福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2024年7月号 月報

あさかぜ基金だより

月報記事

弁護士法人あさかぜ基金法律事務所 石井 智裕(72期)

人吉に見学にいきました

あさかぜ基金法律事務所の所員弁護士の石井です。あさかぜは、弁護士過疎偏在問題の解消のため、弁護士過疎地域で働く弁護士を養成する公設事務所です。あさかぜで養成を受けた弁護士は九弁連管内のひまわり基金法律事務所や弁護士過疎地に所在する法テラス7号事務所(総合法律支援法第30条第1項7号)に赴任していますが、日弁連の支援を受けて、弁護士過疎地で独立開業した弁護士もいます。中嶽修平弁護士(66期)は、平成28年3月にあさかぜを卒業して、熊本県人吉市にて「ひとよし法律事務所」を開業しました。

私たち所員は、去る4月5日に、ひとよし法律事務所を訪問、見学し、中嶽弁護士から開業までの苦労話や開業してからの弁護士活動の実情をつぶさに聴くことができました。

人吉では豪雨災害からの復興が進んでいます

私が泊まった誠屋という宿は、令和2年7月の豪雨での被害をうけて休業していた漬物屋が元の場所に再建されて、新たに宿を併設して開業したところでした。

また、豪雨災害以降、人吉では多くのカフェがオープンしたそうです。

開業にあたって

中嶽弁護士は開業準備で苦労したこととして、複合機はリースだったが、その他の什器備品類は、新品で購入することになり、初期費用が高くなってしまった。福岡と違って、中古でオフィス用品を揃えるのが難しいので、過疎地での開業では什器備品は新品で揃えるか中古だったらどこで入手するのか情報入手に注意と工夫が必要とのことでした。

また、事務職員についても、応募が少なく、経験者がおらず、事務職員は自前で養成する覚悟が必要だということでした。

受任経路の工夫

中嶽弁護士は人吉で3人目の弁護士として開業しました。そのため、受任経路の開拓には工夫をしたそうです。たとえば、ホームページの作成や人吉球磨地区のすべての税理士と司法書士に挨拶へいったりしたそうです。やはり、隣接職種との共同は大切のようです。

令和2年7月の豪雨災害を受けて

人吉の豪雨災害を受けて災害に対するリスクマネジメントの必要性を中嶽弁護士は強調していました。

たとえば、ハザードマップを活用し、その地域における浸水や土砂崩れなどの災害リスクをあらかじめ把握しておいて、万一のときに備えること、個人情報はハードディスクとクラウドを利用したデュアルでの保管を行い、紛失を防ぐこと、固定電話、FAXや携帯電話など複数の連絡手段を確保して、外部との連絡が途絶しないよう工夫しておくことなどです。

司法過疎地赴任に向けて

私は令和2年1月にあさかぜに入所し、司法過疎・偏在地域への赴任に向けて、あさかぜで養成を受けてきました。まだに赴任先は決まっていませんが、司法過疎地に赴任するにあたっては中嶽弁護士の話も参考にして、日々の業務に精進していきたいと考えています。皆様どうぞあさかぜへの応援をよろしくお願いします。

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DV防止法の改正に関する研修を受けて感じたこと

月報記事

両性の平等に関する委員会 委員 西田 舞季(76期)

76期の西田舞季と申します。
新緑清々しい5月14日(火)に、両性の平等に関する委員会主催で、山崎あづさ先生を講師としてDV防止法の改正に関する研修が開催されました。拙筆ながら、研修を受けて感じたことを報告いたします。

1 DV防止法及び今回の改正についての概要

DV(ドメスティック・バイオレンス)とは、配偶者や恋人など親密な関係にある、またはあった者(以下、「配偶者等」とします。)から振るわれる暴力のことをいいます。DV防止法は、配偶者からの暴⼒の防⽌及び被害者の保護を図ることひいては⼈権の擁護と男⼥平等の実現を目的としており、様々な体制を整備しています。

