少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。
付添人日誌(2・10月号)
1 事案の概要
私が担当しました少年事件について、ご報告させていただきます。
本件は、少年が、いわゆる振込詐欺の受け子役の年下少年を成人の先輩に紹介したところ、紹介した少年らが被害者から金銭(200万円)を騙し取ったという詐欺罪の共同正犯の事案でした(以下「本件非行」といいます。)。なお、本件非行は、逮捕勾留時から1年以上前に行われたものでした。
2 活動の内容
(1) 初回面会
当番待機の終わる直前の16時59分に国選付添人選任の打診があり、急いで観護措置が取られていた少年鑑別所へ連絡し、当日の18時から面会をしました。少年は、県外(被害者の居住地)で逮捕勾留された後、少年の住所地の福岡家庭裁判所へ送致されていました。また、過去の非行で少年院送致となり、本件非行当時は保護観察中でした。
少年に今不安に思っていることを尋ねると、「本件非行は1年半近く前のことであり、その後(本件非行から約半年後)、今の仕事先でまじめに働いていたつもりである」、「仕事先の社長に迷惑をかけているので、少しでも早く仕事に戻りたい」、「自分に前歴があることから、自分が悪く思われることは仕方のないことであるが、今の仕事先で働き続けられていることで更生でき始めていると感じられるし、態度で示し続けたいと思っているからとにかく働きたい」、「仕事をしないと収入がなくなり、生活も不安定になってしまう」ということでした。
そこで、少年に、「少し難しいかもしれないけど、仕事を頑張っていることを裁判所に理解してもらうためにも、母親、保護司、勤務先の社長と面談して、観護措置の取消しを求めてみよう」ということを話して、初回面会を終えました。
(2) 母親との面談
母親と連絡を取り、事務所で面談をしました。母親から、少年の仕事ぶりや生活ぶりをお聞きして、観護措置が取り消された場合、少年が仕事を続けることの支援をしてもらうことや、生活面での監督支援を約束してもらい、その旨の上申書を作成しました。
また、少年が勤務先から給料が振り込まれる銀行通帳を持って来てもらって、少年が仕事を継続して給料を受け取っていることや、少年が免許取得のために祖母から立て替えてもらった費用を給料から返済し続けていることを示す資料とさせてもらいました。
(3) 勤務先社長との面談
勤務先社長との面談では、少年が勤務を始めた経緯、仕事ぶりや少年がいないこと(観護措置を取られていること)で仕事に支障が出ていることなどを確認し、その旨の上申書を作成しました。
勤務先社長からの話で特に印象的だったのは、仕事をするうえで必要な資格取得のための研修を積極的に受講していたり、仕事の技能の全国大会に出場すべく仕事が終わった後にも努力を続けたりしており、とにかく少年が仕事に対してまじめであるということでした。
(4) 保護司との面談
保護司の自宅へ伺って、面談をさせてもらいました。少年とは、前の非行で少年院送致後の退院後から2年以上関係があるとのことで、少年との関係は良好だそうです。
実際に、少年が昔の不良仲間から、ヤクザに入れ、と脅されたり暴力を受けたりしていたときには、保護司に相談して一緒に警察署へ行ったこともあったそうです。
特に現在の勤務先に就職して以降、収入も安定し、親族にも恩返しをし始めており、仕事にもやりがいを感じているということで、更生している様子は明らかであるとのことでしたので、その旨の上申書を作成してもらいました。
(5) 裁判官面談と観護措置取消しを求める上申書提出
上記面談をする間(少年との初回面会直後)、裁判官面談を行いました。
裁判官からは、少年が共謀の事実を否定する場合(振込詐欺をすることを知らずに他の少年を紹介したという認識の主張をする場合)、共犯少年の尋問を行う用意があることや、少年の非行歴と本件非行からすると、処分としては第二種少年院送致をも視野に入れている旨の話がありました。
私からは、少年が前歴の処分から仕事を熱心に取り組んでおり、更生の道を歩み始めていることを説明し、観護措置の取消しを求める上申書を提出することを伝えました。
裁判官からは、提出するのは自由だが、取消しをするつもりはない、と言われましたが、法律記録だけを読んで悪い印象しか持っていない裁判官の印象を少しでも変えさせる意味も込めて、観護措置の取消しを求める上申書を提出しました(結果は当然、取消ししないとの判断でした)。
(6) 調査官面談
上申書を提出後、調査官面談を行いました。調査官面談においても、裁判官同様に厳しい意見が示されました。具体的には、年長不良者との交友関係がある一方で、振込詐欺の受け子を紹介した年下の共犯少年からも相当に恐れられている存在で、不良交友関係に問題があるという認識が薄いこと、現在は仕事を頑張っていることは否定しないが、それと相まって、1年以上過去のことで捕まっていることの被害感も問題である、などと指摘を受けました。
