「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2023年11月8日

ヘイトスピーチ条例はなぜ必要?

▼Q 自治体の中には、ヘイトスピーチを規制する条例を作っているところがありますが、どうしてですか。

▼A 特定の国の出身者であること、またはその子孫であることを理由に、日本社会から追い出そうとしたり危害を加えようとしたりする一方的な内容の言動を、ヘイトスピーチと言います。「○○人は日本から出ていけ」などがその例です。

ヘイトスピーチは、被害者に精神的苦痛を強い、人格権の侵害にもつながります。このことはヘイトスピーチ解消法の前文にもあります。

同法制定以前は、何の対処もなされないままでした。「○○人は日本から出ていけ」というヘイトスピーチの場合、特定個人に向けられたものでないことから、名誉毀損(きそん)罪などでは処罰できなかったのです。その結果、2010年前後から、街中でヘイトスピーチを繰り返すいわゆる「ヘイト街宣」が大々的に行われるようになり、社会問題化しました。

そのような背景から同法が16年に施行されましたが、禁止規定は設けられませんでした。そこで、各自治体がヘイトスピーチを規制する条例を制定するようになりました。同法も、地方公共団体がヘイトスピーチの解消に向けた施策を講ずるよう努めるものとするとしています。

「ヘイトスピーチの規制は表現の自由と衝突するのではないか」との議論がなされることがあります。しかし、名誉棄損の表現などのように、他者の権利を侵害する表現については一定の制約を受け得るのです。今後、ネット上のヘイトスピーチも含め、各自治体で条例が制定されることが望まれます。

西日本新聞 11月8日分掲載(梁智元)

目次