福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

声明

2016年5月12日

ハンセン病「特別法廷」最高裁判所調査報告に関する会長声明

ハンセン病患者が当事者の裁判がハンセン病療養所等の「特別法廷」で行われてきた問題について、全国ハンセン病療養所入所者協議会等が最高裁に検証を求めていたところ、最高裁事務総局は、本年4月25日、有識者委員会意見とともに、検証結果(以下「調査報告書」という。)を公表した。
 調査報告書によれば、ハンセン病を理由とした裁判所外の開廷場所の指定を求める上申が昭和23年から同47年まで96件あり、その内95件を認可し(1件は撤回)、不指定事例はないこと、遅くとも昭和35年以降は、他の疾患と区別すべき状況でなかったのに、定形的にハンセン病療養所等を開廷場所に指定していた運用は、不合理な差別的取扱いと強く疑われ、裁判所法69条2項に違反するもので、ハンセン病患者に対する偏見、差別の助長につながり、ハンセン病患者の人格と尊厳を傷つけたとして、深く反省し、お詫びの意を表明した。
 最高裁が自ら差別的な違法行為を行ったことを認めて謝罪の意を表明し、今後、人権に対する鋭敏な意識を持って、二度と同じ過ちを繰り返さないことを表明したことは、評価できる。
 他方、有識者委員会意見では、「特別法廷」は、ハンセン病患者への合理性を欠く差別として憲法14条に違反し、「激しい隔離・差別の場」であって、最高裁が指摘する掲示等をもってしても、一般の人々に実質的に公開されたというには無理があることから、憲法37条、82条の公開原則に違反する疑いが拭いきれないとし、1960年(昭和35年)以前についてもハンセン病患者への反省と謝罪があってしかるべきと指摘した。
 有識者委員会がハンセン病患者に対する差別・偏見の問題をより深く考察し、「特別法廷」の違憲性を認め、最高裁の責任を追及したことは、まさに正鵠を射ている。
また、有識者委員会は、最後に、弁護士を含む法曹界・法学界の人権感覚と責任を厳しく問うた。
1952年に熊本県で起きた殺人事件で無実を訴えていたハンセン病療養所入所者の被告人が「特別法廷」で差別と偏見に基づく裁判を受け、死刑判決が下され、死刑執行された「菊池事件」について、当会は、2013年5月8日、「『菊池事件』について検察官による再審請求を求める会長声明」を公表し、最高裁の上記調査中、2016年2月13日、シンポジウム「ハンセン病『特別法廷』と司法の責任」を開催した。
しかし、それまでの間、当会は「特別法廷」問題について何らの取組みもしてこなかったのは事実であり、有識者委員会意見は重く受け止めなければならない。
当会は、基本的人権の擁護を使命とする弁護士会として、「特別法廷」の違憲性・差別の問題について、長きにわたり調査・検証を怠ってきた責任を深く自覚して痛切に反省し、ハンセン病患者・元患者、その家族の方々などに、心より謝罪の意を表する。
 今後とも、当会は、真摯な自己検証とともに、ハンセン病患者・元患者、その家族の方々などの被害回復に努力し、ハンセン病問題の全面解決に向けた活動に全力を尽くす所存である。


2016(平成28)年5月12日
福岡県弁護士会会長 原 田 直 子

2016年4月25日

熊本地震に関する緊急の声明

4月14日、同月16日の2度にわたって最大震度7を観測した熊本における巨大地震は、その後も余震が断続的に続き、現在もなお予断を許さない状況にあります。

この地震で現在までに亡くなった方48名、行方不明者2名、震災関連死と思われる方が12名に上り、今なお避難生活を余儀なくされている方々が6万人にも上っています。被災者の方々の心身の疲労は極限に達しており、その苦痛と不安は筆舌に尽くしがたいものであると思われます。

震災により亡くなられた方々に心からの哀悼の意を表するとともに、被害に遭われた皆様には心からお見舞いを申し上げます。政府・被災地自治体等による現場支援が十分に発揮され、厳しい環境下におかれている被災者の方々の救助ならびに生活支援が早急になされ、インフラ復旧と被災者の方々のニーズに基づく1日も早い復興を願ってやみません。

