざるを得ないことがあります。全体の利益のために誰かの権利を犠牲にするわけですから、制約は必要最小限でなければなりません。

今回であれば、感染症の拡大を早期に収束させるという「目的」との関係で、やみくもな規制はできず、休業を最小限にとどめ、感染防止措置が行われていれば営業を認める、といった「手段」を考える必要があります。また一部の人に規制が偏る場合などには、補償も検討する必要があるでしょう。

このような目的と手段の両面から妥当性を探る方法は「法的な見方・考え方」として社会を生きるためにも必要な力です。各弁護士会は学校へ「法教育」の出前授業を行っています。ご家庭でも、お子さんと一緒にこうした捉え方をしてみてはいかがでしょうか。

西日本新聞 5月27日分掲載(鍋島典子)

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