DV案件の多くは、刑事事件として処理されることはありません。そこで活用手段となるのは配偶者からの暴力の防止及び被害者の保護等に関する法律(以下、「DV防止法」とします。)に規定された保護命令です。被害者の安全確保があってこそ、手続を進め、結論へと進むことができます。

今回のテーマである2023年(令和5年)改正では、保護命令の対象及び種類・期間の拡大、厳罰化等が定められました。実際の講義では、山崎先生が内容の差異も含めて改正点についての詳細を大変わかりやすく説明してくださいました。

2 DVに対応する際の軸とは?=その本質を知ること

講義の初めに、DVの本質についての説明がありました。DVの本質は、配偶者等を暴力により支配・コントロールをすることです。支配は、複数の行為を積み重ね、長時間かけて行われることが多くあります。したがって、個々の行為に対しそれぞれDVにあたると判断し主張するのではなく、配偶者等の行為を総合的に考慮してどこにDVの本質があるかを見極めることが求められます。

私自身はまだDV被害の法律相談を受けたことはありませんが、先生方のお話を聞くと、相談者の中には、自分がDVを受けている状態であることを理解していない方が多数存在するそうです。親密な関係を前提として行われるDVは、外から見てすぐに判断できるものとはいえません。また、家庭や恋人関係の中には、その関係特有の思い出、雰囲気、ルール、考え方等が存在しています。それらの要素の存在は、当事者がDVにあたるかを判断する際に影響を与えることがあります。被害者は、配偶者等から受けた行為に対してもやもやする思いを感じながら、何か理由があったのではないかと悩み、自責し、現状から抜け出せないでいます。そんな状況の中、救いを求めて相談に来た被害者の不安と勇気は如何ばかりかと考えてしまいます。

だからこそ、弁護士は、相談を受けた際にはDVに対してしっかりとした軸を持ち、配偶者等のペースにのまれないようにしなければなりません。具体的には、まず、配偶者等の行為がDVにあたるのか(支配なのか)を冷静に判断することが重要です。DVを正当化されないために、「当事者にしかわからないこと」に流されるのではなく、「当事者だからこそわからないこと」「外部の者だからわかること」をもとにDV該当性を客観的に判断できるようにならなければなりません。そして、相談者に対して、結論とその根拠を明確かつ説得的に伝える必要があります。

軸をしっかり持っている姿勢が、自分の選択に迷いと不安のある相談者に安心を与え、DVを受ける環境から抜け出せる一歩につながると思いました。

...つらつらと必要だと思うこと、重要だと思うことを述べたとはいえ、実際に相談の場で理想通りにきちんと対処できるのだろうかと不安を感じています。しかし、新人だとしても、相談者にとってはひとりの弁護士です。求められている役割に応えられるようになりたいと思います。

3 得た知識を武器にする責任

保護命令の種類によって対象や要件が異なっています。また、文言の解釈の必要性が生じたり、必要な証拠を集めることが求められます。手続を進める際に的確に判断し説明できるように、制度についての知識を実際に使いこなせるようにしておく必要があります。

判断を誤った場合に不利益を受けるのは、依頼者です。場合によっては、生命身体への危険が生じる可能性もありますし、依頼者のその後の人生に影響が生じる可能性も考えられます。「弁護士なら何とかしてくれる」と信頼してくださった依頼者に不利益が生じないように、弁護士が知識を学び能力を磨き続けるのは一つの義務であると感じました。

よく先輩方から「弁護士は一生勉強だよ」と教えていただきましたが、常に変化する社会情勢と価値観やそれに伴う法改正に対応できるようになるためには絶えず知識や能力の研鑽が必要になるのだと、改めて先輩方のアドバイスの重みを実感しました。自分にできることとして、日々書籍を読んだり、可能な限り弁護士会や日弁連の研修を受講していますが、先生方はどのように研鑽を積まれていらっしゃるのでしょうか?機会がありましたら、ぜひ教えていただきたいです。

4 資料や講義内容の在り方についての学び

上述のとおり保護命令の種類によって対象や要件が異なっており、全体を把握するのは大変です。

しかし、講師をしてくださった山崎先生が、とても分かりやすい資料をつくってくださいました。文字の色、記号、比較表等を活用して、制度や要件の差異や今回の改正点を把握しやすい資料となっていました。