福岡県弁護士会は、本日より、緊急の無料法律相談を実施し、被災地熊本県弁護士会とも連携しながら、緊急の電話相談等にも尽力していく所存です。

今後、被災者の皆様の被害回復と権利保護のために、全力を挙げる決意であることを表明いたします。

2016年(平成28年)4月25日

福岡県弁護士会 会長 原 田 直 子

2016年3月25日

死刑執行に関する会長声明

1 本日、大阪拘置所と福岡拘置所でそれぞれ各1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
死刑が執行されたのは、2015年(平成27年)6月、12月、そして、本日と1年に満たない間に3回目であって、合わせて5人になる。
2 死刑は、かけがえのない生命を奪う非人道的な刑罰であることに加え、罪を犯した人が更生し社会復帰する可能性を完全に奪うという問題点を含んでいる。のみならず、死刑判決が誤判であった場合にこれが執行されてしまうと取り返しがつかない。これまで死刑事件において、4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件)、えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされ、また、2014年(平成26年)3月には、死刑判決を受けた袴田巖氏の再審開始と死刑および拘置の執行停止が決定され、いまもなお死刑えん罪が存在することが改めて明らかとされたばかりである。
  国際的にも死刑の廃止は大きな潮流である。世界で死刑を廃止又は停止している国は140か国に上っており、今や死刑を国家として統一的に執行している国は日本のみである。このような状況の下、国際人権(自由権)規約委員会は、2014年、日本政府に対し、死刑の廃止について十分に考慮すること等を勧告している。
このような事態であるにもかかわらず、次々と死刑を執行する姿勢には大きな疑義を挟まざるを得ない。
3 日本弁護士連合会は、2014年(平成26年)11月に、「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し、死刑の執行を停止するとともに、死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出して、有識者会議の設置や死刑に関連する情報の公開などを具体的に求め、全国民的議論が尽くされるまでの間、全ての死刑の執行を停止することに加え、死刑えん罪事件を未然に防ぐため、全面的証拠開示制度の整備や再鑑定を受ける権利の確立などを要請した。
  しかし、2010年(平成22年)8月に東京拘置所の刑場が一部マスメディアに公開された後、議論の前提となるべき死刑に関連する情報の公開すら進んでいない。
4 当会は、政府に対して、今回の死刑執行について強く抗議の意志を表明するとともに、今後、死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ、それに基づいた施策が実施されるまで、一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。



