福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

声明

2010年7月14日

犯罪被害者給付金不支給裁定取消し判決について控訴断念を求める会長声明

1 福岡地方裁判所は,平成22年7月8日,小倉監禁事件の犯罪被害者遺族である被害女性が犯罪被害者給付金不支給の裁定の取り消しを求めた裁判において,同裁定の違法性を認め,これを取り消す判決を言い渡した。
2 小倉監禁事件は,平成14年に被害女性が監禁状態を脱して,その被害などを申告することによって発覚した事件であり,現在も刑事事件は最高裁判所に継続中である。
  平成17年,福岡地方裁判所小倉支部において刑事事件の一審判決がだされ,その後,被害女性は代理人を通じて犯罪被害者給付金の申請を行ったが,福岡県公安委員会,国家公安委員会はいずれも被害女性の父親の死から7年が経過していることを理由として給付金は不支給であると判断していた。
3 福岡地方裁判所の今回の判決は,被害女性において,処分行政庁に対する裁定の申請を事実上可能な状況のもとに,その期待しうる程度に犯罪行為による死亡の発生を知ったのは,被告人らに対する刑事事件の第1審判決書が作成された平成17年10月5日の時点と認められるとした。よって,被害女性はこの時点から2年以内である平成18年2月21日ころに給付金の申請をしているので,申請権は時効により消滅したということはできないとした。
  また,死亡から7年という除斥期間についても,判決は,除斥期間の経過前の時点において,当該権利の行使が客観的に不可能であるといえるか,又はこれと同視すべき申請権を行使しなかったことが真にやむを得ないといえる特別な事情がある場合には,当該特別な事情がやむまでの間,及び民法の時効の停止に関する規定に照らし,同事情がやんだ後から6ヶ月の間は除斥期間の経過による効果は生じないものと解するのが相当とした。本件においては,被害女性は,平成17年10月5日の刑事事件の判決書が作成されたときから6ヶ月以内に申請をしていることから,申請権は除斥期間により消滅したということはできないと判断されたのである。
4 当会は,平成12年3月に犯罪被害者支援センターを設置して犯罪被害者のための電話相談,面接相談に応じると共に,同年11月には犯罪被害者支援基金を創設して,刑事贖罪寄付を受け入れ,そこから犯罪被害者支援に関する支援活動を行う団体に対する援助や犯罪被害者の被害回復に関する訴訟等への費用の援助を行っており,本件の被害女性の平成18年2月以降の申請及び本件提訴に関しても,同基金より援助金を交付して支援を行ってきた。当会は,本件の被害女性の救済に向けた支援を通じて,犯罪被害者に対する途切れのない支援の必要性や,制度の重要性が周知されることを目的として支援してきたものであるところ,本件において,福岡地方裁判所が犯罪被害者の救済を重視した適切な判断をしたことは,犯罪被害者等の視点に立った施策を講じ,その権利利益の保護が図られる社会の実現に向けた新たな一歩を踏み出すという犯罪被害者等基本法の精神にのっとるものであり,高く評価するものである。
5 そこで,当会は,福岡県公安委員会に対し,控訴することなく本判決を確定させることを要請するとともに,判決確定の後,被害者への給付金の支給に向けた手続を進め,犯罪被害者の救済が速やかに実現されることを強く求める。

