「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
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2023年4月12日

職場で「ばか」はパワハラ?

▼Q 建設現場で働いています。ヘルメットをちゃんと着けない部下がいて、つい「ばか、危ないだろ」「辞めちまえ」と言ってしまいます。ところが先日、「それパワハラでしょ」と言い返されてしまいました。これもパワハラでしょうか。

▼A 法律上のパワハラの定義は(1)職場での優越的な関係が背景にあり、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超え、(3)労働者の就業環境が害される場合とされています。

ご相談のケースは、ヘルメット着用という法律上の義務を守らせ、部下の安全を確保することが目的なのでしょう。しかし、指導方法によってはパワハラになりかねません。

対等な関係なら「ばか」「辞めちまえ」とは言わないでしょうから、(1)優越的な関係からの言葉と捉えられます。次に、「ばか」は人格を否定し、「辞めちまえ」は退職を意味する言葉ですから、(2)業務上必要かつ相当な範囲を超えています。

その上で、危険が迫り緊急を要する状況だった場合や、冗談が通じる信頼関係があるような場合は、(3)労働者の就業環境が害されたとまでは言えないので、一応パワハラではないという結論になりそうです。

もっとも、部下が「パワハラ」という言葉を口にしていることからすると、いずれ問題となる恐れもあります。今後はむやみに乱暴な言葉を使うのは避けるのがよいでしょう。

パワハラをはじめとする労働問題は、表面的な言葉だけでなく、周辺事情も十分に考慮し、最終的な解決の姿を想定しながら対処する必要があります。正しい知識があれば、問題を事前に防いだり、早期に解決したりできます。

西日本新聞 4月12日分掲載(和智章一)

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