「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2022年6月15日

過失ゼロなのに示談できない

▼Q 先日、車で信号待ちしていたら、後ろから来た車に追突され、車体に傷が付きました。修理費に10万円かかりましたが、相手の保険会社から修理費は3万円が相当だと言われて困っています。

▼A この事案では相手方の過失が10割なので全額を相手方に賠償請求できます。ただ修理する箇所や費用がいくらかなどについては争いが生じることがあります。

保険会社は通常、示談代行サービスを行いますが、この事案のようにこちら側の過失がゼロで賠償義務がない場合、保険会社は金銭を支払う必要がなく、事故に利害関係はないことになりますので、示談交渉の代行はできません。

示談できないまま時間が過ぎると、時効になって請求できなくなる恐れもあります。そこで検討されるのが訴訟です。訴訟を起こせば時効が中断され、さらに裁判所が適切な損害額を決めます。

訴訟は本人1人でも起こせますが、現実的には弁護士に代理人を依頼することになると思います。ただ裁判にかかる実費のほか、弁護士の着手金や成果に応じた報酬金が必要です。着手金は一般に最低10万円とされ、本件のような軽微な物損事故では裁判で得られる賠償金より弁護士費用の方が高いということが少なくありません。

保険の弁護士費用特約に加入していれば、弁護士費用を賄うことができますので、加入をご検討ください。保険会社によっては弁護士を紹介する制度もあります。各県の弁護士会も交通事故の相談を受け付けていますので、積極的にご活用ください。

西日本新聞 6月15日分掲載(楠木玲)

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