              2010年(平成22年)7月14日
                     福岡県弁護士会
                      会長 市 丸 信 敏
                             

2010年6月21日

老齢加算廃止違法判決に対する会長声明

2010(平成22)年6月18日

福岡県弁護士会
会長 市丸 信敏

1 福岡高等裁判所第1民事部は、2010年6月14日、北九州市内在住の74歳~92歳の生活保護受給者39名が、老齢加算の段階的廃止に伴う保護変更決定の取り消しを求めた裁判において、同決定の違法性を認め、これを取り消す判決を言い渡した。
  老齢加算の段階的廃止をめぐっては、全国8カ所の裁判所(4地裁、3高裁、1最高裁)において約100名の原告により裁判が闘われているが、本判決は初めての原告側勝訴判決である。
2 老齢加算は、高齢者に特有の生活需要を満たすために、原則70歳以上の生活保護受給者に対して、1960年の老齢加算制度創設以来、40年以上にわたり支給されてきたものである。
  しかし、国は、2004年に、その段階的廃止を決定し、2006年にはこれを全廃した。
3 福岡高等裁判所の今回の判決は、生活保護の受給が単なる国の恩恵ではなく法的権利であるとした最高裁昭和42年5月24日大法廷判決を確認し、生活保護の受給が法的権利である以上、保護基準が単に改定されたというだけでは生活保護法56条にいう「正当な理由」があるものと解することはできず、その保護基準の改定(不利益変更)そのものに「正当な理由」があることが必要であるとした。
  その上でまず、老齢加算について廃止の方向で見直すべきであるとの中間取りまとめを行った「生活保護に関する在り方専門委員会」(以下「専門委員会」という。)での議論をはじめ、廃止に至る判断・決定の経過を詳細に検討している。そして、専門委員会が中間取りまとめのただし書きで求めた「高齢者世帯の最低生活水準が維持されるよう引き続き検討する必要がある」との部分や、同じく専門委員会が指摘した「被保護世帯の生活水準が急に低下することのないよう、激変緩和の措置を講じるべきである」との部分を、老齢加算の廃止という方向性と並んで重要な事項であると指摘している。
  その重要な事項について、①中間取りまとめが発表されたわずか4日後に、国は老齢加算の段階的廃止を実質的に決定したこと、②老齢加算の段階的廃止が決定された過程において、中間取りまとめのただし書きが求めた「高齢者世帯の最低生活水準が維持されるよう引き続き検討する必要がある」という点については国により何ら検討されていなかったこと、③同じく激変緩和措置についても、被保護者が老齢加算の廃止によって被る不利益等を具体的に検討した上で決定されたという形跡はないとの事実を認定した。
  これらの事実を前提として、本判決は、老齢加算の段階的廃止は考慮すべき事項を十分考慮しておらず、又は考慮した事項に対する評価が明らかに合理性を欠き、その結果、社会通念に照らし著しく妥当性を欠いたものであるということができるとし、保護受給権とも称すべき原告らの法的権利を正当な理由なく侵害したこととなり、生活保護法56条に違反し違法であるとの判断を下したものである。
4 当会は、生存権の擁護を急務と考え、生活保護の受給要件を充たすにもかかわらず受給できていない市民に対し生活保護申請手続の援助を行うなど、生存権擁護と支援のための取り組みを強めてきた。
  そして、2009年5月14日、今日の世界同時不況という事態の下で現在我国において雇用不安、貧困・生活窮乏などが一層深刻化していることにより、生存権、人間らしく働き生きる権利、ひいては個人の尊厳など本来日本国憲法によって保障されている重大な権利が危機的な状況にあることに鑑み、すべての人が個人の尊厳をもって人間らしく働き生活していけるようにするために、生存権の擁護と支援に必要な諸活動を行うことを目的として、当会に「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」を設置した。さらに、同年5月25日に開催した定期総会においては「すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言」を採択し、高齢者はもとより非正規雇用労働者・母子・障害者家庭等の貧困の拡大と生活の窮乏化が進行している一方で、これを補うべき社会保障分野のセーフティネットも崩壊状況にあり、極めて深刻な社会不安が広がっていることへの危惧を表明し、国及び地方自治体に対し、社会保障費の抑制方針を改め、また,ホームレスの人も含め社会的弱者が社会保険や生活保護の利用から排除されないように、社会保障制度の抜本的改善を図り,セーフティネットを強化することを強く求めてきた。
  今日の貧困の広がりの中、国は社会保障を強化することこそあれ、安易な切り下げを行うことはあってはならない。
  この点で、当会は、福岡高等裁判所が安易な切り下げを認めない判断をしたことを高く評価するものである。
5 そこで、当会は、北九州市に対しては、上告することなく本判決を確定させることを要請する。また、厚生労働大臣においては、原告ら対象世帯の高齢化が一層進んでいることを深刻に受け止め、老齢加算を元に復するための措置を速やかにとることを要請する。

