「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
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2020年7月8日

マイナンバーと口座のひも付けとは

▼Q 政府がマイナンバーと個人の預貯金口座のひも付けを義務化しようとしているそうですが、何か問題があるのですか?

▼A ひも付けの義務化を巡る議論は、新型コロナウイルス対策の1人10万円の「特別定額給付金」支給が遅れていることを受けて、活発化しました。政府は、今回のような災害給付金の支給の迅速化に役立てると説明し、義務化のための関連法改正案を来年の通常国会に提出しようとしています。

ひも付けによって口座内の情報がどこまで検索可能になるのか、今後の制度設計にもよりますが、残高や出入金などの状況を国や自治体に知られる可能性があります。万一、情報漏えいが発生すれば、極めて重大な被害が生じることは言うまでもありません。

では、漏えいの恐れがない完全なシステムを構築できれば、問題ないのでしょうか。そうではありません。私たちはそれぞれプライバシーの権利を持っています。これは「一人で放っておいてもらう権利」ともいわれているように、私生活に関する情報を、誰からも望まぬまま収集されない権利です。

義務化は、望まない人々のプライバシーの権利を制約します。公共の福祉のための制約はある程度許される可能性がありますが、内容を見極めなければなりません。

最終的に政府は、その人が持つ全ての口座のひも付けを目指しているとの情報もあり、そうであれば資産状況を国に一元的に把握される恐れもあります。それぞれがしっかりと考える必要があるでしょう。

西日本新聞 7月8日分掲載(向井悠人)

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