福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

声明

2018年3月 9日

生活保護基準のさらなる引下げを行わないよう求める会長声明

政府は,2017年12月22日,生活保護基準を引き下げ,年間160億円を削減することを含む次年度予算案を閣議決定した。今回の基準改定では,毎日の生活費に相当する生活扶助基準が最大5%,母子加算が約20%削減される予定となっている。基準改定によって基準額が上がる世帯も存在するものの,全体では約70%の世帯が基準引き下げの対象となり,特に都市部の子どものいる世帯や高齢世帯において大幅な引き下げになることが見込まれている。
生活保護基準については,すでに2013年から3年間かけて生活扶助基準の引下げ(平均6.5%,最大10%)が実施されており,2015年からは住宅扶助基準や冬季加算の削減も行われてきたところである。これらに続くさらなる生活保護基準の引下げは,我が国全体の貧困化を促すことになりかねないと危惧される。
今回の引下げは,生活保護基準を第1・十分位層(所得階層を10に分けた最も下位10%の階層)の消費水準に合わせるという考え方の基づくものである。しかし,そもそも我が国における生活保護の捕捉率(生活保護基準未満の世帯のうち実際に生活保護を利用している世帯が占める割合)は,厚生労働省が公表した資料(2010年4月9日付厚生労働省「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」)によっても15%から32%程度と推測されているところであり,第1・十分位層の中には生活保護の利用が可能であるもののこれを利用することなく,生活保護基準未満の所得のみでの苦しい生活を余儀なくされている人たちが多数含まれている。この層の消費水準を比較対象とすれば,必然的に生活保護基準を最も貧困な水準に至るまで引下げ続けることにならざるを得ず,合理性がないことは明らかである。
生活保護基準は,憲法25条が保障する「健康で文化的な最低限度の生活」の基準であるのみならず,住民税の非課税基準,国民健康保険料の減免基準,介護保険の保険料・利用料や障害者総合支援法による利用料の減免基準,就学援助の給付対象基準,最低賃金等の多様な施策にも直接,間接の影響を及ぼすものである。すなわち,生活保護基準の引下げは,生活保護利用世帯の生存権を直接脅かすとともに,生活保護を利用していない市民生活全般にも多大な影響を及ぼすのである。
今回の生活保護基準のさらなる引下げは,すでに度重なる引下げを実施されている生活保護利用者をさらに追い詰めるだけでなく,市民生活全般の地盤沈下をもたらすものであり,容認できないものである。
よって,当会は,政府に対し,生活保護基準のさらなる引下げを行わないよう強く求めるものである。

                    2018年(平成30年)3月9日
                           福岡県弁護士会  
                             会長 作間 功

