会長日記
2019年9月1日
会長 山口 雅司(43期)
◆大連との交流
皆さん、こんにちは。
福岡県弁護士会と大連市律師協会との定期的な交流のために、8月1日から3日まで中国の大連市に行ってきました。両者の交流は、1992年に遡り、2010年の正式な交流提携調印を経て、今日まで、日中両国の法制度に関する実務的な報告や意見交換を行っています。
大連市は、古くは日露戦争における二〇三高地の攻防(旅順)や満州への入口として有名な地であり、現在は、総人口は約600万人、都市部人口でも320万人を超え、急速な近代化を経てきた中国を象徴する都市の一つです。都市の活力を感じることができる街でした。
◆「普通の人びと」
さて、この原稿を書いているのは8月。終戦に思いを致す月でもあります。
大連旅行の前後で、クリストファー・R・ブラウニングというアメリカの歴史学者が書いた「普通の人びと」という本を読んでいました。ナチのユダヤ人大量殺戮(りく)を実行した、あるドイツ警察部隊の隊員たちが、典型的なドイツの“普通の人びと”であり、この普通の人びとが残虐な殺戮者となっていく経過を、裁判記録等から記述し、その分析を試みた著作です。
丹念な検討であり内容を単純化できるものではないのですが、同調的な集団の中では、物理的・心理的な強制がなくとも殺戮行為が遂行され、さらに、この遂行過程が分業されると心理的抵抗が軽減されるという意味において効率化されるという、人の弱さと狂気について考えさせられました。また、権威や権力がひとたび暴走すれば、人権という脆弱な理想はいともたやすく破壊されるという現実をつきつけられました。
◆人間の本質
読後、人間の本性を垣間見る思いであり、このような出来事は、昔々の、特殊な国の、特殊な人たちの話しではないことを実感しました。
ITだ、AIだと言って実在の世界を観念化し、効率を追求しようとする現代では、同調圧力や権力の暴走をなおさら警戒しなければならず、これらに敏感であるはずの法律家でさえも、紙の上の言葉だけを追いかけて、日々の「事務処理を遂行する」だけになっていないかなどと考えてしまいました。
既に70年以上前の出来事とはいえ、たぶん、人は何も変わっていないのであり、8月の日差しを眺めながら、人間の本質を時々考えてみることも必要だと思いつつ福岡に帰ってきました。