福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

声明

2012年9月25日

日本国内におけるオスプレイの配備等の中止を求める会長声明

米国海兵隊は、2012年9月21日、山口県岩国市の岩国基地で垂直離着陸輸送機MV-22オスプレイの試験飛行を開始した。米国政府は、2012年10月から沖縄県宜野湾市の普天間基地にオスプレイを配備し、本格運用することを計画している。試験飛行においては福岡県沖や山口県下関市の市街地上空が飛行ルートとされ、本格運用においては、福岡県を含む全国各地を飛行ルートとすることが計画されている。
これに対し、日本国内からは、オスプレイの安全性に疑義を呈する意見が相次いでいる。沖縄県内41市町村議会の全てを始めとする地方自治体がオスプレイ配備に反対する意見書や決議案を可決し、本年9月9日に普天間基地の所在する沖縄県宜野湾市において開催された沖縄県民大会には、約10万人が参加してオスプレイ配備反対の声を上げた。
オスプレイは、開発段階から量産化後を通じ、死傷事故を含む事故を起こしてきた。最近でも、本年4月11日、モロッコにて訓練中に搭乗員2名が死亡、同年6月14日、フロリダ州にて訓練中に乗員5名が負傷(米空軍の同一機種であるCV-22)、という重大な墜落事故を起こしている。
米海兵隊は、これら墜落事故について、機体自体の要因ではなく、人的要因が大きいとしているが、そもそも人的要因の墜落事故であれば安全性に問題がないという論理自体が成り立たない。仮に人的要因による事故であるとしても、熟練されたはずの操縦者が度重なる人的要因の事故を起こすような操縦の困難な機体であるという事実は否めない。墜落事故による被害に機体自体の要因か人的要因かという差はなく、問題とすべきは現実にこれだけの頻度での事故が起きているという事実である。
日本政府は、本年9月19日に、オスプレイは「安全」である旨を宣言したが、その基となった独自調査は、米側情報を検証し、その結論を追認する内容にとどまっており、オスプレイの安全性に対する国民の疑問を払拭しうるものではない。
普天間基地は宜野湾市の市街地に位置することから、墜落事故等による重大な死傷事故の発生が懸念されており、「世界一危険な飛行場」とも言われている(普天間米軍基地爆音差止等請求控訴事件2010年7月29日福岡高裁那覇支部判決においても言及されている。)。2004年8月13日には、米軍の大型ヘリコプターCH53Dが普天間基地に隣接する沖縄国際大学敷地内に墜落するという事故が起き、軍用機の市街地墜落の危険性が杞憂とは言えないことを沖縄県民が実感させられるに至った。
周辺住民の生命・身体の安全への危険性は、沖縄に限らず、オスプレイの飛行ルート全てに通ずるものである。
他方、米本国においては、住民の反対によってオスプレイ配備計画の中断、一部撤回等が現になされている。ニューメキシコ州における低空飛行訓練計画の中断や、ハワイ州において騒音や安全性に対する地元住民の不安、考古学的資源や希少生物の生息環境への悪影響への配慮から一部撤回された例などがある。
日本においても、安全性に加え、飛行場周辺並びに低空飛行訓練ルート周辺での騒音被害や、希少生物の生息環境への悪影響が懸念されている。日本において住民の不安を無視して配備を強行してよい理由はない。
以上より、当会は、憲法が保障する平和的生存権(前文、9条、13条など)、人格権(13条)を尊重する見地から、米国政府に対し、オスプレイの飛行を即時に停止し、配備計画を撤回するよう求める。また、日本政府に対し、飛行停止及び配備計画撤回のため、米国政府と交渉することを求める。
                