2018年3月 1日

死刑執行に抗議する会長声明

 2017年(平成29年)12月19日,東京拘置所において2名の死刑が執行された。2名ともに弁護人による再審請求が裁判所に係属している中であり,うち一人は犯行時19歳と未成年であった。この度の死刑執行は,政府において弁護人を付した再審請求中であっても,また,犯行時未成年であっても,死刑を執行するとの強い意志を示したものと言える。
 しかし,再審は,刑事裁判手続の誤謬を是正し,無実の者を誤判冤罪から救済するための最後の砦というべき制度であるところ,いったん死刑が執行されれば,失われた生命を取り戻すすべはない。再審請求に理由があるか否かは司法府(裁判所)が判断すべきことであり行政府(法務大臣)が判断できるものではないことからすれば,再審請求中に死刑を執行することは,行政府の判断によって生命を奪い去ることとなる結果を発生させるものであって,問題が大きい。
また,犯行時未成年であった者に対して死刑を執行することは極めて慎重であるべきである。未成年者は,生育環境の影響を受けやすく,完成された人格とは言いがたい。その一方で,大きな可塑性を有し,将来の更生が期待できる存在である。そのような犯行時未成年者であった者に対し,死刑を執行することは,刑罰のあり方として公正・適正と言えるのかという点から疑問である。
さらに,国連は,死刑は人の生命を剥奪する非人道的行為であるとの観点から,1966年に人権自由権規約(B規約)において,「生命に対する権利」を保障し,次いで1989年には,「死刑の廃止が人間の尊厳の向上と人権の漸進的発展に寄与する」とする第二選択議定書(死刑廃止条約)を採択している。国連は,国連総会決議及び国連人権自由権規約委員会の勧告を通じて,日本を含むすべての死刑存置国に対し,死刑廃止に向けての行動と死刑の執行停止を求め続けている。この国連の要請を受け,EUを中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止し,死刑存置国とされているアメリカ合衆国においても2017年6月の時点で19州が死刑廃止を,4州が死刑モラトリアム(執行停止)を宣言するなど,多くの国連加盟国(アメリカは州)は国連の理念に協調しようとしている。
ところが,政府は,国際社会からの死刑廃止に向けた勧告に対し,「死刑制度については,国民の多数が極めて悪質,凶悪な犯罪について死刑はやむを得ないと考えており,特別に議論する場所を設けることは現在のところ考えていない。」との政府見解を表明し,国連からの勧告に背を向け,日本における死刑の存置と執行を正当化している(UPR第2回日本政府審査・勧告に対する日本政府の対応)。
政府は,かかる態度をとる理由は国民世論にあると説明する。しかし,2014年(平成26年)の内閣府世論調査結果を子細にみると,死刑もやむを得ない(80.3%)と回答した者の中の40.5%は状況が変われば将来は死刑を廃止して良いとする考えに賛成であり,「死刑存置」の意見に賛成する者と「死刑廃止または廃止の可能性を認める」の意見に賛成する者は,おおよそ10:9の割合で拮抗しているのであって,国民世論の圧倒的多数が積極的に死刑に賛成している訳ではない。
誤判,冤罪によって理不尽に生命・自由が奪われるということへの危惧は,机上のものではない。そのことは,4件の死刑再審無罪判決(免田・財田川・松山・島田各事件),再審開始決定が出された袴田事件,そして,死刑求刑事件ではないものの,比較的近年の事件である東住吉事件,東電OL事件,氷見事件などから明らかである。冤罪による無辜の処罰は,過去の例外的事例として葬り去ることはできない。我々は,死刑制度が無実の者の生命を奪う危険性のある制度であることを十分に踏まえ,その上で,死刑を存置させるのか廃止させるのかを議論を尽くす必要がある。
政府は,国連の死刑廃止に向けた要請を真摯に受け止め,積極的・能動的に,日本国民に対し,自由と平等と平和を維持するために採択した人権自由権規約(B規約)の中核にある人間の尊厳・生存権を奪うことのできない権利とする価値観・理念の普遍化に努めるべきである。
 日本弁護士連合会は,2016年(平成28年)10月7日の第59回人権擁護大会において「死刑廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し,日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑廃止を含む刑罰制度改革を目指すべきことを政府に求めた。
当会は,日本弁護士連合会の前記宣言の趣旨を踏まえ,2016年11月11日当会会長声明を発出して,死刑執行に抗議を行っている。当会は,改めて,本件死刑執行について,ここに強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,死刑廃止に向けた議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請する。

2018年(平成30年)3月 1日
                 福岡県弁護士会会長  作 間  功

2018年2月26日

犯罪報道において、犯罪被害者や遺族の名誉、プライバシー、平穏な生活を送る権利を尊重することを求める会長声明

 2017年(平成29年)10月,神奈川県座間市のアパートから9名の方の遺体が発見されるという事件が発生した。その後,被害者の方の身元が判明すると,被害者の遺族が被害者の実名や顔写真を公表しないよう報道機関に対して要請していたにもかかわらず,被害者の実名と顔写真が新聞,雑誌,テレビ等に掲載されるという事態が生じた。しかも,被害者の生活状況,家族構成,被害者に自殺願望があった可能性や凄惨な被害状況までもが仔細に報道され続けた。
 およそ犯罪被害者や遺族は,犯罪そのものによって容易に回復し難い深刻な被害を受けている。それに加えて,公表されることを望まない情報が報道されると,犯罪被害者や遺族は,さらなる精神的苦痛を受け,二重の苦しみを蒙ることになる。犯罪報道は,そのあり方如何によっては,犯罪被害者や遺族の名誉,プライバシーと平穏な生活を送る権利を著しく侵害するもので,さきの座間市の事件における事態は,看過できないものであった。
 確かに,報道の自由は,国民の知る権利に奉仕するための憲法上重要な権利であり,そのための取材の自由も尊重されるべきことは言うまでもない。犯罪報道も,一般に公共の利害に関することと考えられており,被害の影響を広く訴えることによって社会を変革するという大きな意義を有するものであること,また,犯罪被害者の実名報道についても捜査の事後的な検証を可能にするという意義もあることは承知している。
 しかし,そのような報道の意義は,果たして匿名報道によっても達成できないのか,名誉・プライバシーという,現代社会において最大限に守られるべき重要な人権との関係において,事案ごとに慎重な吟味・検討が必要と考える。犯罪被害者や遺族は,犯罪被害に遭わなければ普通の市民生活を送っていたはずであり,実名報道をすべき公共の利害に関するものと言えるかは,慎重に検討されなければならない。まして実名報道の上に被害者のプライバシーを白日のもとに曝す詳細な報道については一層慎重な検討が必要である。しかも,現代のインターネット社会では,いったん情報が報道されれば,その情報は半永久的に残存することとなり,一度侵害された犯罪被害者とその遺族の権利の回復は,もはや不可能である。
 そこで,当会は,報道機関に対し,犯罪被害者に関する情報を報道するにあたっては,犯罪被害者や遺族の名誉,プライバシー,平穏な生活を送る権利を尊重し,厳密な検討を加え,慎重な判断に基づく適切な報道を行うことを求める。

