少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。
付添人日誌(25・5月号)
1 事案の概要
本件は、17歳の女の子が、年上の彼氏と共に数回覚せい剤を使用しかつ所持したという非行事実でした。覚せい剤事犯ですが、本件の少年はこれまで非行を犯したこともなく、覚せい剤を使用するのも今回が初めてでした。少年は、本件非行の約1年前までは県立高校に通うごく普通の高校生だったのですが、進路変更を理由に高校を中退した頃から生活環境に劇的な変化が生じていました。中退したこと等について母親と意見が合わず、喧嘩ばかりするようになりついには実家を出て女友達と二人でマンションを借りて生活していました。本件非行はそんな生活の中でおこりました。
2 活動内容
覚せい剤事犯ということからすれば少年院送致も頭の隅に入れざるを得ませんでした。しかし私は、この少年には少年院はむしろ逆効果ではないかと感じました。というのも、少年はもともと頭が良く自分の行った事の重大性や今後の生活等について自分の頭で考える力があったからです。母親も当初から非常に協力的でした。単身赴任中の父親とも密に連絡を取っているようでした。また、本件非行は1年弱という短期間のうちに生活環境が劇的に変化し起こったものなので、元の生活環境にさえ戻れれば社会内で十分更生可能であると考えました。とはいえ、少年は、彼氏に誘われ安易な気持ちで覚せい剤を使用しており倫理観の欠如は見逃せないものでした。
そこでまず、覚せい剤は身体に重大な悪影響を与えるのであって絶対にやってはならない行為であることを説明しました。少年は覚せい剤に関する本を読んだりして勉強熱心でした。その中で覚せい剤の危険性や彼氏は関係を断ち切るべき悪い人物であることを自覚したようでした。
次に、マンションを引き払い親元で生活するよう少年に諭しました。この点は少年も納得してくれ母親がすぐに退去手続をしました。
また、少年は高校中退後に別の通信制高校に所属していましたが全く通学していませんでした。しかし、審判後は定期的に通学し勉強したいという意欲を持っていました。そこで、母親に学校に連絡を取ってもらい、一緒に審判終了後の通学スケジュールを立てました。
一番の課題であり難題でもあったのは、本件非行に至った少年の心の変化に触れることでした。私たちはできる限り面会に行き少年と話をしました。少年にとっては高校中退や母親との不仲が大きな心の傷でそこから自暴自棄になったことがきっかけのようでした。この点、母親とは鑑別所にいる間、ほぼ毎日手紙をやり取りし互いに素直な気持ちを言い合ったようです。次第に母親との関係が良好になり少年の気持ちがほぐれたのか、鑑別所での表情がとても明るくなっていきました。
この他、調査官とは適宜面談し少年が変化してきたことや処遇等について意見交換しました。裁判官とも審判前に面談し、いかに少年院送致が不適切かを説明し説得しました。
審判では付添人として保護観察の意見を述べましたが試験観察となりました。少年は素直な子だったので試験観察中も遵守事項を守り、順調に生活を立て直していきました。しかし、元々できる子だっただけに次第に私たちや調査官からの関与を窮屈に感じていた面もみられました。第2回審判では保護観察となりました。
3 最後に
本件の少年は、数回覚せい剤を使用したのみで依存性がなかったのが本当に幸いだったと思います。高校卒業後は美容関係に進みたいという明確な目標があるようです。頑張って欲しいと切に願います。今回、私は初めての付添人であり十分にはできなかった部分もありますが、短い活動期間の中で出来る限り、少年や親御さんと面会しその心の変化に触れて活動していくことが大事であると感じました。
吉 原 育 子