福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

声明

2015年4月23日

「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」に対する会長声明

1 政府は、2015年(平成27年)3月13日、第189回国会に「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」を上程した。
この改正案には、取調べの録音・録画制度の創設、弁護人による援助の充実化、証拠開示制度の拡充など、これまで日弁連や当会が求めてきた制度が一部盛り込まれるなど評価すべき部分も少なくない一方、通信傍受法の一部改正など看過できない問題のある改正内容も含んでいる。


2 まず、弁護人による援助の充実については、被疑者国選弁護制度の対象事件の範囲について、法定刑による区別をせずに勾留状が発せられている全ての被疑者に対象が拡大された上、弁護人選任権に関する被疑者・被告人への教示も拡充されるというものである。痴漢事件(迷惑防止条例違反)等、これまで被疑者国選弁護制度の対象外とされていた事件においても、冤罪事件が多数生じてきていたのであり、事件名により弁護人の必要性に変わりがあるわけではなく、かかる形で改正がなされることは評価されるべきである。
 また、証拠開示制度の拡充については、公判前整理手続に付された事件において証拠の一覧表の交付義務が検察官に課され、類型証拠開示の対象も拡大されることになる。一覧表に記載しなくてもいい例外条項が広く解されるおそれがあるなど、不十分な点もあるが、検察官手持ち証拠に関する情報がほとんど得られなかったこれまでの状況から考えれば大きな一歩となる改正内容であり、かかる形で改正がなされることについては概ね評価できる。


3 さらに、取調べの録音・録画制度の創設については、これまでも日弁連や当会が強く求めてきたところであり、録音・録画が単なる捜査機関の裁量ではなく義務となったこと、録音・録画をしなくてもいい例外についても相当程度狭められたことなどについては十分評価できるところではあるが、対象事件が裁判員裁判事件と検察独自捜査事件という極めて狭い範囲に限定されてしまっている。
  無論、設備等の問題から、段階的に対象範囲を拡大していくという考えは理解できないわけではないが、取調べの録音・録画制度の創設に関する施行時期は法案成立後3年以内とされており、十分に時間的余裕があることからすれば、今後の国会審議の中で、さらに対象事件を拡大する方向で法案が修正されてしかるべきであるし、附帯決議等において今後の対象範囲の拡大について具体的に定めることなどが必要となるはずである。


4 一方で、証拠収集等への協力及び訴追に関する合意制度の創設及び刑事免責制度の創設は、いわゆる「司法取引」を制度として初めて日本に導入する法改正内容となる。
  「司法取引」に関する制度については、これまでも導入が検討されてきたこともあったが、そもそも日本の正義の理念や風土に馴染まないのではないかという考えに加え、自己の罪を免れ、あるいは軽くするために虚偽の供述がなされ冤罪事件を生み出しかねないという大きな懸念がある。
  したがって、かかる制度を導入するとすれば、国民全体での議論に加え、冤罪を防止するための制度や措置についても十二分に検討される必要があるのであり、1回の国会会期での審議では不十分である。
  その意味では、他の刑事訴訟法等の改正と一緒に審議していくのには馴染まず、司法取引に関する法改正部分については、他の改正部分と切り離し、十分な国民全体での議論や国会での審議がなされていくべきである。


5 最後に通信傍受法の一部改正については,従来,組織的殺人など特殊な犯罪類型に限られていた対象事件を,傷害,詐欺,恐喝,窃盗などの通常の犯罪にまで大幅に拡大するとともに,これまでの手続を緩和する新たな傍受方法の導入が盛り込まれている。
  通信傍受法制定前の検証許可状により実施された電話傍受の適法性について,最高裁判所平成11年12月16日第三小法廷決定は,「重大な犯罪に係る被疑事件」であることを要件としていた。また,通信傍受法の制定にあたって,憲法上明記された重要な基本的人権である通信の秘密などが不当に侵害される可能性を踏まえて,対象範囲を絞り,傍受の実施方法の要件が定められていたものである。
  ところが、上記の改正案は,このような最高裁判例等の考え方を半ば無視し、「振り込め詐欺」や「組織窃盗」等の類型に限定することなく、一般の傷害や詐欺、窃盗などにまで範囲を拡大し、しかも手続に関しては、これまで必要とされてきた通信事業者等の立会・封印等の措置も不要とするものである。
特に詐欺については、いわば「人を騙す」罪であり、経済活動を含む社会活動を行うものであれば誰でも、騙されたと感じた相手方による被害届や告訴によって容易に被疑者となりうる犯罪類型なのであり、誰しも捜査機関から通信傍受をされるおそれが現実化する法改正内容となっているのである。
  憲法の保障する通信の秘密や適正手続の保障の趣旨を徹底する観点からすれば,通信傍受法の一部改正案には極めて重大な問題があることは明らかであり,国会における審議においては、これを他の法改正部分と分離し、すみやかに廃案されるべきである。