                 
                 2018年(平成30年)2月26日
                       福岡県弁護士会 会長 作間 功

2018年2月23日

民法の成年年齢引下げに反対する会長声明

1 現在,民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることが検討されており,成年年齢に関する民法の一部を改正する法律案の提出が今国会に提出される見通しである。

しかし,この法案には反対である。その理由は次のとおりである。

2 2009年(平成21年)10月の法制審議会による「民法の成年年齢の引下げについての最終報告書」(以下「最終報告書」という。)において,「民法の成年年齢の引下げの法整備を行うには,若年者の自立を促すような施策や消費者被害の拡大のおそれ等の問題点の解決に資する施策が実現されることが必要である」とされ,引下げの時期については,「これらの施策の効果の若年者を中心とする国民への浸透の程度やそれについての国民の意識」が重視されていた。

また,内閣府消費者委員会は,2017年(平成29年)1月10日付けで,「成年年齢引下げ対応検討ワーキング・グループ報告書」を踏まえ,成年年齢引下げにより若年者の消費者被害の拡大への懸念と被害防止及び救済の施策の必要性を指摘していた。

私たちの法律実務上の経験によれば,18歳,19歳の若年者を中心に,マルチ商法,キャッチセールスやアポイントメントセールス,サイドビジネス,エステなどの医療美容サービス,インターネット取引などにおいて,被害が多く発生している。18歳,19歳といえば,高校生,大学や専門学校の1年生,2年生,あるいは高校卒業後就職して間もない頃であり,大学受験,大学や専門学校への進学,就職,上京,転居など,人生における大きな節目を迎えるとともに,高額の支払いを伴う様々な契約(各種学校への入学や,留学に伴う諸手続き,賃貸借契約など)を締結したり,アルバイトをするなど社会と接触する機会が一気に増える時期である。また,学校等における先輩後輩関係や友人関係等の影響を受けやすく,リスクを十分把握しないままに断りきれずに誘いに応じるといったことから,人間関係を介して被害が拡大し,また,被害に遭ったときにどう対応すればいいかも分からずに一人で問題を抱え込んでしまい,被害の解決が遅れ,さらに被害が深刻になったり,拡大してしまうという事態が生じやすい。したがって,18歳,19歳という時期こそ消費者被害に巻き込まれる可能性が格段に高まり,こうした被害から若者を守るべきことが必要な年代なのである。

このような被害について,私たちは,現状,未成年者取消権を用いることで若年者を救済している。

しかしながら,今後,18歳,19歳の若年者の取消権が失われれば,若年者が消費者被害に巻き込まれた際に,これを解決する残された主な手段は,債務整理しかないこととなり,救済策として極めて不十分である。加えて若年者が多額の負債を抱えてしまった場合,生活に困窮したことでさらなるトラブルを抱えてしまったり,あるいはその負債の返済に負われて進学を諦めてしまうという事態が危惧される。また,債務整理を行うことで信用情報(いわゆるブラックリスト)に記録が残ってしまい,希望する就職先に就職することができないといった深刻かつ重大な結果をもたらすことになってしまうことも懸念される。

その他にも,成年年齢が引き下げられることで,養育費を受けている場合ではその支払いの終期が早まってしまったり,未成年者に不利な労働契約の解除権(労働基準法58条2項)行使ができなくなる結果,若年労働者の労働環境が悪化してしまうということも危惧される。