また、講義全体として、改正の要点を掴みつつ実務での活かし方を学べる構成となっていました。特に書面の記載例や具体的な証拠の種類については、書面作成時のお手本になるだけでなく、書き方や判断に迷った時に参考にできる資料にもなり、大変ありがたいものでした。先生の穏やかで説得力のあるお話の仕方も相まって、多くの知識を身につけることができました。今後、自分が人前で何かを発表する際は、ぜひ先生のスタイルを参考にさせていただきたいと思いました。

5 今後もがんばります

講演が終わった後、研修を受けていた先生方から、たくさんの質問がありました。先生方が業務の中でDV問題と向き合い生じた疑問を共有し合い、非常に充実した時間となりました。

研修を受け、多くの学びがあったと同時に、自分の能力の青さを感じました。得た知識や経験を実際に実務で活かせるように精進してまいります。お読みくださりありがとうございました。

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合同福祉勉強会報告 子どもの福祉について、最前線で熱く語り合う勉強会レポート

月報記事

子どもの権利委員会(福祉小委員会)委員 野島 香苗(37期)

1 はじめに

令和6年4月13日、福岡県弁護士会館2階大ホールにおいて(オンライン併用)、「合同福祉勉強会」が開催されました。この勉強会は、子どもの福祉に取り組んでいる全国の弁護士が一堂に会し、各地の活動状況を共有するほか、実務的な問題について深く議論し、知見を高めることを目的として、毎年開催されています。30年ほど前、大阪弁護士会と神奈川県弁護士会の有志が始めた勉強会が起源だそうですが、当会は2013年ころから参加しています。その年の当番単位会の所在地での開催が恒例となっており、福岡開催2回目の今年は、愛知、和歌山、岡山、奈良、沖縄、神奈川、広島、群馬、静岡、大阪、福岡の11単位会から約100名(うち会館49名)が参加し、フレンドリーな雰囲気の中、4時間半にわたって、熱い議論が交わされ、博多駅前に場所を変えての意見交換会も大いに盛り上がりました。

2 今年は、「面会通信制限」のワンテーマで議論
(1) 単位会報告等

当会子どもの権利委員会の池田耕一郎委員長の開会挨拶の後、例年どおり、各単位会から、児童相談所の弁護士配置状況、児童福祉関係の裁判申立件数、弁護士会としての児童福祉関係の活動状況などが報告されました。

(2) 面会通信制限に関する最近の裁判例報告

神奈川から、議論の前提として、面会通信の権利(ないし法的利益)面、制限の根拠(内在的制約、行政処分、行政指導等)の整理を踏まえた検討事項についての報告があった後、一時保護中及び施設入所措置中の面会通信制限について、一定期間の面会通信制限が違法であるとして国賠(慰謝料)請求が一部認容された判決(宇都宮地裁令和3年3月3日判決)及びその控訴審判決(東京高裁令和3年12月16日判決)が紹介されました。

次に、大阪からは、原審及び控訴審において、いずれも一時保護中の面会通信制限が違法であるとして、国賠(慰謝料)請求が一部認容された判決(大阪地裁令和4年3月24日判決、大阪高裁令和5年8月30日判決)及び一時保護中の面会通信制限に関する国賠(慰謝料)等請求事件の判決(請求棄却・公刊物未搭載)の2例が報告されました。

(3) 裁判例を踏まえた実務の運用についての協議

報告された裁判例は、いずれも虐待事案で一時保護ないし施設入所中の児童との面会通信制限がされ、保護者が同意しない状況で、行政処分によらない面会通信制限が継続されたケースでした。

虐待の事実が認められる場合は、児童虐待防止法12条1項に基づく行政処分による面会通信制限が可能ですが、他方、虐待事案でない場合や、虐待が疑われるものの児虐法12条1項の要件を満たすと判断できない事案や虐待の調査段階においても、子どもの福祉の観点から、面会通信制限が必要かつ相当な場合があることから、実務上は、多くの児相で、児童福祉法における「行政指導」もしくは「指導」による面会通信制限が行われています。

