「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
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2016年6月29日

介護施設の事故 状況把握を

▼Q 認知症の父は高齢者施設に入居しています。先日、転倒して腰の骨を折り、入院することになりました。過去にも何回か転倒したと報告を受けていたのですが、けがはなく、そのままにしていました。今回、施設に治療費などの損害賠償を請求できるのでしょうか。

▼A 介護施設などでの事故で、転倒は最も多いパターンといわれています。高齢になり足腰が弱くなると、移動中や自由時間、入浴などさまざまな場面で転倒のリスクが生じてきます。施設は入居者の生命や身体の安全に配慮する義務を負っています。この義務に違反していなかったかが問題です。

まず、転倒した状況について施設責任者に説明を求めましょう。過去の転倒も含め、原因や取られていた転倒防止対策など、詳しく聞きましょう。施設側が状況を把握できていたのか、話を聞くうちに分かるはずです。管轄の行政機関へ報告しているかも確認してください。

施設側の責任の有無は、具体的状況を踏まえた上で施設側に落ち度があったかどうかで判断されます。事故を予測できたか、そうした事故を回避する努力を尽くしていたか、事故後の対応が適切だったか、がポイントとなります。

一方、事故を防ごうとするあまり、不必要な身体拘束をすることは本末転倒で許されません。その視点も大切です。

法的対応が必要な場合、父上の状態によっては、成年後見制度の利用が必要になることもあります。

西日本新聞 6月29日分掲載(岡部信政)

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