少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌(7・4月号)(連続掲載第2回)

1 はじめに

子どもの権利委員会に所属している筑後部会69期の鶴崎です。

待っていた方がいらっしゃるかどうかわかりませんが、お待たせいたしました。1月号に引き続き私が担当した少年事件のご報告をいたします。

前回の最後に予告しましたが、今回からは巻き気味で進めようと思います。なにせ前回は2頁で2回目の接見までしか終わりませんでしたので・・・

2 第一章(1月号「序章」の続き)

(1) 社会復帰後に少年が学校に通えるように調整するため、少年が通う中学校に電話してA先生に繋いでもらった。A先生は、少年が信頼を置いている数少ない教師の1人だ。

A先生と話をすると、どうにか学校に来られるように少年とは逮捕される前から話をしていたらしい。

学力には厳しいところがあり、学校で時計の読み方や簡単な計算などをできるようにしてあげたいという思いがあるが、髪を染めたりピアスや私服で登校したりする少年を教室に入れることはできず、別室での指導もうまくいかなかったようだ。

A先生の語り口からは少年を受け入れる姿勢が感じられ、先日の教頭先生とは印象が異なる。

少年と面会できるか尋ねると、中学校の手続きが必要なため自由に行くことはできないが、本当なら今すぐにでも会いに行きたい気持ちだという。

教師からさんざん腫れ物扱いされてきたであろう少年にこんなことを言ってくれる先生がいるとは、なんとも喜ばしいことだ。

(2) 学校への連絡とは別に、被害者への連絡について承諾を得られたと警察から連絡があったため、被害者の母親に電話をかける。

母親によると、被害者は動画の撮影などしておらず完全な言いがかりとのことで、被害感情は強い。もう関わりたくないため治療費と慰謝料を受け取って終わりにしたい、本人がお金を用意できないなら親が出すのが筋ではないのか、とのこと。

一般的にはもっともな言い分だと思うが、少年には少年なりの言い分があるから悩ましい。母親にお金を出させたくないという気持ちも少年にはある。

電話を終えて少年の母親にお金を出せるか確認したところ、まとまって支払えるお金はなく借り入れもできないとのこと。被疑者側にお金を支払うことにはあまり積極的ではない姿勢が窺える。

母親のもともとの性分もあろうが、今回の件は少年が一方的に悪いわけではないとの思いが、被害弁償に消極的にさせているのかもしれない。

(3) その後、A先生やB先生(信用できる先生として少年からA先生以外に名前が挙がった先生)、担任、校長が面会に行ってくださり、そうこうするうちに勾留満期を迎えて鑑別所に移動した。

A先生から警察署や鑑別所での面会時の様子を確認すると、今回の件を反省する様子はあまりなく、やられたらやり返すという感じであるとのこと。

今の考え方だといずれは大きな事件を起こしてしまうので、まずは学校の方でどのようにしていくか共通理解を持とうと考えているようだ。

べつの情報として、少年の叔父が少年のすぐ近所に住んでいるそうだが、その叔父が少年の問題行動に対して容赦ない人間で、問題を起こしたときに少年が激しい暴力を振るわれたこともあるらしい。

A先生自身が実際に確認したことではないため正確な情報かどうかわからないという留保付きではあったが、もし事実だとすれば少年の素行にも影響を与えているのかもしれない。

鑑別所に移動する前後くらいの時期、社会復帰した場合のことを話し合うために少年が通う中学校を訪問した。同席したのは教頭先生、A先生、B先生の3名であった。

学校に通いたいという少年の意向を伝えた上で、私の意見を述べた。

教師や生徒に暴力を振るったり学校の物を損壊したりすることはよくないから、そのようなことはしないと少年は約束する。しかし少年には学校に通う権利がある。それは子どもにとってかけがえのない権利で、髪型や服装などの校則違反を理由に学校がその権利を奪うことはできない。とはいえその点を学校と議論するうちに少年の中学校生活が削られていくことは望ましくない。少年は髪型や服装などを改めるつもりがあるから、多少の校則違反は大目に見て通学を認めてあげてほしい。といった話だ。

