「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
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2020年3月11日

原発事故の賠償 まだ請求できる?

▼Q 2011年3月11日の福島第1原発事故のため、福島県から福岡県に避難してきました。平穏な暮らしを奪われた精神的苦痛は大きく、東京電力に損害賠償を請求したいと考えています。まだ間に合うでしょうか。

▼A 福島第1原発事故は民法上の不法行為に当たります。一般的な不法行為に対し損害賠償を請求できる時効期間は、損害および加害者を知った時から3年です。しかし原発事故で3年では短すぎるという声があったことから、13年12月に特例法が施行され、時効が3年から10年に延長されています。

このため、今日で東日本大震災と原発事故の発生から9年になりますが、時効期間は過ぎていないので、あなたはまだ間に合います。時効を理由に請求が認められないということはありません。

また、時効経過前に提訴すれば、時効はリセットされるため、訴訟中に10年が過ぎても時効にかかることはありません。さらに、東電から損害賠償用の請求書などを受け取っていれば、それが記載された損害に対する「債務の承認」に当たり、同じく時効の進行がリセットされることになります。

なお、東電が時効を主張しないのであれば、時効期間が経過した後であっても、請求することができます。東電は時効について「柔軟な対応」をすると発表しています。とはいえ、できる限り時効経過前に請求することが安全です。

請求にはそれなりの準備期間が必要です。できるだけ早めに弁護士などに相談してください。

西日本新聞 3月11日分掲載(樋口雄一)

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