「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2013年10月26日

「ほう!」な話スペシャル版-働く環境 どう守る

ブラック企業、派遣切り、上司などから嫌がらせを受けるパワーハラスメント(パワハラ)など、私たちの職場でさまざまな問題が起きています。気持ちよく働き続けるための法知識や対策について、水曜生活面で「『ほう!』な話」を担当している福岡県弁護士会に所属する4人に解説してもらいました。

●ブラック企業 大量採用・退職に注意

【Q】就職難で焦っている女子学生です。このところ「ブラック企業」という言葉をよく耳にしますが・・・。

【A】過酷な条件で働くIT産業の労働者が使い始めた言葉です。若者を大量に採用し、過重労働や過酷なノルマを課して使い捨てにする企業を指します。大量採用、大量退職を確信犯的に行っている点が特徴といえます。

社員の平均年齢が若く、新卒採用人数が多い一方で、離職率が高いとブラック企業の可能性が高いです。そうした情報はインターネットや就職関連書籍で確認できます。また、過去に過労死やサービス残業で問題となった会社が改善されているか、大学の卒業生などに確認した方がよいでしょう。

入社後に疑問が生じた場合は早めに弁護士に相談してください。残業代の請求や労災申請の手続き、証拠集めの仕方を助言します。一緒に戦いましょう!

(光永享央)

●妊娠・出産 不利益な扱いは違法

【Q】会社に妊娠したことを伝えたところ、上司に「妊婦はみんな辞めている」と暗に退職を勧められました。

【A】その言動は「マタニティーハラスメント」です。妊娠や出産に関した精神的・肉体的な嫌がらせを指し、最近注目されるようになりました。産後休業から復職に際して「居場所はない」と言われたり、解雇させられたりするケースも後を絶ちません。

男女雇用機会均等法では、婚姻、妊娠、出産などを理由とする不利益な取り扱いを禁止しています。産後休業からの復帰にあたっては、原職か原職相当職とするのが原則です。労働基準法でも、産後休業中とその後30日間は解雇してはならないとされています。

相談者のケースでも、会社側の態度は違法です。事業主は法律の遵守はもちろん、従業員が安心して子どもを産み育てられる環境づくりへの配慮が必要不可欠です。

(松尾佳子)

●パワハラ 労災認定の件数増加

【Q】上司の厳しい叱責(しっせき)でうつ病になりました。労災に認定されますか。給与は手当も含め月約25万円です。

【A】上司の行き過ぎた言動が精神障害をもたらした場合、労災と認められる可能性があります。

厚生労働省は2011年、労災認定の際に用いる基準について、相談のケースも含めてパワハラの実態に即した内容に改定しました。以後、業務上のストレスによる精神障害が労災に認定される件数が増え、昨年度は475件(前年度比150増)に上りました。

労災に認定されると、賞与を除く過去3カ月の給与から算出した休業補償が支給されます。1カ月分の総支給額のおおむね8割で、相談者の場合は約20万円。治療費も支給され、治らなければ年金が支給されることもあります。

会社を相手に損害賠償請求や職場の環境改善を求めることもできます。

(鐘ケ江啓司)

●派遣会社 雇用安定に努力義務

【Q】有期雇用の派遣労働者です。派遣先の業績が悪いらしく、派遣先から契約が解除されそうで不安です。

【A】あなたと派遣会社の労働契約期間が残っている以上、派遣契約が解除されても解雇にはなりません。万が一、解雇されても、その有効性は労働審判などで争えます。

派遣会社側には、通算1年以上の有期雇用の派遣労働者から希望があった場合、雇用の安定に努力すべきことが法律で定められています。期間の定めのない雇用(無期雇用)に転換する機会を提供したり、派遣以外の労働者として無期雇用できる機会を確保したりする必要があります。

派遣先の都合で契約を解除される場合も同様です。派遣先の会社は、派遣労働者の新たな就業機会の確保や休業手当の費用負担など必要な措置を講じなければなりません。こうした規定を活用しましょう。

(梶原恒夫)

【解説した弁護士】

▼光永享央さん

▼鐘ケ江啓司さん

▼松尾佳子さん

▼梶原恒夫さん

福岡県弁護士会 相談窓口(0570)783552

電話番号は「悩みここに」と覚えてください。最寄りの相談センターを案内します。労働問題(労働者からのみ)には無料で、その他は30分5250円で対応します。県外からもつながりますが、県外での対応は各県の弁護士会にお問い合わせください。各県には労働局の総合労働相談コーナーもあります。気軽にご相談を。

西日本新聞 10月26日分掲載

目次