                       2012年(平成24年)9月25日
                       福岡県弁護士会会長 古 賀 和 孝

2012年8月 7日

「マイナンバー法案」に反対する声明

           「マイナンバー法案」に反対する声明

 今国会において、「行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律」(略称「マイナンバー法」)案が提出され、審議がされている。
 この法案は、全ての国民と外国人住民に対して、社会保障と税の分野で共通に利用する識別番号を付けて、これらの分野の個人データ(納税情報、健康保険情報、年金情報等)を、情報ネットワークシステムを通じて確実に名寄せ・統合(データマッチング)することを可能にする制度(社会保障・税共通番号制度)を創設しようとするものである。
 共通番号が用いられる行政分野(年金、労働保険、健康保険、生活保護、介護保険、税務等)の情報は、私生活全般に及び、その中には、障害、病気、貧困、無資力などの極めてセンシティブな情報も含まれている。
 共通番号制度により、これらの情報が名寄せ・統合されると、収集・蓄積された個人の情報が次々と番号で特定され、連結されていくことで、その人物の行動全般を把握し、分析することが可能となり、プライバシー権を侵害するもので、国家による国民監視の道具として利用されるおそれがある。
 本法案では、共通番号の利用範囲については、「政令で定める公益上の必要があるとき」(17条11号)として、行政の判断で共通番号の利用範囲を無限定に拡大することができることとなっており、また、行政機関内での利用にとどまらず、金融機関などの民間分野で共通番号が広範に利用されることが予定されているため、不正アクセスや、本人になりすました犯罪が多発するおそれがある。
 国会議員会館や財務省、国内有数の企業がサイバー攻撃をうけている現在、情報漏洩のリスクは高まっているが、サイバー攻撃から完全に防御できるシステムはないため、個人の収入・資産情報が漏洩し、取り返しのつかない事態になるおそれもある。
 これらの点について、本法案は、「個人番号情報保護委員会」(31条)を設置し、同委員会に、共通番号等の適正な取扱いの確保、必要な指導、助言等を行わせることとしているが、同委員会は、委員長ほかわずか6名の組織であり、しかも委員の内3名は、非常勤であるなど(35条1項、2項)同委員会がどの程度機能するか、又、日本全国の関係機関の監視ができるのかどうかについても疑問があるし、前述のとおり情報漏洩のおそれを完全に除去することはできない。
 従って、「マイナンバー法案」の制定には強く反対する。


                   2012年(平成24年) 8月 7日
                   福岡県弁護士会会長 古 賀 和 孝

2012年8月 3日

死刑執行に関する会長声明

             死刑執行に関する会長声明

1 本日,東京,大阪の各拘置所において、それぞれ1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
2 我が国では,過去において,4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)について再審無罪が確定している。また,2010年(平成22年)3月には足利事件について,2011年(平成23年)5月には布川事件について,いずれも無期懲役刑が確定した受刑者に対する再審無罪判決が言い渡されている。これらの過去の実例が示すとおり,死刑判決を含む重大事件において誤判の可能性が存在することは客観的な事実である。
3 しかも,我が国の死刑確定者は,国際人権(自由権)規約,国連決議に違反した状態におかれているというべきであり,特に,過酷な面会・通信の制限は,死刑確定者の再審請求,恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなっている。この間,2007年(平成19年),刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが,未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど,死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難く,このような状況の下で死刑が執行されることには大きな問題があるといわなければならない。
4 国際的にも,1989年(平成元年)に国連総会で死刑廃止条約が採択されて以来,死刑廃止が国際的な潮流となっている。1990年(平成2年)当時,死刑存置国は96か国で死刑廃止国は80か国だったのが,2012年(平成24年)6月現在では,死刑存置国は57か国で死刑廃止国及び死刑停止国は141か国となっている(アムネスティインターナショナル)。さらに,2008年(平成20年)12月18日には,国連総会において,すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議案が採択された。
また,2007年(平成19年)5月18日に示された,国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては,我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち,死刑確定者の拘禁状態はもとより,その法的保障措置の不十分さについて,弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で,死刑の執行を速やかに停止すること,死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと,恩赦を含む手続的改革を行うべきこと,すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと,死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと,すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。しかも,2008年(平成20年)10月には,国際人権(自由権)規約委員会により,我が国の人権状況に関する審査が行われ,我が国の死刑制度の問題点を指摘するともに制度の抜本的見直しを求める勧告がなされた。
5 日本弁護士連合会は,本年6月18日、滝実法務大臣に対し、「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し、死刑の執行を停止するとともに、死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を直ちに講じることを求める要望書」を提出して、国に対し、直ちに死刑の廃止について全社会的な議論を開始し、その議論の間、死刑の執行を停止することを改めて求めたところである。
6 このような中で,我が国の死刑制度の抱える問題点について何ら改革が講じられることなく,今回の死刑執行が行われたことは極めて遺憾であり,当会としてはここに政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに,今後,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ,それに基づいた施策が実施されるまで,一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。
                   