これらの点は、私も少年との面談で感じていた部分でもあったので、今後の少年との面談を通じて、これらの問題点を解消していくことに努める旨伝えて、面談を終了しました。
(7) 被害弁償を通じた反省
今回の被害金は200万円でしたが、被害者の方は本件以外に数百万円を騙し取られており、被害感情はとても重たいものがありました。
面談で少年に被害者の気持ちを伝えたところ、できる範囲で被害弁償をしたいとの申し出がありました。
私から少年に対し、必ずしも被害弁償を受け取ってもらえるとは限らないことや謝罪を受け入れて(許して)もらえるとは限らないこと、必ず処分が軽くなるとは限らないことを説明しました。それでも少年は、本件非行で身体拘束を受ける前に振込まれていた給料の中から10万円の被害弁償をすることを決めました。
被害者へ上記経緯をお伝えしたところ、少年の謝罪を受け入れてくれ、今後少年が非行や犯罪に手を染めることなくまじめに働いて更生することを期待する旨のお話をいただけました。
少年には、被害弁償に充てた10万円を稼ぐにはどのくらい働かなければならなかったかを思い出してもらい、被害者が失ったお金を稼ぐのにどのくらいの時間が必要だったか、貯金するにはどの程度苦労するか、被害者の年齢を考えたときに同じように働くことが可能なのか、被害者が何のために蓄えていたお金を奪ってしまったのか、少年自身の祖父母が同じような被害に遭ったらどう思うか、などということを考えてもらいました。
併せて、本件非行のような特殊詐欺でだまし取られたお金が暴力団に流れていき、さらなる犯罪のために利用されうること、それによって次の被害者が生まれることを理解してもらい、それに加担してしまったことについて考えてもらいました。
(8) その他の反省
本件非行は、交友関係から生じたことは少年も自覚していました。しかし、面会当初は、少年に受け子役の少年を紹介するように依頼した成人の先輩が怖くて、仕方なく年下少年を紹介したと述べ、少年自身も被害者であるとの被害感を強く示していました。
この点については、紹介した受け子役年下の少年の立場を想像してもらったところ、年下少年にとって少年自身が怖い先輩と同じような存在になってしまっていたのではないか、との認識を持ってもらうことができました。
そのうえで、交友関係がある人を思いつく限りノートに書いてもらって、その一人一人とどのように接していくべきかを記してもらい、少年からの申し出で、携帯電話の番号を変えることにしました。
(9) 意見書の提出と審判
以上の活動をまとめ、意見書を提出し、審判を迎えました。
家裁送致後から担当した事件でしたが、10回以上面会を重ねて、色々なことを考えてもらっていたつもりだったので、審判では、面会で考えていたことを自分の言葉でしっかりと説明することができていたと思います。
審判には、母親の他、勤務先の社長と保護司も参加してくれ、面談で確認したこと(上申書に記載したこと)を語ってくれました。
最終的に処分は、第1種少年院送致となってしまいました。
審判後に聞いたところによれば、少年にとっては、審判は初めてではなかったが、これまでの審判は明らかに悪いことをしていて、少年院に行ってもしょうがないと思っていたが、今回は勤務先の社長にも迷惑をかけているし、更生しているつもりだったので、結果が出るまで相当緊張した、とのことでした。
(10) 抗告申立て
処分については、少年自身覚悟していたところがあったようでした。
しかし、当日と翌日に面会をしたところ、抗告をして欲しいとのことでしたので、抗告申立てを行いましたが、棄却されて終わりました。
3 さいごに
少年について、面会当初聞いた前歴の内容や法律記録から出てくる関係者の供述調書からすると相当悪い印象を受けることは否定できません。しかし、実際に面会を重ねていくと、とてもかわいらしい少年で(コーラや炭酸が大好きで、毎回差し入れた炭酸飲料を律義に全部飲み切る)、何としても仕事に復帰してもらって非行と無縁になっていた生活を続けて欲しいと思える少年でした。
抗告が棄却された後、手紙での報告しかできていなかったので、時間が空いた際に少年院で少年と面会しました。少年はとても驚いていましたが、「そろそろコーラでも飲みたくなった頃だと思って」と言いながら改めて抗告棄却の説明をしました。
雑談の中で、将来の夢の話をしていたところ、少年から「俺は弁護士だったらなってみてもいいです、でも頭良くないと無理ですか」と言われたので、「可能性は無限大だし、やればできる」とどこかの芸人か予備校教師みたいなことを言いました(何となく嬉しかったです)。
現在、研修を受けられていないため、少年事件の配点を受けられない状態ですが、今年から付添人配点の方法も変更されるようなので、研修(付添研究会)に参加してみたいと思います。
武 寛兼