6 以上のとおりであり、「刑事訴訟法等の一部を改正する法律案」には、すみやかに法改正がなされるべき部分、その対象範囲等を拡大する方向で修正や審議がなされるべき部分、今国会だけで結論を出すべきではない部分、すみやかに廃案されるべき部分がそれぞれあるのであり、国会においては政府からの法案内容に囚われ過ぎることなく、慎重に取り扱い、審議されるよう求める。
                              
                     2015年(平成27年)4月22日

                        福 岡 県 弁 護 士 会 
                          会 長  斉 藤 芳 朗

2015年3月26日

商品先物取引法における不招請勧誘禁止緩和に抗議する会長声明

経済産業省及び農林水産省は、2015年(平成27年)1月23日、商品先物取引法施行規則の一部を改正する省令(以下「本省令」という。)を定め、商品先物取引について不招請勧誘の禁止規定を緩和することを公表した。

本省令は、当初の公表案を若干修正し、同規則第102条の2を改正して、ハイリスク取引の経験者に対する勧誘以外に、顧客が65歳未満で、年収800万円以上又は金融資産2000万円以上を有する者について、顧客の理解度を確認し、投資上限額を設定するなどの要件を満たした場合に、訪問や電話勧誘を許容する例外規定を盛り込んでいる。

この内容は、一定の年齢や一定の年収又は金融資産を要件としているものの、その要件を満たすかどうかの確認が電話または訪問によって行われることから、結果として、電話や訪問による勧誘を無制約に許容することになる。これでは法律が禁止した不招請勧誘を解禁するに等しく、このような内容を省令で定めることは法律の委任の範囲を超えて違法なものといわざるを得ない。

また、本省令は、要件確認の方法として、顧客に対し、年収や金融資産の申告書面を差し入れさせたり、書面による問題に回答させて理解度確認を行う等の手法を示しているが、いずれも業者が顧客を誘導して事実と異なる申告をさせたり、答えを誘導するなどの行為が蔓延してきたところであって、これらの手法が委託者保護のために十分機能するとは到底いえない。

当会は、2013年(平成25年)11月20日付けで、消費者保護の観点から商品先物取引における不招請勧誘禁止の撤廃には強く反対するとの会長声明を出していた。その後、全国のすべての単位会が不招請勧誘禁止の撤廃に反対する会長声明などを表明した。このような異例ともいえる事態のなかで、本省令は、法律を改正しないままに、不招請勧誘の禁止規定の原則と例外を逆転させるものであって、消費者保護の観点から許容することができず、また、法律の委任の範囲を超えて違法であるから、直ちに改廃し、このまま施行することのないよう強く求めるものである。

