福岡県弁護士会コラム(会内広報誌「月報」より)

2021年7月号 月報

あさかぜ基金だより

月報記事

あさかぜ基金法律事務所 弁護士 佐古井 啓太(72期)

はやくも1年半が過ぎて・・・・・・

あさかぜ基金法律事務所に入所して、はや1年半が過ぎました。入所当時、机を並べていた弁護士も既に3人が司法過疎地へと旅立ちました。うち1人は同期であり、一足早くあさかぜを卒業して、さっそく所長弁護士としてバリバリ活躍している姿を見ると、自分もがんばらないといけないなと身の引き締まる思いです。

さて、今回はその1人である小林洋介弁護士が所長をつとめる飛鸞ひまわり基金法律事務所を訪問したときのことを報告します。

飛鸞ひまわり基金法律事務所

飛鸞(ひらん)ひまわり基金法律事務所は長崎県平戸市にあります。平戸市は人口3万人の市で、平戸島その他の島しょ部と九州本土部(旧田平町)から構成されており、長崎地家裁の平戸支部が置かれています。裁判所や市役所のある市中心部は、平戸城を仰ぎ見る旧城下町であり、平戸島に位置しています。本土ではなく島側に行政の中心がある珍しいまちでもあります。

平戸支部は平戸市と隣接する松浦市を管轄しており、その管内人口は5万人です。弁護士が多数いる佐世保市までは車で1時間ほどかかる司法過疎地であり、新たな法律事務所の設置が望まれていたところ、令和2年7月に、小林弁護士が、新たにひまわり基金法律事務所を開設しました。「飛鸞」というのは平戸の古名であり、日本酒の名前にもなっています。以前、この地に平戸ひまわり基金法律事務所があったことから、同じ名称を避けて、この名前にしたそうです。

小林弁護士は、あさかぜ基金法律事務所で2年半ほど養成を受けたあと、飛鸞ひまわりの初代所長としてスタートしました。活動を始めて1年近くたっており、日々、平戸地区の人々のために活躍されています。小林弁護士は、人当たりがよく親しみのもてる弁護士であり、依頼者から顧問になってほしいとお願いされることもありました。あさかぜ時代の最後の4か月だけですが、私も、小林弁護士と一緒に事件を共同することがあり、その依頼者に対する真摯で丁寧な姿勢は、とても勉強になりました。

飛鸞ひまわりを訪問した経緯

あさかぜ基金法律事務所は、九州・沖縄の司法過疎地に派遣する弁護士を養成する目的で作られた事務所です。所員弁護士は、この先赴任することになる司法過疎地とはどのような場所なのか、実際に先輩弁護士がどのように活動しているのかを実地に学ぶために、年数回、先輩弁護士の事務所を研修として訪問しています。今回も、そのような研修の1つとして、飛鸞ひまわりを訪問しました。

平戸を訪問して

当日は、車で平戸に向かいました。福岡市内からは、西九州自動車道が平戸市の手前の松浦市まで通っているので、非常に便利です。車に揺られること約2時間、本土から平戸島に架かる平戸大橋が見えてきたところで、飛鸞ひまわり事務所に到着しました。事務所は、本土側の旧田平町中心部の国道沿いにあり、周辺地域からのアクセスも良さそうな場所で、裁判所までも車で8分ほどの便利な所にあります。開設したばかりの事務所ということもあって、室内は真新しい備品のそろったきれいな事務所でした。

小林弁護士からは、現在、どのような事件をやっているのか、平戸での弁護士活動について話を聞きました。民事事件では、あさかぜ時代に経験しなかったような幅広い事件を受けており、飛び込みの相談も時々あるそうです。また、管財事件や相続財産管理など裁判所からくる事件もあるとのことでした。刑事事件では、早くも裁判員裁判が回ってきたとのことで、地域に弁護士が少ないと、他に受ける弁護士もいないため、重大事件を避けては通れないようです。裁判員裁判は長崎地裁の本庁で行われるので、被告人も長崎の拘置所に移されて、接見するだけでも大変なので、長崎本庁管内の弁護士と一緒に弁護人をやっているとのことでした。スタートして早々から、多くの事件を抱えている小林弁護士の話を聞いて、司法過疎地でも弁護士が必要とされていることが改めて実感できました。