さらに,教育の現場においても,法改正により,高校において成年者と未成年者が混在する事態が生じることになる。そのうえ,学生においては,18歳になった時点から自由に取引ができることになるが,消費者契約法や特定商取引法,割賦販売法など消費者保護法制について習熟しているとはいえない状況で,18歳,19歳の若年者に対する保護がなくなった場合,自己責任の名の下に,悪徳業者から狙い撃ちにされてしまう危険がある。

3(1) 以上の次第で,若年者を深刻な消費者被害に巻き込む重大な懸念があり,その救済が極めて困難となることから,民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることについては反対である。

(2) 仮に引き下げを行うとしても,若年者保護の見地から,それに先立って若年者が自らの利益を適切に守ることができる法的措置がなされることが前提とされなければならないと考える。

具体的には,少なくとも,(1)事業者が消費者の判断力,知識,経験等の不足につけ込んで締結させた契約を取り消すことができる規定を定めること(消費者契約法の改正),(2)知識,経験,財産状況に照らして,当該取引を行うのが適切でない若年者に対する勧誘を禁止するとともに,そのような勧誘が行われた場合にはその契約を取り消すことができる規定を定めること(特定商取引法の改正),(3)若年者の若年者がクレジット契約をする際の資力要件とその確認方法を厳格化すること(割賦販売法の改正),(4)若年者が貸金業者,銀行等金融機関から借入れを行う際の資力要件とその確認方法につき厳格化を図ること(貸金業法と主要行等向けの総合的な監督指針等の改正)が必要である。

これらの法制度が構築され,社会に浸透し,国民の理解が得られた時点において成年年齢の引下げが行われるべきであり,これらの前提なく民法の成年年齢を20歳から18歳に引き下げることには強く反対せざるを得ない。

2018年(平成30年)2月23日
福岡県弁護士会 会長 作間 功

2018年1月15日

給費を受けられなかった6年間の司法修習生(「谷間世代」)が被っている不公平・不平等の是正措置を求める会長声明

1 昨年4月19日,司法修習生に対して,月額13万5000円,住居が必要となる者にはさらに月額3万5000円を支給する修習給付金制度を創設する裁判所法改正がなされた。司法修習費用給費制(以下「給費制」という)の重要性を訴え,その廃止後は一貫してその復活を求めてきた当会としては,ここに改めて,法務省,最高裁判所,衆参両院はじめ関係各位のご理解とご支援・ご英断に篤く感謝申し上げる。
 司法は,三権の一翼として,法の支配を実現し国民の権利を守るための枢要な社会インフラであり,法曹はこの司法の担い手として公共的使命を負っている。そこで国は,高度な技術と倫理感が備わった法曹を国の責任で養成するために,現行の司法修習制度を,1948年(昭和23年),日本国憲法施行と同時に発足させ運営している。この制度の中で,司法修習生は,修習専念義務(兼職の禁止),守秘義務等の職務上の義務を負いながら,裁判官・検察官・弁護士になる法律家の卵として,将来の進路にかかわらず,全ての分野の法曹実務を現場で実習し,法曹三者全ての倫理と技術を習得してきた。
司法修習制度が,修習専念義務を課したうえで国の責任で法曹を養成する制度である以上,修習に専念できるに足る生活保障を行うのは当然であり,戦後60余年にわたり維持されてきた給費制を2011年(平成23年)に廃止したことを見直して,今回の裁判所法改正によって修習給付金制度を創設したことは,司法修習生に対してあるべき経済的支援策の回復に向けての大きな前進として評価できる。


2 ただ,修習給付金は,その金額が安心して修習に専念できる十分な金額かどうかの問題があり,これについては継続的な調査・検討が必要であるが,これに加えて,上記裁判所法改正法の遡及適用が見送られたため,給費制が廃止されていた2011年(平成23年)度から2016(平成28年)度までの6カ年間に,無給のもと,同じ修習専念義務を負って同じ内容の修習を遂行した新65期から70期の司法修習修了者(以下「谷間世代」という)の経済的負担が旧65期以前及び71期以降の修習修了者に比して著しく重くなるという不公平・不平等な事態が発生している。しかも,谷間世代の法曹は約1万1000人に達し,全法曹(約4万3000人)の約4分の1を占め,看過できない事態となっている。
 国の責任で司法修習という制度を設置・運営している以上,このような不公平・不平等な事態を放置することは不合理かつ不条理というべきである。


