福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

声明

2013年5月10日

「共通番号法」制定に反対する声明

「共通番号法」制定に反対する声明

 今国会において、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」案(いわゆる「共通番号法」案。以下、「本法案」という。)が提出され、昨日衆議院で可決された。
 本法案は、全ての国民と外国人住民に対して、社会保障と税の分野で共通に利用する識別番号を付けて、これらの分野の個人データ(納税情報、健康保険情報、年金情報等)を、情報提供ネットワークシステムを通じて確実に名寄せ・統合(データマッチング)することを可能にする制度(社会保障・税共通番号制度)を創設しようとするものである。
 共通番号が用いられる行政分野(年金、労働保険、健康保険、生活保護、介護保険、税務等)の情報は、私生活全般に及び、その中には、障害、病気、貧困、無資力などの極めてセンシティブな情報も含まれている。
 共通番号制度により、これらの情報が名寄せ・統合されると、収集・蓄積された個人の情報が次々と番号で特定され、連結されていくことで、その人物の行動全般を把握し、分析することが可能となり、プライバシー権を侵害するもので、国家による国民監視の道具として利用されるおそれがある。
昨年廃案となった同名の旧法案に対し、2012年(平成24年)8月7日に当会は反対する会長声明を表明したが、上記問題点は、本法案にそのまま引き継がれている。
本法案は、旧法案における危険性をさらに増大させており、到底容認できない。
 すなわち、「番号の利用に関する施策の推進」を基本理念として掲げ(3条2項ないし4項)、法律の施行後3年を目途として番号の利用拡大を検討する(附則6条1項)など、官民を通じて、社会保障や税にとどまらない番号の利用拡大を強く指向しており、プライバシー侵害の危険は著しく大きい。個人の収入・資産情報が漏えいしたり、アメリカで1年あたり1兆円以上といわれるなりすまし犯罪による財産的損害が我が国でも増大するおそれも大きい。
そもそも共通番号制度は、手段にすぎず、実体法である税法や社会福祉立法がない限り、公平な税制や充実した福祉が実現しないことは以前から政府も認めてきた。しかも、旧法案で採用するとされていた給付付き税額控除制度は、現政権は採用しない方針であり、共通番号の必要性はますます乏しくなっている。
 本法案は、立法目的として、法1条で、行政効率化や利便性の向上を掲げながら、2000億円もの導入コストによって得られる効果について、何らの説明も行っていない。住基ネット導入に際しては、試算が示されたが実現せず、巨額な税金の無駄遣いに終わったばかりであるにもかかわらず、このまま導入を急ぐ必要性は全く示されていない。
従って、当会は、従前から表明しているとおり、国家による国民監視のシステムにつながる本法案に反対し、参議院において否決され、廃案とされることを求める。


              2013年(平成25年)5月10日
               福岡県弁護士会会長 橋 本 千 尋

2013年4月26日

死刑執行に関する会長声明


死刑執行に関する会長声明


1 本日,東京拘置所において,2名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
  本年2月21日に3名の死刑執行がなされたばかりであり,わずか2ヶ月後に死刑執行が強行されたことになる。
2 我が国では,過去において,4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)について再審無罪が確定している。また,2010年(平成22年)3月には足利事件について,2011年(平成23年)5月には布川事件について,いずれも無期懲役刑が確定した受刑者に対する再審無罪判決が言い渡されている。これらの過去の実例が示すとおり,死刑判決を含む重大事件において誤判の可能性が存在することは客観的な事実である。
  そして,今回死刑執行されたいずれの死刑確定者も上告審まで事実誤認及び量刑不当を理由に争い,うち1名は2009年(平成21年)6月に,もう1名は2011年(平成23年)12月にそれぞれ死刑確定しているが,死刑確定から短期間で死刑執行している点も冤罪・誤判の観点から極めて問題があると言わざるを得ない。
3 しかも,我が国の死刑確定者は,国際人権(自由権)規約,国連決議に違反した状態におかれているというべきであり,特に,過酷な面会・通信の制限は,死刑確定者の再審請求,恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなっている。この間,2007年(平成19年),刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが,未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど,死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難く,このような状況の下で死刑が執行されることには大きな問題があるといわなければならない。
4 日本弁護士連合会は,本年2月12日,谷垣法務大臣に対し,「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行を停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を直ちに講じることを求める要望書」を提出して,死刑制度に関する当面の検討課題について国民的議論を行うための有識者会議を設置し,死刑制度とその運用に関する情報を広く公開し,死刑制度に関する世界の情勢について調査のうえ,調査結果と議論に基づき,今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと,そのような議論が尽くされるまでの間,死刑の執行を停止することを改めて求めたところであった。
  この要請の直後である本年2月21日に死刑執行がなされた際も,日弁連及び当会は,死刑執行に強く抗議するとともに,一切の死刑執行を停止するよう求めていたのであり,この要請を再度無視した今回の執行は到底容認できない。
5 当会としては改めて政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに,今後,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ,それに基づいた施策が実施されるまで,一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。