                      2012年(平成24年)8月3日
                  福岡県弁護士会会長 古 賀 和 孝

2012年7月25日

貸金業法や利息制限法等の改悪の動きに強く反対する会長声明


  貸金業法や利息制限法等の改悪の動きに強く反対する会長声明


 2006年(平成18年)12月に成立した「貸金業の規制等に関する法律等の一部を改正する法律」(平成18年法律第115号)が,2010年(平成22年)6月18日に完全施行されてから2年が経過した。同法成立前は,生活の破たんや自殺など,多重債務問題が年々深刻さを増しており,43の都道府県議会と1136の市町村議会が決議を採択したことに見られるように,その解決を求める声が全国に広がっていた。同法は,このような国民の声を受けて,上限金利を引き下げるとともに,返済能力を超える借入れを防ぐ総量規制の仕組みを導入するなど,抜本的かつ総合的な対策を講じたものであった。
 そして,附則66条に基づいて内閣官房に「多重債務者対策本部」が設置され,セーフティネットの拡充強化,多重債務者に対する相談窓口の充実強化など,国全体をあげて,多重債務対策が進められてきた。当会も,法律相談センターでの多重債務相談を無料化し,自治体や関係機関との連携を強化するなど,多重債務問題の解決のために全力を挙げた取組みを続けてきた。
 これに対して,近時,与野党の一部国会議員の中に,「潜在的なヤミ金被害が広がっている。」などとして,法の見直しを目論む動きが見られる。具体的な案としても,総量規制を撤廃し,利息制限法等を改正して年利30%を上限とする変動金利制を導入することまでが提案されているような状況である。
 しかしながら,貸金業法等の成立,施行により,多重債務者対策は大きな成果を上げている。例えば,株式会社日本信用情報機構の統計によれば,5社以上の借入れを有する多重債務者が法改正前の約230万人から約45万人に減少している。同様に,個人破産申立件数も約17万人から約10万人に減少している。そして,警察庁の統計によれば,多重債務による自殺者も1973人から998人と半減している。
 さらに,ヤミ金に関しても,警察庁の統計によれば,検挙人員,検挙事件,被害人員,被害額の全てが減少傾向にあり,金融庁が把握する無登録業者に係る苦情件数,日本貸金業協会が把握するヤミ金被害の苦情照会件数,消費者センターへのヤミ金相談件数,弁護士会へのヤミ金相談の件数も軒並み減少している。ヤミ金被害が広がっているという指摘は客観的根拠を欠いていると言わざるを得ない。
 そのほか,一部国会議員は「貸金業法等が零細な中小企業の短期融資の需要を阻害している。」とも指摘するが,現行法は事業資金貸付を総量規制の例外とするなどの手立てを講じている。また,国は,緊急保証やセーフティネット貸付など多角的に中小企業支援策を講じている。零細な中小企業の資金需要に対して,以前のグレーゾーン金利と同様の高金利による貸付けを許していては,多重債務被害の再燃を来たすことが必至である。
 当会は,貸金業法等の成果を無にしかねない,総量規制や金利規制の緩和,撤廃に,強く反対するものである。


                           2012年(平成24年)7月18日
                                 福岡県弁護士会
                              会 長 古 賀 和 孝