                              以  上 

2010年6月 9日

横浜弁護士会所属会員殺害事件に関する会長声明

本年6月2日午後2時40分頃、横浜市において横浜弁護士会に所属する前野義広弁護士が、事務所を訪ねてきた男に襲われ、サバイバルナイフのような刃物で胸や腹を刺され、搬送された病院で死亡するという痛ましい犯罪が発生した。
 事件後に犯人が逃走したために、現在も犯人の特定はなされておらず、事件の背景や犯行の動機などは、今後の適正かつ厳格な捜査を待つ以外ないが、法律事務所において、昼の執務時間帯に、業務遂行中の弁護士を襲撃したことから、今回の犯行は、弁護士業務に関連したものである可能性が高いと考えられる。
 このような行為は、民主主義社会において決して許してはならない蛮行である。また、基本的人権の擁護と社会正義の実現を使命とし、市民の権利の護り手である弁護士の業務に対する重大な挑戦であり、このような業務妨害や暴力行為は、いかなる理由があっても許されるものではない。
 当福岡県弁護士会は、横浜弁護士会、そして日本弁護士連合会や全国の弁護士会とともに、今後とも、いかなる暴力行為に対してもひるむことなく毅然として対処し、弁護士の使命を全うしていく所存である。

     2010年6月9日
                  福岡県弁護士会
                   会長 市 丸 信 敏

2010年5月18日

民法(家族法)改正の早期実現を求める会長声明

民法(家族法)改正の早期実現を求める会長声明


1 選択的夫婦別姓制度等を盛り込んだ民法(家族法)改正案は、1996年(平成8年)に法制審議会において決定され、法務大臣に答申されているにもかかわらず、現在に至るも法律改正が実現していない。
この問題については、2009年8月には、国連の女性差別撤廃委員会が、第6回日本政府報告に対する最終見解において、家族法における差別的法規定の改正を最優先課題として早急な対策を講じることを厳しく勧告し、2年以内に詳細な報告を行うことを求めるに至っている。選択的夫婦別姓制度、再婚禁止期間の撤廃ないし短縮、非嫡出子の相続分差別の撤廃を内容とする家族法部分に関する民法改正は、以下に述べる通りいまや喫緊の課題である。

2 第一に、氏名は人格権の一内容を構成するものであって(最高裁昭和63年2月16日判決)、婚姻後も自己のアイデンティティとしての氏を継続して使用する権利は、憲法13条等に照らしても尊重されるべきである。それにもかかわらず、現行夫婦同姓制度により改姓を余儀なくされ(2008年人口動態統計によれば96.2%の夫婦が婚姻時に夫の氏を選択している)、職業上・社会生活上様々な不利益を被る者が多数存在し、その多くは女性である。こうした現状は、真の両性の平等と男女共同参画社会を実現する上で早急に解決される必要があり、選択的夫婦別姓制度が導入されるべきである。
第二に、女性にのみ課されている6か月間の再婚禁止期間は、父性の推定の重複を回避し、父子関係をめぐる紛争の発生を未然に防ぐことにあるとされるが、民法上、父性推定の重複は100日間しか生じ得ないうえ、そもそも科学技術の発達により、DNA鑑定等による父子関係の確定が容易になっている現在において、もはや再婚禁止期間を定める合理的根拠は失われている。同規定は、早期の結婚を希望する女性の男女平等(憲法14条1項)はもとより、同女性との婚姻を希望する男性をも含めた、結婚の自由(憲法24条)を侵害するものであり、速やかに撤廃されるべきである。
第三に、非嫡出子の相続分差別は、非嫡出子自身の意思や努力によってはいかんともしがたい事由により不利益な取り扱いを行うものであり、憲法13条、14条及び24条2項に反することは明らかである。最高裁判所においても違憲の疑いが繰り返し指摘されている。国際人権規約自由権規約、同社会権規約、子どもの権利条約等も、出生によるあらゆる差別を禁止しており、かかる差別規定は速やかに撤廃されるべきである。

3 以上、当会は、選択的夫婦別姓制度の導入、離婚後の女性の再婚禁止期間の撤廃ないし短縮及び非嫡出子の相続差別の撤廃に関する民法(家族法)の改正が、今通常国会において実現することを強く求めるものである。