小林弁護士に話を聞いたあとは、事務所で用意してもらった昼食をいただきました。大皿にいっぱいの刺身の盛り合わせをごちそうになり、平戸の海の幸を堪能しました。

食事が終わってから、平戸のシンボルである平戸大橋を渡り、平戸島内の川内峠展望台に行きました。丘の上に広がる草原の中を一本の道路が走っていて、東西に海を広々と見渡せる、とても気持ちの良い所でした。平戸は風光明媚で名高い土地で、自動車のテレビCMなどが多く撮影されているそうです。他にも訪問したい所はあったのですが、平戸島は南北に32キロと思ったより大きく、時間の関係で断念せざるを得ず、中心市街地と平戸城を少しだけ見て、後ろ髪をひかれる思いで、未練たっぷりのまま福岡へ帰りを急ぎました。

帰り道に道の駅によって、土産を買いました。せっかく平戸に行ったので新鮮な魚を買いたかったのですが、調理ができないのでやむを得ず、長崎の定番のカステラを買って帰りました。

これからもがんばります

あさかぜ所員は、司法過疎地には弁護士が足りていないので、地方に行くととても歓迎されるということを常日頃から聞かされていますが、こうして実際に平戸を訪問すると、そのことを強く実感することができます。

いずれ私も、その地方の人々に頼られるような弁護士になるべく、いっそう研鑽に励んでいくつもりです。

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2021年5月号 月報

あさかぜ基金だより

月報記事

井口法律事務所 弁護士 古賀 祥多(69期)

福岡に戻ってきました

私は、2016年12月から弁護士法人あさかぜ基金法律事務所(あさかぜ事務所)に入所し、2年間の養成期間を経て、2019年1月に壱岐ひまわり基金法律事務所に赴任しました。その後、2年の任期を終え、この4月に再び福岡県弁護士会へ登録替えして戻ってきました。

元あさかぜ事務所の所員弁護士として、壱岐でどんなことをしていたのか、報告させていただきます。

多くの人を魅了する「壱岐」

壱岐は、福岡市博多港から郷ノ浦港まで西北に76キロメートル、佐賀県唐津東港から印通寺港まで北に41キロメートルの位置にある離島で、南北約17キロメートル、東西約15キロメートルのやや南北に長い亀状の島で、総面積は139.42平方キロメートル、壱岐本島と23の属島(有人島4、無人島19)からなる全国で20番目(沖縄を除く)に大きな島です。

現在、人口は26000人弱であり、人口減少、少子高齢化も進行しているなか、積極的に島外移住者を受け入れようと様々な施策を行っています。壱岐は、風光明媚な景色があり、肉・魚などの食も豊かであるため、多くの人を魅了し、毎年多くの観光客が壱岐を訪れ、また、移住者も増えているところです。

私も、壱岐に住んでいるとき、毎日外に食べに出歩いて、地元のお魚や、壱岐牛などを食べて回ったり、温泉に入ったりしていました。また、休日には、猿岩や筒城浜海水浴場などにも足を運び、きれいな景色を眺め、リラックスしました。

あさかぜ基金だより
平和な島のイメージですが・・・

私は、壱岐に赴任する前(赴任前の見学等の際)、平和で豊かな壱岐の島の様子を見て、人と人との争いごと、法的紛争とはほど遠い印象をもっていました。

しかし、実際に赴任してみると、様々な相談が事務所に舞い込んできました。ときには非常にシビアな案件もあり、暴力・DV等が絡む事件も少なからずありました。

実際に壱岐で関わった事件は・・・

この2年間を振り返ると、事件としては、夫婦関係(離婚など)が多く、次いで個人の債務整理案件、そして相続の事件が多かったように思います。しかし、これら事件類型に限られるものではなく、交通事故や労働事件、囲繞地通行権や境界等にかかる事件、根抵当権抹消登記請求などの不動産登記関係の事件、発信者情報開示請求・削除請求事件、法人破産などもありました。

また、裁判所選任案件も多く担当し、破産管財人、個人再生委員、特別代理人、不在者相続財産管理人などを経験することができました。また、成年後見人も5、6件ほど担当しました。

刑事事件は少なく、昨年度は1件しか担当せず、2年間で5、6件しか担当しませんでしたが、私の在任中、3名の共犯事件が対馬で発生し、対馬ひまわり・法テラス対馬の弁護士だけでは対応できないとのことで、3人目の国選弁護人として対馬の事件を担当することになり、週末に対馬を南北横断しつづけ、いささか大変でした。

