少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌(6・7月号)審判で一言もしゃべることができなかった少年

1 非行の概要

当時14歳の少年が、一緒に遊んでいた被害者に腹を立て、被害者に殴打や足蹴りする等の暴行を加え、約2日間の安静加療を要する傷害を負わせたという事件でした。

2 少年の特性

少年は、興味のあるゲームやアニメの話は答えてくれましたが、事件のことを聞いても「悪かったと思う」と述べるくらいで、自分の言葉で説明することが難しそうでした。また、学校は、小学校3年生くらいから休みがちになっていたようで、中学校にはほとんど行っていないという状況でした。

面会を重ね、ノートに考えて欲しいことを書いて、その内容を深めていくということを続けました。少年がノートに書いてくれる文章は、1文か2文で漢字は1文字も使われていませんでした。

後の鑑別結果で明らかになりましたが、少年のIQは70台前半でいわゆる境界域の少年でした。

3 面会以外の活動

少年の家に行き、少年の母と面談しました。

少年については、早い段階で児相が関与していましたが、両親と児相の関係はよくなかったようです。また、少年が学校に行かないことや夜遊びをすることについても放任していたようでした。そこで、今後、児相からの連絡には誠実に対応すること、少年の将来を考え学校で人間関係や勉強を学ぶことの重要性を理解させること等を誓約する文書を作成してもらいました。

また、被害者の親に対して被害弁償の申し入れを行い、被害者の父親から、少年の更生を期待したいと言ってもらえ、本件非行について許す旨の示談書を取得しました。

調査官面談では、処遇意見については明言されませんでしたが、少年の特性に対するケアがなされないまま生活していたところに根深い問題があり、今後の少年のことを考えると厳しい処分を考えなければならないと言われました。

4 審判当日

審判には、少年の両親も参加しました。

少年は、裁判官の質問や調査官の質問に対して、うなずきはするものの、言葉を発して答えることはありませんでした。私から、角度を変えて、面会のときに一番盛り上がったゲームやアニメの話を振ってみましたが、言葉を出して答えてくれることはありませんでした。最後に、裁判官から、何か言いたいことはあるかという質問がなされましたが、少年は言葉を発することができませんでした。数分間沈黙が続いた後、少年の父が「お前の声を聞きたいんよ!」と少年に言いました。少年は、泣き出しましたが、やはり声を発することができませんでした。休憩をはさみ、2時間近く審判が行われましたが、少年は最後まで声を発することはできませんでした。

処分は、少年院送致でした。

5 さいごに

何回も面会を重ね、会話もできていたので、審判で一言も話せないということは想像していませんでした。

少年に対しては何かしらの福祉的支援が必要に感じましたが、両親が福祉的支援を必要としている様子はなく、両親の意識を変えてもらう(誓約書を作成する)くらいの環境調整しかできず、積極的な更生支援は検討できていませんでした。

本件以降に担当した成人の刑事事件において、更生支援計画を立案してもらい、裁判の証拠として提出したことがありましたが、本件についても更生支援計画を立案することが有用であったかもしれないと感じます。

少年事件においては、成人事件と異なる点も多いですが、今後、更生支援計画を立案することも検討したいと思います。

武 寛兼

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