会長日記
2015年4月
平成26年度会長 三 浦 邦 俊(37期)
今日は3月11日です。弁護士会の活動は、年度末のラストスパート態勢に突入していますが、常議員会、臨時総会の開催日でしたので、いずれの会議でも、東日本大震災の犠牲者の方々の冥福を祈って、冒頭で黙とうをささげました。あれから4年が経過し、被災地から遠い九州に住んでいると、つい忘れがちになってしまいますが、津波に呑み込まれる街の映像が思い浮かびました。自然の力の脅威と人間の無力さを思わずにはいられません。他方で、震災からの復興は順調とは言えないことや、福島第一原発の除染作業などのニュースを見ていると、人災と言わざるを得ない面があるとも感じるものがあります。
災害と法律家
阪神淡路の震災前までは、自然災害の発生に際し、法律家の出番があると思う人は少数ではなかったかと思います。日弁連の災害対策委員会のメーリングリストにおいては、おそらく災害対策委員会の各単位会の本部長が単位会の会長になっているからではないかと想像しますが、全国の災害対策委員の方のメールが私のPCに流れてきます。東日本大震災のときは、時期尚早であるとの廻りの声を振り切って震災後3日目から被災地に駆け付けた会員もいらっしゃったことを配信メールで知りました。被災地に駆け付けたその日から相談があって、3日目位からは、行政の方からも、どう動くべきかという相談が舞い込むようになった。その後も、たくさんの相談を受けるようになったが、他方で、直ぐに、全国の災害対策委員会のメーリングリストが立ち上げられて、災害対策に関する法令や、阪神淡路の震災のときのマニュアルの情報提供を受けることが出来て、これをフル活用することで、たくさんの相談に対応出来た上、非常に頼りにされているということでした。
他方で、被災地の地方自治体では、震災復興の計画立案は遅々として進まず、せっかく取った予算消化がうまく出来ないという現象が起きているとの指摘があります。この原因は、日本の地方自治体や国の出先の現場では、既存の制度で対応出来ないかとの発想しかないためか、対応が遅れる。被災者が一番に欲しいもの、対応して欲しいものに対して、行政の現場で対応できないという現象があるという点は、昨年の東北弁連の大会でも指摘されていました。シンポジウムのパネラーを務められた慶應義塾大学の片山善博教授によると、平成12年の鳥取県西部地震のときは、被災した人は、被災直後でも、避難場所から自宅に帰りたいと言われたので、県知事として、その声に応えようと国交省に陳情に行ったりしたが、橋や道路が壊れたというときには災害救助法等で直ぐに予算がつくが、個人の家が壊れたという場合には、当時は予算が全くつかなかった。国の予算では出ないというので、県の予算で出そうとしたら、東京からわざわざ役人が鳥取までやってきて、県の予算から出すのは止めてくれと言われたとの体験談を語られたことが印象に残っています。現場の実情を知ってから、権利救済のためにどのようにすべきか、さらには制度をどのように組み立てるべきかという発想は、法律家は得意ですが、お役人の方々には馴染のない発想のようです。東北では、柔軟な発想を持って復興に当たっている自治体とそうでない自治体とでは、復興のスピードが違うとの指摘もありました。災害時には、法律家が活躍する分野があって、法律家が高い評価を獲得しているという点は、多くの災害時の事例などで定着してきていると思われます。
おそらく、行政の分野では上記のような柔軟な発想がないために、対応がうまくいっていない分野があるのではないかと思います。行政の分野にもっと多数の法律家が進出する必要があるのではないかと思う次第です。
原田卓先生のこと
私の直接知る範囲でも、熊本県弁護士会の所属であった原田卓先生は、一昨年、仙台弁護士会の気仙沼支部に登録替えされて被災者の支援活動にあたられています。原田先生は、元裁判官で気仙沼支部で裁判官をされた経験があり、裁判官時代の書記官の方が被災されたこともあって、震災直後から支援に行きたいとおっしゃっておられましたが、事務所の引継ぎ等に約1年をかけて準備された上、登録替えをされました。全く頭が下がる思いです。
原発ADR
九州、福岡ではあまりなじみがありませんが、東京と福島では、福島第一、第二原発の事故の被害に対応するために、原子力損害の賠償に関する法律に基づき、文部科学省の原子力損害賠償紛争審査会のもとに原子力損害賠償紛争解決センター、通称、原発ADRが設置され、約200名の弁護士が、東京電力と被災者との間の和解の仲介手続をおこなっています。申立費用無料で、迅速に、大量の事件処理を行っているとのことで、仲介役の弁護士にとってはハードな作業と聞いています。
当会の災害対策マニュアル
常議員会で当会の災害対策マニュアルが承認されました。災害対策委員会で数年をかけて作成された労作ですが、常議員会では特段の意見もなく、執行部提案のとおり異議なく承認され、少し拍子抜けの感がありました。福岡は、災害に縁がないと思っている会員が多いのかもしれませんが、平成17年の西方沖地震程度の地震か、これと同程度と判断される災害が発生すれば、このマニュアルが活用されることになります。執行部の引継ぎに関して、この点に関して、引継書に書いた以外に余り引継をおこなっていないことに気がついたので、ポイントを記載します。
第一に、執行部全員が災害対策本部の役員に就任し、何をするべきかというマニュアルが出来ました。他方で、弁護士会館が被災する場合に備えて各種データの管理を検討すること、管理すべき会員情報、連携先等の情報の選別などについて今後の検討課題とされています。
しかし、東京弁護士会が、当会を会内情報のデータの保管場所としているように、当会もデータの保管場所を確保しなければ、マニュアルも絵に描いた餅になりかねないと思われます。弁護士会が被災してデータがなくなったというのではシャレにもならないわけで、各部会でも県全体のデータを保管するなどの方策を立てる必要があると思われます。災害が起こってからでは遅いので、新執行部の皆さんでご検討ください。
年度末の行事の多さ
今月は、なんとなく災害に関する日誌となってしまいましたが、弁護士会全体では、年度末には各委員会の企画が目白押しです。執行部としては、予算執行を気にしながら、手分けをして、シンポ等にも出来る限り参加するように心がけていますが、行事が重なって出席できない場合もあります。この点ご容赦くださるようお願い致します。