2年という限られた期間でしたが、事務所での相談件数は247件(毎月1回で開催される社協での「心配ごと相談」を含めると、さらに増えます。)担当させていただきました。また、事件数単位で数えると195件の事件を担当することができました。

弁護士の敷居を下げる努力

このように、いろいろな相談等を担当しましたが、なかには、もう少し早めに事務所に来ていただければ、と思うことが少なからずありました。私の先代の中田昌夫弁護士も、相談のタイミングが遅いケースを担当したとき、壱岐の人々にとって、「弁護士」はまだまだ敷居が高い存在として認識されているのではないか、と気にしており、気軽に相談できるような雰囲気を作ることが大事ではないか、と言っていましたが、そのとおりだと思いました。

そこで、私は、壱岐の皆様が気軽に相談できるよう、法律的な専門用語をかみ砕いて解説し、初めて触れる法律のお話をできる限り分かりやすいように説明するよう努めてきました。また、相談者の不安をできる限り解消できるよう、単に法律の知識等を提供するだけでなく、相談者の気持ちに寄り添って話をするよう心掛けました。

また、相談者のなかには、他に頼るべき人がおらず、親しい人に相談しようとしても、密接な人間関係であるため、どこかで誰かの噂になるのではないか、という不安を抱えている方もいましたので、弁護士には守秘義務が課せられていること、相談で伺ったお話はすべて秘密であることをきちんと説明し、相談することそれ自体の不安も解消するよう努力しました。

さらに、相談者・依頼者が、事務所の弁護士の顔と人となりを知ってもらえるよう、ホームページを開設し、自分の顔写真等を掲載し、相談前に弁護士の顔を知ってもらえるよう工夫しました。

こうした一つ一つの努力がどれくらい功を奏したかは分かりませんが、在任中、常に新規相談の予約が絶えることはなく、後任の西原宗佑弁護士(71期)に引き継いでからも、相談の電話が止むことはありませんでした。

壱岐に常駐型法律事務所が必要な理由

2年間の感想ですが、やはり、壱岐には常駐型の法律事務所が必要だと実感しました。

人が社会で生きていくなかで、法律に関する争いごと、お悩みごと、トラブルは避けては通れません。そうしたなか、法律的なトラブルを解決するため、いつでも、だれでも弁護士に相談できる環境が必要です。

現在、壱岐には26000人弱の人々が暮らしていますが、数万人単位の人間がコミュニティを形成して社会で共同生活をしていれば、確実に法的トラブルは発生します。壱岐島内での法的トラブルを適切に解決するには、弁護士の力が必要です。

また、壱岐は、福岡との交流も盛んであり、島外に住む方とのトラブルも少なからず発生します。そうしたなか、島外在住の人が、近隣都市部の弁護士に依頼して内容証明郵便を送付してきたり、訴訟提起をしてきたとき、壱岐在住の方が武器対等で事件に対応するとすれば、気軽に弁護士に相談できる環境がなければなりません。

もし、壱岐島内に事務所がなければ、福岡・佐賀・長崎の弁護士に相談せざるをえないことになりますが、島民にとって継続的に島外に足を運ぶのは、経済的負担が大きく、また、移動にかかる時間的コストもあるため、弁護士へアクセスできる方々は非常に限定されることになります。そうなると、的確な法的アドバイスを受ける機会を得ることができないまま、何も知らないが故になすがままにされるという不正義が発生することになりかねません。

こうした状況を踏まえると、「壱岐ひまわり基金法律事務所」は、まさしく「市民の駆け込み寺」であり、壱岐にとって必要不可欠な公共インフラとしての側面を有しているといえるのではないでしょうか。

西原弁護士・安河内弁護士をよろしくお願いします

私の後任の西原弁護士は、私と同じくあさかぜ事務所出身の弁護士です。

西原弁護士は、私が壱岐に赴任する直前に、私とほぼ入れ違いであさかぜ事務所に入所したので、私の記憶のなかでは、新人弁護士という印象でした。しかし、この2年間、あさかぜ事務所でいろんなことを経験してきたのでしょう、西原弁護士は、弁護士として技術・力量を培うだけでなく、心構えもできあがっているようで、安心して事務所を引き継ぐことができました。西原弁護士は、きっと、自身の持ち味を生かし、壱岐の皆様に対してよりよいリーガル・サービスを提供してくれることだろうと期待しています。

