「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2022年3月23日

侮辱罪の刑罰が重くなる?

▼Q インターネットでの誹謗(ひぼう)中傷対策として、侮辱罪が厳罰化されると聞きました。どんな罪ですか。

▼A 政府は今月8日、侮辱罪の法定刑の引き上げなどを含む刑法改正案を閣議決定しました。国会で可決されれば、正式に改正されます。

侮辱罪は、公然と人を侮辱することで成立する犯罪です。よく似た犯罪に、より刑の重い名誉毀損(きそん)罪があります。これらの違いは、「具体的な事実を指摘するかどうか」です。「あいつは給料泥棒だ」なら侮辱罪ですが、「会社の金を盗んでいる」なら名誉毀損罪です。具体的に「金を盗んでいる」と言われると、その人の社会的評価は著しく下がります。一方、抽象的に「給料泥棒だ」と言われた場合は、聞き流す人も多いとの考えから、罪としては軽くなっています。

ネットでの中傷でも、具体的事実を指摘するものは名誉毀損罪です。しかし、「キモい」「ウザい」などは侮辱罪にとどまります。この侮辱罪を厳罰化するのが今回の改正です。これまでは罰金にもならなかったのですが、罰金刑や懲役刑が新たに設けられます。

ネットでの中傷は、匿名でなされる、一気に拡散・炎上する、被害者が反論すると逆効果なので反論できない-などの特徴があります。これらの点に対応するには、侮辱罪の厳罰化だけでは不十分でしょう。

刑法改正の動きとともに、改正プロバイダ責任制限法も今年施行されます。「発信者情報開示命令」により、書き込んだ人を特定しやすくなりました。今後も総合的な対策が望まれます。

西日本新聞 3月23日分掲載(角倉潔)

目次