2016年(平成28年)3月25日
               福岡県弁護士会会長  斉 藤 芳 朗

2016年1月20日

司法修習生に対する給費の実現を求める会長声明

 司法修習生は、1年間の修習を終えた後には、三権の一翼である司法の担い手として国民の権利を擁護し、司法制度を支えるという公共的な役割を担うべく、職務としての司法修習に専念する者である。このような公共的役割を持つ存在であることに鑑み、司法修習生に対しては、戦後約65年間にわたり、国家公務員に準じた取扱いがなされ、給与が支給されていた(給費制)。しかし,2011(平成23年)年11月から,この給費制が廃止され,代わって修習期間中に費用が必要な修習生に対しては,修習資金を貸与する制度(貸与制)に変更された。
 当会は、貸与制による経済的負担の増加が、有為な人材が法曹を目指さなくなり、ひいては日本の司法制度の弱体化につながるおそれがあるとして、貸与制の導入以前から、給費制の存続ないし復活も含めた司法修習生に対する経済的支援の必要性を訴えてきた。
 司法修習生に対する経済的支援の具体案である司法修習生への給費の実現(修習手当の創設)については,この間,日本弁護士連合会・各弁護士会に対して,多くの国会議員から賛同のメッセージが寄せられており,先日,同賛同メッセージの総数が,衆参両院の合計議員数717名の過半数である359名を超えた。
 当会としては,まずはメッセージをお寄せいただいた国会議員の皆様に対し感謝の意と敬意を表するものである。
 メッセージを寄せられた国会議員は,与野党を問わず広がりを見せており,司法修習生への経済的支援の必要性についての理解が得られつつあるものと考えられる。このような状況は,これまで司法修習生に対する給費の実現に向けて、市民集会の開催、街頭署名など種々の活動を実施してきた当会としても喜ばしい限りである。
 そもそも,司法制度は,社会に法の支配を行き渡らせ,市民の権利を実現するための根幹的な社会的インフラであり,国はかかる公共的価値を実現する司法制度を担う法曹になる司法修習生を,公費をもって養成するべきである。このような理念のもとに,我が国では,終戦直後から司法修習生に対し給与が支払われてきた。しかしながら、貸与制の導入により修習資金の負担が生じることに加え,大学や法科大学院における奨学金の債務を負っている司法修習生も多く,その合計額が極めて多額に上る者も少なくない。法曹を目指す者は,年々減少の一途をたどっているが,こうした重い経済的負担が法曹志望者の激減の一因となっていることが改めて指摘されているところである。
 こうした事態を重く受け止め,法曹に広く有為の人材を募り,法曹志望者が経済的理由によって法曹への道を断念する事態が生ずることのないよう,また,司法修習生が安心して修習に専念できる環境を整えるため,司法修習生に対する給費の実現(修習手当の創設)が早急に実施されるべきである。
 昨年6月30日,政府の法曹養成制度改革推進会議が決定した「法曹養成制度改革の更なる推進について」において,「法務省は,最高裁判所等との連携・協力の下,司法修習の実態,司法修習終了後相当期間を経た法曹の収入等の経済状況,司法制度全体に対する合理的な財政負担の在り方等を踏まえ,司法修習生に対する経済的支援の在り方を検討するものとする。」との一節が盛り込まれた。
 これは,司法修習生に対する経済的支援に向けた大きな一歩と評価することができる。法務省,最高裁判所等の関係各機関は,有為の人材が安心して法曹を目指せるような希望の持てる制度とするという観点から,司法修習生に対する経済的支援について,直ちに前向きかつ具体的な検討を開始すべきである。
 当会は,司法修習生への給費の実現(修習手当の創設)に対し,国会議員の過半数が賛同のメッセージを寄せていること,及び,政府においても上記のような決定がなされたことを踏まえて,国会に対して,給費の実現(修習手当の創設)を内容とする裁判所法の早急なる改正を求めるものである。


                    2016年(平成28年)1月20日
                      福岡県弁護士会        
                           会長 斎 藤 芳 朗   

2015年12月18日

死刑執行に関する会長声明

1 本日、2名の死刑確定者に対して死刑が執行された。2015年(平成27年)6月に続くわずか半年の間の執行であることに加え、そのうちの1名は裁判員裁判による死刑確定者として初めて執行されたものであり、社会に与える影響も小さくない。
 現法務大臣のもとでは初めての執行ではあるものの、現政権の死刑に対する姿勢も踏まえれば、さらなる執行がなされることへの懸念はより一層高まっている。
2 死刑をとりまく問題状況について、従前から当会が指摘している点に何ら変わりはない。すなわち、死刑事件について、4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件)、えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされた。また、2014年(平成26年)3月には、死刑判決を受けた袴田巖氏の再審開始と死刑および拘置の執行停止も決定され、現在もなお死刑えん罪が存在することが改めて明らかとされたばかりである。
  なにより、死刑は、かけがえのない生命を奪う非人道的な刑罰であることに加え、罪を犯した人が更生し社会復帰する可能性を完全に奪うという問題点を含んでいる。のみならず、死刑判決が誤判であった場合にこれが執行されてしまうと取り返しがつかない。かかる刑罰は、いかなる執行方法によったとしても、残虐性を否定することができない。
 それゆえ、死刑の廃止は国際的にも大きな潮流となっている。
このような問題を看過して次々と死刑を執行する姿勢には大きな疑義を挟まざるを得ない。
3 日本弁護士連合会も、上記のような死刑の問題状況を踏まえ、2014年(平成26年)11月に、「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し、死刑の執行を停止するとともに、死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出して、有識者会議の設置や死刑に関連する情報の公開などを具体的に求め、全国民的議論が尽くされるまでの間、全ての死刑の執行を停止することに加え、死刑えん罪事件を未然に防ぐため、全面的証拠開示制度の整備や再鑑定を受ける権利の確立などを要請した。 
4 当会は、政府に対して、今回の死刑執行について強く抗議の意志を表明するとともに、今後、死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ、それに基づいた施策が実施されるまで、一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。