また、私が福岡県弁護士会に登録替えするのと入れ替わりに、あさかぜ事務所の安河内涼介弁護士(72期)が、対馬ひまわり基金法律事務所に赴任していきました。安河内弁護士もまた、若林毅弁護士(68期)より、同地での業務と所長弁護士の志を引き継ぎ、対馬の人々に対し、素晴らしいリーガル・サービスを提供してくれることだろうと期待しています。

ただ、西原弁護士、安河内弁護士がこれから負うべき責務は非常に重く、いろいろな苦労があるかと思います。福岡県弁護士会の弁護士の皆様には、引き続き、両名に対するご支援等をよろしくお願い申し上げます。

あさかぜ事務所の弁護士をよろしくお願いします

あさかぜ事務所には、田中秀憲弁護士、佐古井啓太弁護士、石井智裕弁護士、宇佐美竜介弁護士の4名が所属し、それぞれ、これから弁護士過疎偏在地域へ赴任をすべく、日々、研鑽を積んでいます。どの弁護士も、その志は高く、非常に熱意をもっていますが、彼らの熱意や努力は、弁護士過疎偏在問題、全国津々浦々にあまねく法の支配を貫徹し、広くリーガル・サービスを提供する上で、必要不可欠なものといえます。

皆様には、引き続き、あさかぜ所員弁護士に対し、たゆまぬご支援をお願いしたいと思います。

また、所員弁護士には、その情熱を絶やすことなく、日々、研鑽を積んでいただきたいと思います。私ができることには限りがありますが、皆様の熱意を後押しすべく、できる限りのお手伝いをしたいと思います。

重ねてお礼を申し上げます

最後に、あさかぜ事務所での養成期間において、厳しくも熱心にご指導・ご鞭撻いただきまして、誠にありがとうございます。また、壱岐での2年間も、大変ご支援をいただきまして、まことにありがとうございます。

この壱岐での2年間で得られた様々な経験は、私の「原点」だと思います。壱岐での経験を、いつまでも、大切にしていきたいと思います。

引き続き、ご指導・ご鞭撻のほど、よろしくお願い申し上げます。

あさかぜ基金だより
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「ジュニアロースクール2021春in福岡」開催!

月報記事

法教育委員会 委員 稲吉 佑紀(73期)

1 はじめに

去る令和3年3月30日、「ジュニアロースクール2021春in福岡」が開催されました。今年はコロナ禍ということもあり、私にとって初のJLSは、福岡部会初のオンライン開催となりました。

以下、当日までの準備や当日の様子についてご報告させていただきます。

2 当日までの準備

(1) 福岡県弁護士会では、平成20年以降ほぼ毎年JLSを開催しており、例年好評をいただいて参りました。そのため、当然2020年も開催しようと計画を進めていたのですが、開催予定日である3月27日が近づくにつれ新型コロナウイルスも猛威を振るい始めていたため、泣く泣く開催を断念いたしました。

そこで、今年こそはなんとか開催しようということでオンラインでの開催を決定し、また昨年準備してきたことをできるだけ活用しようということで、議論のテーマや教材等はそのまま引き継ぐことことなりました。

(2) 今年1月に執行部で企画が承認されてから開催までの3か月足らずの間に、打合せやリハーサルを計7回行い、川上キャップを筆頭に周到な準備が進められました。

対外広報としては、当会ホームページやTwitterでのお知らせ、各学校宛てにチラシを郵送、福岡市教育委員会の学校連絡箱への配布など、積極的に行い、その結果、40名余りの参加希望が寄せられました。

3 当日の様子

(1) 当日は急遽不参加となってしまった生徒さんもおり、結局39名の生徒さんが参加してくださいました。テーマは「自転車保険の強制加入の是非」という少し難しいものでしたが、保険の説明から丁寧に行い、立法の考え方を多角的に学ぶことを狙いとしました。

(2) 大まかな流れとしては、

第1部

  1. 自転車保険の強制加入について、予め撮影しておいた寸劇のビデオ視聴で説明(演技とは思えない酔客を演じられた甲木先生、クセ強めのおばあさんを演じられた八木先生、年齢不詳で少し怖い児童を演じられた横山先生やその児童に話しかける本江委員長をはじめ、各委員の先生方の熱演は心に迫るものがありました。)。
  2. 自転車保険の強制加入の是非について、グループに分かれて議論する。
  3. 各グループで出た意見を生徒さんに発表してもらい、全体で共有する。