2012年5月28日

福岡県弁護士会所属会員に対する殺人未遂事件に関する会長声明


 2012年5月22日午前10時ころ,当会に所属する緒方研一弁護士が,同弁護士事務所の入居するビル内階段上において,ナイフを所携していた男に襲われ,頭部等打撲,両手指切創等の傷害を負うという犯罪が発生した。
 犯人は,同弁護士が受任していた事件の相手方であり,同事件は既に示談により解決済みであった。犯人がいかなる動機で行ったか不明であるが,法治国家において,暴力をもって紛争の解決を図ることはいかなる理由があっても断じて許されるものではない。
 また,本件は弁護士業務に関連した犯行であり,基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし,市民の権利の護り手である弁護士の業務に対する重大な侵害行為である。
 当会は,今後とも,いかなる暴力行為に対しても決してひるむことなく毅然として対処し,国民の正当な権利を擁護するため全力をもって弁護士の使命を全うしていく決意であることをここに表明する。


2012(平成24)年5月28日
   
                           福岡県弁護士会
  
会 長  古  賀  和  孝

2012年3月29日

死刑執行に関する会長声明

1 本日,福岡,東京,広島の各拘置所において合計3名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
2 我が国では,過去において,4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)について再審無罪が確定している。また,2010年(平成22年)3月には足利事件について,2011年(平成23年)5月には布川事件について,いずれも無期懲役刑が確定した受刑者に対する再審無罪判決が言い渡されている。これらの過去の実例が示すとおり,死刑判決を含む重大事件において誤判の可能性が存在することは客観的な事実である。
3 しかも,我が国の死刑確定者は,国際人権(自由権)規約,国連決議に違反した状態におかれているというべきであり,特に,過酷な面会・通信の制限は,死刑確定者の再審請求,恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなっている。この間,2007年(平成19年),刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが,未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど,死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難く,このような状況の下で死刑が執行されることには大きな問題があるといわなければならない。
4 国際的にも,1989年(平成元年)に国連総会で死刑廃止条約が採択されて以来,死刑廃止が国際的な潮流となっている。1990年(平成2年)当時,死刑存置国は96か国で死刑廃止国は80か国だったのが,2012年(平成24年)3月現在では,死刑存置国は57か国で死刑廃止国及び死刑停止国は141か国となっている(アムネスティインターナショナル)。さらに,2008年(平成20年)12月18日には,国連総会において,すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議案が採択された。
また,2007年(平成19年)5月18日に示された,国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては,我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち,死刑確定者の拘禁状態はもとより,その法的保障措置の不十分さについて,弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で,死刑の執行を速やかに停止すること,死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと,恩赦を含む手続的改革を行うべきこと,すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと,死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと,すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。しかも,2008年(平成20年)10月には,国際人権(自由権)規約委員会により,我が国の人権状況に関する審査が行われ,我が国の死刑制度の問題点を指摘するともに制度の抜本的見直しを求める勧告がなされた。
5 日本弁護士連合会は,2011年(平成23年)10月7日に「罪を犯した人の社会復帰のための施設の確立を求め,死刑廃止についての全社会的議論を呼びかける宣言」を,人権擁護大会において採択し,その中で,「罪を犯した人の社会復帰の道を完全に閉ざす死刑制度について,直ちに死刑の廃止について全社会的な議論を開始し,その議論の間,死刑の執行を停止すること。議論のため死刑執行の基準,手続,方法等死刑制度に関する情報を広く公開すること。特に犯罪時20歳未満の少年に対する死刑の適用は速やかに廃止すること」や,「死刑廃止についての全社会的議論がなされる間,死刑判決の全員一致制,死刑判決に対する自動上訴制,死刑判決を求める検察官上訴の禁止等に直ちに着手し,死刑に直面している者に対し,被疑者・被告人段階,再審請求段階,執行段階のいずれにおいても十分な弁護権,防御権を保障し,かつ死刑確定者の処遇を改善すること」を求めていた。
当会も,同年9月5日にシンポジウム「死刑を考える」を開催して,死刑廃止についての社会的議論を呼びかけたところであった。
6 このような中で,我が国の死刑制度の抱える問題点について何ら改革が講じられることなく,今回の死刑執行が行われたことは極めて遺憾であり,当会としてはここに政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに,今後,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ,それに基づいた施策が実施されるまで,一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。

                      2012年(平成24年)3月29日
                             福岡県弁護士会
                             会長 吉 村 敏 幸

