1 はじめに
2017年7月15日(土)と8月6日(日)の両日にわたり、福岡県弁護士会主催(九弁連・日弁連共催)のシンポジウム「高校生向け企画(主権者教育)やってみよう『模擬国会~死刑廃止法案は可決か否決か?~』」が開催されました。
この企画は、2013年から始まった九弁連「死刑廃止を考える」連続シンポジウムの一環ですが、今回の企画は高校生向けの主権者教育を通じて「死刑制度問題」を考えてもらうという実験的な試みでもありました。
同じような企画は日弁連の第59回人権擁護大会(福井大会)の分科会でも行われていますが、この福井大会では高校の協力の下で事前準備(死刑制度に関する調査・検討)をした高校生が討論の後に採決をしました(結果は死刑廃止が多数)。
これに対し、今回の福岡シンポでは、事前配布資料は法務省のHPに掲載されている「死刑の在り方についての勉強会」のまとめの資料の一部を配布したのみで、その他の事前準備(高校による死刑制度に関する調査・検討)はできていません。
さて、死刑廃止法案は可決されたのか、否決されたのか?
2 プレシンポジウム(7月15日)
当会会員全員に、当シンポジウムのパンフレットを配布し、また会員向けメーリングリスト(allfben)にも告知していましたので、会員の皆様方には、今回のシンポジウムが(1)出前授業・(2)プレシンポジウム・(3)模擬国会の3部構成になっていたことをご存知かと思います。
しかし、残念ながら、(1)出前授業・(2)プレシンポジウム・(3)模擬国会の全てに参加した高校生は0(ゼロ)、(2)プレシンポジウムに参加した高校生は14名、(3)模擬国会に参加した高校生は33名と、当初の予定を大きく下回る参加状況でした。
プレシンポジウム(7月15日)は、参加高校生は14名ではあったものの、当会の春田弁護士によるワークショップや講師との質疑応答において活発な発言が行われ、その人数の少なさを感じさせない熱気を発してくれました。
この日のカリキュラムでは、第一東京弁護士会所属の本江威憙弁護士(元最高検公判部長)から死刑存置の理由(被害者遺族の処罰感情、それに応えることで国民の法治国家への信頼を得ること、及び、正義に適うことなど)を、笹倉香奈甲南大学法学部教授から死刑廃止の理由(死刑存廃は国際的な問題であること、アメリカの動向を踏まえた死刑廃止への必然性、死刑廃止国は被害者・遺族へのサポートも充実していることなど)を、そして、蓮見二郎九州大学大学院准教授からシティズンシップ教育について(単なる数の論理ではなく、また形式的なディベートでもなく、十分な議論を行うことが重要であること、熟議的民主主義を目指すべきことなど)の講義が行なわれました。
各々の講師の持ち時間は30分以下と短かったものの、その内容は非常に示唆的で内容の深いものでしたので、反訳ができましたら月報で報告をさせていただきます。
3 模擬国会(8月6日)
参加高校生は33名で、この内でプレシンポジウムに参加した高校生は13名でした。事前配布資料が法務省HP「死刑の在り方についての勉強会」の一部(http://www.moj.go.jp/keiji1/keiji02_00005.html)しかなく、各高校での事前準備(調査・検討)もなかったため、半数以上の参加高校生は、この日に初めて議論を行うことになりました。
十分な情報や考察が無い中で議論を行うという状況(ぶっつけ本番?)は、ある意味で多くの一般市民が死刑制度問題を考える状況と似ており、このような状況において高校生がどのような議論に流れるのかは興味深かったです。
なお、この模擬国会では、当日、参加高校生が事前に死刑存廃について考えていたこと(廃止「可決」か存置「否決」か)とは関係なく、くじ引きで一方的に廃止「可決」組と存置「否決」組に振り分けて議論をしてもらう仕組みにしました。
そのため、参加高校生の中には、事前に考えていた意見・理由とは逆の意見・理由について考えなければならないという負荷が掛かっていました。
このように、事前の情報が不十分だけでなく、当日に違う意見の理由付けを考えなければならないなど大変だったと思います。しかし、予想以上に参加高校生の議論は活発に繰り広げられ、頼もしさすら感じました。
白熱した議論でしたが、やはり情報が法務省HPに限定されていたため、またプレシンポジウムの笹倉教授の内容を聞いて理解できた高校生が少なかったため、議論の争点が「被害者遺族の心情」「犯罪抑止」に集中し、その他として「誤判冤罪」「国際的潮流」「死刑執行に携わる者(刑務官)の負担」が出てくる程度でした。
弁護士を含む多くの市民も同じかと思いますので、参加高校生は短い時間の中でとても良く考え抜いたと思います。
なお、採決の結果は、賛成(廃止)が12票、反対(存置)が21票で、死刑廃止法案は否決されました。