少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。
付添人日誌 保護者の悩み(27・10月号)
付添人日誌の番外編として、「少年の保護者」として審判にかかわった体験を紹介します。
少年は、中学1年生の時に母親を亡くして親権者がいない状態となった。児童相談所が未成年後見人選任を申立て、私が後見人に選任された。
少年は、里親の下で暮らすこととなったが、中学3年生の頃から交友関係や生活態度の問題が大きくなった。
中学を卒業した直後、少年は刑事事件を起こして逮捕され、家裁送致されて鑑別所に入所した。それによって私は「非行少年の保護者」になった。
少年法で保護者とは「少年に対して法律上監護教育の義務ある者及び少年を現に監護する者」とされている。未成年後見人は民法857条により被後見人の身上監護義務を負うため、保護者である。また、この場合、里親も監護義務を負い(児童福祉法47条)、かつ現に少年を監護しているので、後見人と並んで保護者にあたる。このときは、実際に少年を監護している里親が保護者として扱われることとなったので、この1回目の審判の際には、私は少年から選任を受けて付添人となり、通常の付添人活動をした。
審判の結果、少年は保護観察処分となった。処分後も里親は粘り強く少年を養育したが、少年の生活はますます乱れた。ついに里親が音を上げ、里親委託が解除されてしまった。
その結果、少年の保護者は未成年後見人の私だけになった。
身上監護義務を負う立場として、少年の生活を安定させる役目を果たさないといけない。しかし、少年は、児童相談所への保護を嫌い、また、私が不動産屋に行ってお膳立てをしてもアパートを借りる手続もせず、友人らの家を転々として勝手気ままな生活をしていた。
交友関係も悪化して、このままでは反社会的勢力に加入するのではないかとまで危惧された。また、いろいろなトラブルを起こすため、後見人の私がトラブルの相手方と交渉をすることもあった。
いくら説教をしても行動は改まらない。少年を改心させるために、どうしたらよいかヒントをもらおうと思って「非行と向き合う親たちの会」の会合に参加し、先輩保護者の意見を聞いたりもした。経験豊富な保護者の話には妙に安心感をもらったりした。
そうした中で、少年は2回目の事件を起こして逮捕された。夜中の2時頃、私の携帯に「○○君を逮捕したので、保護者である先生に連絡しています。警察署に来てください。」と警察から連絡があった。
少年には申し訳ないが、私は「保護観察中の事件なので少年院に行く可能性が高いだろう。これで、しばらくは少年の行動に悩まされることもないな。」とほっとした気持ちを抱いたのである。ところが、警察署の担当課長がとても「いい人」で、少年の身上に同情し「先生のようなしっかりした保護者もいるので釈放する方向で考えます。」と言い、実際に少年は勾留されずに釈放となった。私が弁護人であれば喜ばしい成果であるが、後見人としては正直、素直に喜べなかった。
こうして少年は在宅で2回目の審判を受けることとなった。少年の唯一の保護者である私は家庭裁判所調査官から呼び出されて調査を受けた。
保護者として調査官と話をして私は日本の調査官の優れた能力を改めて実感した。担当調査官は、少年の性格や環境上の問題点について、日ごろから私が漠然と感じていたことを明快かつ的確に指摘した。
もっとも、そうした問題点を踏まえて少年とどう接したらよいのかは具体的に教えてくれなかった。立場上、踏み込んだことまでは言えないのかもしれない。しかし、問題点だけ指摘されても、保護者としては、どうしてよいのかわからない。過去に非行と向き合う親の会の人から「子どもが事件を起こすと、警察でも家裁でも親は注意ばかりされる。肩身が狭いし自信を無くす。」と嘆かれたことがある。実際に自分で生み育てた子が非行に走った場合、子ども自身の特性や環境上の問題点を指摘されることは辛いことだろうし、問題点だけ指摘され親が悩みを深めるということも理解できた。
調査の次は審判である。私は、保護者として出頭し、審判廷で少年の隣に座り、裁判官から人定質問を受けた。
そして、「少年とは、どれくらいの頻度で連絡を取って監督していたのですか。」と手痛い質問を受けた。実際、少年の問題行動を十分認識しながら、それほど頻繁に少年と会って指導することはできていなかった。とはいえ、私は裁判所への反発もあった。「少年の問題行動については家裁の後見係にも伝えていたけど、何もしてくれなかったじゃないですか。私は裁判所よりは少年を監督していましたよ。」と言いたかった。しかし、少年への不利益を考えると、これまでを反省して今後の監督を強めるとしか言えなかった。保護者の立場は弱いのである。
結局、2回目の審判で少年は保護観察継続となった。
少年は、その後、アパートを借り、定職にも就いた。生活は徐々に安定したものの、交際した女性とトラブルになったり、交通事故を起こしたりした。その都度、未成年後見人の私は対応に追われた。
ただ、審判の後、成人して私の後見人業務が終了するまで再犯はなかった。私の後見人としての身上監護が多少は役に立ったのかもしれない。
付添人は基本的には審判過程だけの短期集中的な少年との付き合いである。審判後も関わることもあるが、それは、元付添人という気軽な立場での付き合いだ(それでも、悩まされることも多いのであるが。)。
それに比べて少年の保護者は大変である。私の場合、保護観察官も私に同情してか、親身に相談に乗ってくれるなど、周囲の温かい目に救われた面もあるが、いつ、この苦労が終わるのだろうかと途方に暮れたこともあった。しかし、今となっては貴重な経験であったと思う(二度と経験したくないが・・・。)。非行少年の保護者の悩みが多少なりとも理解できたので、今後の付添人活動に役立てていければと思っている。
小 坂 昌 司