2015年(平成27年)3月26日
福岡県弁護士会 会長 三浦邦俊

2015年3月19日

少年に関する実名報道へ抗議する会長声明

1 週刊新潮による実名報道
 「週刊新潮」は、平成27年3月5日号において、神奈川県川崎市で発生した事件について、主犯格と見られる18歳の少年被疑者の実名と顔写真を掲載している。同誌は、2月5日号、2月12日号においても、本年1月27日に愛知県名古屋市で発生した事件に関して、少年被疑者の実名を挙げたうえ、顔写真を掲載しており、同誌による実名報道は常態化している。
 このような報道は、少年について「氏名、年齢、住居、容ぼう等によりその者が当該事件の本人であることを推知することができるような記事又は写真」の掲載を禁じている少年法第61条に明白に違反するものである。
2 推知報道禁止の趣旨
(1) 少年法第61条が、少年について個人を特定する犯罪報道を規制した趣旨は、少年の名誉・プライバシーを保護するだけにとどまらず、少年が可塑性に富む存在であることに鑑み、少年の更生を妨げることになる社会の偏見を助長することを防ぐことを目的とするものである。
 実名や顔写真を掲載することにより、少年に否定的な烙印を押すことは、少年の社会的断絶をもたらし、本来、少年が有している更生への可能性を奪ってしまうことにもなりかねない。  
(2) このような少年事件に関する報道規制は、国際的な流れであり、少年へのラベリングを防ぐために報道に一定の規制をかける必要があることは共通認識となっている(児童の権利条約第16条及び40条2項(ⅶ)、少年司法運営に関する国連最低基準規則(北京ルールズ)8条)。
3 実名報道の弊害
 少年被疑者の顔写真を掲載し、実名を挙げることは、単に一般大衆の興味本位の関心を満足させるだけの商業主義的な行為である。
このような報道は、事案の真相究明にまったく役に立たなばかりか、偏見を助長し、法律が予定しない私的制裁に類するものであり、少年の更生を大きく妨げるものといえる。
4 まとめ
 当会としては、新潮社を対し、少年法61条及び児童の権利条約等に違反し、少年の人権を侵害するこのような報道を繰り返さないことを強く求める。


                    2015年(平成27年)3月19日
                            福岡県弁護士会
                            会 長 三浦 邦俊

2015年3月11日

司法予算の拡大を求める会長声明

1 我が国の司法予算(裁判所関係予算)は、長年にわたって低い水準にあり、国の一般会計予算比でわずか0.3%台で推移している。諸外国と比較しても、国家予算に占める割合が著しく低いと言わざるを得ない。平成26年度の司法予算額は約3111億円(うち人件費2599億円、物件費512億円)、平成27年度のそれは約3131億円(うち人件費2628億円、物件費503億円)である。
裁判所は国の三権の一翼を担い、様々な紛争を公平かつ適正に解決する機能とともに、正義を実現し、少数者・弱者の権利擁護の最後の砦としての役割を果たす大切な組織である。紛争を解決する、権利の侵害から救済する、違法な行為から身体や財産を守るという司法の役割を十分に発揮するためには司法予算の拡大が不可欠である。
今後、刑事・少年、民事のいずれの分野でも法的扶助の抜本的拡充が必要であり、裁判官の大幅増員や裁判所支部の充実などの司法基盤整備を進めるには、司法予算を現状よりも大幅に拡大する必要がある。

2 この点は、2001年(平成13年)6月の司法制度改革審議会最終意見書においても、「本改革の実現には、これに必要とされる人員・予算の確保が不可欠であり、厳しい財政事情の中にあって相当程度の負担を伴うものであるが、政府におかれては、・・・・・・大胆かつ積極的な措置を講じられるよう、強く要望」するとされており、さらに衆議院や参議院法務委員会も同年11月、「政府は、司法制度改革を実効あるものとするために、......特段(ないし万全)の予算措置を行うように努めること」との附帯決議をしているが、これが実行されているとは、到底、評価出来ない状態にある。

3 福岡県においては、福岡高等・地方・簡易裁判所(福岡市中央区城内)や福岡家庭裁判所(同区大手門)、福岡簡裁石城町分室(同市博多区石城町)を統合し、福岡市中央区六本松に移転集約化しようとしているところ、当会は、家庭裁判所については、高等裁判所及び地方裁判所と家庭裁判所とを同一の庁舎内に併設することには重大な問題があると指摘してきた。
つまり、基本的に公開を原則とする高等裁判所及び地方裁判所で取り扱われる民事事件や成人の刑事事件と、プライバシー保護の観点からの配慮が強く必要とされる少年事件や家事事件、なかんずくプライバシー保護に加えて少年の更生の観点が必要な少年事件は、別の施設であるのが原則であり、実際、これまで家庭裁判所は、高等裁判所及び地方裁判所とは別施設とされてきたのであり、裁判所自らがそのような原則を放擲されることは問題だと指摘してきた。
しかし、裁判所は、家庭裁判所について別の庁舎とすることは困難であるとするのみならず、同一庁舎とした場合の家庭裁判所エリアの独立性の確保ということについてさえ、独立した出入口やエレベーターを設けるなどして構造的に分離独立させることをせず、来訪者のプライバシーの保護や家庭裁判所としての平穏な雰囲気を作り出せる構造を採用しようとしない。このため、本年1月から高等裁判所庁舎で実施されているような来場者に対する手荷物検査が、家庭裁判所の来場者にも一律に実施されることになりかねないとの懸念を払しょくできない。

