「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
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2019年11月13日

遺産分割前の預貯金払い戻し

▼Q 夫が亡くなりました。遺言書はなく、法定相続人は私と子ども2人の計3人です。夫名義の預貯金口座が複数あり、子どもたちとどう分けるか話し合いをしています。葬儀費用を払ったりしたので、話がまとまるまでに私の生活費が足りなくなりそうです。

▼A 亡くなった方の口座は、いったん払い戻し・預け入れなどの取引が停止されます。払い戻すためには、原則として、相続人全員が、戸籍謄本や印鑑登録証明書などを用意して、金融機関で相続手続きをしなければなりません。

相続人間で意見の対立がなく、手続きがスムーズに進めば、すぐに払い戻して生活費を確保できますが、意見が対立して手続きが進まないことも考えられます。その場合、家庭裁判所に遺産分割調停などを申し立て、裁判所の判断で預貯金を仮に払い戻せる制度もあるのですが、時間がかかります。

民法改正により7月1日にスタートした、遺産分割前の預貯金を一定範囲内で払い戻せる新制度を利用されてはどうでしょうか。これは、他の相続人の同意がなくても、金融機関に対して口座ごとに払い戻し請求ができる制度です。

払い戻せる額は「死亡時の残高×3分の1×払い戻しを求める人の法定相続分(質問者の場合は妻なので2分の1)」です。上限額は金融機関ごとに150万円と決まっています。

手続きには、亡くなった方と相続人の戸籍謄本などが必要です。口座のある金融機関に、どのような書類の準備が必要か確認してください。

西日本新聞 11月13日分掲載(井澤わかな)

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