3 当会では昨年8月,谷間世代の声を聴く会を開き,また同年11月には「修習給付金の創設に感謝し,谷間世代1万人の置き去りについて考える福岡集会」を開催するなど,谷間世代の会員の声に耳を傾けてきたところ,「もっと社会公益的な活動をしたくて弁護士になったが,貸与金返済が控えていて経済的余裕がないために、公益活動や積極的な業務への取り組みを自制しがちとなっており残念だ」,「貸与金の返済が始まるとコストパフォーマンスの良い仕事を優先してしまうのではないかと不安である」,「多額の貸与金や奨学金の返済債務のために、妊娠・出産を躊躇してしまう」等の切実な声が多数寄せられた。
法曹人口が急増し,弁護士の経営・収入状況の悪化という事態が生じている昨今,谷間世代の者が負わされた経済的負担を放置することは,彼らの法曹としての自由闊達な活動の制約要因となり,「法曹人材確保の充実・強化」が目指す司法の充実・強化という目的に反することとなる。
  また,今回の法改正の趣旨は,「法曹人材確保の充実・強化」という点にあるところ,制度の設置・運営責任者である国が上記のような事態を放置していることは,法曹を目指す者に対して,給付金制度の存続について不安を生じさせ,上記改正法の趣旨を減殺させる結果を招きかねない。
さらに,そもそもわが国の司法修習制度は,法曹一元の理念を背景に統一修習制度として設置・運用され,これがわが国法曹の一体感と公共的使命感の醸成に寄与してきた点で貴重なものであるところ,谷間世代のかかる不公平・不平等を放置することは谷間世代とその前後の世代との間での分断を生じることとなる点でも看過できない深刻な問題である。
これらの弊害を是正することで、谷間世代を含んだ法曹全体に一体感が生まれ、そのことにより特に若手の法曹がこれまで以上に幅広い分野で国民の権利擁護のために活躍することが可能となるなど、ひいて国民の利益に叶うことは明らかである。


4 以上の次第であるので,当会は,法務省,最高裁判所,国会に対して,谷間世代の経済的負担が旧65期以前及び71期以降の修習修了者に比して著しく重くなったままであるという不公平・不平等な事態が発生していることについて,一律給付などの方法によりこれを是正する措置を講じることを求める。なお,これとあわせて,本年7月25日(新65期司法修習修了者の貸与金返還開始時期)までに上記の措置が講じられない場合,上記是正措置が講じられるまでの間,貸与金の返還期限を一律猶予する措置を講ずることを求める。

                    2019年(平成30年) 1月11日
                      福岡県弁護士会  
                      会長 作 間  功

2017年11月28日

地方消費者行政に対する国の財政的支援の継続を求める会長声明

1 違法に収益を得ようとする悪徳業者は,その時々の時世を見つつ,手を変え品を変え,消費者を困惑・誤信させる新たな手口を考案している。また,悪徳業者は,特定の地域で活動を行い,その地域で警戒感が高まると他の地域に移るという傾向があるため,消費者被害に対しては,地域で速やかに情報を共有し,迅速に対応するということが肝要である。

そして,このように変転していく消費者被害に迅速かつ適切に対応するためには,消費者行政,とりわけ消費生活相談センターとそこで消費生活相談業務に当たる職員の果たす役割が重要である。消費生活相談に関する情報は,職員によってPIO-NET(全国消費生活情報ネットワークシステム)という全国共通のデータベースに入力・共有されているが,情報の具体性,正確性,迅速性に鑑みて,PIO-NET情報を適切に用いた消費生活相談業務の重要性は言うに及ばない。

2 この点,2017年(平成29年)7月25日,消費者庁は,地方消費者行政推進交付金等(以下,「交付金等」という。)による支援が平成29年度に1つの区切りを迎えることを受けて,今後の方向性を明らかにするべく,「地方消費者行政の充実・強化に向けた今後の支援のあり方等に関する検討会」の報告書を公表しているが,同報告書においては,高齢化,情報化,国際化の進展等による新たな消費者問題や国の重要課題について,それらの課題に取り組む地方自治体に対して国が支援を行うとしつつも,これまで交付金等により整備した体制を維持し,さらなる地方消費者行政の充実を目指すために,地方の財源の確保を促す必要があるとしている。