                    2013年(平成25年)4月26日
                    福岡県弁護士会会長 橋 本 千 尋

2013年3月 4日

公契約法及び公契約条例の制定を求める会長声明


公契約法及び公契約条例の制定を求める会長声明


                                平成25年3月4日
                    福岡県弁護士会会長 古 賀 和 孝

第1 声明の趣旨
当会は,福岡県内の各地方自治体に対し,公契約により民間の企業や団体が受注した業務に従事する労働者の労働条件の適性を確保することを目的とする条例(公契約条例)を制定すること,ならびに国に対し,これら趣旨を踏まえた法律(公契約法)を制定し,公契約条例の制定へ向け,各地方自治体を支援することを求める。
第2 意見の理由
1 公契約をめぐる労働者がおかれた状況
(1)公契約とは,国や地方自治体が行政目的を達成するために,公共工事の発注や様々な事業(サービス,物の調達等)を民間企業などに発注・委託する契約をいうところ,近年,行政改革ならびに規制緩和の下,あらゆる部門にわたって民間委託・発注等が増加しており,そのため,実に広範囲の事業を対象とするようになってきている。
一方,公契約は,談合等を防止する必要から,多くの場合,受注先企業や団体が競争入札等で決定されており,最近の不況ならびに国および地方自治体の財政難の下,効率化やコストダウンが強く求められ,とりわけ地方自治体における発注工事では,競争入札参加企業が激増し,低コスト競争が激しさを増している。
(2)このような公契約は,受注先企業・団体のみならず,その傘下に多くの下請・孫請の企業が連なる重層下請構造となっているケースが多く,こうした重層下請構造の中で,低コスト競争は,公契約に従事する労働者の労働条件の悪化を招いている。すなわち,元請・下請・孫請という重層構造の中で,下請や孫請は受注価格が削減され,その受注企業の経営を圧迫し,その業務に直接従事する労働者に低賃金が押しつけられる状況にある。とりわけ,末端労働者の一人あたり労務単価が当該地域の最低賃金を下回る事態が出現したり,末端労働者に賃金が支払われないまま,受注企業が経営破綻を引き起こして,賃金支払が不能となるなどの事例も指摘されている。
2 公契約法・公契約条例制定の意義
(1)国及び地方自治体は,法治主義の下,労働基準法等の法令の遵守が求められることはいうまでもないが,それにとどまらず,貧困を撲滅し,生存権を擁護するという憲法上の責務を担っているというべきである。
そのため,公契約実施にあたっては,当該事業に従事する労働者の労働条件が労働基準法等の法令に適合することはもちろん,公契約に従事する労働者の労働条件の適正を確保し,ひいては生存権を擁護しなければならないというべきである。
(2)また,公契約に従事する労働者の労働条件は,今や国民生活のあらゆる部面に広がっていることから,その基準が民間一般の労働条件にも広く影響する状況となっており,そのため公契約に従事する労働者の労働条件が劣悪であることは,民間一般の労働条件の基準を引き下げてしまう効果を押し及ぼすことにもつながっている。今や「官製ワーキングプア」とも呼ばれる,こうした状況を一刻も早く是正することが求められている。
(3)「官製ワーキングプア」を是正していくとりくみとして,入札にあたって最低制限価格を設定するとりくみもすでに行われているところもあるが,前述した重層下請構造の中では,元請の利益確保のために,下請や孫請は受注価格が削減され,実際に現場で業務に従事している労働者に低賃金が押しつけられるという問題を解決するには,最低制限価格を設定するだけでは足りず,そのため,公契約法や公契約条例によって,直接受注企業(元請)の責任を明確にすることが求められているといわなければならない。
3 公契約法・公契約条例の現状
(1)すでにわが国でも,千葉県野田市が平成21年9月に公契約条例を全会一致で成立させたことに始まり,神奈川県川崎市,東京都多摩市,神奈川県相模原市などが,相次いで公契約条例を制定しているところである。
特に,千葉県野田市では公契約条例施行後,清掃委託業務に従事した労働者の賃金が1時間あたり101円上昇するといった効果が報告されるなど,確実にその地域の労働者の賃金水準の引き上げに寄与している。
(2)ILO94号「公契約における労働条項に関する条約」は,入札する企業間で人件費が競争の材料にされている現状を一掃するため,すべての入札者に最低基準を守ることを義務づけ,公契約によって,賃金や労働条件に下方圧力がかかることのないよう,公契約に基準条項を確実に盛り込ませることを目的としている。
わが国は当該条約に批准していないものの,すでに世界中で60カ国を超える国々が批准しており,フランス,アメリカ,イギリス,ドイツなどでは,国レベルでの公契約規整を行っている。
4 まとめ
当会では,昨年10月より,県下19箇所で開設している法律相談センターに寄せられる労働者側の労働相談を全件無料化するとりくみを始めた。
当該とりくみを始めて,当会に寄せられる毎月の労働相談件数が3倍にも上る状況となっているが,このことは,いかに労働者が困難な状況に置かれているかを示すものである。
公契約に従事する労働者の現状は,上記に見たとおり,生存権を侵害された状況にあることから,当会は,ここに公契約法及び公契約条例の制定を求めるものである。