4 その原因の一つは、総事業費約180億円といわれる裁判所移転関係費につき、現在の大手門の家庭裁判所の敷地を売却することで費用を捻出するという財政上の制約にあると思われるが、仮に財政的な理由から、少年の心理的な安定の要請や家族間の紛争を解決する機関として平穏な雰囲気が求められている家庭裁判所を統合して移転するというのであれば、それは司法の不当な矮小化である。今後、各地において、このような経済的意味での施設の統廃合が進行することを強く懸念する。
そもそも司法の人的、物的基盤の脆弱さは、圧倒的に少ない司法関係予算に問題があると言わざるを得ず、この点が、国民の裁判を受ける権利に少なくない悪影響を及ぼしていることは、明らかである。よって、最高裁判所は、司法制度基盤の人的、物的基盤整備のために、財務省に対し、相応な予算を組むように強く求めるべきであって、政府、財務省は、最高裁判所の要求に応じ必要な予算措置をとるべきである。

5 国民の裁判を受ける権利を実質的に保障するためには、司法の役割を十分に発揮させるための人的、物的基盤の整備が必要であることは明らかである。当会は、家庭裁判所の統合問題に端を発して、国民の目線からは、司法予算の拡大をおこなうことが必要不可欠であることを訴えるために本声明を発するものである。

2015年(平成27年)3月11日
福岡県弁護士会
会  長  三 浦 邦 俊

2015年3月 9日

接見室内での写真撮影に関する国家賠償請求訴訟判決についての会長声明

 2015(平成27)年2月26日、福岡地方裁判所小倉支部第3民事部は、拘置所内において、弁護人が接見室内でした写真撮影に関する国家賠償請求事件につき、極めて不当な判決を言い渡した。弁護団は、本日、同判決に対して控訴を申し立てた。
 本件は、当時弁護人であった原告が、小倉拘置支所の接見室内で被告人と面会した際、被告人から、「拘置支所職員から暴行を受け、顔面を負傷したので、怪我を証拠に残してほしい」との訴えを受け、負傷状況を証拠化する目的で、携帯電話のカメラ機能を用いて写真撮影したところ、撮影した写真データを消去することを拘置支所職員らに強制された事案である。
 判決には、多くの問題が存するが、なにより接見を弁護人等と身体を拘束された被疑者・被告人(以下「被疑者等」という。)との意思疎通に限定し、写真撮影は接見交通権に含まれないと断じた点に重大な問題がある。
 いうまでもなく、憲法及び刑事訴訟法39条1項の保障する接見交通権は、被疑者等が弁護人から助言を受け、有効な防御権を行使するために不可欠な権利である。
 この接見交通権の意義に照らせば、接見の際に得られた情報を記録化することも接見の一環であり、接見時における写真撮影は、接見時の被疑者等に関する情報の取得・記録行為にほかならず、その意味で接見時にメモを作成することと本質的な差異はない。接見で得た情報の記録化を否定することは、情報の取得行為を否定することに等しく、被疑者等の弁護人依頼権という憲法上の権利を危うくしかねないものである。実務上も被疑者等との接見の際に写真撮影や録音・録画が行えなければ、接見における情報収集及び記録化を前提とする公判廷等への顕出が極めて制限される結果となり、被疑者等や弁護人の防御権は大きく制約されることとなる。ましてや、接見室への通信・撮影機器の持ち込みを一律に禁止することには何ら合理性はないと言うべきである。
 判決は、弁護人等が情報を記録することを弁護活動のひとつとして重要なものとしつつも、刑事施設の規律・秩序を根拠として制約が認められるとした。しかしながら、被疑者等が、弁護人の実質的な援助を受けて初めて、当事者が対等であるという前提が整い、刑事手続は公正なものといえるのである。
 ところが、判決は、弁護人等が情報を記録することが、規律・秩序の維持にどのような問題を生じるのかについて、何ら検討を加えていないばかりか、刑事訴訟の基本構造を踏まえたものとは到底言いがたく、弁護活動の重要性を軽視する姿勢は顕著と言わざるを得ない。
 当会は、被疑者等の実質的な弁護を受ける権利の保障を実現するため、写真撮影が、接見交通権に含まれるものであることを改めて表明するものである。