2010年(平成22年)4月22日
                     
                                                 福岡県弁護士会
会長 市 丸 信 敏

2010年3月31日

全面的国選付添人制度の実現を求める会長声明

 当会は国に対し、できる限り速やかに、国選付添人制度の対象を拡大し、観護措置決定を受けたすべての少年に弁護士付添人を選任できるよう法改正を求めるものです。


                    記

1 弁護士は、少年審判手続において付添人という立場で、少年に対し必要な法的援助を行い裁判所の事実認定や処分決定が適正に行われるよう活動しています。
  それによって冤罪から少年を守るとともに、非行に至った少年に付き添い、少年に反省を促し、保護者や学校、職場との環境調整、被害弁償などの活動を通し、少年の更生に多くの成果をあげてきました。
2 しかし、実際に弁護士付添人が選任される例は少なく、弁護士付添人の選任率は、少年鑑別所に収容され審判を受ける少年の約40%、審判を受ける少年全体では約8.5%に過ぎませんでした(2008年度)。成人の刑事裁判では、約98.7%の被告人に弁護人が選任されていることと比べると、未成熟な少年に対する法的援助は極めて不十分な状況にありました。このような状況が生じている大きな原因には、少年審判における国選付添人制度の範囲が殺人や強盗などの重大事件に限定されていることがあります。
3 さらに、平成21年5月21日からは、被疑者段階の国選弁護制度の対象が窃盗や傷害などの事件にまで拡大されましたが、これにより、少年の場合には、捜査の段階では国選弁護人が選任されたにもかかわらず、家庭裁判所の審判になると国選付添人が選任されないという事態が生じうる状況となっており、制度上の矛盾は一層明らかです。
4 福岡県弁護士会は、2001年2月、全国に先駆け「全件付添人制度」を発足させました。この制度は、観護措置を受け、付添人の選任を希望する少年については、すべて弁護士会の責任において、弁護士付添人を選任するという制度です。そして、この制度は全国に広がり、多くの少年に、その更生を手助けする弁護士付添人が選任される方向へ発展してきました。
5 不幸にして非行に至った少年たちも、わが国の未来を担う少年たちです。こうした少年を社会から排除するのではなく、自力で社会生活を送ることのできるように成長を手助けする役割は、本来、国の責務です。そのためには、観護措置決定を受け身柄を拘束された、すべての少年たちに国が弁護士付添人を選任する制度が必要です。
  よって、上記のとおり速やかな法改正を求めるものです。

