「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2022年6月22日

もらい過ぎたお釣りは?

▼Q 先日、家族で外食しました。代金を1万円札で支払い、帰宅後にお釣りを千円もらい過ぎたことに気付きました。詐欺に当たらないか心配です。

▼A もらい過ぎた千円は民事上「不当利得」です。お店に返さなくてはなりません。不当とはあなたが悪いという意味ではなく、持っている理由がないということです。

気付いた後に速やかに返せば刑事上の「詐欺罪」には当たりません。すぐに返せなくても取りあえずお店に連絡しましょう。そうすればだまし取る意思はないと見なされます。

気付いたのに黙って持ち帰ると詐欺になります。一方、帰宅後に気付いて黙っていた場合は詐欺ではなく「占有離脱物横領罪」とされることが多いようです。放置自転車を持ち去るのと同じ捉え方です。

似た状況として、銀行口座に間違って振り込みがあった場合を考えてみましょう。一見同じようですが、法律上の解釈は少し異なります。

口座に振り込まれた時点では、そのお金はあなたではなく銀行の持ち物と解釈されます。あなたが間違った振り込みだと知った上で引き出したり、第三者に送金したりすれば、その時点で詐欺罪が成立します。被害者は銀行です。後で返そうと思っていたとしてもやはり詐欺です。

間違った振り込みと知らずに引き出した場合は故意がないので詐欺には当たりません。もっとも民事上は不当利得ですから、銀行か振込人にお金を返す必要があります。 詐欺を巡る法律論はなかなか複雑ですが、常識的に考えて対処すれば問題ないでしょう。

西日本新聞 6月22日分掲載(角倉潔)

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