                    2015年(平成27年)3月9日
                    福岡県弁護士会 会長 三 浦 邦 俊

2014年12月10日

改めて特定秘密保護法の廃止を求める会長声明

本日、特定秘密の保護に関する法律(以下「本法」という。)が施行された。
 当会は、本法の法案段階から、同法の成立に反対し廃止を求める旨の会長声明を三度にわたり発表した。また、本法の問題点を市民と共に考えるシンポジウムを三度開催し、そのほか多数回に及ぶ街頭宣伝活動を展開してきた。
 そもそも、国が扱う情報は、最終的には国民の財産として国民に公表・公開されるべきものであると考える。ところが、本法は、①行政機関が秘密指定できる情報の範囲を広範かつ曖昧にしている点、②第三者による実効的なチェック体制を備えていない点、③それどころか、チェックをしようとする国民、国会議員、報道関係者などを重罰規定によって牽制する点で、およそ情報公開の理念に逆行するものとなっている。
 そのため、当会は、本法によって、主権者である国民が正しい意思決定を行うために必要な情報にアクセスできなくなり、国民の知る権利を侵害し、民主主義の根幹の破壊に繋がることが懸念されるとして、上記の各活動を展開してきたものである。なお、同様の懸念は、本法に関して、2014年7月26日に国際人権(自由権)規約委員会から日本政府に対して出された勧告意見中でも表明されている。
 そして、これらの懸念は、本法に関する「施行令」や「特定秘密の指定及びその解除並びに適正評価の実施に関し統一的な運用を図るための基準」等によっても、何ら払しょくされていない。
 また、政府は、本法の制定過程において、罰則強化や人的管理を内容とする立法の必要性について主権者たる国民に対して十分な説明をしていない。そのため、本法に関しては、国民的な議論が尽くされたとは到底言えず、これでは主権者たる国民の信認を得たものとはおよそ評価できない。
 従って、当会は、政府に対して、改めて本法を廃止し、制度の必要性や内容について、あらためて一から国民的な議論を行うことを強く求める。併せて、当会は、引き続き本法の廃止のための活動を行っていく所存である。
                                   以上

                   2014年(平成26年)12月10日
                      福岡県弁護士会 会長 三浦邦俊

2014年10月15日

「特定複合観光施設区域の整備の推進に関する法律案」(いわゆる「カジノ解禁推進法案」)に反対する会長声明

1 国際観光産業振興議員連盟(通称「IR議連」)に所属する国会議員によって、「特定複合観光施設区域の整備に関する法律案」(以下「カジノ解禁推進法案」という。)が国会に提出され、衆議院において継続審議となっている。

カジノ解禁推進法案は、刑法第185条及び第186条で処罰の対象とされている「賭博」に該当するカジノについて、一定の条件の下に設置を認めるために必要な措置を講じるとするものである。

しかしながら、経済効果のみが喧伝され、深刻な社会に対する影響等についての検討がなされていない。また、賭博であるカジノを合法化するような正当な理由は何ら認められないため、到底容認できない。

2 そもそも、カジノが合法化されることにより、「暴力団員その他カジノ施設に対する関与が不適当な者の関与」、「犯罪の発生」、「風俗環境の悪化」、「青少年の健全育成への悪影響」、「入場者がカジノ施設を利用したことに伴い受ける悪影響」(カジノ解禁推進法案10条)等の弊害が生じることが確実に予想される。

ギャンブル依存症の問題も深刻である。ギャンブル依存症は、経済的破綻をもたらすのみならず、自らを死に追いやる危険性もある重篤な疾患である。

ギャンブルをするために借金を繰り返す者が現れることも必至であり、多重債務者問題対策が一定の効果を上げているにもかかわらず、これに逆行して、再び多重債務者が増加する可能性が極めて高く、多重債務問題と共にヤミ金問題の再然も大いに危惧されるところである。