しかし,同報告書でも指摘されているとおり,現状として,地方交付税措置よりも地方自治体の自主財源は少なく,必ずしも地方自治体の自主性に任せるということだけでは,地方消費者行政の財源充実を実現することはできず,むしろ後退することにもなりかねない。

今後,より専門的に,多様になる相談に迅速かつ適切に対応できるように備えるためには,有資格者を相談職員として十分に配置し,相談,あっせん業務を実効的にすることが必要であり,引き続き地方消費者行政を充実していく必要がある。

そこで,交付金等によりそれまでに整備した体制の維持,地域格差の是正及び国の事務の性質を有すると考え得る事項への対応のため,国が,使途を消費者行政に限定した地方自治体に対する実効的かつ継続的な財政支援を行うべきである。

当会は,これまでも地方消費者行政の充実を求めてきたが,「地方消費者行政の充実・強化に向けた今後の支援のあり方等に関する検討会」の報告書の公表を受けて,改めて地方消費者行政に対する国の財政的支援を求める。

2017年(平成29年)11月28日

福岡県弁護士会 会長 作間 功

2017年10月27日

接見室内での写真撮影に関する国家賠償請求訴訟控訴審判決についての会長声明

 2017年(平成29年)10月13日,福岡高等裁判所第4民事部は,拘置所の接見室内で弁護人がした写真撮影に関する国家賠償請求事件につき,極めて不当な判決を言い渡した。弁護団は,本日,同判決に対して上告及び上告受理の申立てを行った。
 本件は,当時弁護人であった控訴人(1審原告)が,小倉拘置支所の接見室内で被告人と面会した際,被告人から,「拘置支所職員から暴行を受け,顔面を負傷したので,怪我を証拠に残してほしい」との訴えを受け,負傷状況を証拠化する目的で,携帯電話のカメラ機能を用いて写真撮影したところ,撮影した写真データを消去することを拘置支所職員らに強制された事案である。
 本判決には多くの問題が存する。一つは,面会室内への撮影機器の持込みを禁止する刑事施設の長の措置を,「庁舎管理権」というきわめて広汎かつあいまいな根拠により正当化していること,もう一つは,弁護人が有する接見交通権の重要性を看過していることである。これらの点は,日本弁護士連合会(日弁連)会長が本年10月13日付けで発した「面会室内での写真撮影に関する国家賠償請求訴訟の福岡高裁判決についての会長談話」においても指摘されている。
 上記談話が指摘するとおり,身体を拘束された被疑者・被告人(以下「被疑者等」という。)が十分な防御権を行使するための大前提となるのが,憲法・刑訴法上認められた接見交通権である。そして,接見の際に得られた情報を記録化することは接見そのものであり,かつ,弁護活動の一環であることは明らかであって,有効な防御権行使のためにいかなる方法で記録化するかについても,原則として弁護人の裁量にゆだねられるべきものである。
 上記の日弁連会長談話に加え,以下の2点を指摘する。
 本判決は,「庁舎管理権」について,国が,庁舎に対して有する所有権を根拠として,「特に法令によって制限されていない限り,明文の規定がなくても,その庁舎に対して包括的な管理支配権を持ち,その事務の遂行に支障となる行為を禁止することができる」とし,刑事収容施設法(刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律)に明文の規定がなくとも,弁護人の面会室への撮影機器の持込みを制限できるなどというのである。
 ある行為を禁止し,またはいかに制限するかについては,明文の法律により規定されなければならないという考え方(法治主義)は,近代国家における大原則である。本件では,その禁止・制限となる対象が,先述のとおり憲法・刑訴法に基礎を置く重要な権利であるはずの接見交通権・弁護権なのであるから,尚更,その制約根拠は明確なものでなければならない。その根拠も内容も法文上明確とはいえない「庁舎管理権」なる権限により,接見の際の撮影機器持込みや撮影行為を容易に制約できるというのであれば,接見交通権・弁護権の保障は大きく後退するというほかない。
 次に,本判決は,「刑事施設における面会は,被収容者に対する処遇という事務の一内容であり,面会室で弁護人を含む一般国民が面会できるのは,刑事施設の長が当該面会室を面会の場所として指定したことの反射的効果にすぎない」などと述べる。かかる指摘は,弁護人には面会室という施設を使用する権利などないというに等しい。この点からも,本判決は,接見交通権の保障を不当に軽んじる態度が顕著であり,到底承服できないものである。
 当会は,引き続き,実質的な接見交通権・弁護権の保障を実現するため,写真撮影が接見交通権に含まれるものであるとともに,これを法令の根拠なく制限することはできないはずであることを改めて表明するものである。
                                          2017年(平成29年)10月27日
                福岡県弁護士会  会 長  作 間  功

