「ほう!」な話『「ほう!」な話』は福岡県弁護士会の弁護士が西日本新聞紙上で執筆している法律コラムです。
最新のコラムは水曜日朝刊に掲載されます。

2013年2月2日

「ほう!」な話スペシャル版-交通事故 どう対処

昨年、全国で発生した交通事故は66万4907件に上り、4411人が亡くなった(警察庁まとめ)。車社会の今、誰もが交通事故に巻き込まれる可能性がある。生活面で「『ほう!』な話」を担当している福岡県弁護士会に所属する4人に、もしもに備えた法知識や対処法を解説してもらった。

●後遺症認定 不服なら申し立てを

【Q】保険会社から「後遺障害等級には該当しない」という文書と「損害賠償額計算書」が送られてきました。治療後も痛みが残っているのですが・・・。

【A】後遺障害の認定結果に不服がある場合、争う方法は三つあります。

(1)自賠責保険会社に異議申し立てをする。所定の要件を満たす資料が必要で「すごく痛い」「動かない」と訴えるだけでは結果は変わりません。申し立て回数に制限はありません。

(2)自賠責保険・共済紛争処理機構に紛争処理申し立てをする。(1)の異議申し立てでは認められるのが困難な場合に利用します。申し立ては1回のみ。

(3)訴訟を起こし、自賠責が認定した等級より重い障害であることを主張・立証する。裁判所は自賠責の認定に拘束されません。最後の手段です。

各制度の特性と長短を理解した上で手続きを選び、それぞれに対応した立証をするのが重要です。

(小野裕樹)

●治療費 健康保険 利用しよう

【Q】けがをして駆け込んだ病院で「交通事故では健康保険は利用できない」と言われたのですが・・・。

【A】原則、利用できます。ただ、労災に該当する事故には労災保険が適用され、基本的には利用できません。

健康保険も労災保険も利用しない場合は自由診療となり、治療費は割高になる傾向があります。加害者が支払うのだから自由診療でもいいとなりがちですが、よく考える必要があります。

例えば加害者が任意保険に入っていなかった場合、傷害による自賠責の支払限度額は120万円なので、治療費だけで枠を使い切ると、休業損害や慰謝料を受け取れなくなる恐れがあります。被害者側にも過失がある場合、その分の治療費は自己負担となります。

やはり健康保険の利用をお勧めします。その際は「第三者行為傷病届」を提出して。健保組合などが後日、加害者に求償するためです。 

(金崎智久)

●人身傷害保険 過失があれば利点も

【Q】交通事故でけがをし、家族が加入する人身傷害保険の支払いを受けましたが、それだけでは足りません。

【A】この保険は、事故で被った人身損害について、過失割合にかかわらず、あらかじめ定められた基準に応じて保険金の支払いを受けるものです。

特に被害者側に過失がある場合はメリットがあります。本来、加害者に請求できない自分の過失部分についても填補(てんぽ)が受けられるのです。

例えば、被害者に4割の過失があって1千万円の人身損害を被った場合、加害者の賠償より先に700万円の保険金を受け取っても、残りの300万円を加害者に請求できます。家族や運転者などが加入している人身傷害保険でも利用できます。ただし請求権は、2010年4月1日以降の契約・更新分については、3年(それ以前は原則2年)で時効が消滅する場合があるので、注意が必要です。

(板井京介)

●刑事裁判 被害者・遺族も関与

【Q】交通事故で夫を亡くしたのに加害者からは誠意が感じられません。刑事裁判で遺族にできることは?

【A】2008年12月から、刑事裁判に被害者が直接関与できるようになりました。この「被害者参加制度」の適用は一定の犯罪に限定されますが、交通事故は「自動車運転過失致死傷罪」として対象事件になります。

被害者本人のほか、亡くなった場合は配偶者など一定範囲の遺族に参加資格があります。公判への出席はもちろん、被告人や証人を尋問できます。自身の心情、法適用に関する意見、自分が望む求刑を述べることもできます。

実際には専門家の助力が不可欠で、所定の資力要件を満たせば、国が費用を負担して弁護士に依頼することもできます(国選被害者参加弁護士)。まずは犯罪被害者支援センター=092(738)8363(毎週火曜午後4時~7時)に相談を。

(稲谷陽一郎)

<解説した弁護士>

▼小野裕樹さん

▼板井京介さん

▼金崎智久さん

▼稲谷陽一郎さん

福岡県弁護士会 相談窓口(0570)783552

電話番号は「悩みここに」と覚えてください。最寄りの相談センターを案内します。相談料は多重債務、労働問題(労働者からのみ)が無料、その他は30分5250円。今月14日までは全て無料で応じるキャンペーン中。県外からもつながりますが、県外での対応は各県の弁護士会にお問い合わせください。

西日本新聞 2月2日分掲載

※このイベントは終了しました

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