                     2010(平成22)年3月25日

                        福岡県弁護士会
                        会長 池 永 満

2010年3月30日

国籍を調停委員・司法委員の選任要件としないことを求める声明

福岡県 弁護士会
会 長  池 永  満

当会は、最高裁判所に対し、調停委員・司法委員の選任について、日本国籍を要件とするとの取扱いを速やかに変更することを強く求め、福岡地方裁判所、福岡家庭裁判所及び福岡簡易裁判所に対し、当会が日本国籍を有しない者を調停委員・司法委員として推薦した場合、法律や規則の定める要件を満たす者であれば最高裁判所へ上申することを求める。
かねてより、最高裁は、調停委員につき「公権力の行使に当たる行為を行い、若しくは重要な施策に関する決定を行い、又はこれらに参画することを職務とする」ものと位置づけ、「その就任のためには日本国籍が必要である」との見解を表明してきた。しかし、当会は、この見解には、到底承服することはできない。
本年度においても、東京地方裁判所、大阪家庭裁判所、神戸家庭裁判所及び仙台家庭裁判所より、弁護士会員の調停委員への任命推薦の最高裁判所への上申を拒否されており、東京弁護士会、第二東京弁護士会、大阪弁護士会、兵庫県弁護士会及び仙台弁護士会から抗議の各会長声明が出されている。昨年3月にはそれまでの経緯を踏まえて日本弁護士連合会においても同趣旨の意見が表明されている。
調停委員・司法委員の役割は、社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を基に当事者間の合意を斡旋して裁判手続きに至る前に紛争の解決を図るというものであり、職務の性質上当事者の権利を制約することは想定されておらず、その職務が公権力の行使に当たるものとは言い難い。調停調書には確定判決と同一の効力があるとされるが、調停調書はそもそも当事者の合意に基づくものであり、外国籍の仲裁人が当事者の意思に関わらず下した仲裁判断が日本において確定判決と同一の効力を有することと比較しても、外国籍の調停委員の任命を拒絶する理由とはならない。破産管財人や相続財産管理人などの公的側面を有する職務については外国籍の弁護士等の就任が認められていることなどに照らしても外国籍の調停委員を排除する理由とはならない。調停委員会による事件関係者の呼び出しや調停前の措置などに対する違反には過料の制裁の定めがあるが、これらは調停制度の実効性を確保するためのものにすぎないし、過料の制裁は裁判所が決定するものなのである。
また、簡易裁判所や家庭裁判所における紛争が国際化、多様化している現在、外国人を含む多くの市民の健全な良識と感覚を司法に反映させることは紛争解決を容易にするものであり、日本国籍を有しないことのみを理由として調停委員・司法委員への任命を拒否することには合理性はないし、多民族・多文化共生社会形成という観点からもそれが望まれる。またそれらへの就任が国民主権原理に反するとは到底考えられない。
日本国憲法が保障する基本的人権は権利の性質上日本国民のみを対象としているものを除き、日本国に在留する外国人に対しても等しく及ぶべきものであることからすると、法令に根拠のない基準を創設し、当該公務員の具体的な職務内容を問題とすることなく、日本国籍の有無で差別的取り扱いをすることは、国籍を理由とする不合理な差別であり、憲法14条に違反するというべきであり、職業選択の自由(憲法22条)を侵害すると言え、外国人を調停委員・司法委員から排除することは不当である。また、特別永住者について、このことはなおさらである。
よって、上記のとおり、国籍を調停委員・司法委員の選任要件としないことを求める。

以 上

2010年3月29日

平等な高校無償化制度の実施を求める会長声明


1 「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」(以下、高校無償化法案という)が衆議院で可決され、平成22年4月から施行される見通しである。
  高校無償化法案は、日本における高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって日本におけるすべての子どもたちの教育の機会均等に寄与することを目的とし(1条)、制度の対象となる「高等学校等」には、「高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学大臣が指定する」各種学校が含まれると規定する(2条1項)。しかしながら、朝鮮学校については政治的理由あるいは教育課程等の確認ができないなどの理由により、当面、高校無償化の対象とせず、本法2条1項の指定要件を第三者機関に検証させることとなる見込みである。

2 福岡県北九州市にある九州朝鮮中高級学校をはじめ、日本全国に10校ある朝鮮高級学校は2000人近くの生徒が学んでおり、それぞれ都道府県知事から各種学校としての認可を受け、確立されたカリキュラムにより安定した教育を長年にわたって実施している。そして、朝鮮学校の教育課程に関する情報は各種学校の認可を受ける際に必要に応じ提出され、現に日本の多くの大学が朝鮮高級学校の卒業生に対し「高等学校を卒業した者と同等以上の学力がある」として大学受験資格を認定し、実際に朝鮮高級学校の生徒は日本の国公私立大学に進学している。
  また、課外活動の分野でも、今年度の全国高校ラグビー選手権大会で大阪朝鮮高級学校ラグビー部が大阪府代表として全国3位の成績を上げる活躍だけでなく、全国高校サッカー選手権大会に複数の朝鮮高級学校が代表になるなど、朝鮮高級学校は日本社会から高等学校に準ずるものとして認知され、評価されている。

3 1998年2月及び2008年3月の日本弁護士連合会の勧告書が指摘しているように、憲法26条1項(教育を受ける権利)、同14条1項(平等権)、子どもの権利条約、人種差別撤廃条約及び国際人権規約(A規約)などにより、朝鮮学校に通う外国籍の子どもにも学習権(普通教育を受ける権利及びマイノリティ教育を受ける権利)が保障されており、その保障に関しては平等原則に違反してはならない。
  したがって、日本の私立学校や他の外国人学校と区別して、朝鮮学校のみを高校無償化制度の対象から除外することは、朝鮮籍だけでなく韓国籍、中国籍及び日本籍の朝鮮学校に通う子どもたちの学習権を侵害し、合理的理由のない差別であって、平等原則に違反する重大な人権侵害であると言わざるを得ない。
 なお、朝鮮民主主義人民共和国と同様国交のない台湾系の中華学校については、高校無償化制度の対象となることが想定されているのであるから、本国と国交のないことは朝鮮学校を対象外とする合理的理由とはならない。

