「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2023年8月2日

自殺ほう助をめぐる深い議論

▼Q 「自殺ほう助」とはどんな罪ですか。殺人とどう違うのですか。

▼A 犯罪の手助けをすることを「ほう助」といいます。泥棒の見張りは「窃盗ほう助」です。自殺の手助けをすると「自殺ほう助」になります。自殺ほう助に関しては、「自殺は悪なのか」が古くから議論されてきました。一つの考え方は、自殺は悪であり、自殺ほう助も悪であるというものです。この考え方によれば、自殺者本人も処罰されるはずです。しかし、責めるには酷なので処罰されないといった説明になります。

これに対し、自殺は悪ではないが、他人の死に手を貸す自殺ほう助はそれ自体が悪であるという考え方もあります。この考え方によれば、自殺ほう助は「正犯のいない共犯」と捉えられることになります。

また、自殺ほう助と殺人の区別も、しばしば問題になります。この問題は、単純に「手を下した」のが誰かではなく、「結果を決めた」のが誰かで決まるとされています。例えば、切腹の介錯(かいしゃく)人は致命傷を与えていますが、殺人ではなく自殺ほう助になると説明されています(嘱託殺人になるという考え方もあります)。

実際のケースでは、当事者の判断能力が低下していて、誰の意思決定だったのかの判断が微妙になることもあります。

人が死を選ぶときの心情には、他人が推し量れない重く複雑なものがあるのでしょう。刑法の条文で分類するには限界があるのかもしれません。しかし、処罰すべき行為と処罰されない行為を正しく分け、他の犯罪との比較からも適正な処罰を保つために、哲学的ともいえる議論が交わされています。

西日本新聞 8月2日分掲載(角倉潔)

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