第2部

  1. 第1部の議論を踏まえ、具体的にどのような条例を作ることが望ましいかを、再びグループに分かれて議論する。
  2. 各グループで出た意見を生徒さんに発表してもらい、全体で共有する。
  3. 逆の立場や異なる内容の条例案を示した他のグループに対し、適宜反論、再反論してもらう。
  4. 議論を踏まえ、自分たちの条例案で変更すべき点や維持すべき点について、グループに分かれて議論する。
  5. 自分たちの条例案について、変更した点を理由とともに発表してもらう。

というものでした。

開会前、最後の打合せをしている様子

開会前、最後の打合せをしている様子。

特に川上キャップ、司会の請川先生、Zoom担当田上先生など運営に携わる先生方は、直前まで緊張感あふれる入念な打合せをされていました(私はその後ろでサンドイッチを食べていました。)。

弁護士会館2階大ホールにて、ソーシャルディスタンスを確保しつつ中高生と議論する様子

弁護士会館2階大ホールにて、ソーシャルディスタンスを確保しつつ中高生と議論する様子。

机の向きを変えるなどして、ハウリングや音声の重複にも配慮していました。

各委員に役割が振られ、皆さん真剣に取り組んでいらっしゃいます。

全体会議の様子

全体会議の様子。

多種多様な意見が出て、隣に座っていた日浅先生が時折唸っていました。

私は一時的に音声が聞こえなくなりましたが、皆さんの表情や日浅先生の唸り声に合わせて相槌を打っておりました。

4 おわりに

振り返ると、総じて大成功だったのではないかと思います。

初のオンライン開催ということで、予期しないトラブルが発生しないか不安はありましたが、本江委員長や川上キャップをはじめとするリーダーの先生方が何度も打合せを行い、入念な準備をしてくださり、また、請川先生の機転を利かせた司会や田上先生の滑らかなZoom操作のおかげで、滞りなく予定どおりに進行することができました(特に活躍できずすみません。)。

中には、Zoomの操作に慣れておらず、なかなかZoomに入れない生徒さんもいました(実は私の従弟です、ご迷惑をおかけしました。)が、全体として特に問題なく、実施後にいただいたアンケートでも大変好評をいただき、オンラインで逆に良かった、また参加したい、という意見も多く寄せられました。

また、中高生の意見の中には私が予想していなかった角度からの鋭い意見も見られ、勉強しているのがどちらなのかよくわからなくなりました。

私はまだ登録後3か月余りの新人中の新人ですが、紛争に溢れた日々の業務の中で、中高生のキラキラと輝く瞳に時折目がくらみつつも、とても癒されました。
今回、JLSのオンライン開催は十分実現可能であることが示されましたが、やはり対面の良さもあるかと思いますので、早く対面でも実施できる日が来ることをお祈りいたします。

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憲法市民講座「ベーシックインカムについて考える」

月報記事

北九州部会憲法委員会 委員 梁 智元(73期)

去る3月11日、同志社大学経済学部教授である山森亮先生を講師としてお招きし、「ベーシックインカムについて考える」という題目で、北九州部会憲法委員会主催、憲法市民講座が行われました。

今講座は、新型コロナウイルス感染症が流行する今般の情勢にかんがみて、会場とZOOMの併用で行われ、山森先生もZOOMで登壇されました。

1 ベーシックインカムとは

近年報道等で話題となっているベーシックインカムですが、正確な語法とは異なった語法で使われていることが多いそうです。

山森先生によれば、ベーシックインカムとは、すべての個人が、権利として、無条件で、普遍的に、一定の額のお金を定期的に受け取ることができるという理念・制度と定義されます。

昨年、給付された特別定額給付金は、ベーシックインカムに近い理念・制度ではありましたが、世帯主に給付されるという点及び定期的ではなく1回限りという点において、ベーシックインカムとは異なるものです。

また、いずれも最低限度の所得水準を保障するものとして、最低所得保障と同列に論じられることも多いベーシックインカムですが、最低所得保障が各個人の所得水準に応じて給付を行う制度であるのに対し、ベーシックインカムは所得水準に関係なく、すべての人に一律に給付を行う制度であるという点で異なります。

2 ベーシックインカムの在り方

世間では、ベーシックインカムが、国民皆保険制度の解体や最低賃金制度の後退など、他の社会保障制度を後退させるものとして働くのではないかが懸念されているところです。

この点について、山森先生は、ベーシックインカムについては、それ単体で論じられるべきものでなく、社会保障制度の全体的な制度設計のなかで論じられるべきことについて言及されました。こと日本においては、既存の社会保障制度をベーシックインカムの理念に近づけ、個人の負担を軽減すること、低額の給付から段階的にベーシックインカムを導入することなどによって、徐々にベーシックインカムの理念と制度を導入する必要があると指摘されました。