2017年7月19日

最低賃金額の大幅な引き上げを求める会長声明

 まもなく福岡地方最低賃金審議会は,福岡労働局長に対し,本年度地域別最低賃金額改定についての答申を行う予定である。
 昨年,同審議会は,福岡県最低賃金の改正決定について,前年度比22円増額の765円とする答申を行った。しかし,あまりに低い増額幅で不当と言わざるを得ないものであった。すなわち,時給765円という水準は,1日8時間,月22日間働いたとしても,月収13万4640円,年収約162万円に止まるものである。この金額では,労働者がその賃金だけで自らの生活を維持していくことは容易ではなく,ましてや家計の主たる担い手となるのは困難である。また,いわゆるワーキングプアを解消して労働者の生活を安定させ,労働力の質的向上を図るためにも,最低賃金の引き上げは重要であるところ,かかる観点からも全く不十分な水準であった。
 福岡県の最低賃金は,昨年度の全国加重平均823円を下回り,最も高額な東京都の932円を167円も下回っていることは重大である。福岡県に限らず,都心部と地方の地域間格差は拡大傾向にあるところであり,地方の活性化のためにも,地方の最低賃金の大幅な引き上げによる格差の解消は喫緊の課題と位置付けられるべきである。
 加えて,政府が,2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」において,2020年までに「全国平均1000円」にするという目標を明記していたことに照らせば,福岡県において,2020年までに1000円という目標を達成するためには,1年当たり少なくとも60円程度の引上げが必要であるのは明らかである。
 なお,最低賃金の引き上げに際して,地域の中小企業の経営に特別の不利益を与えないよう配慮することが必要なことは当然である。最低賃金の引き上げを誘導するための補助金制度等や中小企業の生産性向上のための施策ないし減税措置等,中小企業を対象とした制度も併せ検討されるべきである。
 また,福岡地方最低賃金審議会の審議内容は,現在,要旨の公表しかなされていないが,議事の透明性と公正の確保の点から,詳細な議事録,配布資料の公開を実現すべきことも指摘したい。例えば,鳥取地方最低賃金審議会においては,審議等の全面公開が実現しているがこれによる問題は生じておらず,その気になれば,その実現は可能なのである。
 以上,当会は,福岡地方最低賃金審議会に対し,今年度の答申に当たっては,最低賃金を大幅に引き上げるよう決定することを求めるとともに,同審議会の詳細な議事録等の公開を求めるものである。

2017年(平成29年)7月19日

福岡県弁護士会会長  作 間 功

2017年7月13日

死刑執行に関する会長声明

 本日,2017年(平成29年)7月13日,大阪拘置所と広島拘置所において各1名の死刑が執行された。


 一人は再審請求を行っている中での死刑執行であり,また,一人は裁判員裁判において被害者1名で死刑判決が下され,弁護人が控訴したにもかかわら ず自ら控訴を取り下げ死刑が確定した者に対する死刑執行である。
 前者は,現行法の再審制度の問題(死刑判決に対する再審請求に執行停止効がないこと)を提起するものであり,後者は一審のみの判断で究極の刑罰である死刑を科すことの是非や自動上訴制度の導入の是非という問題を提起する ものであり,いずれも,生命剥奪という究極の刑罰権である死刑の正当性について,手続保障の観点から大きな疑義を持たざるを得ないものである。


 我が国において,死刑事件について,すでに4件もの再審無罪判決が確定しており(免田・財田川・松山・島田各事件),えん罪によって死刑が執行される可能性が現実のものであることが明らかにされた。また,2014年(平成26年)3月27日には,死刑判決を受けた袴田巖氏の再審開始が決定され,同時に「拘置をこれ以上継続することは,耐え難いほど正義に反する」として,死刑および拘置の執行停止も決定されて,現在でもなお死刑えん罪が存在することが改めて明らかとされたところである。