合法的賭博が拡大することによる青少年の健全育成への悪影響も看過できない。カジノができることにより、住環境、教育環境の悪化は避けられず、賭博に対する抵抗感を喪失させることにつながりかねない。

さらに、資金源獲得を目的とする暴力団の関与を完全に排除することは極めて困難であるといわざるを得ない。

仮に、カジノ解禁推進法の成立だけを理由に、日本人のカジノ利用や規制については別の法案で定めるとの修正がなされたとしても、その内容も不明確である上に、以上の問題点が払拭されることは無い。

3 刑法が賭博を禁じている主な趣旨は、「勤労その他正当な原因によらず、単なる偶然の事情により財物を獲得しようと他人と相争うものであり、国民の射幸心を助長し、勤労の美風を害するばかりでなく、副次的な犯罪を誘発し、さらに国民経済の機能に重大な障害を与えるおそれがあることから、これを社会の風俗を害する行為として処罰すること」(第186回国会衆議院内閣委員会における政府参考人の答弁)にあるところ、カジノ推進法案が成立すれば、刑事罰をもって賭博を禁止してきた立法趣旨が損なわれ、様々な弊害が生じることは必至である。

よって、当会は、カジノ解禁推進法案に強く反対の意見を表明し、カジノ解禁推進法案の廃案を求めるものである。

2014年(平成26年)10月15日
福岡県弁護士会
会長 三浦邦俊

2014年10月 1日

福岡刑務所尿道カテーテル事件控訴審判決に対する会長声明

2014年(平成26年)9月19日、福岡高等裁判所は、2010年(平成22年)4月当時福岡刑務所の受刑者であった控訴人が、腰痛の訴えに対して尿道カテーテルを挿入・留置されたことを理由として国に損害賠償を求めた裁判において、国に慰謝料等の支払いを命ずる判決を言い渡した。
一審の福岡地方裁判所は、強い腰痛の訴え等当時の状況に照らし、一時的安静・転倒防止のために尿道カテーテルを挿入・留置した医師の判断には合理性があるとして請求を棄却していたが、このたびの控訴審判決は、刑事施設内における医療も、社会一般の医療水準に照らして適切なものであるべきことを前提として、①医師の腰痛に対する診療が医療水準にしたがったものとはいえないこと、②本件は尿道カテーテル使用に関するCDCガイドラインの適応条件を充たさないこと、③福岡刑務所以外の刑事施設では腰痛患者に対して尿道カテーテルを使用することなく他の方法で対応していることを指摘し、一審判決を取り消し、本件カテーテル使用の違法性を認めたものである。
当会は、福岡刑務所における本件同様のカテーテル使用につき、控訴人を含む福岡刑務所内の受刑者6名からの人権侵犯救済申し立てを受け、2010年(平成22年)9月、福岡刑務所長に対し、腰痛患者に対する尿道カテーテル留置が憲法13条及び刑事被収容者処遇法56条に違反する重大な人権侵害であり、この侵害行為に関与した医師らに厳正な措置を採るとともに再発の防止を徹底すべき旨の警告を、また法務大臣に対し、刑事収容施設内における診療体制の強化やそれに必要な予算の構築も含めた適切な再発防止策を講ずべき旨の勧告を発している。
福岡刑務所は、当会の警告に対して、「医療措置に問題なし」とコメントし、国は本件訴訟においても尿道カテーテル使用の正当性を主張し続けてきた。今回の福岡高裁判決はそのような考え方に理由がないことを明らかにしたものであり、刑事施設被収容者の基本的人権の擁護の観点から高い評価に値する。
国に対しては、この高裁判決を重く受け止め、自ら非を認めて上告を断念するとともに、改めて、当会の警告及び勧告に沿った再発防止策を実現するよう強く求めるものである。
                         

                    2014年(平成26年)10月1日
                              福岡県弁護士会
                             会長 三浦 邦俊