4 よって、当会は内閣総理大臣及び文部科学大臣に対し、朝鮮学校を高校無償化制度から排除せず、速やかに本法2条1項の指定をするように強く求めるものである。

                            2010年3月25日                      
                           福岡県弁護士会         
                           会長  池 永   満  

2010年3月10日

ストリートビューに関する要請書

要請書

福岡市長  殿
                    2010年(平成22年)3月10日
                      福岡県弁護士会 
                     会 長  池永 満

要請の趣旨
1 福岡市個人情報保護条例を改正し、市民の肖像などの情報が大量にインタ ーネット上に流出しない措置を講じて下さい。
2 それまでの間、個人情報保護審議会において、グーグル社のストリートビ  ューサービス等の多数の人物・家屋等を映し出すインターネット上の地図検 索に関する調査を実施するとともに、事業者に対し、不適切な市民のプライ バシーの収集・利用を行わないよう指導、是正勧告等の必要な措置(福岡市 個人情報保護条例52条)をとって下さい。

要請の理由
 当会は、2008年12月、Google(グーグル)社の「Street View(ストリートビュー)」機能サービスに対し、プライバシー権保護の観点から、問題点の抜本的解決を早急に図るよう求め、それができない場合には、このような画像の収集及びサービスの提供を中止するよう強く求める会長声明を発しました。
 それは、東京、大阪など12都市について、グーグル社のホームページ上で、事前の同意なしに広範に撮影された何万という市民の肖像が、地図情報と連動する形で突然公開されたためです。
当会は、グーグル社の行為に対し、撮影の場面において、①都市のほぼ全域にわたる広範かつ無限定の多数の市民の肖像を根こそぎ撮影していること、②高い位置からの撮影のため、撮影対象が家屋内にも及んでいること、③事前に公表目的での撮影を行うことを説明していないこと、などの問題点を指摘しました。
しかしながら、グーグル社は、これらの問題点に対処することなく、2009年12月、福岡市全域を含む福岡県の市民のプライバシー情報を公開しました。
すでに全国約40の地方議会において、これらの行為に対する対処を求める意見書が採択されています。
日本弁護士連合会も、本年2月3日に、第三者機関を設置する条例の改正や、個人情報保護審議会によるそれまでの対処を自治体に求める意見書を関係機関に送付しました。
福岡市においても、市民のプライバシー権を保護する観点から、市民情報が密かに撮影され、住宅地など、公開する必要性の乏しい地域を世界中にさらす行為を繰り返されないよう、所要の条例の改正をなされるとともに、それまでの間、個人情報保護審議会において直ちに調査に着手し、プライバシー権保護のために必要な措置を講じられるよう求めます。

