「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
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2021年3月17日

自殺が増加、背景と対応は?

▼Q 自殺者が増えているとのニュースを目にしました。新型コロナウイルス感染拡大の影響もあるのでしょうか。心配です。

▼A 2020年の自殺者が11年ぶりに前年を上回りました。政府は今年2月、新型コロナ感染拡大で深刻化する自殺や子どもの貧困といった問題に横断的に対応するため、内閣官房に「孤独・孤立対策担当室」を設置し、担当大臣も置きました。英国では、18年に孤独担当大臣が任命されています。

自殺は個人の問題でしょうか。国が自殺対策に取り組むのは、自殺の多くが、個人の自由な意思や選択の結果ではなく、貧困やパワハラ、いじめ、健康問題といった社会の構造的な要因が背景にあるからです。

日本弁護士連合会は、12年の決議で、自殺は「生きる権利という究極の基本的人権が、社会の構造的要因によって侵害されている、強いられた死だ」と指摘。
そして、人を死へと追い込む社会の構造的要因を除くことが自殺対策として不可欠であるとして、労働政策の見直し、社会保障制度の確立、経済的支援策の充実などを行うよう国に求めました。

今回の「孤独・孤立対策担当室」設置は、このような日弁連の立場にも沿うものです。また、自殺の背景に複合的要因があることからすると、「孤独・孤立対策担当室」が予定している省庁横断的な対策には、効果が期待されます。

自殺対策は国の責務です。国はきちんと責任を果たしているかという視点で、「孤独・孤立対策担当室」を見守っていきましょう。

西日本新聞 3月17日分掲載(佐野千春)

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