福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
声明
2011年4月26日
民法(債権関係)の改正に関し,法制審議会民法(債権関係)部会がとりまとめた「中間的な論点整理」についてパブリックコメントの募集実施の延期を求める会長声明
平成21年10月の法務大臣の諮問を受けて,法制審議会民法(債権関係)部会では,同年11月から平成23年4月12日まで26回にわたる審議を続け,部会第26回会議で,「民法(債権関係)の改正に関する中間的な論点整理案」(以下,「論点整理案」という。)を取りまとめている。
この論点整理案は,債権の本質にかかわる履行請求権から,債権の効力に関する債務不履行,詐害行為取消権,弁済消滅,多数債権関係,契約の解除,契約と約款や不当条項規制,売買も含む瑕疵担保,賃貸借,請負,雇用,事情変更の原則,不安の抗弁,継続的契約,消費者概念と民法典との問題等を網羅するものである。そして,この民法が,国民生活や企業の経済活動に直結する極めて重要な基本法である以上,論点整理案に対しては,広く国民各層の意見を求め慎重に検討されるべきものであることは明らかである。
平成23年3月11日に東北及び関東地方に大地震及び津波が襲い,更に深刻な原子力発電所の事故が起きた。既に1ヶ月以上経過しているが,死者は1万4000人を超え,行方不明者は1万3000人以上,避難中とされる人は13万人以上という甚大な被害が生じている。また原子力発電所の事故は,危機的状況が現在も続いている。このように東日本大震災の社会に与える影響は深刻であって,事態の終息は全く目途が立たない状態にある。
このため,既に仙台弁護士会からパブリックコメントの延期等を求める会長声明が出され,その後も大阪弁護士会や兵庫県弁護士会から同様の会長声明が出されている。
まず,広く国民各層の意見を求めるというパブリックコメントの趣旨からして,被災地が,論点整理案に十分な検討が出来ない時期にパブリックコメント手続をとることが不適切であることは当然である。しかも,当然ながら,この論点整理案作成までの審議期間中,今回の東日本大震災により惹起される多様な法律問題は全く想定されていなかった。
特に,今回の論点整理案で検討を求められている論点との関係では,例えば計画停電との関係では約款の効力が問題になり,取引関係については,震災により履行できない場合に契約の効力と危険負担,事情変更の原則の適用や契約の解除が問題となっている。また,住居を巡る賃貸借契約や請負契約の瑕疵担保責任,使用者の震災に伴う雇用契約の効力といった多数の法律上の論点が,東日本大震災を契機としてまさに現在進行中で議論されている。これらの論点を含む論点整理案に対するパブリックコメントは,これら現在進行形の危機的状況を正確に把握してからなされることが,社会の基盤をなす民法をより実効的に改正するために不可欠である。
よって,当会は,国に対し,論点整理案に対するパブリックコメントの募集実施期間を,今回の震災に伴う社会的混乱がある程度終息し,かつ,事態を冷静に把握できる時期まで相当程度延期することを求めるとともに,今後の民法(債権関係)部会の審議も震災の影響を十分に配慮して進行されることを求める。
平成23年4月26日
福岡県弁護士会
会長 吉村敏幸
2011年4月 1日
検察の在り方検討会議の提言に対する会長声明
昨日、検察の在り方検討会議の提言が発表された。
当会が必要性を強く訴えてきた取調べの全過程の録音・録画についてどのような提言がなされるか注目していたが、その内容については、深く失望せざるを得ない。
検察の在り方検討会議については、平成22年11月に始まった当初は、検察の問題について深く鋭い見識をもった委員も多く選任されたことなどから、同会議による議論が、厚労省元局長無罪事件によって露呈した現在の検察が抱える問題点を正面から受け止め、取調べの全過程の録音・録画を含む抜本的な解決策を提示することに繋がることが期待されていた。
実際、公開された議事録を見る限り、多くの委員が現在の検察が抱える問題点について厳しく指摘するとともに、取調べの全過程の録音・録画の必要性を指摘している。 中には取調べの全過程の録音・録画に否定的な意見を述べた委員もいたが、その多くは検察や警察出身者、あるいは一部研究者であり、「国民の声」と評価するのに疑問を持たざるを得ない意見であった。