学校側から校則違反を容認するような発言はなかったが、社会復帰後の通学についてこの時点で一定のコンセンサスはとれたものと記憶している。

(5) 鑑別所に移動して数日後、調査官と話をすると、少年には反省する気持ちがないことを問題視している。調査官が相手だからといって取り繕って話をするような少年ではないのでとくに驚かない。

理由はなんにせよ、少年が暴力を振るったことはたしかによくない。

しかし、少年はこれまで、やられたらやり返すという世界、物事を暴力で解決する世界の中を生きてきた。それが正しい解決法であり、解決法はそれしかないと思って生きてきた。

そんな少年に「何をされても手を出してはいけない」という社会一般では当たり前のルールを説明しても、なかなか腑に落ちない。少年と話をするためには、まずこちらが少年なりのルールを知ることが重要なのかもしれない。自分でもよくわからないながら、そんなことを考える。

それはさておき、少年が学校に通う意向があり、付添人が学校と登校の調整をしている旨を説明したところ、そこは好意的にとらえている様子だ。

学校に通うという規則正しい生活が少年の更生にとってプラスになると考えてのことであろう。

その後、調査官の意見は、学校に通うのであればという条件付きで試験観察に傾いていく。

(6) その後、少年との面会でまず被害者への賠償について確認したところ、治療費込みで5万円なら鑑別所を出れば時間を要さず支払えるとのこと。

また、社会復帰した場合にはある程度校則に配慮して学校に通う意向があることについてもあらためて確認した。

少年との面会を終え、被害者の母親に少年から確認した意向を伝えたところ、5万円を2回もらって済むのであればそれで終わらせたいとの意向であったことから、後日、事務所にお越しいただき、社会復帰後2週間以内に5万円を支払うことを約束する書面を交付した。

被害者の母親は、責任をとろうとしない少年の母親に対しては憤りがあるようだが、少年に対しては、どこまで知っているかわからないもののその境遇を慮るような態度を示し、社会復帰したら学校に通う予定である旨を伝えると、立ち直って頑張ってほしいというような言葉をいただいた。

被害者側と話し合いがまとまり社会復帰後には学校に通える準備も整ったことから、あとは審判で試験観察となれば少年の新たな一歩が始まる。

(7) 調査官の意見は1種少年院が相当としつつ諸々の条件付きで試験観察を容認するというきわどい内容であったが、審判日、学校に通うこと、暴力しないこと、夜遊びしないことを遵守事項として無事に試験観察が言い渡された。母親に対しては、学校に通うことのバックアップをすること、学校からの連絡に対応すること、学校外の行動把握をすることなどの役割を果たすことが求められた。

審判後、少年及び母親と私は、今後の登校について確認するため中学校に行った。

私が中学校に到着してからしばらくして少年と母親が中学校に到着したが、そこで先生たちを前にした少年の態度に私は些か面食らった。

席につけば全体重を背もたれに預けるくらいの姿勢で椅子にもたれかかり、先生たちを見る目つきは鋭い。しばらくすると席を立ち、後ろに置いてある棚の上に寝転がったり部屋の中を闊歩したりする。私が接見で見た少年とは別人だ。

私は一瞬「これがこの少年の本性か」と思ったが、すぐに思い直した。

少年は、先生たちの前ではそのような態度をとらざるを得ない人生を歩んできたのだ。

きっとそれは少年なりの大人への抵抗であり、防御であり、そして自分自身の存在価値でもある。そんな少年を作ったのは少年が育った環境であり、社会であり、関わってきた大人だ。私が接見で見た少年こそが、ありのままの少年本来の姿なのだと。

なにはともあれ、明日から少年にとって久しぶりの学校生活が始まる。(つづく)

3 結びに

とうことで、試験観察期間に突入したところで今回は終了といたします。

いよいよ中学校に通い始める少年は今後どうなっていくのか。7月号でまたお会いしましょう。/p>

鶴崎 陽三

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