「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
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2018年12月26日

新入社員が引き継ぎせず退職

▼Q 小さな会社の経営者です。人手不足の中、やっと雇った正社員が引き継ぎせずに退職し、取引先にも迷惑が掛かりました。損害賠償請求をしたいのですが。

▼A 労働者には退職の自由が認められています。一方で、退職時に引き継ぎをする信義則上の義務があり、必要な引き継ぎが行われなければ、労働者の義務違反を問うことができる場合もあります。

ただし、引き継ぎをしなかったことが会社に発生した損害の原因であると会社が証明しないといけません。また、引き継ぎをしなかったことのみによって発生した損害額を算出し証明するのはとても難しいです。少しでも引き継ぎを行っていればなおさらでしょう。

過去の裁判で、引き継ぎをせずに病気で退職した人への損害賠償請求が認められず、逆に退職者から会社への損害賠償請求が認められた例があります。

会社側は「穴埋めのため、顧客との打ち合わせや休日出勤などで他の従業員に費やした人件費が損害だ」と主張しましたが、裁判所は、引き継ぎがないことと「損害」との因果関係を認めませんでした。さらに「仮に引き継ぎがあっても、従業員の人件費がかからないとはいえない。このような損害は生じないと一般人でも簡単に分かり、会社が退職者に対して訴訟を起こすのは不当」と判断したのです。

損害賠償請求は慎重に考えた方がいいでしょう。日本弁護士連合会はひまわりほっとダイヤル=(0570)001240=で中小企業の相談を受け付けています。

西日本新聞 12月26日分掲載(尾上太一)

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