 そもそも,死刑は人間の尊厳を侵害する非人道的行為であること,誤判・冤罪により死刑を執行した場合には取り返しがつかないことなどの様々な問題 を内包しており,2014年(平成26年)の内閣府世論調査では,代替刑の創設により死刑廃止を容認する国民的世論が形成されうる可能性が示唆され ている。
 また,EUを中心とする世界の約3分の2の国々が死刑を廃止又は停止し, 死刑存置国とされているアメリカ合衆国においても2017年6月の時点で 19州が死刑廃止を宣言するなど,死刑廃止は国際的な潮流となっており,未だに死刑制度を存置させ死刑を執行しているわが国は,国連人権(自由権)規約委員会から何度なく死刑廃止に向けた行動を取ることの勧告を受け続けている。

 このような中,日本弁護士連合会は,再審無罪となった事件や袴田事件再審決定に代表される誤判・冤罪の現実的危険性を踏まえ,また,いかなる者であろうとも変わり得ることを前提に社会内包摂を目指すべきことを主な理由として,2016年(平成28年)10月7日の第59回人権擁護大会において「死刑廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言」を採択し,日本において国連犯罪防止刑事司法会議が開催される2020年までに死刑制度の廃止を目指すべきこと,また,代替刑として,刑の言渡し時に「仮釈放の可能性がない終身刑制度」,あるいは,現行の無期刑が仮釈放の開始時期を10年としている要件を加重し,仮釈放の開始期間を20年,25年等に延ばす「重無期刑制度」の導入の検討等を政府に求めたばかりである。
 
 当会は,本件死刑執行について強く抗議の意思を表明するとともに,死刑制度についての全社会的議論を求め,この議論が尽くされるまでの間,すべての死刑の執行を停止することを強く要請するものである。

2017年(平成29年)7月13日

福岡県弁護士会会長  作 間 功

2017年6月15日

共謀罪法成立に対する抗議の会長声明

1 本年3月21日に国会に提出されたテロ等準備罪,すなわち,共謀罪を含む組織犯罪処罰法の改正法(以下「共謀罪法」という。)は,6月15日,真摯な議論が全く尽くされないまま強行採決され成立するに至った。

当会では,共謀罪法に関し,2005年(平成17年)8月31日,2015年(平成27年)12月5日及び本年2月17日付会長声明を出し,直近では本年5月24日付「共謀罪法案の廃案を求める決議」において,修正前の共謀罪法における多数の重大な問題点を指摘し,共謀罪の新設に強く反対してきたところである。

2 5月12日になされた,自民,公明両党及び日本維新の合意に基づく共謀罪法の主な修正点は,捜査の適正確保の配慮を求めることを明文化したことにとどまる。適用対象主体及び適用対象犯罪が過度に広範であること,構成要件が不明確であることといった共謀罪法の根本的問題はなんら解決されていない。これら根本的問題を残したままでは捜査機関による恣意的な捜査による人権侵害や,捜査を懸念することによる表現活動等の萎縮が生じると言わざるを得ない。

3 上記修正案が提出された後,5月16日に開かれた衆院法務委員会に招致された5人の参考人のうち,法案に賛成した日本維新の会が招致した参考人も含め,3人もの参考人が法案に反対した。5月18日には,国連人権理事会からプライバシー権に関する特別報告者として任命されたジョセフ・ケナタッチ氏も,安倍首相宛ての書簡にて「プライバシーに関する権利と表現の自由への過度の制限につながる可能性がある。」との懸念を示した。5月22日現在,全国57自治体の議会において,共謀罪法案について反対または慎重な審議を求める意見書が可決・採択されており,国民の多くが共謀罪法に反対またはその必要性に疑念を抱いている状況であった。

4 そうであるのに,6月15日,自民公明両党は「中間報告」によって参院法務委員会での採決を省略するという異例の手段をとり,十分な議論がなされないまま共謀罪法は同日夜に参院本会議で採決され成立するに至った。多くの国民が反対もしくは必要性に疑念を抱く中,民主主義の根幹である表現の自由の萎縮をもたらす重要法案について実質的な審議を回避し共謀罪法を成立させたことは立憲民主主義の蹂躙というほかない。当会は,今後も国民と手をたずさえ,民主主義の根幹をゆるがしかねない共謀罪法の廃止を求め続けるとともに,共謀罪法により国民の権利が不当に侵害されることのないよう全力を尽くす所存である。

2017年(平成29年)6月15日
福岡県弁護士会 会長 作間 功

        
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