イベント報告

2002年7月15日開催ADRの可能性について ~レビン小林久子氏をお招きして~ご報告

さる7月15日、福岡県弁護士会館にレビン小林久子氏をお招きし、ADRについての講演を行って頂きました。

レビン氏は、群馬県のご出身で、ニューヨーク大学院、ロングアイランド大学院をご卒業後、ニューヨーク州立ブルックリン調停センターにおいてボランティアとして調停活動に携わられた後、九州大学大学院法学研究院助教授の職に就いておられます。また、全国各地の弁護士会が設立しております仲裁センターの設立や運営等に重要な役割を果たしてこられ、特に岡山県弁護士会が行っている同席調停の指導者としても著名な方です。

当日は、台風の影響があったにもかかわらず、約40名の会員の方々に参加して頂いたうえ、講演終了後の熱心な質疑応答で大幅に終了時間が遅れるなど、司法改革の一つの柱とされているADRに対する会員の関心の高さが窺われました。

レビン氏の講演の内容を正確に紹介することは、筆者の能力を超えておりますので、その概要をご報告させて頂きます。

1 アメリカの紛争観

1920年代、紛争とは何かという問題提起に対し、ホールディングが、紛争や当事者の定義付けを行い、その後、フォン・ノイマンやジョン・ナッシュという経済学者らによって「ゲーム理論」(人は、ミニマムな出費によってマキシマムな結果を得ようとする)が提唱された。その後、カール・リーインやモートン・ドイシェという社会心理学者らによってフレイミング効果という考え方が提唱された。それは、紛争の過程においては、競争的部分だけではなく、協調的部分も存在するのであるから、紛争当事者が、紛争の最初に遡って経過を辿りながら、主体的に話し合いを行うことによって紛争解決の方法を見いだしていくというものであり、現在のアメリカの調停の理論的基礎となっている。

2 アメリカにおける裁判外紛争解決処理方法(ADR)の種類

アメリカにおけるADRとしては、仲裁、略式陪審審理(サマリー・ジューリー・トライアル)、ミニ・トライアル、オンブズマン、ファクト・ファインディング、早期中立評価、調停、交渉等がある。

当事者に対する拘束力については、仲裁が最も強く、以下、右に記載した順に拘束力が弱くなる。当事者の手続に対するコントロールについては、交渉が最も強く、以下、右に記載した順序とは逆に、仲裁が最も弱くなっている。ADRは協議の裁判に取って替わるものとしてではなく、紛争に応じた解決策としてとらえられている。

3 アメリカの調停

アメリカの調停センターが行っている調停は、ウイン−ウイン・リゾルーションという呼び方に具現されるように、紛争当事者が双方とも満足するような解決策を得ることを目的としている。

調停委員は、28時間の講義を受けたのちシニアの調停委員の下で10時間の訓練を受け、ソロでの実地試験をパスした者のみが資格を取得できる。

調停センターが行う調停はボランティアであり、調停委員の資格を取得した後も、年間最低6時間の講義と、調停の視察を受けなければならない。

調停の目的は、紛争を解決することではなく、当事者の紛争解決へ向けての話し合いによる関係修復が目的であり、紛争解決に向けたプロセスが重要である。そのため、同席調停が基本であり(刑事事件の加害者と被害者についても同席調停が行われているとのことである)、調停委員が当事者から個別に事情を聴くことがあるとしても極めて短時間である。調停委員は、当事者の話し合いがうまくいくようにコントロールするのであって、自らの意見を当事者に押しつけたりするようなことは絶対にない。

調停では、当事者が本音で話し合えるよう、調停の中で話し合われたことについては、調停委員に守秘義務が課されている。従って、たとえ調停委員が法廷に証人として呼ばれたとしても、調停委員は調停の内容について証言を拒否することができるし、証言することもない。また、裁判所から調停センターに送られてきたケースにおいても、調停の結果(成立したか否か)のみを報告すれば足り、調停の経過等についての報告義務は課せられていない。

他方、調停の結果合意が成立したとしても、あくまでも、私的な合意であり、日本の調停調書のような法的な執行力が付与されることはない。

4 まとめ

レビン氏の講演は、この他にもインターネット上の紛争解決機関である「クリックンセトル」や「オンライン紛争解決手続き・ODR」等多岐にわたっておりましたが、紙面の関係上割愛させて頂きます(アメリカ法はもちろんのこと、コンピューターも横文字も苦手な私にとっては、講演の内容を正確にお伝えできないというのが本音です。申し訳ありません。)

レビン氏の話を聞いて、アメリカの調停制度と日本の調停制度とは全く別のものであると判りましたし、紛争解決機関のあり方についても大変勉強になりました。

これまで弁護士として紛争解決の仕事に携わってきましたが、依頼者の紛争解決にあたっては、相手方と交渉を行い、交渉がまとまらなければ調停や訴訟で解決目指すという方法をとってきましたし、その結果、当事者間の関係が悪化するとしても、それは仕方のないことであると思っておりました。

ただ、当事者間の紛争解決といっても、紛争の解決を最終目的とするのではなく、紛争解決へ向けて、当事者が話し合いを行い、お互いの関係の修復を目指すというのも、極めて重要な紛争解決方法であると思いました。

紛争後も接触を余儀なくされる、家族や隣人あるいは職場での紛争においては、白黒つけることを目的とした解決機関ではなく、アメリカの調停制度のような関係修復を目的とした解決機関を利用できれば、結果的に妥当な解決に向かうのではないかと思いました。

現在、当委員会では、紛争解決センターの設立に向けて、岡山県弁護士会が実施しております同席調停を行うか否か等様々な検討を行っておりますが、単に裁判所の調停の機能不全を補完するものとしてではなく、独自の存在意義のあるものとして設立できればとの思いを新たに致しました。

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