少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌 非行前の付添人活動(27・3月号)

1. 付添人活動

少年と初めて会ったのは、弁護士登録から1年も経たないころのことでした。ある日、ロースクール時代からの親しい先輩弁護士から連絡があり、強盗及び強盗致傷を複数件行った少年の2人目の被疑者弁護人を引き受けて欲しいと頼まれました。1年目の私にお声掛けいただいたのは、少年事件にかける熱い想いが私からほとばしっていたからだと信じているのですが、実際は子どもの権利委員会の大先輩方とのパイプを見越してのことだと思います。

少年は、中学校のころは生徒会副会長を務め、部活にも励んでいた文武両道の優等生でした。しかし、友人に誘われて塾帰りに夜遊びをするようになり、徐々に非行を行うようになりました。段々と非行に対する感覚が麻痺し、気づけばオヤジ狩りと称して強盗、強盗致傷といった重大事件を起こすまでに至っていました。

同事件は逆送されて裁判員裁判となり、少年は公開の法廷で罪を問われることとなりました。同裁判を通じて、少年は自らの行ったことの重大さを知り、被害者や家族などに大変な迷惑を掛けたことに気付き、取り返しのつかないことをしてしまったと後悔し反省しましたが、「懲役4年以上7年以下の不定期刑」が下されました。

2. 審判後の付添人活動

少年の入所直後、何度か手紙のやり取りをしましたが内容はあまり覚えていません。「頑張っています。」、「体調には気を付けて。」といったありきたりな内容だったからだと思います。

少年の入所から10か月ほどが経ったある日、先輩弁護士との間で久しぶりに少年に会いたいねという話になりました。少年刑務所まで会いに行ったところ、少年は真面目に頑張っているようで、立会の刑務官からも「少年は本当に頑張っているので心配しないでください。」と伝えられました。

それから10か月後、また会いに行きました。少年は、高卒認定試験(旧大検)を受けることにしたので勉強をしていると言っていました。少年刑務所の中では出来ることは少ないので、取れる資格は取りたいと言っていました。

それからしばらく経って、私は郵便で「7つの習慣」という本を差し入れました。最近、流行っていますので皆さんも聞いたことがあるかと思います。この本を贈るのは子どもの権利委員会の先輩のパクリなのですが、今の少年なら読んでくれるかなぁと思ったので、何となく送りました。

前回の面会から7か月後、また会いに行きました。すると、少年は全くの別人になっていました。

高卒認定試験は一発合格だったと話していましたが、元々頭の良い子なので、そんなことでは驚きません。以前会ったときの少年は、少年刑務所という枠の中で真面目に過ごし、とりあえず少年刑務所の中で取れる資格を取ることを考えていました。ところが、今回会った少年は「障がい者のためのレストランを作りたい。」と夢を語るようになっていました。少年は、「7つの習慣」を読み、目的をもって行動することの大切さを知ったといいました。元々、少年はマイ包丁を持っているくらい料理が好きで、入所する前は家族に料理を作ってあげていました。また、少年には障がいを持ったきょうだいがおり、そのきょうだいのことをとても大切にしていました。少年は、少年刑務所の中で、自分にとって大切なものが何かを考え、自分の人生の目的を見出そうとしていました。そして、その目的のために、今、何をすべきかを考えるようになっていました。私は、自分の夢について活き活きと語る少年を見て、目の前のアクリル板を突き破って少年を抱きしめようかと思いましたが、アクリル板は固くて無理でした。少年は、もっと色々なことを伝えたいけれども、手紙を送ると私たちの迷惑になると考えて遠慮していましたので、熱くなった私は少年に対し「どんどん手紙を送ってこいよ!」と言いました。

その後、どんどん手紙が来るようになりました・・・。「何で弁護士になったのか。」、「何故、多くの経営者と付き合っているのか。」、「迷ったときにはどうやって解決しているか。」、「ビジネスプランを考えてみたが、これについてどう思うか。」等々、手紙には少年の色々な考えや想い、悩みが詰まっています。熱く燃え上がっている少年の火を消すわけにはいきません。でもなかなか返事が書けません。返事を書かなくてはというプレッシャーが私に襲い掛かってきます。辛い・・・いや楽しい!

つい最近も先輩と一緒に少年に会いに行きました。気が早いかとも思いましたが、私は、知り合いの少年院入院歴のある飲食店の経営者の話をし、少年が出所したときに会ってもらう約束をしていることを伝えました。少年は、とても喜び、経営に関する話を聞きたいと言っていました。少年からは、最近、少年の家族が結婚したという話を聞きました。結婚した少年の家族はとても幸せそうにしているそうです。しかし、少年は幸せに触れると被害者のことを思い出すと言いました。幸せだと感じれば感じるほど、自分の壊したものの大きさを感じるということでした。しかし、そう感じることが自分の償いだとも話していました。

3. 非行前の付添人活動

少年は、過去の自分と向き合い、将来の希望も持っています。自分が少年と同年代のときに、これほどまでに自分と向き合い、将来について真剣に考え抜いていたかと言われると、全く自信がありません。少年と会うたびに、心から自分も頑張ろうと思います。

しかし、それと同時に考えるのが、真面目で賢くて家族想いなはずの少年が、どうして強盗致傷という重大事件を起こすに至ってしまったのかということです。どこかで誰かが止められれば、少年は素直に幸せを感じることができ、楽しい青春も謳歌できたはずです。
そう考えると、非行を起こす前に付添人活動ができればいいなぁと思いました。ただ問題なのは、どうすれば非行を事前に防ぐといったミラクルな付添人活動ができるかということです。この方法を見つけることが、私の人生の目的の一つになりそうです。そのために、今、私は何をすべきでしょうか。

林  直 輝

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