2012年3月12日

秘密保全法案に関する会長声明

1 政府は,平成24年1月24日に招集された第180回通常国会において秘密保全に関する法制の整備のための法案(以下「秘密保全法案」という)の提出を意図し,同法の制定に向けて審議を始めようとしている。
  しかし,同法案は,「国益」の名の下に,以下に述べるとおり多くの憲法上の諸権利を侵害するものであって,到底容認できるものではない。


2 「知る権利」に対する不当な制約
  同法案は,行政機関が①国の安全,②外交,③公共の安全及び秩序の維持の分野で「特別秘密」に指定した情報の公開制限を定めるが,かかる「特別秘密」の指定権者は,「特別秘密」を作成・取得する各行政機関とされており,当該行政機関にとって都合の悪い情報を「特別秘密」に指定するなどの恣意的な運用がなされるおそれがある。国政上いかに重要な情報であっても,一旦「特別秘密」に指定された情報は不開示となり,国民の知る機会は奪われ,その結果,憲法上の権利であり,国民主権原理の要請でもある「知る権利」が不当に制約されることとなる。


3 「取材の自由,「報道の自由」,「学問の自由」等に対する不当な制約
  「特別秘密」の定義は不明確且つ広範である上,処罰対象となる「特定取得行為」の概念も不明確であることから,報道機関は,取材活動や報道活動が処罰対象となるか否かを予測できない。さらに共犯処罰規定も設けられているところ,これでは記者が「特別秘密」を保有する取材対象者に秘密を尋ねる行為すら「教唆」や「扇動」として処罰されかねず,報道機関の取材の自由への規制の程度及び萎縮効果は計り知れない。
  また,「特別秘密」の対象には,民間事業者や大学等が作成・取得するものについても含まれているところ,これらの有する情報でも「特別秘密」の指定権者は各行政機関であるから,行政の管理の名の下に学問の自由が侵害されるという危険性もある。


4 罪刑法定主義等の理念に反する
  同法案は,「特別秘密」の概念自体が極めて不明確なままに,その漏えい行為等を処罰対象とするが,これは罪刑法定主義の理念とは到底相容れない。
  また,独立教唆行為についての罰則規定は,基本たる本犯の実行行為がないにもかかわらず処罰するものであり,刑法の基本原則である行為責任主義に明らかに反するものである。
  さらに,共謀行為についての罰則規定は,現行法では例外的に処罰されることとなっている予備・準備行為のさらなる前段階で処罰するものであり,過度の萎縮的効果をもたらすものである。
  その上,罰則についても懲役刑の上限を10年に引き上げることが検討されているが,このような重罰化は,前記の萎縮効果をさらに強めるものである。


5 プライバシー権,思想信条の自由を侵害する適性評価制度
  同法案は,特別秘密を取り扱う者を管理するためとして,住所歴・国籍などの人定事項のみならず,信用状態や外国への渡航歴,懲戒処分歴,犯罪歴などの事項を,本人の同意を得た上で調査し,評価するという適性評価制度の導入を図っている。その調査対象は,取扱者の周辺の者,医療機関,金融機関と広範に及んでいる。
  しかし,このようなセンシティブ情報を行政機関・警察によって収集利用されること自体,重大なプライバシー侵害である。
  さらに,評価基準は非公開とされ,適性評価の判断も実施権者たる各行政機関の長の裁量に委ねられるなど,恣意的な評価がなされる危険性は否定できず,特定の思想信条を持つ者を排除,差別する運用がなされるおそれがある。


6 未だに情報公開制度が十分に機能しているとは言い難い我が国の現状からは,国民の知る権利の十分な保障こそ急務である。
  それに逆行するどころか,憲法上保障されている諸権利を不当且つ多大に制約する秘密保全法案の制定に対し,当会としては,断固として反対する次第である。