                                         以上

2013年2月21日

死刑執行に関する会長声明


死刑執行に関する会長声明


1 本日,東京,名古屋及び大阪の各拘置所において,それぞれ1名の死刑確定者に対する死刑が執行された。
  自民党政権の復活後初めて,かつ,3名もの死刑確定者に対する執行という極めて遺憾な事態である。
2 我が国では,過去,4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)について再審無罪が確定している。また,2010年(平成22年)3月には足利事件について,2011年(平成23年)5月には布川事件について,いずれも無期懲役刑が確定した受刑者に対する再審無罪判決が言い渡されている。これらの実例が示すとおり,死刑判決を含む重大事件にも誤判の可能性が存在することは客観的な事実である。
3 日本弁護士連合会は,本年2月12日,谷垣法務大臣に対し,「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し,死刑の執行を停止するとともに,死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要望書」を提出して,死刑制度に関する当面の検討課題について国民的議論を行うための有識者会議を設置し,死刑制度とその運用に関する情報を広く公開し,死刑制度に関する世界の情勢について調査のうえ,調査結果と議論に基づき,今後の死刑制度の在り方について結論を出すこと,そのような議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止すること等を求めていた。その直後,この要請を無視してなされた死刑執行は,到底容認することができない。
4 死刑の廃止は国際的な趨勢であり,昨年12月20日には,国連総会において,全ての死刑存続国に対し,死刑廃止を視野に執行を停止するよう求める決議が,過去最多の111か国の賛成多数で採択された。こうした状況において,死刑制度を存置し,かつ死刑の執行を繰り返す日本の姿勢は際立っており,日本政府は,国連関係機関からも繰り返し,死刑の執行を停止し,死刑制度の廃止に向けた措置をとるよう勧告を受けてきた。昨年10月31日に実施された国連人権理事会作業部会による日本の人権状況に対する第2回目の普遍的定期審査(UPR)においても,24カ国もの国が,日本の死刑制度及びその運用の変更を求めて勧告を行っており,これは,日本が抱える最大の人権問題の一つが,死刑であることを顕著に示している。
  しかも,今回執行された3名のうち,2名は,自ら控訴を取り下げたことにより死刑が確定しており,国連条約期間等から繰り返し求められている必要的上訴の要請を充たしていない。また,他の1名は,第一審の無期懲役刑判決が検察官の控訴によって覆されており,審理に携わった職業裁判官の間でも量刑判断が分かれた事案である。谷垣法務大臣は,死刑制度の運用に当たっては,「十分慎重に考える」旨表明してきたが,就任してから僅か2か月足らずで,はたして真に慎重な検討がなされたか否か,大いに疑問である。
5 当会は,改めて政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに,今後,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ,それに基づいた施策が実施されるまで,一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。


