「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2024年12月19日

旧優生保護法被害の補償範囲

▼Q ろう者の兄が亡くなりました。遺族は、ろう者の妻だけです。結婚は50年以上前で、兄はこの時、周囲から言われて不妊手術をしています。先日、このような被害者を救済する法律ができたと聞きました。亡くなった兄は対象外でしょうか。

▼A お兄さんは旧優生保護法に基づいて不妊手術を受けたと思われます。旧優生保護法は「不良な子孫の出生」の防止目的で不妊手術を強制する、障がい者を差別する法律でした。不妊手術を強制された人は2万5千人以上と言われています。

被害者は差別や偏見に長い間苦しんだ末、国を訴えました。これに対し、最高裁は2024年7月、国に損害賠償を命じる判決を下しました。旧優生保護法が人権を侵害し、憲法に反していたことを認める画期的な内容でした。岸田文雄首相(当時)による被害者への直接謝罪も行われました。

そして、被害者を救済する法律が新しく作られ、25年1月17日に施行される予定です。この補償法の施行後は、裁判をしなくても補償を受けられます。不妊手術だけでなく、中絶による被害も補償されます。不妊手術被害の補償の対象者は、被害者本人と配偶者です。被害者本人が死亡している場合はその遺族となります。

お兄さんの妻は、自身への補償に加えて、亡くなったお兄さんへの補償も受けることができます。各県に補償金申請の窓口が設置され、弁護士による請求サポートや手話通訳などの支援体制も整備される予定です。各地の弁護士会にご相談ください。

西日本新聞 12月19日分掲載(岡部信政)

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