会長日記

2014年5月

会 長 三 浦 邦 俊(37期)

新年度当初の挨拶まわり

弁護士会は、1年毎に役員が変わります。そこで、弁護士会では、3月末頃から、4月にかけて、新しく就任した役員が、広く県内の諸団体を訪問することをおこなっています。訪問先は、法曹関係に限らず、県内各地の地方公共団体、議会、商工会議所、経済団体、労働団体、マスコミ、各種士業団体、政党、各国領事館、県内の主な企業などで、今年も、100箇所以上のところに、弁護士会の役員が、参上することになっています。

この挨拶まわりの目的は、弁護士、弁護士会の活動のPRをすることにあります。一般の方にとって、弁護士は裁判ばかりをしているようなイメージがある一方で、敷居が高いなどと言われる始末で、日本の社会においては、弁護士制度は国民に親しまれ、定着した制度となっているとは、到底、言えないという認識から、せめて、年度始めにおいて、弁護士会の役員の就任のご挨拶をかねて、県内各所をご訪問して、PRをおこなおうということになったものです。

本年度執行部においても、3月27日から始めて、日程調整の関係で、5月1日までおこなうことになります。訪問先では、トップの方と面談することになりますので、貴重なご意見を伺う機会にもなっています。

弁護士会PRの内容について

弁護士、弁護士会の活動の柱の第一は、人権擁護活動ですので、毎年作成される「福岡県弁護士会の人権擁護活動2013」を持参し、弁護士会の活動は、毎年、変化していることをお話ししています。昨年、当会は、福岡市に対して、いわゆる禁酒令については、自由権を侵害するものであるとして、このような通知を二度としないようにとの勧告をおこなった例などは、皆さんの記憶に残っているようです。他方で、サラ金業者による過酷な取立は、利息制限法を超える過払金返還請求が多数起こされたことや、貸金業法の改正によって、ほぼなくなってしまいました。ところが、最近では、非正規雇用者で年収が300万円程度にしかならないために、学生時代の奨学金の返済に窮している人が増え、しかも、奨学金の返還の督促が厳しいことが問題となっていて、取立を苦にして自殺する人も発生しているので、弁護士会では、生存権実現本部の中で、近年、この問題の対策を取り扱う部会を設置したことをお話ししたところ、なるほどというお顔をして頂けました。

弁護士、弁護士会の活動の第二は、社会正義実現のための活動であって、弁護士、弁護士会は、日本だけでなく世界中で、市民生活のあらゆる分野で、あるべき制度の創設の提言や、既存制度の改善提言をおこなって、シンポジウムを開催したりして、より良い社会制度の実現のための活動をおこなっていることを説明しています。この点は、法治国家である以上、国民生活のあらゆる事項が法律によって定められているために、法律家は、絶えず、制定される法律が、国民の権利を不当に制限するものでないことや、弱者保護の精神に基づいていることをチェックしながら、より良い社会を実現して行くための活動をすることを使命としていること、この推進のために福岡県弁護士会には60を、日本弁護士連合会には100を超える委員会が設置されていて、その活動領域は、国民生活のほとんどあらゆる分野に及んでおり、個々の弁護士は、これらの委員会活動を中心にして、より良い社会の実現のための活動をおこなうことを責務としていることを説明しています。

但し、これらの点の説明の必要がないと思われる方には、「人権擁護活動2013」を渡すだけにするようにして、別の話題を振るようにしています。

未登録者、司法修習終了者の採用のお願い

2000名の二回試験合格者のうち、昨年12月の段階では、400名くらいの未登録者が発生してしまったことや、本来、行政の分野や議会においても、法曹有資格者の活躍のフィールドが広がることを想定して、司法試験合格者を増加させたが、その後、採用に関する働きかけが不足していたことなどが原因の現象であることを説明しながら、法曹有資格者の就職戦線の現状は買い手市場であるので、お試しでも構わないので、法曹有資格者の採用のお願いをおこなっています。

市町村長の方は、興味を持って頂いた方が多い印象です。議会に対する説明がつくことが必要であり、採用の事例があれば、教えて欲しいと言って頂いた首長の方もありました。他方で、企業経営者の方には、顧問弁護士もいるのでという方もありました。知る限りの事例をあげながら、法律家の使い方にはこんな使い方もありますと言って売り込みを試みています。今後、任期付公務員や、企業内弁護士の採用を拡げて行くには、こんな企業内弁護士の使い方もあるなどの事例紹介が有効であると思われました。