勉強会では、保護者が面会通信制限に同意しない場合に、児虐法12条1項の行政処分によらずに面会通信制限を行うことはできないのか、行政処分を行った場合に、親子再統合のための段階的な調整に支障が生じないか、そもそも一時保護により物理的に保護者と児童が分離されることによる内在的制約あるいは付随的効果として面会通信が制限されることをどう捉えるのか、全部制限と一部制限は明確に区別できるものか・・・など活発な意見交換が行われました。

(4) 面会通信制限の運用状況に関するアンケート結果の報告と質疑応答

当会は、勉強会における運用状況の議論を充実させようと、福岡県児相常勤の一宮里枝子弁護士が中心となって質問事項を設定し、一時保護中、施設入所措置中の制限実施の有無、制限の基準・考慮要素、制限内容、制限手段とその使い分け等に関する事前アンケートを実施しました。20児相について回答があり、取り纏めを担当した当会の小坂昌司弁護士、有滿理奈子弁護士、花田情弁護士の3名が勉強会で集計結果の報告をしました。

制限の考慮要素として、虐待の種別(7児相)、保護者の態度(奪還や虐待再発の可能性)(11児相)、子どもの意向(7児相)等が挙げられました。

一時保護中の制限手段(複数回答)については、

① 行政指導もしくは指導(20児相)
② 児福法27条1項2号の児童福祉司指導(15児相)
③ 児虐法12条1項(8児相)3児相)

の回答があり、手段の使い分けについては、・①で依頼し、指導に従わず面会を求める場合は③による(複数児相)、・加害親と非加害親が別居することになった場合や祖父母宅に子どもを戻す場合に②を利用する等の回答がありました。

施設入所措置中の面会通信制限手段 (複数回答)として、①(17児相)、②(5児相)、③(12児相)等の回答がありました。

アンケート結果に対する質疑応答では、・②の利用場面(特に、法解釈上、一時保護所における一時保護中の制限手段としうるのか)の議論、・③の利用について面会通信を保護者の自由に任せず、児相主導で実施するという趣旨で利用し、段階的に制限を外していく運用の紹介、・③の要件に関する裁判所の認定はかなり厳格であり、利用が慎重にならざるを得ない、・施設側の都合で職員が面会に反対する場合が多いので、国賠が認容された裁判例を紹介するなどして理解を求めている等の報告がありました。

勉強会終盤においても、「児相としては一時保護中の面会を制限する考えはないが、子どもが明確に保護者との面会を拒絶しているため面会を実施しなかった場合でも、制限に該当するのか」という問題提起に対して、様々な観点から意見交換がされ、・児相は何ら指導も措置もしていないのではないか、・子どもの意思を尊重した結果、面会を実施しないという児相の判断に基づく制限であり、制限の違法性は別問題である、・子どもの意向を前面に出すと不実施の責任を転嫁することにならないか等、面会通信制限の本質に迫る活発な議論が行われました。

3 おわりに

面会通信制限については、児福法、児虐法の規定が整備されているとは言えず、報告された裁判例を含め、どのような場合に行政処分による面会通信制限によるべきか、行政処分によらない面会通信制限が違法とされるのはどのような場合か、裁判例が示す判断枠組みや解釈が分かれています。勉強会での議論を通じて、このような現状下で、児相にかかわる弁護士がケースごとに検討しつつ適時適切な手段による運用のために苦心している実務状況が分かりました。

ワンテーマに絞ったことで深い議論ができたことから、次回以降もこの傾向が続くと思われます。子どもの福祉について、これから知識と経験を蓄積していこうと考えておられる先生方も、テーマが絞られると、事前に基礎知識を予習しておくことができ、"つわもの"弁護士たちのコアな議論にもついていきやすくなるのではないでしょうか。

来年は、神奈川(横浜)で開催予定です。多数の単位会が参加し、県外から30名以上が現地参加し、人脈と情報を得ることができる貴重な機会です。子どもの福祉に少しでも関心のある先生方、来年の合同福祉勉強会に、ぜひご参加ください。

合同福祉勉強会報告 子どもの福祉について、最前線で熱く語り合う勉強会レポート 合同福祉勉強会報告 子どもの福祉について、最前線で熱く語り合う勉強会レポート
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2024年6月号 月報

「ジュニアロースクール2024春in福岡」開催!