2009年9月 9日

改正貸金業法の早期完全施行等を求める会長声明

改正貸金業法の早期完全施行等を求める会長声明
 
経済・生活苦での自殺者が年間7000人に達し,自己破産者も18万人を超え,多重債務者が200万人を超えるなどの深刻な多重債務問題を解決するため,2006(平成19)年12月に改正貸金業法が成立し,出資法の上限金利の引下げ,収入の3分の1を超える過剰貸付契約の禁止(総量規制)などを含む同法が2010年(平成22)年6月19日までの政令で定める日に完全施行される予定である。
改正貸金業法成立後,政府は多重債務者対策本部を設置し,同本部は①多重債務相談窓口の拡充,②セーフティネット貸付の充実,③ヤミ金融の撲滅,④金融経済教育を柱とする多重債務問題改善プログラムを策定した。そして,官民が連携して多重債務対策に取り組んできた結果,多重債務者が大幅に減少し,2008(平成20)年の自己破産者数も13万人を下回るなど,着実にその成果を上げつつある。
 他方,一部には,消費者金融の成約率が低下しており,借りたい人が借りられなくなっている,特に昨今の経済危機や一部商工ローン業者の倒産などにより,資金調達が制限された中小企業者の倒産が増加しているなどを殊更強調して,改正貸金業法の完全施行の延期や貸金業者に対する規制の緩和を求める論調がある。
 しかしながら,1990年代における山一証券,北海道拓殖銀行の破綻などに象徴されるいわゆるバブル崩壊後の経済危機の際は,貸金業者に対する不十分な規制の下に商工ローンや消費者金融が大幅に貸付を伸ばし,その結果,1998年には自殺者が3万人を超え,自己破産者も10万人を突破するなど多重債務問題が深刻化した。
改正貸金業法の完全施行の先延ばし,金利規制などの貸金業者に対する規制の緩和は,再び自殺者や自己破産者,多重債務者の急増を招きかねず許されるべきではない。今,多重債務者のために必要とされる施策は,相談体制の拡充,セーフティネット貸付の充実及びヤミ金融の撲滅などである。
そこで,今般設置される消費者庁の所管乃至共管となる地方消費者行政の充実及び多重債務問題が喫緊の課題であることも踏まえ,2006(平成18)年9月1日の当会の「例外なき金利規制を政府に強く求める会長声明」を実効化させるため、当会は国に対し,以下の施策を求める。
1 2010(平成22)年6月19日までに施行予定の改正貸金業法を早期(遅くとも本年12月まで)に完全施行すること。
2 自治体での多重債務相談体制の整備のため相談員の人件費を含む予算を十分確保するなど相談窓口の充実を支援すること。
3 個人及び中小事業者向けのセーフティネット貸付をさらに充実させること。
4 ヤミ金融を徹底的に摘発すること。

                       2009年9月9日
                       福岡県弁護士会
                       会長 池 永  満

2009年8月 6日

消費者庁長官及び消費者委員会委員人事に関する会長声明

消費者庁長官及び消費者委員会委員人事に関する会長声明

1 これまでの産業育成に重点を置いた行政から消費者・生活者の権利擁護のための行政に大きく転換をはかるべく,消費者庁関連3法が今国会で成立し消費者庁と消費者委員会がまもなく発足する運びとなっている。当会は,既に本年6月4日に消費者庁関連法成立に関し会長声明を発したところであるが,消費者庁長官及び消費者委員会委員(及び委員長)の人事は,今後の消費者行政のあり方に極めて重大な影響を及ぼすものであり,この度あらためて声明を行う次第である。
2 消費者庁は消費者問題に関する全省庁の司令塔としての役割を担う組織であり,その長官は,消費者の立場から組織の統制・指揮が期待できる人物でなければならない。また、消費者委員会は消費者庁から独立し消費者の権利擁護のために極めて強力な権限を与えられた組織である。その委員は「消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に関して優れた見識を有する者のうちから」任命する(消費者庁及び消費者委員会設置法10条1項)とされている。したがって,各委員は,消費者委員会設置の趣旨を十分理解し,消費者の権利擁護のために,その強力な権限を行使することが期待できる人物でなければならない。その上,委員長は,委員の互選により選任すべきものである(同法12条1項)。
3 そこで,消費者庁長官及び消費者委員会委員について適正な人事がなされるよう,政府に対し,以下の各事項を要求する。
(1) 消費者庁長官選任にあたっては,消費者の立場から組織の統制・指揮が期待できる人物を選任すること
(2) 消費者委員会の発足にあたっては,現在の準備参与を直ちに委員に任命するべきでなく,どのような基準で同法10条にいう「見識」を有していると判断したのか,その任命基準を明確にし,その任命理由について十分な説明責任を果たすこと
(3) 消費者委員会委員の任命については,実際の消費者問題に精通し経験豊かな人物を選任すべきこと
(4) 消費者庁長官及び消費者委員会委員選任にあたっては,既に衆議院が解散され,新組織発足時には新内閣も発足しているという状況を踏まえ,慎重な人事を行なうこと


                  2009(平成21)年8月6日

                   福岡県弁護士会 会長 池   永  満

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