「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2019年4月24日

天皇の生前退位と憲法

▼Q 天皇陛下が30日に生前退位されることが、世間の耳目を集めています。そもそも退位は難しいことなのでしょうか。

▼A 日本国憲法は第1条で「天皇は、日本国の象徴であり日本国民統合の象徴であつて、この地位は、主権の存する日本国民の総意に基く」と定めています。旧憲法下では天皇が主権者とされていましたが、日本国憲法では主権者である国民の総意に基づく「象徴」とされました。例えば、富士山が描かれていれば日本を想像するように、天皇を見れば日本や日本人が想像されるという意味です。

また天皇は、憲法で定められた国会の召集などの国事行為のみを行い、国政に関する権能は有しないとされています。そのため憲法に記されていない、行事などの際の「お言葉」が許されるか、さまざまな説があります。特に退位の意向を強くにじませた2016年8月のお言葉は、政治的発言ではないかとの指摘もありました。

一方で憲法には、天皇の地位は「世襲のもの」としか書いておらず、退位について言及があり ません。そして皇室に関する法律「皇室典範」は、皇位継承は「天皇が崩じた(亡くなった)とき」としています。従って、従来の法律のままでは退位ができないのです。

そこで今回は、一代に限って退位を可能にするための皇室典範特例法が作られ、江戸時代後期 の光格天皇以来、約200年ぶりの退位が実現することになりました。

5月3日の憲法記念日を前に、象徴天皇制と日本国憲法について考えてみませんか。

西日本新聞 4月24日分掲載(迫田登紀子)

目次