平成一五年五月三〇日、弁護士会館2階クレオにて、「すべての少年に付添人を!」−幅広い公的付添人制度実現のために−と題して、日弁連、東京三会及び法律扶助協会の共同主催による公的付添人制度実現を目指すシンポジウムが開催されましたのでご報告いたします。
シンポジウムでは、前半に東京での現在の付添人制度の実情及びケース報告が行われ、後半に少年事件に異なる立場から関わる四人のパネリストによるパネルディスカッションが行われました。
一 付添人制度の現状及びケース報告
まず、日弁連副会長高階貞男氏による開会の辞に続き、第二東京弁護士会の樫尾わかな弁護士が現在の付添人選任状況について報告されました。
東京家庭裁判所管内における付添人の選任状況について、観護措置決定件数総数に対する付添人選任件数の割合は平成一〇年では二三パーセントであったのに対し平成一三年には三一パーセントであり上昇傾向にはあります。しかし、計算の対象となる付添人選任件数については観護措置がとられていない場合も含んでおり観護措置決定された少年に対する付添人選任割合としてはさらに低くなるとの報告でした。
次に、法律扶助協会の専務理事である藤井範弘弁護士から付添扶助の現状について報告がありました。
付添扶助は全国五〇支部によって格差があり付添扶助が全くないという支部もあるものの、全体としては平成一三年における援助決定は二四二九件で前年度比にして四〇.七パーセント増という驚異的な数字であるとのことです。
しかし、現在の段階でも財源が限界にきておりそのために援助要件の変更を余儀なくされつつあるという問題点が指摘され、早急に公的付添人制度を実現する必要性を訴えていました。
続いて、日弁連子どもの権利委員会副委員長である羽倉佐和子弁護士から現在の公的弁護制度検討会における法曹三者の意見について報告がされました。
平成一五年二月二八日の第七回公的弁護制度検討会における法曹三者の意見についてはメールマガジン等を通じてご存知の方も多いかと思われますが要約してご説明いたします。
日弁連:公的付添人制度を実現すべきである。
最高裁事務総局:要保護性が問題となる事件については調査官がいるので付添人制度の必要性はさらに検討すべきである。他方事実認定が問題となる事件は適正な事実認定という観点から検察官関与と併せて公的付添人制度を検討すべきである。
法務省刑事局:事実認定の適正化という観点からは検察官関与のない公的付添人制度は考えにくくかつ被害者の納得も得られない。要保護性の適切な認定のためには調査官が存在する。公的付添人制度の導入については真に必要性があるか十分に検討すべきである。
その後、東京弁護士会の川村百合弁護士の司会により四名の弁護士の付添人のケース報告がなされました。
ケース報告では、非行事実に争いがなくても付添人活動により認定落ちをさせた事案や身柄解放に向けて付添人が活動した事案が報告され、川村弁護士は成人の刑事事件の九〇パーセントが自白事件であることと比較しても事実認定に争いがない少年事件についても付添人の必要性があることは明らかであると話されていました。また、要保護性のみが問題となっていても親からの虐待について調査官には話せず付添人との信頼関係のなかでようやく打ち明けたという事案、付添人が被害者との交渉や審判後にも少年の環境調整を行ったという事案などが生き生きと報告されており、まさに東京版「非行少年と弁護士たちの挑戦」といった内容で非常に勉強になりました。
二 パネルディスカッション
ここで休憩をはさんだ後、日弁連子どもの権利委員会委員の坪井節子弁護士のコーディネートにより、4人のパネリストによるパネルディスカッションが行われました。
まず学者としての立場から九州大学大学院法学研究院助教授の武内謙治氏より、付添人選任率の現状は五パーセントであり成人とくらべると異常に低いこと、また少年審判に主体的に少年が参加できるようにするためにまた適正手続の観点から付添人制度は必要であり少年には経済力がないことから公的制度が必要であるとの理論付けをされていました。
次に、元家庭裁判所調査官である寺尾絢彦氏より要保護性が問題となる事案では調査官がいるから付添人は不要であるとの意見に対して調査官はあくまで少年の処分を決定する裁判所の立場であること、また成年後見制度や少年法の改正により調査官の職域が広がっているので従来の調査官としての仕事が十分にできにくくなっている状況にあるという指摘がありました。
また、少年の親の立場から「非行」と向き合う親たちの会世話人である菊池明氏より付添人弁護士が子どもとの架け橋になってくれた体験を紹介され法律的な専門的知識をもった付添人の必要性と親の経済的状況により付添人を依頼できない状況にある親も多くいることから公的制度による付添人の制度を実現していくことが必要性があることを訴えていました。
そして、元裁判官でもあり現役の弁護士としての立場から大谷辰雄弁護士が、坪井弁護士から「私たちの希望の星です!」と紹介され話をされました。大谷弁護士は裁判官と付添人の両方の経験をふまえて裁判官は少年の処分を決める側の人間であり付添人は少年の更生を考える立場にあり全く異なる立場にあること、そして福岡での全件付添人制度の取り組みを紹介されていました。福岡では成人には国選弁護人制度があるのになぜ少年事件にはないのかという素朴な疑問から制度の発足にいたったこと、現在の福岡での取組みは公的付添人制度発足に向けて弁護士の対応能力の基礎をつくっておくためという意味合いもあったこと、制度の発足にあたって会員に対し3年後には公的制度ができるはずであるのでそれまで負担をお願いしたので公的制度を実現しなければ「私は約束を破ったことになります!」と鬼気迫る勢いで訴えていました。
その後会場との質疑応答が行われ、最後に日弁連子どもの権利委員会委員長の山田由紀子氏より、少年が納得して処分を受け入れる体制を作るべきでありそのために付添人弁護士が果たす役割は非常に重要である、しかし費用的な限界があることから公的付添人制度を早急に実現すべきであり、公費投入することについて国民の理解が得られるようさらに活動を続けていきましょうとの総括がなされ満場一致の拍手の中で閉会しました。
当日は、約二〇〇人の参加者が集まり、全国各地から弁護士も集まっており、また会場では特に学生、少年の親や教育関係者などの一般の方の参加が目立ち、シンポジウム後は「非行少年と弁護士たちの挑戦」も四〇冊完売しました。
パネルディスカッションの中で特に印象的だったのは、調査官の寺尾氏と少年事件を親として経験した菊池氏のお話でした。元調査官の寺尾氏が調査官が存在するからという理由で付添人不要論に対して調査官の事情としても付添人は必要であり少年の更生のためには調査官と付添人が情報交換をして協力していくべきであるという話をされ、また少年の親の立場から菊池氏が非行に走った少年の親の苦悩する心情を非常に生々しく語っており親の立場からしても「専門知識をもった」付添人弁護士は必要であると話されていました。検討委員会の意見でも公的付添人制度に対する厳しい反対意見が出されていますが、このお二人のお話は非常に心強いものでした。この日と前後して東京でも全件付添人制度の導入の検討に入ったということで、全国にもこの日の熱気が伝えられたことと思います。