少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌 被害弁償と親の思い(23・12月号)

原付大好き少年

弁護士になったばかりの頃に比べて少年事件に出会うことが少なくなりました。最近担当したのも覚せい剤事犯だったり、被害弁償が到底無理なほどタクシーの無賃乗車をしてしまう女の子の事件だったりしたため、被害弁償とは縁がありませんでした。

ある日、少年のお母さんが思い詰めた表情で事務所に来られました。開口一番「先生、息子の弁護はしていただかなくて結構です。少年院に行くしかありません。でも、被害者の方々にはできる限り弁償したいのでどうか協力して下さい。」というのです。付添人の私としては複雑。被害弁償は大事だけれど、それだけってわけにはいかない。お母さんには「被害者の方々に誠実に対応するためにも、息子さんがなぜ事件を起こしたのかを私なりに聞いてきます」といって少年の面会にでかけました。

少年は例によって、原付大好き少年です。直結なんてやり方じゃなくて、キーポンという方法で次から次に原付を盗んでは移動する、遊ぶ、乗り捨てる…これだけでも絶対にやってはいけないことですが、今回はひったくり未遂までしてしまいました。初対面の日、私は基本的に説教しません。事件のことだけじゃなくて、できるだけ少年の日常を知りたいなと思って話を聞きます。

私「そんなに原付で移動してたら、運動不足になっちゃうよ」

少「いや、警察にみつかったとき全力でダッシュするから疲れますよ」(真顔)

私「・・・。それ、危ないよ。」(ため息)

余罪すごすぎ・・・

立件されたのは窃盗2件、窃盗未遂1件、無免許など道路交通法違反多数ですが、原付窃盗の余罪が次から次に・・。お母さんの「被害弁償をしなければ」という真摯な姿勢で、警察が証拠上整合できた被害者一覧を送ってくれました。その数7件。その日から少年の両親と私の二人三脚(正しくは三人四脚か?)の電話や手紙、直接会っての謝罪と弁償の日々が始まりました。被害弁償の目安はバイクの時価でお願いしたため、「そんなもんで足りるかー!!」と怒られたり、「お母さんも大変ですね」と慰められたり、いろいろな被害者の方にご両親は毎日心がつぶされそうになっていました。

ある被害者の方に会うため、雨が降る金曜の夜にファミレスに行き、お父さんと私と二人で待っていました。4人がけの椅子になぜか並行に座って・・。楽しそうな家族連れが怪訝そうに通り過ぎます。待つこと30分、被害者の方に会えました。お父さんはすぐに立ち上がって「本当に申し訳ございませんでした。私たちの育て方が悪く、ご迷惑をおかけしました。」と一生懸命謝罪。ああ、この姿を鑑別所の少年にみせたいと心から思いました。

盗ったのは原付だけじゃなくて、その人の生活や思い出

審判も近づき、鑑別所で少年と話した。

私「大変やったよー。被害弁償。お父さんもお母さんもお金もたくさんかかったし、A君の代わりに一生懸命謝っていたよ。」

少「お母さんがいいよった。被害者の人はすごく怒っとったって。あと、ひったくりの人はものすごく怖かったって。」

私「何で怒っとったと思う?」

少「何か、大事なバイクだったって。その日から会社に行くのにも使えないから、困ったって。」

私「あとで、一生懸命、お金を貯めて買ったバイクなんよね。」

少年にとっては目の前にある乗り回したいだけのバイクだけど、持ち主にとってはかけがえのないバイク。少年の眼差しが前よりも真剣になっているように見えました。

被害弁償と親の思い

少年は少年院送致でした。お母さんは「わかってはいたことだけど、やっぱり目の前で裁判官からその言葉を聞くと辛くて・・・」と涙をぽろぽろこぼして泣きました。「先生、私、被害弁償は『被害者のため』と思ってがんばっていたけど、被害者に会ったときの話を鑑別所で息子にすると、息子の顔つきが日に日に変わっていった。だから、最後は被害者の方のためであり、息子の更生のためなんだって思って。息子に立ち直ってほしい一心で被害者の方々に連絡していたような気がします。」このお母さんの言葉が本当の親の思いなんだなって、また一つ勉強になった事件でした。

東 敦子

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