3 所感

ベーシックインカムについては他の社会保障制度との関係で論じられる必要があるところ、日本における社会保障制度全体の在り方の根本を問うものとして、今後の議論状況を注視すべきであると思います。

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「生き心地のよさ」のために私にできることは

月報記事

自死問題対策委員会 委員 三好 有理(67期)

第1 はじめに

子どもたちが生きていく社会はこういう生き心地のよい社会であってほしい。また、そのために私にもできることがあるかもしれない、そういう希望をもったシンポジウムでした。

去る3月13日、福岡県弁護士会館2階大ホールとオンライン(ZOOM)を併用して開かれた自殺予防シンポジウム「未来を生き抜く力、見つけたい」を紹介します。

第2 シンポジウムの紹介

福岡県弁護士会が主催する自殺予防シンポジウムは毎年行っていますが、今年は、10年にわたり減り続けていた自殺が昨年増加に転じ、コロナ禍の影響が指摘されている中での開催でした。

今回のコロナ禍にとどまらず、過去、不況などの社会的な危機が生じる度に、自殺が増加する傾向があります。社会的危機が生じても自殺が増えない社会づくりをするにはどうしたらよいか、今回のシンポジウムではそのような視点からお話しがされました。

基調講演には、自殺希少地域を調査分析して自殺の危険を軽減する要素を抽出された研究者・教育者の岡檀(おか まゆみ)さんに、その研究で分かったことのお話をしていただきました。

基調講演後は、福岡で自殺予防に携わっておられる、福岡市精神保健福祉センター所長であり精神科医でもある本田洋子(ほんだ ようこ)さんと福岡いのちの電話事務局長の河邊正一(かわべ しょういち)さんをお招きして、自死問題対策委員会委員長の松井仁弁護士がコーディネーターを務めるパネルディスカッションをしました。

それぞれ内容をご紹介します。

1 基調講演

岡さんは、日本で最も自殺率が低い町として徳島県海部町(かいふちょう)(合併により現在は海陽町。以下では「海部町」という。)を調査しました。海部町は、県南端の太平洋に面する、人口約3000人面積26.36㎢の小さな町です。

海部町は隣接した2町と比較しても自殺率が突出して低い町です。

海部町では、以下に紹介するように、自殺が多い地域と比較すると際立っている要素があるのですが、岡さんは、これらの要素は、海部町が木材の集積場として非常に栄えた昔、裸一貫で他地域から集まってきた人たちが町を運営していくために身に着けた知恵ではないかと分析されています。

(1) 自殺の危険を軽減する要素

岡さんが海部町を調査分析して抽出した、海部町に際立っている要素、すなわち自殺の危険を軽減する要素は、以下の5つです。

  1. 多様性の重視
  2. つながっているが、縛られない
  3. 自己肯定感を育む
  4. 人の評価は多角的に、長い目で
  5. 助けを求める、弱音を吐ける