                         2013年(平成25年)2月21日
                     福岡県弁護士会会長 古 賀 和 孝

2012年11月 9日

投票価値の較差是正を求める会長声明

 2012年10月17日、最高裁判所大法廷は、2009年8月30日施行の衆議院議員総選挙に続き、2010年7月11日施行の参議院議員通常選挙においても、各選挙区間で最大5倍の投票価値の較差が生じたことについて、「投票価値の不均衡は、投票価値の平等の重要性に照らしてもはや看過し得ない程度に達しており、これを正当化すべき特別の理由も見いだせない以上、違憲の問題が生じる程度の著しい不平等状態に至っていたというほかはない」との判決を言い渡した。
そして、衆議院と参議院の権限及び議員の任期等における差異は、それぞれの議院に特色のある機能を発揮させることによって、国会を公正かつ効果的に国民を代表する機関たらしめようとするところにあるのであるから、参議院議員の選挙であること自体から直ちに投票価値の平等の要請が後退してよいと解すべき理由は見いだし難いとした上で、現行の仕組みに依拠する結果、その間の人口較差に起因して投票価値の大きな不平等状態が長期にわたって継続していると認められる状況の下では、上記仕組み自体を見直す必要があるとして、違憲の宣言にとどまらず、より積極的に現行の選挙制度の仕組み自体の見直しをも要請している。
そもそも、投票価値の平等、即ち議員の選出における各選挙人の投票の有する影響力の平等は、憲法上の要請であり(憲法14条1項、44条)、
「国権の最高機関」(憲法41条)たる国会に国民の意思を的確に反映するための重要な条件であって、議会制民主主義、ひいては国民主権を支える要である。
 一連の最高裁判所判決は、遅々として進まない投票価値の較差是正をめぐる選挙区割にメスを入れたといってよい。
 特に、田原睦夫裁判官の反対意見において指摘されているように、福岡県は議員一人あたりの選挙人数の較差が4倍を超える5選挙区のうちのひとつである。当会にとって、今回の最高裁判所判決は他県にも増して意義深いものである。
当会は、今回の最高裁判所判決を重く受け止め、国会に対し、速やかに公職選挙法等関連法を改正し、衆議院議員総選挙のみならず参議院議員通常選挙における投票価値の較差を是正するための措置をとることを強く求めるものである。

    
                      2012年(平成24年)11月 9日                                                    
                     福岡県弁護士会会長  古賀和孝   

遠隔操作による脅迫メール事件等の取調べについての会長声明

 
 ウェブサイト上やメールで犯罪の予告をしたとして、福岡市在住の男性1人を含む男性4人(うち少年1人)が威力業務妨害や脅迫等の被疑事実で逮捕された。内1人は起訴され、1人は少年審判を受けていた一連の事件について、真犯人を名乗る者からパソコンを遠隔操作するなどして実行した旨の犯行声明メールが送られたことを受け、捜査機関は、当該男性4人の逮捕は誤認に基づくものであったことを認め、不起訴処分や起訴取り消し等の処分を講ずるとともに、男性らに対して誤認逮捕について謝罪した。
 これらの事件で看過されてはならないのは、福岡市在住の男性及び少年1人についての虚偽の自白を内容に含む供述調書が作成されていることである。無実の人間が虚偽の自白あるいは自白調書への署名捺印を強いられ、さらには、供述調書にありもしない「犯行動機」まで書かれているとのことである。同時期に複数の無実の市民が虚偽自白を強いられた事実により、改めて、捜査機関が自白採取に重きを置く捜査方法を採用していることが明らかとなった。本件において取調べを含む捜査手続に様々な問題があったと考えざるを得ず、現時点で以下の2点につき指摘を行うものである。