弁護士過疎解消のための活動・司法改革の運動について

日本は、世界に冠たる法治国家であると評価されます。しかし、全国津々浦々にまで、法の支配の原則が貫かれている社会であるかと言えば、まだまだ、日本の国は不充分だと言わざるを得ないと思われるとの話をしながら、弁護士会では、基金を作って、これまで弁護士がいなかった弁護士過疎の地域で開業をする弁護士を支援する活動をおこなっていることをPRしました。弁護士がいなかった地域に弁護士を派遣してみて判ったことは、過疎地にも、法律相談の需要が多数あったことと、地域の相談需要に応ずるには、少なくとも、2名以上の弁護士が必要であったことが判ったこと、このような活動の成果として、壱岐や対馬でも、現在、複数の弁護士が事務所を開業するようになっていることを説明すると、興味を持って聞いて頂けます。

他方で、都市部においても、虐待を受けたり、権利を侵害されても助けてとの声も出せないお年寄りや子供がいます。これらの人のもとへは、法律家も出向いて、守ってあげる必要があり、そうでなければ、正義の実現は不可能であるので、一定数の法律家の確保は必要だと思われることから、全国津々浦々にまで法の支配の原則が貫かれている社会の実現をスローガンにして、十数年前に始まった司法改革の運動が始められたことを説明しながら、現在、その見直しの作業がおこなわれていることを説明し、指摘されている制度改革の弊害の一つとして、法律家の養成に時間とお金がかかるようになってしまったことをお話しています。

給費制復活の署名等のお願い

これに関連して、現在の司法修習生は、修習期間中、希望者は、国から、単身者で23万円前後のお金を借りられるという貸与制という制度の中で、司法修習をおこなっていること、司法修習生は、大学卒業後、2年又は3年間法科大学院に通って、司法試験を受験し、これに合格して、司法修習生の身分を取得すること、1年の司法修習の後、二回試験という最終試験に合格しなければ、法曹資格が得られないこと、その結果、法曹資格を獲得するまでの間に、奨学金と上記の貸付金などで1,000万円近くの借金を抱えることを余儀なくされてしまうという制度になってしまったこと、その結果、法律家を志す若者が、激減してしまって、毎年3万名を超えていた司法試験受験者が、7000名台になってしまっており、このままでは、国民の権利義務を守る担い手が、いなくなってしまうことが危惧されているので、焦眉の課題として、弁護士会としても司法修習生の給費制の復活の運動をおこなっていることを説明し、前年度に引続き、各所で、給費制復活の署名のお願いをして回っています。この運動については、いずれのところでも、評価して頂いているとの感触を持ちました。

訪問先から受けた提案について

各訪問先においては、ほとんどのところが組織の長の方と面談をさせて頂いております。弁護士は、まだまだ敷居が高いと耳の痛い話をされたところもありましたが、某国の総領事自らが、若い弁護士に対して、講演をしても良いとの申出を受けるなど、複数のところから、弁護士会の会員と交流会、勉強会をしたいとの積極的なお話を頂戴しました。既に、一部では勉強会の企画が具体化しているところもありますが、全部を執行部だけで対応することは、不可能ですので、関連する委員会に情報としてお伝えしていきたいと思います。

弁護士の不祥事防止の対策について

近年、弁護士が依頼者からの預かり金を横領したという事件が続発しました。このため、弁護士会としては、昨年中に、このような事件の発生を防止するための規則や預り金口座の届出の制度を作りました。他方で、このような事件の発生は、弁護士の公益性と全く相いれないものであって、会員の皆さんの一層の自覚を促すために、研修制度の充実を図るようになりましたので、受講をして頂くようお願い致します。

他方、依頼者などから弁護士会に届く苦情などに、このような不祥事に関する情報が含まれていますので、弁護士会に寄せられる会員の情報が確実に集約できるようにシステムを整備して行きたいと思っております。
さらに、市民の皆さまから弁護士会にお寄せ頂く情報を集約して分析することが、会員による不祥事を防ぐ上では、極めて有効であると考えておりますので、当会会員に対する苦情・要望等がある場合には、当会の市民窓口まで、情報が寄せられるように広報に努めたいと考えており、その準備に取り組んでおります。