月報記事

法教育委員会 委員 髙見 慧(73期)

1 はじめに

令和6年3月28日(木)に、「ジュニアロースクール2024春in福岡」が開催されました。今年は、六本松にある福岡県弁護士会会館での開催となり、当日は、総勢52名の中高生の方にご参加いただきました。

2 今回のテーマ

今回は、「地域住民と野球団体の対立 『野球専用グラウンド』は廃止か?存続か?」をテーマに、長年野球専用グラウンドとして使用されてきた市の公園について、野球団体、近隣住民、市の職員という三者の立場に立って検討してもらうこととしました。

野球団体は数十年の歴史があり、プロ野球選手を輩出しているという野球専用グラウンドの存続を、近隣住民は、騒音や違法駐車を理由に野球専用グラウンドの廃止を訴えているという設定になっております。

2022年度から高校では「公共」という新しい科目ができ、「対話的・主体的な深い学び」が求められるようになりました。そこで、今回のJLSでは、対立する当事者の利益調整や実社会生活の中で現実に起こり得る身近な問題を検討する視点を養ってもらうことを目的としました。

3 当日の様子
(1) 全体の流れ

当日は、52名の生徒さんが、1班~10班に分かれ、各班に担当弁護士が1人ずつ補助として付きました。

開会の挨拶の後、大きく分けて第一部~第三部に分かれる進行となりました。

ジュニアロースクール2024春in福岡
(2) 第一部

第一部は、司会進行の吉住守雅先生が議題の概要を説明した後、野球団体のインタビュー映像、近隣住民のインタビュー映像を上映し、1班~5班が近隣住民側、6班~10班が野球団体側として、野球専用グラウンドについて存続or廃止の結論及びその理由を検討するという流れで進行しました。

ジュニアロースクール2024春in福岡
(3) 第二部

第二部では、第一部で検討した内容をまとめて、対立する立場のグループと意見交換を行う進行となりました。近隣住民側の1班と野球団体側の6班が別室に移動し、意見交換を行うといった形です。

ジュニアロースクール2024春in福岡
(4) 第三部

最後に、第三部の冒頭で市役所の職員による会議映像を上映しました。この会議映像を見て、各班は、市の立場に立って、野球専用グラウンドの存続or廃止を検討しました。また、存続する立場に立った場合は、グラウンドの新しいルール作りを、廃止する立場に立った場合は、グラウンドの新しい利用方法を、合わせて検討して頂きました。

その後、各班は検討した結論・理由を模造紙を使って発表するという流れとなります。

ジュニアロースクール2024春in福岡
(5) 議論の様子

私が担当した班は全員が中学生だったのですが(1班と6班が中学生でその他の班は全員高校生でした)、第一部から活発な議論となり、大変驚きました。特に、野球部の生徒さんがいると分かると、野球グラウンドの整備方法や使用方法等を具体的に質問したり、早朝から夕方で近隣住民が少ない時間帯はいつなのか等を的確に議論できていた点は素晴らしかったです。

第二部では、反対の立場への質問に苦戦する場面もありましたが、第三部では、全員が自分の意見を臆せずに述べ、充実した議論ができておりました。

最終的な発表時には、高校生に負けず劣らずの発表内容となっていたので、学年に関係なく、今時の生徒さんは凄いなと感動しました。

発表内容は、全グループが野球専用グラウンドの存続の立場となっていました(個人的には、廃止派の発表も見てみたかったです)。

4 おわりに

今回のJLSは、刑事裁判のようにダイレクトに法的な問題が関わる題材ではありませんでしたが、実際に身近に起こり得る利益衝突として、生徒の皆さんにとっては、イメージのしやすい良い題材であったと感じました。特に、それぞれの立場に立った上での議論に加え、市の立場に立っての結論を検討するという進行は、ボリューミーで生徒さんもあきなかったと思います。

