「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2022年3月30日

借金返済にも時効がある?

▼Q 友人に、1年前に貸した5万円を返すよう求めました。友人は「もう時効だから」と言って返してくれません。

▼A 民事上の時効には、取得時効と消滅時効があります。取得時効は、他人の物を自分の物として使い続けて一定期間がたつと、所有権が自分のものになる制度です。消滅時効では、自分の権利を一定期間行使せずにいると、その権利が消えてしまいます。

刑事ドラマなどでよく見かけるのは、容疑者を起訴できなくなる公訴時効です。民事上の時効とは全く別ものです。

あなたの友人が主張しているのは民事上の消滅時効のことで、強力な法的効果を持っています。貸した側が裁判で「頼まれたから貸した」「必ず返すと言った」などと主張しても、消滅時効には勝てません。

借りたお金は本来返すべきですが、長い間これを放置し、忘れた頃に言い出すような貸主の請求をいつまでも認める必要はありません。法律の世界では「権利の上に眠る者は保護しない」などと言われます。

消滅時効が成立するまでの期間は、借金などの債権は原則として5年間です。以前は10年間でしたが、スピード化した世の中の感覚に合わせ、2020年の民法改正で短縮されました。ただし、借主が借りたことを認めると時効の起算がリセットされ、改めてそこから5年の時効期間となります。

相談のケースは1年前に貸したお金とのことですので、まだ消滅時効は成立していないと友人に説明してみてください。

西日本新聞 3月30日分掲載(角倉潔)

目次