少年付添人日誌弁護士会月報「付添人日誌」より転載したものです。

付添人日誌(5・1月号)

1 事案の概要

私が担当しました少年事件について、ご報告させていただきます。

本件は、少年が、少年の交際相手と性交をしたという元同級生の男性に暴行を加え、加療約1週間を要する傷害を負わせた事案でした(以下「本件非行」といいます。)。なお、少年は、被害者に対して、100万円を支払う旨の念書を書かせておりましたが、この点は被疑事実や非行事実にはなっていませんでした。

2 活動の内容

(1) 少年との面会(初回面会から被疑者段階)

少年は、面会当初から本件非行を認め、被害者を怪我させたこと自体については反省していました。

しかし、一方で、少年は、被害者が自分と付き合っていることを知りながら少年の交際相手と性交をしたことを許すことができないと述べ、被害者と会った時には暴行を加えるつもりはなかったが、被害者が悪いにもかかわらず気持ちのこもっていない謝罪をされたので手を出してしまったと述べていました。

なお、少年が被害者に対し少年に100万円を支払う旨の念書を書かせたことは被疑事実に記載もなく、少年からも申告はありませんでした。

(2) 父親との面談

少年から聞いた両親の連絡先へ連絡し、父親と面談しました。父親は、被害者側が許せば直接謝罪に行きたいことや可能な限り被害弁償にも応じたいことを述べていました。少年とも積極的に面会に行っており、少年も父親との関係は良いと言っていたとおりという印象でした。

(3) 被害弁償の申し入れ

検察官に連絡し、被害者の母親の連絡先を教えてもらい、被害弁償の意思があることを伝えました。

ところが、被害者の母親と電話で話したところ、被害者が少年やその仲間に対して強い恐怖心を抱いており学校にも行けなくなっていること、被害弁償により少年の処分が軽くなるより少しでも社会から隔離して欲しいことなどから被害弁償には応じたくないと言われました。

(4) 勤務先社長との面談

少年は、学校に行きながら仕事をしていたため、勤務先の社長との面談し、少年が勤務を始めた経緯、仕事ぶりや少年がいないことで仕事に支障が出ていることなどを確認し、その旨の上申書を作成しました。

勤務先社長は、少年が学校を卒業するように助言してくれ、卒業したら正社員として雇用するつもりであるとのことで、少年もそれを励みに頑張っているということでした。

(5) 観護措置を取らないことを求める意見書の提出

被疑事実については争いがなく、特段の処分歴もなく、両親の監督能力にも問題がなさそうであり、勤務先社長も監督をしてくれる旨述べてくれていたため、観護措置をとらないことを求める意見書を提出しましたが、残念ながら認められず、少年は観護措置をとられました。

(6) 少年との面談(鑑別所での面談)

家裁送致後、法律記録を閲覧したところ、少年が被害者に対し少年に100万円を支払う旨の念書を書かせていたこと等が判明しました。

この点について、少年になぜそのようなことをしたか尋ねると、「本当に反省しているなら払うと思ったし、大人もトラブルを金銭で解決することがあるから犯罪になるとは思っていなかった」と述べておりました。

色々と話を聞いていると、少年は、少年の仲間内では何かトラブルが起きたとき金銭で解決するのがルールで、少年も悪いことをしたら金銭を払ったこともあるし、それが大人の正しいやり方であるとの認識を抱いていることがわかりました。

「トラブルを金銭で解決すること」自体は否定できないところもありました(弁護士の仕事もこれにより成り立っている部分もあります)が、少年の話には違和感を感じる部分が多かったため、「〇〇の言ってることは正しい部分もあるけど、何か引っかかるところもあるし、その引っかかりを一緒に考えてみよう」と伝え、鑑別所で面会をする度にノートに考えてほしいことを記載してもらうようにしました。

(7) 調査官面談

調査官と面談をさせてもらい、少年の長所や課題について共有したところ、同じような課題を持っていることが確認でき、付添人として少しずつ課題を解消させようとしていることを伝えしました。

(8) 審判

少年と一緒に考えて、少年がノートに記載した内容を添付した意見書を提出し、審判でも少年が考えたことについて質問をして説明してもらいました。

結果としては保護観察処分となりました。

3 さいごに

初めは、男女トラブルが発展した比較的単純な?傷害事件であると思われました。しかし、実際には、少年の仲間内の歪んだルール(実際にはトラブルを金銭的に解決するという単純なものではなかった)や、それを悪用する者との関係等の問題が背景にあった事件でした(法律記録を見て、念書を書かせるまでの経緯などを確認すると、被害者の母が述べていたことが十分に理解できました。)。

ただ、少年は、何に問題があったのかということについて十分に考えてくれたと思います。

事件終了後、少年が事務所に来てくれ、仕事を頑張って社長に恩返しします等と言ってる姿を見て安心するとともにとても嬉しく思いました。

武 寛兼

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