生徒さんへのアンケートでは、とても面白かったとの意見を多数頂くことができ、また、発表が終わった後に、班の生徒さんから、「次もまた参加する!」とお言葉を頂けたのが、非常に嬉しかったです。

最後になりますが、各インタビュー映像や会議映像に出演してくださった先生方や入念な準備・当日の円滑な進行を行ってくださった運営の先生方、事務局の方々のおかげで、今回のJLSも大成功になったと思います。ありがとうございました。

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~いのちを、共に支えるために~LGBTQ+の自死予防を考えるシンポジウム

月報記事

会員 板楠 和佳(76期)

1 はじめに

令和6年3月9日14時から17時半まで、当会2階大ホール及びオンラインにて、「~いのちを、共に支えるために~LGBTQ+の自死予防を考えるシンポジウム」が開催されましたので、ご報告いたします。

この企画は、元々LGBTQ+の自殺防止対策事業に取り組んでいる「プライドハウス東京」という団体から、福岡でもセーフティーネットづくりをしたいということで当会のLGBT委員会にお声がけがあり、同委員会と自死問題対策委員会の共同で昨年の5月に同じテーマで対人支援職の方向けの研修会を開催したところ、非常に好評だったため、今度は広く一般市民の方を対象としたシンポジウムを開催することになったと聞いています。

本シンポジウムは、前半のみたらし加奈さん(臨床心理士、公認心理師、NPO法人『mimosas』代表副理事)による基調講演、後半の五十嵐ゆりさん(レインボーノッツ合同会社代表、NPO法人Rainbow Soup理事長)が司会を務め、後述する各分野の専門家を迎えてのリレートークという2部構成で行われました。

当日は、会場が約40名、オンラインが約60名と、多数の方々にご参加いただきました。

2 基調講演
(1) 性的マイノリティについて基礎的な知識

はじめに、LGBTQ(L:レズビアン(同性愛者)、G:ゲイ(同性愛者)、B:バイセクシャル(両性愛者)、T:トランスジェンダー(性別違和)、Q:クエスチョニング(自身のセクシャリティを決めていない)、クィア)、SOGI(SO:SexualOrientation(性的指向:好きになる対象がどの性に向いているか)、GI:GenderIdentity(性自認:自身の心の性別をどのようにとらえているか))など、性的マイノリティに関する基礎的な知識について解説していただきました。

(2) LGBTQと自死問題との関係性

次に、LGBTQ当事者を取り巻く環境についてお話がありました。現在の日本では、異性愛や性別違和がないことを前提とした法制度や慣習に当事者が排除されていること、差別的発言、そもそも「相談する」という土壌がなく、相談しようと思っても安心して相談できる相談窓口が少ないこと(地域格差)などにより、当事者が生きづらさを抱えやすい環境があります。

実際に、3年おきに実施されているゲイ・バイセクシャル男性を対象とした全国調査によると、いじめ被害経験率が約6割で推移しています。さらに、ゲイ・バイセクシャル男性のうち自殺未遂を経験したことがある人の割合は約9%で、この数字は、異性愛男性の約6倍にのぼります。

現状の日本社会においては、LGBTQ当事者が困難を抱えやすい傾向にあり、自死に至る危険が高いことがわかります。

(3) 私たちにできること、やってはいけないこと

最後に、以上のような現状を改善していくために一人一人にできることや、やってはならないことについてお話しいただきました。

具体的には、社会の中にも自分の中にもLGBTQに対する偏見があることに気づき、そのうえで当事者の言葉を傾聴し受け止める必要があること、相手がLGBTQの当事者である可能性を念頭に、日頃のアウトプットを見直してみること(彼氏・彼女→交際相手・パートナー)、アライ(当事者の味方・支援者)であることを表明することなど、すぐに実践できる助言をいただきました。

