「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2021年1月20日

精神科医療のリカバリーモデルとは

▼Q 精神科医療でリカバリーモデルという言葉を耳にすることがあります。何のことでしょうか。

▼A 日本では、精神病床の入院者数が約27万2千人(2019年6月末時点)に上るとのデータがあります。日本の精神科医療は今も「薬物医療・入院治療中心」の考え方が主流。他の先進諸国であれば退院できるはずの多くの入院者が退院できずにおり、精神障害者が地域で生活する権利を制約されるだけでなく、偏見・差別の温床になっていると指摘されています。

「リカバリーモデル」とは、障害がある人たちが地域で暮らしていくのを支援する考え方で、世界の潮流になっています。日本でも例えば国保旭中央病院(千葉県)は、精神疾患があっても、その人らしく地域で生活できるよう積極的なサポートに当たっています。

医師や看護師、作業療法士、精神保健福祉士、臨床心理士など多職種によるチームが本人と退院に向けた話し合いを重ね、地域で生活する患者に医療・福祉サービスを届けるためのチームも設置。退院前から患者と関係を作り、地域とも連携して、退院後を見据えた支援体制を整えています。

こうした「リカバリーモデル」に重点を置く医療機関は、まだ多くはありません。日本の精神病床は、他の国に比べ多い状況にあります。日本の精神科医療の構造的問題は、人権問題として精神保健の当番弁護士活動をしている私たちにとっても関心を持たざるを得ません。医療機関や当事者だけに問題の解決を委ねるのではなく、社会全体として考えていくべきではないでしょうか。

西日本新聞 1月20日分掲載(松本拓馬)

目次