 まず1点目は、いわゆる人質司法の問題である。
 本件では男性4人とも逮捕・勾留されている。そして、審判で保護処分がなされていた少年1人を除き、ウイルス感染していたことが判明するまで勾留が続き、福岡市在住の男性に至っては、他の2人の男性が釈放された日である2012年9月21日に再逮捕され、その後再勾留もされた。
 ウェブサイト上やメールでの犯罪の予告であれば、その証拠はサーバーやパソコン自体に残っているのであるから、本来であればパソコンを押収するなどすれば証拠隠滅を避けることができるし、威力業務妨害罪や脅迫罪の法定刑を考えれば逃亡のおそれが高いわけでもない。
 その意味では、本件はそもそも勾留の要件を満たしていたかどうか自体にも疑問のある事案であるが、自白をしなければ自分自身あるいは同居人が逮捕・勾留されてしまう、あるいは勾留期間が長くなってしまうというような状況は、虚偽自白を生み出してしまう要因となり得るのであり、そのことを踏まえ検察官による慎重な勾留請求と、裁判官による慎重な勾留決定の判断が求められる。
 しかるに、安易に勾留を認めたが故に、身柄拘束を受け虚偽自白に至った経緯があり、ここに虚偽自白を防止するため人質司法を早急に改める必要がある。


 
 2点目は取調べの全過程の録画・録音の必要性である。
 本件では、具体的に取調べにどのような問題があったか必ずしも明らかとはなっていないが、取調べの全過程を録画・録音すれば、虚偽自白に至るまでの取調べでのやりとりが明らかとなるのであり、そのことにより、違法な取調べを防止できるのみならず、虚偽自白を防ぐための取調べ手法に関する検証も可能となる。
 また、取調べの全過程を録画・録音すれば、虚偽自白を始めた後の具体的な供述内容や供述経過が明らかとなるところ、実際にはやっていないことを自白しようとする場合、どうしてもその供述には客観的事実や状況に矛盾する内容が含まれるはずであり、供述内容や供述経過を仔細に検討することにより、真実の自白であるのか虚偽自白であるのかを検察官や裁判官が判断することも可能となる。
 その意味でも、当会がこれまで繰り返し求めてきている取調べの可視化(取調べの全過程の録画・録音)は極めて重要なのであり、在宅事件も含め、一度でも被疑者が否認した事件や弁護人が録画・録音を求めた事件については、取調べの全過程を録画・録音がなされるべきである。


 
 以上、人質司法の問題も取調べの可視化の問題も、当会において繰り返し指摘してきた問題ではある。しかしながら、本件の発覚により、現在に至ってもなお、歴然として虚偽自白やえん罪が起こり続けていることが明確となったことを機に、改めて①逮捕・勾留について刑事訴訟法が定める要件に基づいた慎重な運用、ならびに②否認事件及び弁護人が録画・録音を求めた全ての事件について、直ちに取調べの全過程を録画・録音するよう求めるものである。


                     2012(平成24)年11月9日
                          福岡県弁護士会    
                          会長  古 賀 和 孝