                   2015年(平成27年)12月18日
                   福岡県弁護士会会長  斉 藤 芳 朗

2015年6月25日

死刑執行に関する会長声明

1 本日、名古屋拘置所において、1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
 2014年(平成26年)8月以来の執行ではあるものの、今後も新たな執行がなされることへの懸念は大きい。
2 我が国では、死刑事件について、すでに4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件)、えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされた。また、2014年(平成26年)3月27日には、死刑判決を受けた袴田巖氏の再審開始が決定され、同時に「拘置をこれ以上継続することは、耐え難いほど正義に反する」として、死刑および拘置の執行停止も決定されて、現在でもなお死刑えん罪が存在することが改めて明らかとされた。
 死刑は、かけがえのない生命を奪う非人道的な刑罰であることに加え、罪を犯した人が更生し社会復帰する可能性を完全に奪うという問題点を含んでいる。のみならず、死刑判決が誤判であった場合にこれが執行されてしまうと取り返しがつかない。かかる刑罰は、いかなる執行方法によったとしても、残虐性を否定することはできない。
 それゆえ、死刑の廃止は国際的にも大きな潮流となっている。
3 日本弁護士連合会は、2014年(平成26年)11月11日、上川陽子法務大臣に対しても、「死刑制度の廃止について全社会的議論を開始し、死刑の執行を停止するとともに、死刑えん罪事件を未然に防ぐ措置を緊急に講じることを求める要請書」を提出して、有識者会議の設置や死刑に関連する情報の公開などを具体的に求め、全国民的議論が尽くされるまでの間、全ての死刑の執行を停止することに加え、死刑えん罪事件を未然に防ぐため、全面的証拠開示制度の整備や再鑑定を受ける権利の確立などを要請したばかりである。
4 当会は、政府に対し強く抗議の意志を表明するとともに、今後、死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ、それに基づいた施策が実施されるまで、一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。