                  2012年(平成24年)3月12日
                   福岡県弁護士会会長 吉 村 敏 幸

2012年2月 9日

監視カメラを法律なしに設置・運用しないよう求める声明

 警察庁は、福岡市の中洲地区に犯罪防止効果の検証を目的に42台の監視カメラを設置し、本年1月から福岡県警が常時録画する運用を開始した。
 しかしながら、警察の捜査活動でさえ、具体的な嫌疑を前提として許されるものであり、その場合にも、人権保障を図る観点から、基本的人権を制約する場合には法令の根拠を必要とし(強制処分法定主義)、令状がなければ原則として行えないというのが憲法以下の法令の考え方である。
現在では、監視カメラで撮影された膨大な集積画像の中から、顔認識システム(被写体から人の顔の部分を抽出し、目・耳・鼻などの位置関係等を瞬時に数値化し、あらかじめデータベースに登録された特定人物の顔データベースと自動的に照合するもの)を使って、特定人物の検索・照合することも可能となっている。具体的な法益侵害の行われていないはるか前段階で、警察が市民全体を対象とする監視を行い、地引き網のように市民の行動履歴を収集することは、個人のプライバシー権を侵害するばかりか、民主主義社会における市民の自由を萎縮させる危険が大きい。
 警察自身による監視カメラの設置は、京都府学連事件判決(最判昭44.12.24)、山谷監視カメラ判決(東京高判昭63.4.1)などによれば、①犯罪の現在性または犯罪発生の相当高度の蓋然性、②証拠保全の必要性・緊急性、③手段の相当性がある場合を除いて、警察が自ら公道に監視カメラを設置することは認められない。
 西成監視カメラ判決(大阪地判平6.4.27)では、「特段の事情がない限り、犯罪予防目的での録画は許されないというべきである。」として、犯罪予防目的での監視カメラの設置を明示的に禁止している。
 中洲地区は必ずしも犯罪多発地帯ということが証明されているわけではく、県警は、想定される犯罪として客引きを挙げつつも、当会の聴き取りに対し、「その実態はよく分からない」と回答するなど、監視カメラ設置の必要性に乏しく、他方で、歓楽街におけるプライバシー権制約の程度は大きいことからすれば、犯罪予防目的での撮影や録画が許容されるべき特段の事情はない。
 そもそも、プライバシー権を保障するために監視カメラの設置・運用を規制する法律の制定が必要不可欠である。
 当会は2007年以降、同様の意見を述べているが、なんら法律が制定されないまま警察主導で街頭監視カメラが増設されていることに対し強く遺憾の意を表するとともに、適切な法律が制定されるまでの間は、中洲地区における監視カメラの設置・運用を中止するよう強く求める。

         
               2012年(平成24年)2月9日
                 福岡県弁護士会会長 吉 村 敏 幸

2011年10月18日

当会会員に対する有罪判決に関する会長声明

 本日当会会員である渡邉和也弁護士に対する業務上横領事件における判決がなされました。裁判所の認定した事実は、概略以下の内容です。
 「裁判所から相続財産管理人として選任されていた渡邊会員が、平成18年から同21年にかけて、自ら管理していた被相続人名義の預金口座から合計13回にわたり現金を引き出し、他事件において自らその支払義務を負担していた清算金の支払原資や事務所経費、生活費等に費消するなどし、合計金1945万円を横領した。」
上記事実に対する判決内容は5年間の執行猶予付きの懲役3年(未決算入30日)の有罪判決でした。
このように有罪判決が言い渡され、量刑理由において金銭管理の杜撰さや行為の悪質性が指摘されたたことについて、当会といたしましては、弁護士に寄せられた社会の信頼を損ねたことに対する裁判所の厳しい判断として重く受け止めております。また、関係者及び市民の皆さまにご迷惑やご心配をおかけしたことについて、同会員の所属弁護士会として、深くお詫び申し上げます。
 なお、渡邉会員については、当会においても平成23年3月4日に弁護士会として懲戒申立を行い、本年8月18日、綱紀委員会で懲戒相当との議決を経て、同会員は現在懲戒手続中であります。
当会としては、各会員において本件事件の重みを肝に命じてもらう一方、倫理研修のより一層の充実を図りつつ、会として与えられた権限の適切な行使を通じて、今後こうした事犯の再発を防ぎ、市民の方々の信頼・信用を保持することができるよう努めてまいりたいと思います。