生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明

政府は、本年8月17日、「平成25年度予算の概算要求組替え基準について」を閣議決定した。そこでは、社会保障分野についても生活保護の見直しをはじめとして最大限の効率化を図るとの方針が強調されている。また、厚生労働省が公表した平成25年度予算概算要求の主要事項では、生活保護基準の検証・見直しを予算編成過程で検討するとされている。そして、本年10月5日、厚生労働省は、社会保障審議会生活保護基準部会において、第1・十分位(全世帯を所得階級に10等分したうち下から1番目の所得が一番低い層の世帯)の消費水準と現行の生活扶助基準額とを比較するという検証方針を提案した。
これらの事実から、本年末にかけての来年度予算編成過程において、厚生労働大臣が、生活保護基準の引き下げを行おうとすることは必至の情勢にある。
しかし、生活保護基準は、憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であって、我が国における生存権保障の水準を決する極めて重要な基準である。生活保護基準が下がれば、最低賃金の引き上げ目標額が下がり、労働者の労働条件に大きな影響が及ぶ。また、生活保護基準は、地方税の非課税基準、介護保険の保険料・利用料や障害者自立支援法による利用料の減額基準、就学援助の給付対象基準など、福祉・教育・税制などの多様な施策の適用基準にも連動している。生活保護基準の引下げは、現に生活保護を利用している人の生活レベルを低下させるだけでなく、市民生活全体に大きな影響を与えるのである。
このような生活保護基準の重要性に鑑みれば、その在り方は、上記の生活保護基準部会などにおける学術的観点からの慎重な検討を踏まえて、広く市民の意見を求めた上、生活保護利用当事者の声を十分に聴取して決されるべきである。財政の支出削減目的の「初めに引下げありき」で政治的に決せられることは、決して許されることではない。
そもそも、厚生労働省の提案する、低所得世帯の消費支出と生活保護基準の比較検証の手法には大きな問題点がある。すなわち、平成22年4月9日付けで厚生労働省が発表した推計によれば、生活保護の捕捉率(制度の利用資格のある者のうち現に利用できている者が占める割合)は2~3割程度と推測され、生活保護基準以下の生活を余儀なくされている「漏給層(制度の利用資格のある者のうち現に利用していない者)」が大量に存在する。当会の生活保護支援システムにおいても、生活保護の窓口を訪れたにもかかわらず申請が受け付けられなかったとの市民からの相談が多数寄せられている。このような現状においては、低所得世帯の支出が生活保護基準以下となるのは当然である。これを根拠に生活保護基準を引き下げることを許せば、生存権保障水準を際限なく引き下げていくことになり、合理性がないことが明らかである。
当会の会員は、多重債務問題の解決や生活保護支援をはじめとする業務の中で、日々、低所得世帯の市民の生活困窮の実態に接しているところであるが、生存権保障水準を引き下げれば、市民生活にさらに深刻な影響が及ぶことは明らかである。
よって、当会は、来年度予算編成過程において生活保護基準を引き下げることに強く反対する。