さらに、同会議のために行われた現職検事に対する意識調査では、「取調べについて、供述人の実際の供述とは異なる特定の方向での供述調書の作成を指示されたことがある」という質問に対して、「大変良くあてはまる」という回答が6.5%、「まあまあ当てはまる」という回答が19.6%、「どちらともいえない」という回答が16.1%も存在したという結果が明らかとなった。
そもそも、これは最高検が実施した意識調査であり、そのような身内の意識調査においてさえ上述したような数値が出ているということは、驚愕に値することである。
このように実際の供述と異なる供述調書の作成を部下に指示する上司は、これまでに自らが取調べをする際にも、実際の供述と異なる供述調書を何通も作成し続けてきた可能性が高い。また、部下の検事に指示することまではせずとも、自分が取調べをする際には、実際の供述と異なる供述調書を作成したことがあったという検事は、上記回答よりもさらに多く存在するのではないかと疑われる。
さらにいえば、検察庁の中で少なくない上司が部下に対して指示しているということは、実際の供述と異なる供述調書を作成するということについて、これを容認する空気が存在していることを示している。
以上のように、この意識調査は、厚労省元局長無罪事件が、単なる個別の検事の問題、あるいは大阪地検特捜部の問題なのではなく、検察全体に存在する病理的な問題であることを明らかにしたものであった。
ところが、上述したような同会議内での意見や、意識調査の結果であったにも関わらず、昨日発表された提言では、取調べの可視化の基本的考え方について「被疑者の取調べの録音・録画は、検察の運用及び法制度の整備を通じて、今後、より一層、その範囲を拡大するべきである」とするだけで、取調べの全過程の録音・録画に踏み込まない内容となっている(知的障害のある被疑者に限って例示として触れられているにとどまる)。
議事録で見る限りは、捜査機関出身者や一部研究者を除けば、取調べの全過程の録音・録画に踏み切るべきだとする意見が大勢を占めていたにも関わらず、提言においては、あたかも「国民の声」が賛成と反対に二分したかのような記載がされている。
また、上述した意識調査において明らかとなった重要な問題については、提言の中では一切触れられていない。
さらに、提言は、特捜部における取調べの録音・録画について「1年後を目途として検証を実施」するとか、「制度として取調べの可視化を含む新たな刑事司法制度を構築するため、…十分な検討の場を設け」るなど、結論を先送りして時間稼ぎをしていると言わざるを得ない。
当会は、平成23年3月10日に、「今、改めて取調べの可視化(取調べの全過程の録画)を求める決議」をし、国に対して、すみやかに取調べの全過程を録画する制度の導入に向けて早急に法律を整備するよう求めた。
すでに検証や議論の時期は過ぎており、すぐに立法に向けた具体的な作業に移る段階にある。
法務大臣にあっては、本件提言の内容をそのまま受け容れるのではなく、同会議において捜査機関出身者や一部研究者以外の委員らが述べた意見にこそ耳を傾け、同会議での意識調査の結果から明らかとなった検察の病理的問題を真摯に受け止め、すみやかに取調べの全過程を録画する制度の導入に向けて早急に法律を整備するよう努力されたい。
また、現場の捜査機関は、現在試行している取調べの一部のみの録音・録画を改め、対象とする事件においては取調べの全過程を録音・録画する運用を直ちに開始するよう求める。
2011年(平成23年)4月1日
福岡県弁護士会 会長 吉村敏幸
2011年3月23日
投票価値の格差是正を求める会長声明
本日、最高裁判所大法廷は、2009年8月30日に施行された衆議院議員総選挙につき、「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた」とする判決を言い渡した。これは、2009年衆議院総選挙において、小選挙区選出議員1人あたりの選挙人の人数較差が、最大2.30倍に達していたため、選挙権の平等を侵害し違憲であるとして、選挙の無効を求めて、福岡県を含め全国で提起された訴訟9件について、最高裁が判断を示したものである。
そもそも、議員1人あたりの選挙人の人数が均等であるべきという投票価値の平等は、法の下の平等(憲法14条1項)、選挙人資格の平等(憲法44条)を定める憲法の要請である。また、投票価値の平等を確保することは、「国権の最高機関」(憲法41条)である国会に国民の意思を的確に反映するための重要な条件であって、議会制民主主義、ひいては国民主権を支える要の一つである。