                                         以上


              平成23年10月18日
               福岡県弁護士会 会長 吉 村 敏 幸

2011年8月 9日

「君が代」斉唱時に起立斉唱を強制しないよう求める会長声明

1 本年7月14日,最高裁判所第一小法廷は,北九州市立学校の教職員らが,卒業式又は入学式における「君が代」斉唱の際に起立して歌うよう命じた校長の職務命令に反したとして課せられた懲戒処分をめぐる訴訟及び東京都における同種の訴訟の判決において,校長の職務命令は憲法19条に違反しないと判示した。
  これらは,本年5月30日以降,最高裁判所の各小法廷が言い渡してきた同種訴訟の判決における判断を踏襲したものである。
  一連の最高裁判決は,自らの歴史観や世界観との関係で,国旗及び国歌に対する敬意表明に応じ難いと考える者に対して起立・斉唱行為を求めることは,その者の思想及び良心の自由に対する「間接的な制約」となる面があるとしつつ,起立・斉唱行為は,「慣例上の儀礼的な所作」であり,かかる行為を命ずる職務命令は,その目的及び内容,制約の態様等に照らすと許容できるとしている。
2 しかしながら,「君が代」斉唱時の起立・斉唱行為は,「君が代」に対する敬意の表明と不可分であるから,単なる「慣例上の儀礼的所作」とは言えない。「君が代」を是とするか否かは,各個人にとって自己の信条や信仰に深くかかわる問題である。卒業式・入学式における「君が代」斉唱指導が教職員の職務上の義務であるとしても,教職員が自己の信条や信仰を理由として単に起立斉唱しないという行為に対して,懲戒処分という重大な制裁をもって臨むことは,憲法上保障された当該教職員の思想良心の自由ないし内面的信仰の自由の核心部分を直接的に侵害するのであり,憲法19条に違反すると言うべきである。
かかる観点から,当会は,今回の最高裁判決の当事者である北九州市立学校の教職員らの一部による人権救済申立てを受けて,2000年6月28日,北九州市教育委員会に対し,懲戒処分を再考し,以後,同様の懲戒処分をもって教職員に対して「君が代」斉唱時の起立を強制するという運用を改めるよう,警告を発している。
また,国旗及び国歌に関する法律が,国会審議の過程で,同法の制定によって国旗国歌を強制し,義務づけるものではないとの政府答弁がなされた上で可決成立したものであったことをも踏まえれば,上記最高裁判決の結論は容認できるものではない。
3 上記最高裁の各判決を通じては,宮川光治裁判官(第一小法廷),田原睦夫裁判官(第三小法廷)が反対意見を述べ,補足意見も7の多数に上った。このことは,最高裁内部の判断が,決して一様ではなかったことを示している。
殊に,宮川光治裁判官の反対意見が,「憲法は少数者の思想及び良心を多数者のそれと等しく尊重し,その思想及び良心の核心に反する行為を強制することは許容していないと考えられる」とし,厳格な違憲審査基準によって判断すべき旨を述べたことは重要である。
反対意見の外にも,多くの補足意見が,「君が代」の起立斉唱の強制について,慎重な配慮を求めている。
4 本年6月3日,「大阪府の施設における国旗の掲揚及び教職員による国歌の斉唱に関する条例」が制定されたことにみられるように,今後教育行政が教職員に対し学校行事等での「君が代」斉唱時における起立・斉唱を強制する動きが強まることが懸念されている。
  教育現場においては,「能力を伸ばし,創造性を培い,自主及び自立の精神を養う」(教育基本法2条)ことが肝要であり,そのためには教職員の自主性及び自由はきわめて尊重されなければならないものである。
  当会は,思想及び良心の自由の重要性をふまえ,教育行政に対し,教職員に対する「君が代」斉唱時の起立・斉唱を強制することがないよう,また,起立・斉唱をしない者への懲戒処分等の不利益取扱いを行うことがないよう,ここに改めて強く要請する。


                        2011年(平成23年)8月4日     
     
                         福岡県弁護士会            
                         会長  吉 村 敏 幸   

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