                    2015年(平成27年)6月25日
                   福岡県弁護士会会長  斉 藤 芳 朗

少年法適用対象年齢引下げに反対する会長声明

 2015年(平成27年)6月17日,公職選挙法の改正案が可決・成立し,選挙権年齢が18歳以上に引き下げられることになった。同法は,附則11条に,「少年法その他の法令の規定について検討を加え,必要な法制上の措置を講ずるものとする。」と規定しており,現在は20歳未満とされている少年法の適用対象年齢について検討すべきことが示された。また,自由民主党は,公職選挙法の改正に先立って「成年年齢に関する特命委員会」を設置し,少年法の適用対象年齢の引下げについて検討を始めている。
 しかし,選挙権年齢が18歳以上に引き下げられた事実が,少年法の適用対象年齢の引下げに論理必然的に帰結するものでないことは言うまでもない。選挙権年齢は,戦後に現行の公職選挙法が制定・施行されるまでは25歳以上の男子とされていたが,当時の少年法の適用対象年齢は18歳未満であった。過去を見ても,選挙権年齢と少年法適用対象年齢は一致していなかったのであり,両者を一致させる必然性はない。法律の適用対象年齢は,各法律の立法趣旨に照らして個別具体的に検討すべきであり,少年法についてもまたしかりである。
 前述のとおり,旧少年法(大正14年制定)は適用対象年齢を18歳未満としていたが,現行少年法(昭和23年制定)はこれを20歳未満に引き上げた。18歳,19歳の少年は未成熟であり,再犯防止策としては刑罰を科すよりも保護処分に付する方が適切であるとの立法趣旨に基づく。これにより,少年審判手続では,成人における刑事裁判手続と異なり,非行があると考えられる少年は全て家庭裁判所に送致され,家庭裁判所調査官による社会調査,少年鑑別所における資質鑑別,付添人等による更生のための援助等を経て審判を受け,保護観察や少年院送致等の保護処分を受けることになった。手続を通じて少年の成育歴や家庭環境等の調査が行われ,更生に有益な社会資源を活用する等の環境調整も並行して行われる。審判では,少年の資質や環境に応じ,非行事実は軽微であっても,少年院に送致される場合もある。このように,少年法は,少年への教育的な働きかけや環境の調整を行い,少年の立ち直りを図るという目的と機能を果たしている。
 少年法の適用対象年齢を18歳未満に引き下げると,罪を犯したと疑われる18歳,19歳の少年は,成人と同じ刑事裁判手続で扱われることになる。そうすると,これまで全件が家庭裁判所に送致され,少年審判手続の中で調査,環境調整等がなされていた18歳,19歳の少年について,このような手厚い処遇がなされないことになる。2013年(平成25年)に検察庁が新しく通常受理した少年被疑者数は10万8312人であり,そのうち年長少年(18歳,19歳の少年)は44.9%を占める(検察統計年報)。18歳への引下げは,これほど多数の少年の更生の機会を奪い,再犯の可能性を高める結果を引き起こしかねない。
 少年非行の実情を見ても,殺人,殺人未遂,強盗,強盗致死傷,強姦,集団強姦,放火など,「凶悪事件」と呼ばれる事件の数はいずれも長期的に減少を続けている。少年事件全体を見ても,少年1000人当たりの事件数は減少傾向にあり,これらは現行少年法が非行防止に効果を上げていることの表れともいえる。過去の少年法改正の効果を検証することなく,少年法の適用対象年齢を引き下げることも許されるべきでない。
 当会は,2001年(平成13年),全国に先駆けて全件付添人制度を立ち上げ,数多くの少年たちとかかわってきた。18歳,19歳の少年に対しても少年法に基づく手厚い処遇が必要であることは,少年たちと向き合い続けてきた当会会員が肌で感じてきたことでもある。選挙権年齢の引下げと短絡的に連動させて,少年の更生の機会と成長発達の権利を奪うことは,断固として認められない。
 以上のとおりであるから,当会は,少年法の適用対象年齢の引下げに強く反対する。

                    2015年(平成27年)6月25日
                         福岡県弁護士会 
                         会 長  斉 藤 芳 朗
 

2015年4月23日

「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」に対する会長声明

1 政府は、2015年(平成27年)3月13日、第189回国会に「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」を上程した。
この改正案には、取調べの録音・録画制度の創設、弁護人による援助の充実化、証拠開示制度の拡充など、これまで日弁連や当会が求めてきた制度が一部盛り込まれるなど評価すべき部分も少なくない一方、通信傍受法の一部改正など看過できない問題のある改正内容も含んでいる。


2 まず、弁護人による援助の充実については、被疑者国選弁護制度の対象事件の範囲について、法定刑による区別をせずに勾留状が発せられている全ての被疑者に対象が拡大された上、弁護人選任権に関する被疑者・被告人への教示も拡充されるというものである。痴漢事件(迷惑防止条例違反)等、これまで被疑者国選弁護制度の対象外とされていた事件においても、冤罪事件が多数生じてきていたのであり、事件名により弁護人の必要性に変わりがあるわけではなく、かかる形で改正がなされることは評価されるべきである。
 また、証拠開示制度の拡充については、公判前整理手続に付された事件において証拠の一覧表の交付義務が検察官に課され、類型証拠開示の対象も拡大されることになる。一覧表に記載しなくてもいい例外条項が広く解されるおそれがあるなど、不十分な点もあるが、検察官手持ち証拠に関する情報がほとんど得られなかったこれまでの状況から考えれば大きな一歩となる改正内容であり、かかる形で改正がなされることについては概ね評価できる。