本日の大法廷判決は、投票価値の平等について、「定数配分及び選挙区割りを決定するについて、議員1人当たりの選挙人数又は人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすること」を憲法が求めているとした上で、衆議院小選挙区の区割りにあたり、人口比例部分とは別に各都道府県に議員定数1を配当する1人別枠方式について、「遅くとも本件選挙時においては、」「憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていた」と述べている。
大法廷判決の結論にも示されたとおり、投票価値の平等の重要性にかんがみれば、投票価値の格差が2倍を超えることは憲法の要請に反するというべきである。
当会は、国会に対し、速やかに、衆議院議員総選挙における投票価値の格差を是正するための措置をとることを求める。
2011年(平成23年)3月23日
福岡県弁護士会
会長 市 丸 信 敏
2010年12月10日
司法修習給費制に関する「裁判所法の一部を改正する法律」成立にあたっての会長声明
本年11月26日、司法修習生に対する給費制に代わり修習資金を国が貸与する制度を平成23年10月31日まで停止し、その間、暫定的に司法修習生に対して給与を支給するとする裁判所法の一部を改正する法律が国会で可決され、即日公布・施行された。これにより、本年11月27日から司法修習が開始された新第64期司法修習生に対しても、従前と同様の修習費用が支給されることとなった。
今回の法改正においては、給費制の完全な復活は実現されなかったものの、昨今の法曹志望者が置かれている厳しい経済状況にかんがみ、それらの者が経済的理由から法曹になることを断念することがないよう、給費制が継続される一年間の間に、法曹養成制度に対する財政支援の在り方について政府及び最高裁判所の責務として見直しを行うことがその趣旨とされ、また、附帯決議においては、政府及び最高裁判所は法曹の養成に関する制度の在り方全体について速やかに検討を加え、その結果に基づいて順次必要な措置を講ずることも求められている。
平成16年に給費制の廃止が決定されて以降、司法試験の合格者数は増加されているにも関わらず、法科大学院の志願者数は著しい減少傾向にあり、司法制度改革審議会の意見書において「国民の社会生活上の医師」としての法曹を養成するため、「多様な人材を確保する」という司法改革の趣旨に逆行する現状となっていた。そして、その一因として、法曹養成過程における加重な経済的負担が指摘されていたところ、給費制の廃止はこれに追い打ちをかけることなどを強く案じて、日本弁護士連合会や当会が、給費制維持を求める運動を続けてきた。今回の法改正に至った経過においては、こうした運動に一定の理解が得られたものと評価している。
まずは、この法改正のための活動に御協力いただき全国で67万筆の署名(当会で8万7000筆)をお寄せ頂くなどした沢山の市民や市民団体、消費者団体、労働団体、これらの団体による「司法修習生の給与の支給継続を求める市民連絡会」、「ビギナーズネット」、困難な国会状況のなかで改正法の成立に並々ならぬ御尽力をいただいた各政党・国会議員の方々に厚く感謝申し上げる次第である。
また、最高裁判所、法務省等の関係各機関においては、今回の法改正や附帯決議において求められた「法曹養成制度に対する財政支援のあり方についての見直し」や「必要な措置」について、日本弁護士連合会をはじめ広く意見を徴しつつ、鋭意、協議や検討をいただくよう求めたい。
なお、今回の法改正に至る運動の過程では、「すべての法曹が公共的な職務を遂行しているといえるのか」「経済的に困難な者に対する支援はもっともだが、経済的に裕福な者に対してまで給費する必要性があるのか」といった問いかけも受けた。
しかし、法曹は司法を支える公共財であり、弁護士はそれぞれ「基本的人権の擁護と社会正義の実現」という使命を担っており(弁護士法1条)、弁護士会としても、これらの公共的使命を自覚し、広範な人権擁護活動や、法律扶助制度の拡充、過疎偏在対策などに取り組んできた。給費制は、このような公共財としての質の高い、志を持った法曹を養成するうえで極めて重要な機能を果たしてきたものであり、かかる法曹を養成することは民主国家の責務である。もちろん、給費制は、修習専念義務(兼職の禁止)を担保するとの意味もある。