そして、他人のSOGIを暴露したり、決めつけたり、カミングアウトを強要したり、揶揄したりしてはならないということを教えていただきました。

3 パネルディスカッション
(1) 学校現場から

1人目の話者、池長絢さん(スクールソーシャルワーカー、精神保健福祉士)には、学校現場におけるLGBTQに関する取り組みについてお話しいただきました。

スクールソーシャルワーカーとは、小中高校に通う児童生徒の心配事を聞き、家庭や学校、地域社会など児童生徒を取り巻く環境を改善する職業です。

池長さんは、スクールソーシャルワーカーとして子どもたちと関わる中で、LGBTQの子どもたちが快適に過ごせるようにするための取り組みに触れることがあるそうです。例えば、呼称を性別によって使い分けるのではなく「さん」に統一する、髪型を規制する校則を性別によって書き分けない、などといった工夫があります。

小中高校時代は、第二次性徴が始まる時期であり、自分の心の性と体の性の不一致に悩みやすい時期です。そのような時期にある子どもたちと接する際には、大人もLGBTQについて学んでいることを伝え、相談しやすい環境をつくることが必要だと言われていました。

(2) 更生支援の現場から

蔦谷暁さん(NPO法人抱僕福岡県地域定着支援センター主任相談員)には、刑事施設からの退所者を支援する活動の中で感じた、社会と個人との間にある見えない障壁についてお話しいただきました。

蔦谷さんが相談員を務める定着支援センターには、身寄りのない出所者やその関係者が日々相談に訪れます。利用者には、障がいを持った人々が多くいます。これまで、障がいは個人の問題として捉えられ、障がいにより生じる困難はいわばその個人の責任であると考えられてきました。そうではなく、障がいを個人と社会にある「障壁」であると捉えると、その障壁を取り除くことで、個人を尊重することができるのではないかと言われていました。

(3) 法律問題と関連して

寺井研一郎弁護士(LGBT委員会)には、LGBTQ当事者の自死と法律問題との関連についてご報告いただきました。

寺井弁護士には、ある相談者との関わりから、弁護士が法的助言することで相談者が抱えていた問題が解決し、自死を防ぐことができたご経験を共有していただきました。他方、法的手段を尽くしても解決できない問題も存在するため、医療機関等との連携が不可欠です。この点は、LGBTQ当事者が社会の中で生きづらさを抱え自死を考えている場合も同様ということでした。

法律相談の場面で、弁護士が依頼者と向き合う際には、特定の性別や異性愛を前提に話を進めてしまうことで、心を閉ざしてしまうことが起こりえます。弁護士としては、当事者が安心して話せる環境作りを心がける必要があると訴えられました。

(4) 精神医療の現場から

最後に、永野健太さん(ながの医院院長、GID(性同一性障害)学会認定医)には、精神医療の観点から自死予防のための支援につきお話しいただきました。

永野さんによれば、GID学会認定医は九州で2人しかおらず、そのうち精神科医は永野さんただ一人であるとのことで、現状として、精神科の医師であっても、LGBTQについて理解のある医師は多くないそうです。それによって、LGBTQ当事者が精神科医を受診したとき、表面に現れた精神疾患を改善することはできても、根本的な生きづらさを解消できないという弊害が生じているとご指摘がありました。このような現状も一因となり、先述の通りLGBTQの自死率が高くなっている現状があります。

以上のような現状を踏まえ、永野さんは「足場をふやすこと」すなわち、よりどころとなる人や場所を複数見つけることが大切であると言われました。また、誰かの「足場」となるために、TALKの原則(Talk:心配していることを伝えること、Ask:死にたいのか素直に尋ねること、Listen:聞き役に徹すること、KeepSafe:本人の安全を守ること)を心がける必要があることをお話しいただきました。

4 質疑応答

最後に、質疑応答が行われました。質問者自身の経験を踏まえての感想や、他の社会問題との関連について質問があり、みたらしさん及び各専門家から、共感の言葉が贈られ、新たな問題提起が行われました。

5 むすび

本シンポジウムにおいては、みたらしさんをはじめ、各分野の専門家にお話しいただき、LGBTQ当事者の自死問題について、様々な観点から考察することができました。LGBTQや自死問題について考えたことがない人から、関心が深い人まで、様々な人に気付きをもたらすシンポジウムであったと感じています。

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