2012年(平成24年)11月 9日
                           
                              福岡県弁護士会    
                              会長 古 賀 和 孝

2012年11月 8日

司法修習生の修習資金の給費制復活を求める会長声明

 本年11月27日から,66期の司法修習が開始され,この福岡県においても,82名の司法修習生が配属される予定となっている。
 司法修習生は,「高い識見と円満な常識を養い,法律に関する理論と実務を身につけ,裁判官,検察官又は弁護士にふさわしい品位と能力を備える」ことを使命としており(司法修習生に関する規則4条),1年間の修習期間中は,その全力を修習のために用いてこれに専念すべき義務(修習専念義務)を負っている(裁判所法67条2項)。当会も,司法の担い手となる法曹の養成に全力を尽くす所存であり,66期の司法修習生に対しても充実した修習内容を提供すべく,万全の態勢でのぞむ覚悟である。
 ところで,司法修習生は,修習専念義務を尽くすために,基本的にアルバイトその他の経済的利益を得る活動を禁じられている(司法修習生に関する規則2条)。64期までの司法修習生に対しては,生活費等の必要な資金(修習資金)が国費から支給されていた(いわゆる「給費制」)。しかしながら,裁判所法等の改正により,65期の司法修習生から,修習資金を必要とする者は,最高裁判所から貸与を受けることになっている(いわゆる「貸与制」。裁判所法67条の2)。また,各司法修習生は,「生きた事件」を素材に研修を受けるべく,司法研修所長が指定した全国各地の実務修習地に配属されることになるが,その際の引越し費用,赴任旅費,通勤交通費,その他一切の費用を,自己負担しなければならない。
 当会は,65期司法修習生との座談会を実施するなどして,その実情をヒヤリングしたが,多くの司法修習生が,数百万円単位の負債を抱えることに対する不安を抱えていた。また,司法試験に合格しながらも,経済的負担のために,司法修習生となることを断念した者もいるということであった。
 ここ数年,法曹志願者が激減しているが,その背景には,法曹となるために要する経済的負担の重さがあると指摘されている。法科大学院の修了までに多額の費用を要するのみならず,司法試験合格後の修習資金も給費制から貸与制に移行したために,その経済的負担の大きさに拍車がかかっている。このような事情に相まって,弁護士の就職難という事情もあるために,法曹に対する魅力が大きく減殺されているのである。
 かかる事態は,「多様な人材を法曹界に」という司法改革の理念に逆行するものである。また,司法の担い手となる法曹の養成については,本来国が責任を持つべきであるにもかかわらず,司法修習生を全国各地に配属して1年間の専念義務を課しながら,その費用を全く支給しないという制度自体,国の責任放棄であり,不合理なものと言わざるを得ない。
 本年7月27日に可決した「裁判所法及び法科大学院の教育と司法試験等との連携に関する法律の一部を改正する法律」では,修習資金の貸与制について,「司法修習生に対する適切な経済的支援を行う観点から,法曹の養成における司法修習生の修習の位置づけを踏まえつつ,検討が行われるべき」と明記された(同法第1条)。この改正に際しての国会質疑では,将来の給費制復活も排除されていない旨の答弁がなされている。
 当会は,政府及び国会に対し,今後改めてなされる法曹養成制度の再検討において,修習資金の給費制が復活されるよう強く求めるものであり,また,司法修習生に対する公平な経済的配慮の観点から,過去にさかのぼった適切な対応を実施するよう求めるものである。
以上

2012年(平成24年)11月7日
福岡県弁護士会会長 古 賀 和 孝

2012年9月27日

死刑執行に関する会長声明


死刑執行に関する会長声明


1 本日,福岡及び仙台の各拘置所において、それぞれ1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
  本年8月3日に2名の死刑執行がなされたばかりであり、2ヶ月連続での死刑執行が強行されたことになる。
2 我が国では,過去において,4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)について再審無罪が確定している。また,2010年(平成22年)3月には足利事件について,2011年(平成23年)5月には布川事件について,いずれも無期懲役刑が確定した受刑者に対する再審無罪判決が言い渡されている。これらの過去の実例が示すとおり,死刑判決を含む重大事件において誤判の可能性が存在することは客観的な事実である。
  そして、今回死刑が執行された内、福岡拘置所の死刑確定者は、一審・控訴審では強盗殺人罪の成立を争っていたのであり、39歳という年齢や2009年(平成21年)4月の死刑確定から3年半も経っていないことを考慮すれば、冤罪・誤判の観点からも極めて問題のある死刑執行であると言わざるを得ない。
3 しかも,我が国の死刑確定者は,国際人権(自由権)規約,国連決議に違反した状態におかれているというべきであり,特に,過酷な面会・通信の制限は,死刑確定者の再審請求,恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなっている。この間,2007年(平成19年),刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが,未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど,死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難く,このような状況の下で死刑が執行されることには大きな問題があるといわなければならない。
4 日本弁護士連合会は,本年6月18日、滝実法務大臣に対し、「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し、死刑の執行を停止するとともに、死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を直ちに講じることを求める要望書」を提出して、国に対し、直ちに死刑の廃止について全社会的な議論を開始し、その議論の間、死刑の執行を停止することを改めて求めたところであった。
  そして、本年8月3日に死刑執行がなされた際も、日弁連及び当会は、死刑執行に強く抗議するとともに、一切の死刑執行を停止するよう求めていたのであり、この要請を無視した今回の執行は到底容認できない。
5 当会としては改めて政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに,今後,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ,それに基づいた施策が実施されるまで,一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。