当会は、今後とも、会を挙げて、弁護士としての使命を果たすべく、なお一層の努力を傾注していく覚悟であることはもちろんであるが、今回の法改正を受けて、引き続き、上記の通りの重要な意義を持つ給費制の維持を求めてさらに広く理解を得る努力を払うとともに、法曹志望者に対する経済的支援の在り方の検討を続け、市民のための司法を実現するという司法改革の理念をふまえて、法曹養成制度全体の見直しについて積極的に取り組んでいき、国に対しては、検討機関の早急な立ち上げを求め、今後もこれらの問題に対する真摯な提言を重ねていく所存である。
2010年(平成22年)12月8日
福岡県弁護士会
会長 市 丸 信 敏
2010年12月 9日
犯罪被害者給付金不支給裁定違法控訴審判決に対する会長声明
1 福岡高等裁判所は,平成22年11月30日,小倉監禁殺人事件の犯罪被害者遺族である被害女性が犯罪被害者給付金不支給の裁定の取り消しを求めた裁判において,同裁定の違法性を認めた一審の判決を支持し,福岡県の控訴を棄却する判決を言い渡した。
2 小倉監禁殺人事件は,平成14年に被害女性が監禁状態を脱して,その父親に対する監禁殺人事件の被害などを申告することによって発覚した事件であり,現在も刑事事件は最高裁判所に係属中である。
平成17年,福岡地方裁判所小倉支部において刑事事件の一審判決が出され,その後,被害女性は代理人を通じて犯罪被害者給付金の申請を行ったが,福岡県公安委員会,国家公安委員会はいずれも被害女性の父親の死から7年が経過していることを理由として給付金を支給しない旨を裁定した。
3 一審の福岡地方裁判所は,被害女性において,処分行政庁に対する裁定の申請を事実上可能な状況のもとに,その期待しうる程度に犯罪行為による死亡の発生を知ったのは,被告人らに対する刑事事件の第一審判決書が作成された平成17年10月5日の時点と認められるとした。よって,被害女性はこの時点から2年以内である平成18年2月21日ころに給付金の申請をしているので,申請権は時効により消滅したということはできないとした。
また,死亡から7年という除斥期間についても,判決は,除斥期間の経過前の時点において,当該権利の行使が客観的に不可能であるといえるか,又はこれと同視すべき申請権を行使しなかったことが真にやむを得ないといえる特別な事情がある場合には,当該特別な事情がやむまでの間,及び民法の時効の停止に関する規定に照らし,同事情がやんだ後から6ヶ月の間は除斥期間の経過による効果は生じないものと解するのが相当とした。本件においては,被害女性は,平成17年10月5日の刑事事件の判決書が作成されたときから6ヶ月以内に申請をしていることから,申請権は除斥期間により消滅したということはできないと判断されたのである。
4 福岡高等裁判所は,一審判決の理由をそのまま支持したうえで,本件は被害者の遺体が存在せず,かつ,被告人の一人は捜査段階から一審判決言渡しに至るまで一貫して犯罪行為を否認していたという極めて特異な事案であることを理由に福岡県の控訴を棄却したものである。
5 当会は,平成12年3月に犯罪被害者支援センターを設置して犯罪被害者のための電話相談,面接相談に応じると共に,同年11月には犯罪被害者支援基金を創設して,刑事贖罪寄付を受け入れ,そこから犯罪被害者支援に関する活動を行う団体に対する援助や犯罪被害者の被害回復に関する訴訟等への費用の援助を行っており,本件被害女性の平成18年2月以降の申請及び本件提訴に関しても,同基金より援助金を交付して支援を行ってきた。本件提訴後,法律の規定そのものの不備が周知となり,平成20年には本件で問題となった犯罪被害者等給付金支給法の第10条(時効及び除斥期間に関する規定)に3項が加えられ,申請期間の制限に関する例外規定が設けられた。当会は,本件被害女性の救済に向けた支援を通じて,犯罪被害者に対する途切れのない支援の必要性や,制度が周知されることの重要性が浸透していくことを目的としてきたものであるところ,本件において,その提訴を契機として法改正がなされ,その後,福岡地方裁判所が犯罪被害者の救済を重視した適切な判断をしたこと及び福岡高等裁判所もその判断を維持したことは,犯罪被害者等の視点に立った施策を講じ,その権利利益の保護が図られる社会の実現に向けた新たな一歩を踏み出すという犯罪被害者等基本法の精神に則るものであり,高く評価するものである。
6 そこで,当会は,福岡県に対し,上告することなく本判決を確定させることを要請する。また,福岡県公安委員会に対し,判決確定の後,本件被害者への給付金の支給に向けた手続を進め,犯罪被害者の救済が速やかに実現されることを求める。