2014年8月29日

死刑執行に関する会長声明

1 本日、東京拘置所、仙台拘置支所において、それぞれ1名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
  死刑執行は、本年(平成26年)6月26日に1名の死刑執行がなされたばかりであり、今後も新たな執行がなされることが懸念される。
2 本年(2014年(平成26年))3月に、1966年(昭和41年)にみそ製造会社の専務一家4名を殺害したとして強盗殺人罪などで死刑が確定した元プロボクサーの袴田巌氏(以下「袴田氏」と略。)に対する再審開始決定がなされ、刑事司法が無謬ではないという認識が世間一般に改めて広く共有されたところである。万一、袴田氏に対する死刑が執行されていたことを想像すると震撼させられるのを禁じ得ない。
そもそも、死刑という刑罰は、日本弁護士連合会の2011年(平成23年)10月7日の人権擁護大会の宣言でも触れられているとおり、①生命を奪う非人道的なものであり、②受刑者の更生し社会復帰する可能性を奪うものである点に根本的問題を内包している。そして、③人の生命を奪う点において、いかなる執行方法であっても、その残虐性は否定できない。
それ故、死刑の廃止は国際的な揺るぎない潮流となっているのである。
また、我が国では、死刑に直面している者に対して、被疑者・被告人段階あるいは再審請求の段階に至るまで十分な弁護権、防御権が保障されていない。執行の段階でも死刑確定者の人権保障の面で多くの問題を抱えている。
3 当会は政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに、今後、死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ、それに基づいた施策が実施されるまで、一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。
                                    以上
                 
                     2014年(平成26年)8月29日
                        福岡県弁護士会会長 三浦邦俊

2014年7月16日

集団的自衛権の行使等を可能とする閣議決定に抗議し撤回を求める会長声明

 本年7月1日、安倍内閣は、多くの国民の反対を押し切って、国会における議論も、国民的議論も尽くさないまま、従来の政府の憲法解釈を変更し、集団的自衛権の行使等を可能とする閣議決定を強行しました。  集団的自衛権は、わが国が直接攻撃されていないのにもかかわらず、他国のために武力を行使するもので、その行使は憲法第9条によって禁じられています。この憲法解釈は、これまでの政府答弁(1981年5月29日政府答弁書等)や国会決議(1954年6月2日参議院本会議決議)等の積み重ねによって確立しています。  日本弁護士連合会と当会をふくむ全国の弁護士会が一致して指摘するとおり、このたびの閣議決定は、それ自体が憲法第9条に反し、また、憲法によって政治権力の濫用を抑制する立憲主義に反するものです。   このたびの閣議決定は、「わが国の存立が脅かされ、国民の生命、自由及び幸福追求の権利が根底から覆される明白な危険がある場合」に「必要最小限度の実力を行使する」としています。しかし、これらの文言は極めて曖昧で、時々の政府の判断により都合良く解釈して運用されかねず、歯止めにはなり得ません。  さらに、閣議決定について政府が説明用に作成した想定問答集においては、集団安全保障に基づく武力行使への参加に道を開く回答がなされています。集団安全保障は、国連が侵略国などへの制裁として多国間の枠組みで対応する措置ですが、その措置の中には武力行使も想定されています。そのような事柄を、国民的議論がほとんどなされていないなかで準備をすることは、立憲主義の破壊、民主主義の破壊に等しく、到底許すことはできません。  このたびの閣議決定はまた、「わが国を取り巻く安全保障環境は根本的に変容」し、「アジア太平洋地域において問題や緊張が生み出さ」れていることをも集団的自衛権の根拠としています。仮にそうだとしても、そのような「問題」を解決し、「緊張」を緩和するよう、外交努力を強化することこそ政府の責務のはずです。  当会は、これまで、韓国の釜山地方弁護士会、中国の大連市律師協会等と親善交流を深め、相互の信頼関係を築いてきました。このような草の根の交流の蓄積を踏まえて、今後より一層、平和外交を進めることが平和国家として歩むべき道だと、確信するところです。  憲法違反の閣議決定に引き続く自衛隊法等の法改正も、憲法に違反するものとして許されるものではありません。  当会は、集団的自衛権の行使等を可能とする閣議決定に対して強く抗議し、その撤回を求め、今後予定される関係法の改正等に断固として反対するものです。

                                          2014年(平成26年)7月16日

                      福岡県弁護士会

                                                       会長 三 浦  邦 俊
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