                    2012年(平成24年)9月27日
                    福岡県弁護士会会長 古 賀 和 孝

2012年9月25日

日本国内におけるオスプレイの配備等の中止を求める会長声明

米国海兵隊は、2012年9月21日、山口県岩国市の岩国基地で垂直離着陸輸送機MV-22オスプレイの試験飛行を開始した。米国政府は、2012年10月から沖縄県宜野湾市の普天間基地にオスプレイを配備し、本格運用することを計画している。試験飛行においては福岡県沖や山口県下関市の市街地上空が飛行ルートとされ、本格運用においては、福岡県を含む全国各地を飛行ルートとすることが計画されている。
これに対し、日本国内からは、オスプレイの安全性に疑義を呈する意見が相次いでいる。沖縄県内41市町村議会の全てを始めとする地方自治体がオスプレイ配備に反対する意見書や決議案を可決し、本年9月9日に普天間基地の所在する沖縄県宜野湾市において開催された沖縄県民大会には、約10万人が参加してオスプレイ配備反対の声を上げた。
オスプレイは、開発段階から量産化後を通じ、死傷事故を含む事故を起こしてきた。最近でも、本年4月11日、モロッコにて訓練中に搭乗員2名が死亡、同年6月14日、フロリダ州にて訓練中に乗員5名が負傷(米空軍の同一機種であるCV-22)、という重大な墜落事故を起こしている。
米海兵隊は、これら墜落事故について、機体自体の要因ではなく、人的要因が大きいとしているが、そもそも人的要因の墜落事故であれば安全性に問題がないという論理自体が成り立たない。仮に人的要因による事故であるとしても、熟練されたはずの操縦者が度重なる人的要因の事故を起こすような操縦の困難な機体であるという事実は否めない。墜落事故による被害に機体自体の要因か人的要因かという差はなく、問題とすべきは現実にこれだけの頻度での事故が起きているという事実である。
日本政府は、本年9月19日に、オスプレイは「安全」である旨を宣言したが、その基となった独自調査は、米側情報を検証し、その結論を追認する内容にとどまっており、オスプレイの安全性に対する国民の疑問を払拭しうるものではない。
普天間基地は宜野湾市の市街地に位置することから、墜落事故等による重大な死傷事故の発生が懸念されており、「世界一危険な飛行場」とも言われている(普天間米軍基地爆音差止等請求控訴事件2010年7月29日福岡高裁那覇支部判決においても言及されている。)。2004年8月13日には、米軍の大型ヘリコプターCH53Dが普天間基地に隣接する沖縄国際大学敷地内に墜落するという事故が起き、軍用機の市街地墜落の危険性が杞憂とは言えないことを沖縄県民が実感させられるに至った。
周辺住民の生命・身体の安全への危険性は、沖縄に限らず、オスプレイの飛行ルート全てに通ずるものである。
他方、米本国においては、住民の反対によってオスプレイ配備計画の中断、一部撤回等が現になされている。ニューメキシコ州における低空飛行訓練計画の中断や、ハワイ州において騒音や安全性に対する地元住民の不安、考古学的資源や希少生物の生息環境への悪影響への配慮から一部撤回された例などがある。
日本においても、安全性に加え、飛行場周辺並びに低空飛行訓練ルート周辺での騒音被害や、希少生物の生息環境への悪影響が懸念されている。日本において住民の不安を無視して配備を強行してよい理由はない。
以上より、当会は、憲法が保障する平和的生存権(前文、9条、13条など)、人格権(13条)を尊重する見地から、米国政府に対し、オスプレイの飛行を即時に停止し、配備計画を撤回するよう求める。また、日本政府に対し、飛行停止及び配備計画撤回のため、米国政府と交渉することを求める。
                


                       2012年(平成24年)9月25日
                       福岡県弁護士会会長 古 賀 和 孝

前の10件 8  9  10  11  12  13  14  15  16  17  18

カテゴリー

Backnumber

最近のエントリー