2010年(平成22年)12月8日
福岡県弁護士会 会長 市丸信敏
2010年11月11日
司法修習給費制の存続を求める会長声明
司法修習生に対し給与を支給する制度(以下、「給費制」という)に代えて、必要な者に修習資金を国が貸与する制度(以下「貸与制」という)を定めた「裁判所法の一部を改正する法律」(以下、「改正裁判所法」という)が、本年11月1日に施行された。
改正裁判所法は、2004年12月10日に成立したが、その附帯決議において、「統一・公正・平等という司法修習の理念が損なわれることがないよう、また、経済的事情から法曹への道を断念する事態を招くことのないよう、法曹養成制度全体の財政支援の在り方も含め、関係機関と十分な協議を行うこと」と決議されていた。
しかるに、法曹を目指す法科大学院の適性試験受験者数は顕著に減少しており、大学入試センター実施の適性試験受験者は、2003年に39,350人であったものが2010年には8,650人にまで減少している。
その背景として、司法試験合格率の低下や急激な法曹人口増による就職難などの問題に加えて、法科大学院の学費や生活費などの経済的負担が大きいことが指摘されている。当会が本年8月に実施した司法修習生やロースクール生を対象とした調査では、負債がある人の平均負債額は435万円余にも及んだ。かかる状況の下で貸与制を強行すれば、さらに300万円前後の負担増となり、法曹志願者減少傾向に拍車をかけることは明らかであり、まさしく、上記附帯決議が危惧していた事態に直面することとなる。
当会は、司法修習生に対する給費制の存続を最重要課題に掲げて、市民団体、労働団体、消費者団体などと連携・協力し、法改正の実現を求めて、請願署名活動、市民集会の開催、国会議員要請等の活動を行ってきた。請願署名は、わずか半年で、全国で67万余筆、当会集約分だけでも 8万数千筆が寄せられ、市民の中でも給費制の存続を求める声が強いことを実感することができた。また、国会においても、与野党を通じて多くの議員がこの問題に理解を示している。
もとより当会としても、わが国が財政難であること十分に理解するものである。しかし、基本的人権の擁護、市民の諸権利の実現、社会的正義の実現を使命とする法曹は、これまでも、そしてこれからも、司法を担う公共財であり、国民のための存在であり続けるべきものである。国家が責任を持ってかかる法曹を養成すべしとの理念、そしてこれを担保するための給費制は、わが国が健全であり続けるために、今後も守り続けられるべき根幹的制度である。
残念ながら、本年11月1日までに、与野党間の調整がつかなかったことから、改正裁判所法が施行されることになったが、その後も国会において合意点を得るための折衝が継続されている。
当会は、法曹養成制度全体の見直が必要と考え、そのための検討もはじめているが、貸与制の実施については今一度これを見直し、給費制を復活させて、その上でひろく根源的な論議を尽くすべきであると考える。貸与制を実施した上で弊害があれば見直せばよいとの声も聞かれるが、法曹志願者の激減という深刻な弊害が発生することは確実であり、このままでは取り返しのつかない事態となることは必至である。
ここに改めて、今臨時国会において、施行された改正裁判所法を再度改正し、給費制を存続させることを強く求めるものである。
2010年(平成22年)11月10日
福岡県弁護士会 会長 市丸信敏
秋田弁護士会所属の弁護士殺害事件に関する会長声明
今月4日午前4時頃、秋田弁護士会所属の津谷裕貴弁護士が、ガラス戸を割って自宅に侵入した男に刺されて死亡するという事件が発生した。
報道等によれば、男は津谷弁護士が受任していた離婚調停事件の相手方であったということであるから、今回の刺殺事件は、同弁護士の弁護士業務に関連して発生したものと思われる。
弁護士業務に関連した刺殺事件は、本年6月にも横浜市で発生したばかりであり、誠に遺憾極まりない。
弁護士は、国民のために、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命としているが、この使命は、弁護士活動の安全が確保され、自由な弁護士活動を行うことができる環境があって初めて実現できるものである。
弁護士が受任事件に関連して、その相手方などから生命身体に危害を加えられることは、弁護士制度及び法秩序に対する重大な挑戦であって、断じて許されるべきことではない。
