「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2011年9月16日

「ほう!」な話スペシャル版-高齢者の財産守る

長寿の時代の負の側面として、高齢者を狙った悪質な商法や詐欺が横行している。真面目に働いて蓄えた財産、老後を支える貴重な生活資金だけに、きちんと守られなければならないのだが…。19日の敬老の日を前に、木曜生活面で「『ほう!』な話」を担当する福岡県弁護士会の4人に、最近の傾向と対策を解説してもらった。

●解説した弁護士

▼曽里田和典さん

▼宮崎智美さん

▼小山明輝さん

▼篠木 潔さん

●金融商品の利殖商法 手口を知り被害を防ぐ

高齢者を狙った悪質商法には、健康食品や高級布団を大量に売りつける「次々販売」、不要なリフォーム工事をさせたりする「点検商法」が目立ちます。さらに、これらを上回る勢いで急増しているのが「利殖商法」の被害。未公開株や社債など金融商品の購入を勧める手口で、最近は振り込め詐欺のような複数人による劇場型が増えています。

例えば、1人暮らしの家にA社から「X社の株をお持ちでは?
購入したいので探しています」、相前後してB社から「X社株を購入しませんか」と電話が入る。高値でA社が買ってくれると期待し、B社からX社株を購入する-。X社は実在する場合もあります。

購入するとA社やB社と連絡が取れなくなり、被害の回復は困難。さらに詐欺業者は雨後のたけのこのように現れては消え、民事的な救済も刑事告発もままならない危機的状況です。

手口を十分に知って未然に防ぎ、もしも被害に遭ったと思ったらすぐに、消費生活センターや弁護士会など公的な窓口に相談しましょう。

(曽里田和典)

●年金担保に貸し付け 早急に専門家に相談を

(1)一時的に生活費に困った年金生活者が、質入れの方法で高額な金利を取られる(2)その方法と相まって「年金担保貸し付け」まがいの方法で搾取される-といった被害が目立ちます。

(1)は価値のない腕時計などを質草として預け、質入れしたことにして現金を借り入れるというものです。実際は借金です。

(2)は、業者が金融機関の口座振替による代金回収サービスを併せて利用する仕組みです。つまり、口座振替依頼書に年金振込口座を記入させ、年金支給日に借入金額と利息相当額を確実に自動引き落としにして回収します。

年金証書や通帳、キャッシュカードを預かるわけでもなく、質入れを装っていますが、実質は年金を当て込んだ貸し付けで、法律で禁止された年金担保貸し付けに当たる可能性が極めて高い悪質なものです。

質屋には貸金業法の規制が及びません。それを悪用し、高金利をむさぼる悪質業者も出始めています。返済する前に、一刻も早く弁護士など専門家に相談してください。

(小山明輝)

●家族が年金使い込み 成年後見制度活用して

「年金があるはずなのに施設の利用料を滞納している」「介護で自宅を訪ねたら公共料金が止められていた」…。こうした相談を、ヘルパーや施設関係者から受けることが少なくありません。本人の意思に反して家族が年金を使ってしまったケースがほとんどです。

家庭内での立場が弱いためにNOと言えない、認知症で状況が理解できないなど、高齢者であるがゆえの「弱さ」が原因となり、経済的虐待の被害に遭うケースが増えています。

背景には、不況による低所得や借金の問題が潜んでいることが多く、状況は複雑です。とはいえ、最も基本的かつ重要なのは、年金(財産)はまず本人のためにこそ使われるべきだということ。そうならず、最低限の生活にも支障を来すのであれば、やはり高齢者の尊厳と財産を守る必要があります。そのために「成年後見制度」があります。

この手続きの申し立てに親族の協力が望めない場合は、地域包括支援センターなどに相談すると市町村長による申し立てにつないでくれます。

(宮崎智美)

●お年寄りの判断力低下 地域の見守り大きな力

成年後見制度は、認知症のお年寄りなど判断能力が十分でない人を法的に守ってくれます。本人に代わって財産を管理したり、生活に必要なさまざまな契約をしたりする援助者(後見人、保佐人、補助人)を、家庭裁判所が選任します。

悪質商法に引っ掛かった場合でも、契約をなかったことにする強力な取り消し権が援助者に与えられています。本人の財産目録を作って家庭裁判所に報告したり、医療や介護など生活全般を見守ったりしてくれます。援助者には家族だけでく、弁護士や社会福祉士など専門家もなれます。

他方、同じくらい頼りになるのが、地域の見守り。身近な地域の方々が日頃から声掛けや訪問をしていれば、悪質業者もそう簡単には手が出せません。食べきれないほどの健康食品や高額な布団を大量に購入しているといった異常事態も、早期に発見できます。

お年寄りを独りぼっちにせず「無縁社会とは無縁」の地域をつくる。皆さんの優しさと工夫が、これからのニッポンを救うのです。 

(篠木潔)

◆高齢者・障害者に関する電話無料相談

  • 福岡地区=092(724)7709(毎週火曜日午後1-4時)
  • 筑後地区=0942(46)2667(毎週木曜日午後1-4時)

◆予約制の相談

  • 天神弁護士センター=092(741)3208、30分5250円

西日本新聞 9月16日分掲載

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