「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
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2019年1月9日

ヘイトスピーチのない社会に

▼Q 日本にいる外国人を差別する発言を取り締まる法律が定められたと聞きました。悪口を言うと処罰されるのでしょうか。

▼A 2016年に施行された「本邦外出身者に対する不当な差別的言動の解消に向けた取組の推進に関する法律」のことですね。ヘイトスピーチ対策法などと通称で呼ばれています。

同法では、差別的言動を「外国出身者に対し、危害を加えると告知したり著しく侮辱したりするなど、地域社会からの排除を扇動する言動」と定義。「国民は差別的言動のない社会の実現に寄与するよう努めなければならない」との基本理念を定めていますが、義務や罰則の規定はないので、この法で処罰されることはありません。

しかし、その言動が他の法律に抵触する場合は、刑事罰が科される可能性があります。例えば「○○人は町から出て行け」と発言すれば刑法上の侮辱罪に該当し、処罰される恐れがあります。刑事罰が科されなくても、相手に精神的な苦痛を与えたとして慰謝料を支払わなければならないといった民事上の損害賠償責任を負う例もあります。

外国人労働者の受け入れ拡大に向け、新たな在留資格を創設する改正入管難民法が4月に施行されます。日本で暮らす外国人は今後も増加が見込まれます。大切なのは、処罰されるから差別しないのではなく、同じ社会で生きている全ての人が、お互いの人格や価値観を尊重する社会を築くために差別をしない、ということではないでしょうか。

西日本新聞 1月9日分掲載(北中茂)

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