津谷弁護士は、市民の立場に立ち、先物取引被害などの消費者問題に永年取り組み、2009年(平成21年)度から日本弁護士連合会消費者問題対策委員会の委員長に就任していた。その職責を果たす途半ばで凶刃に倒れた同弁護士の無念を想い、そのご冥福を祈るとともに、ご遺族に対し心から哀悼の意を表するものである。
当会は、暴力的な手段による弁護士活動への妨害行為に決して怯むことなく弁護士の使命を貫く決意であることを表明するとともに、弁護士業務妨害の排除及び予防をより一層徹底していく所存である。
2010年(平成22年)11月10日
福岡県弁護士会
会 長 市 丸 信 敏
2010年7月28日
死刑執行に関する会長声明
1 本日,東京拘置所において2名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
2 我が国では,過去において,4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)について再審無罪が確定している。また,昨年6月にも,無期懲役刑が確定した受刑者に対する再審開始決定がなされ(足利事件),これを契機に精度の低いDNA鑑定に依拠した裁判の問題点が指摘されるという事態も生じている。これらの過去の実例が示すとおり,死刑判決を含む重大事件においても誤判が存在することは客観的な事実である。
3 しかも,我が国の死刑確定者は,国際人権(自由権)規約,国連決議に違反した状態におかれているというべきであり,特に,過酷な面会・通信の制限は,死刑確定者の再審請求,恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなっている。この間,2007年(平成19年),刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが,未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど,死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難く,このような状況の下で死刑が執行されることには大きな問題があるといわなければならない。
4 国際的にも,1989年(平成元年)に国連総会で死刑廃止条約が採択されて以来,死刑廃止が国際的な潮流となっている。1990年当時,死刑存置国は96か国で死刑廃止国は80か国だったのが,昨年(2009年)現在では,死刑存置国は58か国で死刑廃止国及び死刑停止国は139か国となっている。さらに,2008年12月18日には,国連総会において,すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議案が採択された。
また,2007年(平成19年)5月18日に示された,国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては,我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち,死刑確定者の拘禁状態はもとより,その法的保障措置の不十分さについて,弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で,死刑の執行を速やかに停止すること,死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと,恩赦を含む手続的改革を行うべきこと,すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと,死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと,すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。しかも,2008年10月には,国際人権(自由権)規約委員会により,我が国の人権状況に関する審査が行われ,我が国の死刑制度の問題点を指摘するともに制度の抜本的見直しを求める勧告がなされた。
