少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。
付添人日誌~子どもシェルターを始めます~(24・1月号)
子どもシェルターとは
この1月、福岡市内に子どもシェルターを開設します。
子どもシェルターは、親から虐待されるなどの理由で生活場所を失った概ね15才以上の未成年者が緊急に入所し、概ね2週間から2か月程度、生活をする場所です。
子どもたちは、児童福祉関係の資格を持つスタッフの支援を受けながらシェルターで羽根を休め、次のステップに進む準備をします。
2010年末に、子どもの権利委員会の委員を中心に、児童福祉関係者、子どもの問題にかかわる研究者や市民が集まって、シェルター設立準備会を立ち上げ、議論を進めてきました。
そして、2011年9月にシェルターの運営主体となるNPO法人そだちの樹(理事長:橋山吉統会員)を設立して準備を進め、開所の運びとなりました。
開所後、当面は、入所対象を女性に限り、定員3名程度で運用する計画です。
なぜシェルターが必要なのか
シェルターは、家庭で暮らすことができない子どもに対して社会が行う代替的な養育(これを「社会的養護」と言います。)の一つに位置付けられます。
社会的養護の公的な施策として、児童養護施設や里親、自立援助ホームなどがあります。さらに、そうした環境で生活するまでの一時的・緊急的な生活場所として児童相談所の一時保護所があります。
しかし、こうした施設には、それぞれに入所の要件や定員が定められており、既存の施設での保護からこぼれ落ちる子どもたちがいます。
特に、年長の子どもの選択肢は少なく、さらに非行をして少年司法の手続に係属すると、福祉機関の関与が途絶えてしまう場合もあります。
このように、既存の制度の谷間に落ち込んでしまう子どもたちの生活場所を作りたいとの思いから、全国の弁護士らがシェルター設立に立ち上がりました。
2004年、東京で最初に子どもシェルターができました。その後、横浜、名古屋、岡山、広島を加えた5か所で子どもシェルターが開設されています。
福岡のシェルターは、全国で6か所目の子どもシェルターとなります。
子どもシェルターの特徴と理念
子どもシェルターの特徴は、子ども一人ひとりに弁護士が代理人として就任することです。
子どもがシェルターで生活している間に、この「子ども担当弁護士」が、親や行政機関と交渉して子どもの自立を手助けしていきます。
また、全国のシェルターに共通する理念は、子どもの意思を尊重しながら子どもを中心に据えて、その最善の利益を図るということです。
戦後の戦災孤児の保護を出発点として始まった現在の社会的養護においては、「恵まれない子どもに対する恩恵として養育」との養育観になりがちであると言われます。
しかし、社会的養護は、家庭で暮らすことができない子どもが持つ権利です。このことは、子どもの権利条約(20条)にも定められています。
子どもシェルターは、条約に定められた子どもの権利を基盤とした、子ども中心の社会的養護を実現するためのとりくみでもあります。
非行少年の社会資源としてのシェルター
他の社会的養護の現状がそうであるように、子どもシェルターには、主として家庭で虐待を受けた子どもが入所することが予想されます。
それと合わせて、非行少年の社会資源としての活用も期待されています。
非行が進んだ少年のなかには、恵まれない家庭環境で生活してきた子が少なくありません。
非行少年の家庭環境を調査した結果があります(矯正統計年報平成20年調査)。それによると、少年鑑別所に入所した少年のうち実父母が揃った家庭で監護されていた少年は42パーセントにすぎません。平成10年の57パーセントからも大幅に下落しています。
もちろん、両親が揃っていなくても、しっかりとした養育がなされ、子どもが健全に育つ場合の方が多いのですが、一人親家庭等には様々な面で「余力」が乏しい場合が多く、公的支援制度の貧弱さもあって、子どもの養育監護が困難となる場合があります。
また、非行少年の中には、親からの虐待を受けて育った子どももいます。少年院における調査(平成13年)によると、少年院入所者のうち、家庭で虐待された体験があったのは男子で49.6パーセント、女子で57.1パーセントという高い率になっています。
親に余力がなく、また、虐待などが行われる厳しい家庭環境の中で非行を犯した場合、処遇選択の際に、「家庭に戻して大丈夫だろうか?」ということが問題になります。非行の程度や本人の性格の問題性がそれほど大きくなくても、家庭環境が悪くて在宅処遇が困難という場合があるのです。
そのような場合の処遇として、児童自立支援施設送致や補導委託付試験観察の決定がなされる場合があります。
しかし、児童自立支援施設は、運用上、中学生を中心に送致される施設となっており、義務教育を終了した年長の少年の利用は困難です。
また、補導委託付試験観察についても、補導委託先の開拓が進まず、これまで補導委託を担っていた委託先も高齢化が進んで、十分な委託先が確保できない状況です。そのうえ、補導委託先の多くは住込み就労の形態をとっているため、仕事内容と少年とのマッチングがうまくいかず、利用ができない場合があります。
さらに、家庭環境に問題がある子どもが少年院送致をされた場合、仮退院時に親が引取りを拒むなどにより、少年の帰る場所がないという事態も起こります。
少年の生活に適した更生保護施設も少なく、家庭引取りを拒まれると少年の生活場所がなくなり、再犯の可能性も高まります。
非行少年の更生には落ち着いた生活場所が必要です。私たちは、子どもシェルターが非行少年の社会資源の一つとなることも目標にしています。
シェルターへのご協力をお願いします
子どもシェルターの運営には多くの課題があります。
中でも、資金面は大きな課題です。現在のところ、シェルター運営には公費が支出されていません。性質上、子どもや親に費用を負担させることもできません。各シェルターでは、企業や団体の助成金や寄付、運営する法人の会員の会費などで何とか賄っている状況です。
福岡のシェルターにもお金は足りていません。そのため、広く市民の人たちにシェルターのとりくみを知ってもらい、支援者を増やすための広報に努めているところです。
当会員のみなさまにも、ぜひ、シェルターへの様々な形でのご協力をお願いします。
また、付添人活動などを通して、家庭に居場所を失い、緊急に生活場所を必要としている年長の子どもに接した場合には、シェルターの利用をご検討ください。
小坂 昌司