「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2023年8月23日

退職代行サービスへの対応は?

▼Q 先日、退職代行業者から、ある従業員の退職の申し出が電話でありました。その後、その従業員から本人直筆の退職届が届きました。どのように対応すればよいでしょうか。

▼A 退職代行とは、従業員の代わりに退職の申し出をしたり、会社との連絡窓口になったりするというものです。会社に直接退職を伝えづらい従業員側のニーズから生まれたサービスのようです。

民法では、労働契約の期間を定めていない場合は、2週間の予告期間を置けばいつでも退職できるとされています。期間の定めがある場合でも、やむを得ない理由があるときは直ちに退職できるとされています。

実際の裁判でも、介護施設の管理者による謝罪の言葉について、「結果として期待された役割を果たせず不幸な事態を招いたことに対する職業上の自責の念から出た言葉」と捉えて、謝罪による法的責任を否定したものがあります。

退職するのに必要なのは従業員からの意思表示です。退職届がその意思表示にあたり、会社が退職を拒むことはできません。ご相談のケースでは、退職届は本人直筆ですから、退職の意思表示としては有効です。

退職の際、会社との間で未払いの残業代などに関する交渉が行われることがあります。交渉は従業員本人か、本人が依頼した弁護士、もしくは本人が加入している労働組合でなければできません(労働組合は弁護士よりも交渉できる範囲が限られます)。退職代行業者から会社に連絡があった場合には、その業者に弁護士や労働組合であるかを尋ね、交渉権限があるかを確認しましょう。

未払いの残業代、退職金の支払い、パワハラ・セクハラなどを理由とする従業員からの損害賠償などの問題について、交渉権限のない業者と交渉した場合、法的に有効な交渉とならず、かえってトラブルが拡大することもあります。ご注意ください。

西日本新聞 8月23日分掲載(永田充)

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