5 このような中で,我が国の死刑制度の抱える問題点について何ら改革が講じられることなく,今回の死刑執行が行われたことは極めて遺憾であり,当会としてはここに政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに,今後,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ,それに基づいた施策が実施されるまで,一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。
2010年(平成22年)7月28日
福岡県弁護士会
会長 市丸 信敏
2010年7月14日
犯罪被害者給付金不支給裁定取消し判決について控訴断念を求める会長声明
1 福岡地方裁判所は,平成22年7月8日,小倉監禁事件の犯罪被害者遺族である被害女性が犯罪被害者給付金不支給の裁定の取り消しを求めた裁判において,同裁定の違法性を認め,これを取り消す判決を言い渡した。
2 小倉監禁事件は,平成14年に被害女性が監禁状態を脱して,その被害などを申告することによって発覚した事件であり,現在も刑事事件は最高裁判所に継続中である。
平成17年,福岡地方裁判所小倉支部において刑事事件の一審判決がだされ,その後,被害女性は代理人を通じて犯罪被害者給付金の申請を行ったが,福岡県公安委員会,国家公安委員会はいずれも被害女性の父親の死から7年が経過していることを理由として給付金は不支給であると判断していた。
3 福岡地方裁判所の今回の判決は,被害女性において,処分行政庁に対する裁定の申請を事実上可能な状況のもとに,その期待しうる程度に犯罪行為による死亡の発生を知ったのは,被告人らに対する刑事事件の第1審判決書が作成された平成17年10月5日の時点と認められるとした。よって,被害女性はこの時点から2年以内である平成18年2月21日ころに給付金の申請をしているので,申請権は時効により消滅したということはできないとした。
また,死亡から7年という除斥期間についても,判決は,除斥期間の経過前の時点において,当該権利の行使が客観的に不可能であるといえるか,又はこれと同視すべき申請権を行使しなかったことが真にやむを得ないといえる特別な事情がある場合には,当該特別な事情がやむまでの間,及び民法の時効の停止に関する規定に照らし,同事情がやんだ後から6ヶ月の間は除斥期間の経過による効果は生じないものと解するのが相当とした。本件においては,被害女性は,平成17年10月5日の刑事事件の判決書が作成されたときから6ヶ月以内に申請をしていることから,申請権は除斥期間により消滅したということはできないと判断されたのである。
4 当会は,平成12年3月に犯罪被害者支援センターを設置して犯罪被害者のための電話相談,面接相談に応じると共に,同年11月には犯罪被害者支援基金を創設して,刑事贖罪寄付を受け入れ,そこから犯罪被害者支援に関する支援活動を行う団体に対する援助や犯罪被害者の被害回復に関する訴訟等への費用の援助を行っており,本件の被害女性の平成18年2月以降の申請及び本件提訴に関しても,同基金より援助金を交付して支援を行ってきた。当会は,本件の被害女性の救済に向けた支援を通じて,犯罪被害者に対する途切れのない支援の必要性や,制度の重要性が周知されることを目的として支援してきたものであるところ,本件において,福岡地方裁判所が犯罪被害者の救済を重視した適切な判断をしたことは,犯罪被害者等の視点に立った施策を講じ,その権利利益の保護が図られる社会の実現に向けた新たな一歩を踏み出すという犯罪被害者等基本法の精神にのっとるものであり,高く評価するものである。
5 そこで,当会は,福岡県公安委員会に対し,控訴することなく本判決を確定させることを要請するとともに,判決確定の後,被害者への給付金の支給に向けた手続を進め,犯罪被害者の救済が速やかに実現されることを強く求める。
2010年(平成22年)7月14日
福岡県弁護士会
会長 市 丸 信 敏
2010年6月21日
老齢加算廃止違法判決に対する会長声明
2010(平成22)年6月18日
福岡県弁護士会
会長 市丸 信敏
1 福岡高等裁判所第1民事部は、2010年6月14日、北九州市内在住の74歳~92歳の生活保護受給者39名が、老齢加算の段階的廃止に伴う保護変更決定の取り消しを求めた裁判において、同決定の違法性を認め、これを取り消す判決を言い渡した。
老齢加算の段階的廃止をめぐっては、全国8カ所の裁判所(4地裁、3高裁、1最高裁)において約100名の原告により裁判が闘われているが、本判決は初めての原告側勝訴判決である。