以下では、岡さんが海部町であつめた海部町民語録とともに各要素を紹介します。

  • 多様性の重視―「いろんな人が、いたほうがいい」
    海部町では、赤い羽根募金が集まりにくいそうです。募金をするかどうかを決める際、他の人が募金をしたか、いくら募金をしたのかが重要なのではなく、自分が赤い羽根募金に納得できるかどうか、それが重要な判断要素だというのです。これは同調圧力が働きにくいことを示すエピソードです。周囲の人たちの行動にそろえなくても責められないという環境があれば人は安心して自分の考えに基づいて行動ができます。
    このように海部町では「いろんな人が、いたほうがいい」と多様性が重視されています。
    多様性が重視されていることを示す事例の一つとして、海部町の「朋輩組(ほうばいぐみ)」も紹介されました。「朋輩組」とは江戸時代から続く相互扶助組織ですが、他地域の同様の組織とは異なるユニークな特性があります。例えば、入会退会は当人の自由で、入会しなくてもコミュニティで不利益を被りません。また、旧家も新しく町に来た人も等しく受け入れます。先輩からのいじめやしごきとも無縁です。
  • つながっているが、縛られない
    小さな田舎町では人間関係が緊密だと思われるかもしれませんが、アンケート調査の結果、海部町では、隣接する町と比較して「日常的に生活面で協力」する割合は低く、「立ち話程度」や「あいさつ程度」のほどよい距離感が多かったです。
    「絆」が大事であることはよく言われますが、その内容・質がどのようなものかを考える必要があることを岡さんは指摘します。徳島に加えて青森、京都、奈良の4県で調査した結果、緊密なつながりのコミュニティである方が悩みをさらけ出すことに抵抗があることが分かったそうです。
  • 自己肯定感を育む―「おまいにも、出来ることがある」
    海部町では隣接する町と比較して自己信頼感、自己効力感(周囲の事柄に対し、何らかの対処ができると思える感覚)を持つ人が多いという特徴もあります。
    それを示す事例の一部として、議会では古参も新人も同等で、新人が遠慮して発言しないことのないように大御所が発言を促すというエピソードが紹介されました。他地域で、この事例は話すと驚かれるようで、むしろ議会で新人は大御所に遠慮して発言をしないことが通常という地域もあるようです。
  • 人の評価は多角的に、長い目で―「一度目はこらえたれ」
    海部町では、人の評価が多角的、長期的、総合的です。
    人を学歴や職業で判断するのではなく、その人物の人柄や魅力や問題解決能力などをみて評価するそうです。
    隣接する町では一度の不祥事が「孫子の代まで」という考えがあるようですが、海部町では「一度目はこらえたれ(見逃してやれ)」と挽回のチャンスが与えられます。
  • 助けを求める、弱音を吐ける―「病は市に出せ」
    海部町の民語録に「病(やまい)は市(いち)に出せ」というものがあります。
    これは、病気のみならず、生活をする上での困りごとなどの悩みを抱え込まず、早めに助けを求めることを促す海部町のことわざです。 海部町は隣接する町の中で最もうつ受診率が高く、しかも軽症の段階で治療を開始する傾向にあります。町民のうつに対するタブーがあまりないということもプラスに働いています。

(2) オランダスキポール国際空港の奇跡

突然ですが、オランダのアムステルダム・スキポール空港の男子トイレでは年間7億円かかっていた清掃費を2割削減することに成功しました。小便器の内側にたった一匹のハエの絵を描くことによってです。「トイレを汚さないようご協力ください」と張り紙をするのではなく、「人は的があると、そこに狙いを定める」という心理を応用して汚れを防いだのです。

また、南アフリカのある貧民街では衛生環境が悪く、特に子どもの死亡率が高いのですが、子どもの命を奪う感染症の多くは、頻繁に手を洗うことによりかなりの割合で防げるそうです。そこで、WHOでは、特別な石鹸を配りました。この石鹸の中にはミニカーなどのおもちゃが埋め込まれています。子どもたちはそのおもちゃを手に入れるため一生懸命に石鹸で手を洗います。この取り組みによって現に感染症が減少したそうです。

このように、単に標語を唱えたり、強制したりするのではなく、人間の心理や行動パターンを分析して、行動を促す工夫をすることが各分野で注目されています。

岡さんは、自殺予防対策においても、人間行動科学を取り入れて策を講じることを提唱されました。

つまり、「悩みがあったら相談してください」と呼びかけるだけでは不十分で(悩みが深刻であるほど相談に向かう気力も低下していることが多い)、助けを求めやすい環境を整えることこそが重要です。

ここで紹介されたのが海部町の例です。海部町では、江戸時代発祥の「みせ造り」という建築様式がとられており、家の玄関先に4,5人が横並びに座ることができるようなベンチがあります。ここで、海部町の人達は集って話をします。困りごとが小出しにできる環境が作られているのです。

(3) 子どもの追跡調査から分かったこと

多様性を重視する価値観や自己効力感を高めることなどは大人になってから身に着けることは容易ではありません。子どもが成長過程で自殺予防因子を身に着けていくプロセスを理解する必要があるという考えから、岡さんは、小学5年生から成人するまでの8年間の追跡調査する「子どもコホートスタディ 未来を生き抜く力、見つけたい」を2017年から始めました。

これまでの分析結果のひとつが紹介されました。それは子どもの思考パターンや心の健康に周囲の大人の男女役割間が影響しているというものです。「女のくせに」とか「男なんだから」といった固定的な男女役割間をもつ大人が周囲に多いと、子どもに様々な影響が生じているとのことです。柔軟な思考が損なわれやすい、心の健康バランスを崩しやすいなどの影響が生じるようです。