3 さらに、取調べの録音・録画制度の創設については、これまでも日弁連や当会が強く求めてきたところであり、録音・録画が単なる捜査機関の裁量ではなく義務となったこと、録音・録画をしなくてもいい例外についても相当程度狭められたことなどについては十分評価できるところではあるが、対象事件が裁判員裁判事件と検察独自捜査事件という極めて狭い範囲に限定されてしまっている。
  無論、設備等の問題から、段階的に対象範囲を拡大していくという考えは理解できないわけではないが、取調べの録音・録画制度の創設に関する施行時期は法案成立後3年以内とされており、十分に時間的余裕があることからすれば、今後の国会審議の中で、さらに対象事件を拡大する方向で法案が修正されてしかるべきであるし、附帯決議等において今後の対象範囲の拡大について具体的に定めることなどが必要となるはずである。


4 一方で、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の創設及び刑事免責制度の創設は、いわゆる「司法取引」を制度として初めて日本に導入する法改正内容となる。
  「司法取引」に関する制度については、これまでも導入が検討されてきたこともあったが、そもそも日本の正義の理念や風土に馴染まないのではないかという考えに加え、自己の罪を免れ、あるいは軽くするために虚偽の供述がなされ冤罪事件を生み出しかねないという大きな懸念がある。
  したがって、かかる制度を導入するとすれば、国民全体での議論に加え、冤罪を防止するための制度や措置についても十二分に検討される必要があるのであり、1回の国会会期での審議では不十分である。
  その意味では、他の刑事訴訟法等の改正と一緒に審議していくのには馴染まず、司法取引に関する法改正部分については、他の改正部分と切り離し、十分な国民全体での議論や国会での審議がなされていくべきである。


5 最後に通信傍受法の一部改正については,従来,組織的殺人など特殊な犯罪類型に限られていた対象事件を,傷害,詐欺,恐喝,窃盗などの通常の犯罪にまで大幅に拡大するとともに,これまでの手続を緩和する新たな傍受方法の導入が盛り込まれている。
  通信傍受法制定前の検証許可状により実施された電話傍受の適法性について,最高裁判所平成11年12月16日第三小法廷決定は,「重大な犯罪に係る被疑事件」であることを要件としていた。また,通信傍受法の制定にあたって,憲法上明記された重要な基本的人権である通信の秘密などが不当に侵害される可能性を踏まえて,対象範囲を絞り,傍受の実施方法の要件が定められていたものである。
  ところが、上記の改正案は,このような最高裁判例等の考え方を半ば無視し、「振り込め詐欺」や「組織窃盗」等の類型に限定することなく、一般の傷害や詐欺、窃盗などにまで範囲を拡大し、しかも手続に関しては、これまで必要とされてきた通信事業者等の立会・封印等の措置も不要とするものである。
特に詐欺については、いわば「人を騙す」罪であり、経済活動を含む社会活動を行うものであれば誰でも、騙されたと感じた相手方による被害届や告訴によって容易に被疑者となりうる犯罪類型なのであり、誰しも捜査機関から通信傍受をされるおそれが現実化する法改正内容となっているのである。
  憲法の保障する通信の秘密や適正手続の保障の趣旨を徹底する観点からすれば,通信傍受法の一部改正案には極めて重大な問題があることは明らかであり,国会における審議においては、これを他の法改正部分と分離し、すみやかに廃案されるべきである。


6 以上のとおりであり、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」には、すみやかに法改正がなされるべき部分、その対象範囲等を拡大する方向で修正や審議がなされるべき部分、今国会だけで結論を出すべきではない部分、すみやかに廃案されるべき部分がそれぞれあるのであり、国会においては政府からの法案内容に囚われ過ぎることなく、慎重に取り扱い、審議されるよう求める。
                              
                     2015年(平成27年)4月22日

                        福 岡 県 弁 護 士 会 
                          会 長  斉 藤 芳 朗

2015年3月26日

商品先物取引法における不招請勧誘禁止緩和に抗議する会長声明

経済産業省及び農林水産省は、2015年(平成27年)1月23日、商品先物取引法施行規則の一部を改正する省令(以下「本省令」という。)を定め、商品先物取引について不招請勧誘の禁止規定を緩和することを公表した。

