会長日記
2020年9月1日
会長 多川 一成(45期)
皆さま、こんにちは。
◆終戦から75年
今年の8月15日で終戦から75年となりました。日本武道館(東京都千代田区)で政府主催の全国戦没者追悼式が行われ、第2次世界大戦で犠牲となった約310万人の戦没者を追悼しました。今年は新型コロナウイルス感染症の影響で規模が大幅に縮小されたようですが、歴史と向き合い、深い反省のもとに、戦争で亡くなられた人々に追悼の意を示すことは、既に8割を超えた戦後生まれの世代にとっても、とても重要なことだと思います。
新型コロナウイルス感染症がいまだ世界中で猛威を振るっている中、米中対立の深刻化(新冷戦)、香港での国家安全維持法による民主派の取り締まり、日韓の元徴用工訴訟問題など、近隣国との関係で懸念すべき問題は多くあります。
その一方で、日本では最近になって「敵基地攻撃能力の保有」として長射程ミサイルなどを導入する案が議論されています。二度と不幸な戦争を繰り返さないために、平和憲法のもとで、日本に何ができ、何をすべきか、国民にとって何が重要で、そのために国民は何をすべきかを、この時期にもう一度深く考える必要があると思います。
◆成年後見人等の保証制度が始まります
本年10月1日から、弁護士成年後見人信用保証制度が開始されます。この制度は、第三者機関(全国弁護士協同組合連合会(全弁協))が保証人となり、万が一、弁護士成年後見人等による横領事件等が発生した場合、全弁協が保証債務の履行として被後見人等の被害を弁償し、被害の回復を図るものです。
被害者の早期救済と、弁護士成年後見人等全体の信用維持のため、多くの弁護士成年後見人等がこの制度に加入されるよう、働きかけていきます。
◆死刑制度に関する決議について
死刑制度については、日本弁護士連合会が、平成28年10月7日、「死刑制度の廃止を含む刑罰制度改革を求める宣言」(福井宣言)を採択して死刑廃止を目指す決意を示しました。さらに令和元年10月には「死刑制度の廃止並びにこれに伴う代替刑の導入及び減刑手続制度の創設に関する基本方針」を公表し、仮釈放のない終身刑を最高刑として導入しつつ、例外的に仮釈放の可能性のある無期懲役への減刑を認める手続制度を設ける提言を行っています。
当会では、平成8年から、死刑執行に抗議する会長声明を発し、国民的議論が尽くされるまで死刑執行を停止することを求めてきましたが、これまで死刑制度の廃止そのものまで踏み込んだ意見表明はしていません。
死刑制度の是非についての意見表明は、法律専門家である弁護士にとっても精神的な負担を伴うものではあります。しかし、弁護士各人の自覚的な選択の結果として、制度の存置あるいは廃止について、責任ある判断をするためには、死刑の言渡しや執行の状況はもちろん、その対象となる殺人等の発生原因や状況等について情報を得た上で、国際社会の動向を踏まえつつ、関連する問題点についても考察を深めなければなりません。
当会では、今年度初めから、会内の全会員、部会、委員会に対し、「死刑制度の廃止に関する決議」案について意見照会を行い、6月から7月にかけて、当会会員を対象とした意見交換会を複数回実施しました。
9月18日開催予定の臨時総会において、当会の死刑廃止決議案が審議されます。この決議案は、死刑廃止を求める理由として、(1)死刑制度は生命に対する権利の侵害であること、(2)誤判冤罪があった場合取り返しのつかない不正義が生じること、(3)国連加盟国は、死刑廃止条約に批准していなくても自由権規約6条や国連憲章55条、56条から死刑廃止を実現する責務を負うことを挙げており、特に(3)は当会の死刑廃止決議案の特徴となっています。引き続き意見交換会等を実施して、会内での議論を広げていければと考えています。