会長日記

2017年12月4日
修習給付金の創設に感謝し谷間世代1万人の置き去りについて考える福岡集会挨拶

会長 作間 功(40期)

◇法改正

本年4月19日改正裁判所法が成立し、71期司法修習生から修習給付金が支払われることとなりました。日弁連及び全国の弁護士会の長年の運動が実を結んだ結果であり、日弁連で運動を推進された委員の方々、当会給費制復活推進本部の市丸先生、そして何より熱心に取り組んで頂いた若い会員に心から感謝申し上げます。

また、国会議員・支援していただいた諸団体に厚く御礼申し上げます。当然ですが、国民の支持がなければ、またこうした世論を背景とした、国会議員の先生方のご理解・ご賛同なくしては、法改正は実現しなかったものです。心より御礼申し上げます。

裁判所・法務省・財務省の英断にも敬意を表したいと思います。

当会も4月20日付けで法改正を歓迎する会長声明を発しました。

◇残された課題 = 貸与世代に対する施策

しかし、残された課題があります。新65期から70期までのいわゆる谷間世代の会員に対する施策です。谷間世代の会員は、経済的負担に対する手当がなく、その前後の期の法曹と明らかに不平等な状況となっています。

そして、いよいよ来年7月から返還が始まります。

平均借受け額は300万円です。中には1000万円をこえた借金を抱える若手法曹がいます。

こうした苦境・不平等な事態に、弁護士会としてどう対処するか。

◇司法の役割と修習制度

司法の役割・修習制度の役割と給付制とは関係があります。おさらいしますと、

司法制度は、国の、社会の、また個人・会社の経済活動の、そして個々人の生活の基盤。権利救済・人権救済の最後の砦。秩序維持の要です。こうした司法に携わる者は、公的な役割を担っています。弁護士は、私人・民間でありながら、唯一、憲法にも謳われた職業人なのです(憲法77条、34条、37条)。しかし、司法に携わる者には、高度の法的知識、実務上のスキルが求められ、その取得までの過程、すなわち法曹の養成には、一定の期間がかかり、コストがかかります。
コストがかかるけれども、公的な役割を担う以上、その養成には国が責任をもつべきだ、として戦後まもなく国は修習制度をつくりました。修習に専念させる義務を課し、兼業を禁止しました。その代わり、給与を支給し、修習期間の生活を保障したのです。

以上のとおりでありまして、将来、公的活動の一翼を担う法曹の養成のため、給付制度をとっていたのは、当然であり、必然であったのです。

ではなぜ、貸与制に変わったのか。給付制が不合理で、貸与制が合理的であったからか。ノーです。財政上の問題にすぎません。合格者を増やせば、その分コストが増える。そこで、修習期間を従来の2年から1年半に短縮した。さらに合格者数を増やした。さらに修習期間を減らし1年にした。さらに合格者数を増やした。そこで、ついには給付制をやめて、貸与制にしたというわけです。

◇様々な考え方がある

今、谷間世代の弁護士、さらには、裁判官・検察官も同様の問題をかかえています。その数は、1万1000人。谷間世代の裁判官や検察官が置き去り問題に取り組むことを期待するのは無理ですので、この問題については弁護士会が取り組まねばなりません。

しかし、置き去り問題については、様々な見解がありうるところで、

〈A〉 給付制の遡及を目指すべきだ

いう人たちもいれば、

〈B〉 国民の中には、貸与制であることを覚悟の上、司法試験を目指したのだから自己責任だ

という考えを持つ層もいます。

この両極の考え方のほか、

〈C〉 その中間に様々な考え(例えば、免除や猶予の要件を緩和する、等)があるところです。

なるほど当事者である谷間世代の人たちの中も、それぞれにバックボーンが違います。学部時代から奨学金を貰っていた人、法科大学院に入ってから奨学金を貰った人、受かるまで苦労した人、等。他方、奨学金をもらっていない人、その中でも、裕福な家庭で育った人もいるし、貯金を取り崩して司法試験に受かった人もいる、最短で受かった人もいる。それぞれに背景が違います。

では、目線・基準はどこに置くべきか。一番大変な状況にある人達におくべきなのは、当然です。

弁護士というものは、苦しんでいる人々の窮状に敏感でなければなりません。谷間世代の苦境・谷間世代の不平等状態を放置していいはずがありません。