本省令は、当初の公表案を若干修正し、同規則第102条の2を改正して、ハイリスク取引の経験者に対する勧誘以外に、顧客が65歳未満で、年収800万円以上又は金融資産2000万円以上を有する者について、顧客の理解度を確認し、投資上限額を設定するなどの要件を満たした場合に、訪問や電話勧誘を許容する例外規定を盛り込んでいる。

この内容は、一定の年齢や一定の年収又は金融資産を要件としているものの、その要件を満たすかどうかの確認が電話または訪問によって行われることから、結果として、電話や訪問による勧誘を無制約に許容することになる。これでは法律が禁止した不招請勧誘を解禁するに等しく、このような内容を省令で定めることは法律の委任の範囲を超えて違法なものといわざるを得ない。

また、本省令は、要件確認の方法として、顧客に対し、年収や金融資産の申告書面を差し入れさせたり、書面による問題に回答させて理解度確認を行う等の手法を示しているが、いずれも業者が顧客を誘導して事実と異なる申告をさせたり、答えを誘導するなどの行為が蔓延してきたところであって、これらの手法が委託者保護のために十分機能するとは到底いえない。

当会は、2013年(平成25年)11月20日付けで、消費者保護の観点から商品先物取引における不招請勧誘禁止の撤廃には強く反対するとの会長声明を出していた。その後、全国のすべての単位会が不招請勧誘禁止の撤廃に反対する会長声明などを表明した。このような異例ともいえる事態のなかで、本省令は、法律を改正しないままに、不招請勧誘の禁止規定の原則と例外を逆転させるものであって、消費者保護の観点から許容することができず、また、法律の委任の範囲を超えて違法であるから、直ちに改廃し、このまま施行することのないよう強く求めるものである。

2015年(平成27年)3月26日
福岡県弁護士会 会長 三浦邦俊

2015年3月19日

少年に関する実名報道へ抗議する会長声明

1 週刊新潮による実名報道
 「週刊新潮」は、平成27年3月5日号において、神奈川県川崎市で発生した事件について、主犯格と見られる18歳の少年被疑者の実名と顔写真を掲載している。同誌は、2月5日号、2月12日号においても、本年1月27日に愛知県名古屋市で発生した事件に関して、少年被疑者の実名を挙げたうえ、顔写真を掲載しており、同誌による実名報道は常態化している。
 このような報道は、少年について「氏名、年齢、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真」の掲載を禁じている少年法第61条に明白に違反するものである。
2 推知報道禁止の趣旨
(1) 少年法第61条が、少年について個人を特定する犯罪報道を規制した趣旨は、少年の名誉・プライバシーを保護するだけにとどまらず、少年が可塑性に富む存在であることに鑑み、少年の更生を妨げることになる社会の偏見を助長することを防ぐことを目的とするものである。
 実名や顔写真を掲載することにより、少年に否定的な烙印を押すことは、少年の社会的断絶をもたらし、本来、少年が有している更生への可能性を奪ってしまうことにもなりかねない。  
(2) このような少年事件に関する報道規制は、国際的な流れであり、少年へのラベリングを防ぐために報道に一定の規制をかける必要があることは共通認識となっている(児童の権利条約第16条及び40条2項(ⅶ)、少年司法運営に関する国連最低基準規則(北京ルールズ)8条)。
3 実名報道の弊害
 少年被疑者の顔写真を掲載し、実名を挙げることは、単に一般大衆の興味本位の関心を満足させるだけの商業主義的な行為である。
このような報道は、事案の真相究明にまったく役に立たなばかりか、偏見を助長し、法律が予定しない私的制裁に類するものであり、少年の更生を大きく妨げるものといえる。
4 まとめ
 当会としては、新潮社を対し、少年法61条及び児童の権利条約等に違反し、少年の人権を侵害するこのような報道を繰り返さないことを強く求める。


                    2015年(平成27年)3月19日
                            福岡県弁護士会
                            会 長 三浦 邦俊

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