2 老齢加算は、高齢者に特有の生活需要を満たすために、原則70歳以上の生活保護受給者に対して、1960年の老齢加算制度創設以来、40年以上にわたり支給されてきたものである。
しかし、国は、2004年に、その段階的廃止を決定し、2006年にはこれを全廃した。
3 福岡高等裁判所の今回の判決は、生活保護の受給が単なる国の恩恵ではなく法的権利であるとした最高裁昭和42年5月24日大法廷判決を確認し、生活保護の受給が法的権利である以上、保護基準が単に改定されたというだけでは生活保護法56条にいう「正当な理由」があるものと解することはできず、その保護基準の改定(不利益変更)そのものに「正当な理由」があることが必要であるとした。
その上でまず、老齢加算について廃止の方向で見直すべきであるとの中間取りまとめを行った「生活保護に関する在り方専門委員会」(以下「専門委員会」という。)での議論をはじめ、廃止に至る判断・決定の経過を詳細に検討している。そして、専門委員会が中間取りまとめのただし書きで求めた「高齢者世帯の最低生活水準が維持されるよう引き続き検討する必要がある」との部分や、同じく専門委員会が指摘した「被保護世帯の生活水準が急に低下することのないよう、激変緩和の措置を講じるべきである」との部分を、老齢加算の廃止という方向性と並んで重要な事項であると指摘している。
その重要な事項について、①中間取りまとめが発表されたわずか4日後に、国は老齢加算の段階的廃止を実質的に決定したこと、②老齢加算の段階的廃止が決定された過程において、中間取りまとめのただし書きが求めた「高齢者世帯の最低生活水準が維持されるよう引き続き検討する必要がある」という点については国により何ら検討されていなかったこと、③同じく激変緩和措置についても、被保護者が老齢加算の廃止によって被る不利益等を具体的に検討した上で決定されたという形跡はないとの事実を認定した。
これらの事実を前提として、本判決は、老齢加算の段階的廃止は考慮すべき事項を十分考慮しておらず、又は考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠き、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものであるということができるとし、保護受給権とも称すべき原告らの法的権利を正当な理由なく侵害したこととなり、生活保護法56条に違反し違法であるとの判断を下したものである。
4 当会は、生存権の擁護を急務と考え、生活保護の受給要件を充たすにもかかわらず受給できていない市民に対し生活保護申請手続の援助を行うなど、生存権擁護と支援のための取り組みを強めてきた。
そして、2009年5月14日、今日の世界同時不況という事態の下で現在我国において雇用不安、貧困・生活窮乏などが一層深刻化していることにより、生存権、人間らしく働き生きる権利、ひいては個人の尊厳など本来日本国憲法によって保障されている重大な権利が危機的な状況にあることに鑑み、すべての人が個人の尊厳をもって人間らしく働き生活していけるようにするために、生存権の擁護と支援に必要な諸活動を行うことを目的として、当会に「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」を設置した。さらに、同年5月25日に開催した定期総会においては「すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言」を採択し、高齢者はもとより非正規雇用労働者・母子・障害者家庭等の貧困の拡大と生活の窮乏化が進行している一方で、これを補うべき社会保障分野のセーフティネットも崩壊状況にあり、極めて深刻な社会不安が広がっていることへの危惧を表明し、国及び地方自治体に対し、社会保障費の抑制方針を改め、また,ホームレスの人も含め社会的弱者が社会保険や生活保護の利用から排除されないように、社会保障制度の抜本的改善を図り,セーフティネットを強化することを強く求めてきた。
今日の貧困の広がりの中、国は社会保障を強化することこそあれ、安易な切り下げを行うことはあってはならない。
この点で、当会は、福岡高等裁判所が安易な切り下げを認めない判断をしたことを高く評価するものである。
5 そこで、当会は、北九州市に対しては、上告することなく本判決を確定させることを要請する。また、厚生労働大臣においては、原告ら対象世帯の高齢化が一層進んでいることを深刻に受け止め、老齢加算を元に復するための措置を速やかにとることを要請する。
以 上