ジェンダーについて学ぶシンポではなく、生き心地のよいまちづくりを考えるシンポでこのような指摘がなされたのが示唆的でした。

子どもたちが生き生きと未来を生き抜く力を身に着けるためには、私たち周囲にいる大人が自分の中にあるかもしれない「こうあるべき」という固定的な考え方を見直す必要があるのだと思いました。

(4) 「生き心地の良さ」の追求

最後に、いったん自殺問題から離れてみることが提案されました。海部町の自殺率の低さは、いわゆる「自殺予防対策」として対策を講じた結果ではありませんでした。

「生き心地の良さ」を追求すれば自殺予防はおのずとついてくるのではないかと締めくくられました。

2 パネルディスカッション

パネルディスカッションでは、福岡市精神保健福祉センター所長の本田さんと福岡いのちの電話事務局長の河邊さんも加わり、基調講演で示された自殺の危険を軽減する要素についてそれぞれの立場からお話がありました。

一部割愛していくつかご紹介します。

(1) 多様性の重視のためにできること、行っていること

  • 子どもたちが小さいときから、意識的に少数の人の意見も伝える(岡さん)
  • 児童や若年層への教育で、いろんな人がいてよいということを伝える(本田さん)
  • 自死遺族の集まりで、互いに価値観を強要しないという約束事のもとで人の話を聞くこと(本田さん)
  • いのちの電話では、電話をかけてきた人の思想・信条を一旦全部受容する。他者理解の前にまず自己理解。(河邊さん)

(2) つながっているが、縛られないという距離感をもった援助のために

  • 助けを求めやすい環境を作るために、何かのついで(例、買い物のついで、登下校のついで)に立ち寄って話をすることができる場所を設けたまちづくりをする(岡さん)
  • 価値観をおしつけない(岡さん)
  • 福岡市ではゲートキーパー(命の門番)の養成と支援を行っている。例えば、理美容業を対象にゲートキーパーの養成を行っており、カットに来た客が悩みをぼやいたときには、専門家や相談機関を紹介してもらう。(本田さん)
  • 電話相談を受ける際、依存や過度な期待を生じさせないために適当な距離をもつことを意識(河邊さん)

(3) 自己効力感を高めるためには

  • 自己効力感を失うに至った経験を話してもらってそれを受容する(河邊さん)
  • 自己効力感の低さは依存にもつながる。依存症のグループワークで「ほめ言葉のシャワー」や「承認のシャワー」で良いところを指摘し合う場を設けている。(本田さん)

(4) 「病は市に出せ」を実践するには

  • 解決策を提示するよりは、相談者自身の心のエネルギーを回復してもらう。そのためには、まず話を聴く。その上で、観点を変えてもらう。(河邊さん)
  • 精神科には行きたくないと躊躇する相談者に対して
    →医師との相性もある。本人の希望に沿うような(自宅に近い場所がよいなど)クリニックをいくつか提示する。
    →不眠は誰にとってもつらいもの。眠れないということに焦点を絞り、「ドラッグストアで買うより、あなたにあった睡眠剤を処方してもらった方が効くし、費用もかからない。」と伝える(本田さん)
第3 おわりに

ジェンダーの問題でも違いを認め合う文化が必要といわれています。「いろんな人がいてもよい、いろんな人がいたほうがよい」という多様性を重視する考えは、ジェンダーの問題でも理不尽な校則の問題など様々な問題を解決していく際の重要な鍵だと思います。

なによりも、「人は人、自分は自分」と多様性が重視され、周囲の人たちの行動に合わせなくても非難されない関係性は、呼吸がしやすいと感じます。

シンポジウムに参加して、多様性の重視をはじめ岡さんが指摘した要素を備えた生き心地のよい社会を作っていくために、自分にできることもあると感じました。

シンポジウムの終わりに岡田武志副会長がまずは身近なところから、例えば弁護士会の中で、今回得られた視点を生かしていきたいとお話しされました。
私も、事務所の中で、家族に対して、仕事で出会う方々に対して、委員会の中で、弁護士会の中で。人の価値観を否定せず受け入れること、人を一度の出来事で評価することなく多角的に長期的にみること、私が関わることができる子どもにも多角的な視点を示すよう心掛けることなど、今できることは微々たることかもしれませんが、生き心地の良い社会のためにできることをしていきたいと考えました。

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