福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
声明
2007年2月23日
鹿児島選挙違反事件判決についての会長声明
2007年(平成19年)2月23日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
本日、鹿児島地方裁判所は、2003年(平成15年)4月に施行された鹿児島県議会議員選挙に関して公職選挙法違反で起訴されていた12名の被告人全員について無罪判決を言渡した。
本件は、任意で取調べ中の被疑者に対し、家族の名前と家族が被疑者を諭すような内容の紙を取調官が作成して、被疑者に強制的に踏ませるという「踏み字」を強制したり、任意での取調べであるにもかかわらず、被告人の退去を認めずに事実上長時間拘束して自白を強要するなど、捜査機関の誤った見込みに基づいて違法捜査が継続された事件である。
さらに、本件では、国選弁護人が接見禁止中の被告人と接見中に、被告人の娘の激励の手紙を接見室のガラス越しに見せた行為が「接見禁止の趣旨を逸脱」したものだとして、検察官が裁判所に国選弁護人の解任を申し入れ、裁判所は不当にもこれを受けて弁護人を解任し、加えて、捜査機関が組織的に、被疑者・被告人と弁護人との接見内容について接見直後に取調べを行い、この接見内容を供述調書化するなど、被疑者・被告人の弁護人との秘密交通権、弁護人選任権を侵害する暴挙がなされた事件である。
本件の捜査方法ついては、本件被告人によって提訴された国家賠償請求訴訟判決において、2007年(平成19年)1月18日、鹿児島地方裁判所によって、「その取調べ手法が常軌を逸し、公権力を笠に着て被疑者を侮辱する」と厳しく断罪され、同訴訟の被告である鹿児島県も控訴を断念せざるを得なかったものであり、その違法性は明らかである。
このような近年まれに見る異常な違法捜査によって獲得された虚偽の自白に基づいて本件被告人らは起訴されたものであり、本日の無罪判決は当然のものと言える。
しかしながら、本件刑事事件の審理において、これらの違法な取調べによって得られた被告人らの供述調書の任意性を巡る証拠調べに長期間を要し、そのため、無辜の被告人らが長期間筆舌に尽くしがたい身体的、精神的苦痛を余儀なくされたことは極めて不当であり、許しがたいことである。
本件のような虚偽自白の強要に基づく冤罪や自白調書の任意性をめぐる審理の長期化を二度と生じさせないためにも、取調べの全過程を録画・録音するという取調べの全過程の可視化こそが、必要不可欠であり、かつ、約2年後に施行される裁判員裁判が有効に機能するための前提条件である。
当会は、既に取調べの録画・録音が試行され法律化が進行中の韓国に平成17年に視察調査団を送り、さらに翌18年には、韓国と台湾(既に取調べの録画・録音制度が実現している)への日弁連の調査視察団に多くの当会会員を派遣し、精力的に取調べの録画・録音実現のための運動を推進しているものであるが、遅くとも裁判員裁判の開始時までに、取調べの全過程を録画・録音するという取調べの全過程の可視化をわが国においても実現することを強く求める次第である。
2006年12月27日
死刑執行に関する会長声明
1 本年12月25日、東京拘置所において2名、大阪拘置所及び広島拘置所においてそれぞれ1名の合計4名に対し死刑が執行された。
日本弁護士連合会は、2002年11月理事会で採択した「死刑制度問題に関する提言」及び2004年10月の人権擁護大会決議に基づき、本年6月15日、杉浦法務大臣あてに死刑執行停止に関する要請をし、これに呼応して当会においても、本年7月12日に死刑執行の停止を求める会長声明を発した。さらに、臨時国会が閉会し、これまでの経験上、死刑執行の可能性が高まるとして、本年12月13日に日弁連が死刑執行の停止について長勢甚遠法務大臣に対する要請をした。ところが,今回の死刑執行は、これらの要請を無視してなされたものである。
2 わが国での死刑執行は、1989年11月から1993年3月まで3年以上にわたって控えられていた。
ところが、その後死刑執行が再開され、今回の執行を含め13年9ヶ月の間に、その被執行者数の累計は51名にも及ぶ。
しかし、わが国では、4つの死刑確定事件(免田・財田川・松山・島田各事件)について再審無罪判決が確定し、死刑判決にも誤判が存在したことが明らかとなっている。
そもそも、国際的には、1989年に国連総会において採択された死刑廃止条約が、1991年7月に発効しており、2006年11月21日現在、死刑存置国68カ国に対して死刑廃止国は129カ国(法律で廃止している国と過去10年以上執行していない事実上の廃止国を含む。)に及び、死刑廃止が国際的な潮流となっている。その中で、1993年11月4日及び1998年11月5日の2回にわたり、国連規約人権委員会は、日本政府に対し、死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
国内的にも、1993年9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見にて、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるべきであるとの指摘がなされているにもかかわらず、その後十分な議論が尽くされないまま死刑執行が繰り返されてきた。
3 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえ、とりわけ、現に死刑確定者が収容されている死刑執行施設を備えた福岡拘置所がある当地において、当会は、これまでに、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件を受理し、同事件処理をとおして、死刑制度の存廃を含めた問題に取り組む必要性を痛感し、より積極的な取組みをするべきであると考えてきた。
ゆえに、当会は、これまで、数回にわたり、当会会長声明において、死刑執行に対して極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであることの要望を重ねてきた。
また、当会は、九州弁護士会連合会と共に、2004年9月4日、「アジアにおける死刑―死刑廃止の胎動」と題して日弁連人権擁護大会に向けたプレシンポジウムを開催し、隣国の韓国及び台湾(中華民国)が死刑廃止立法に向けた確かな歩みをしている事例を紹介し、日本においても死刑廃止を含めた死刑制度の国民的議論の必要性を喚起した。
4 しかしながら、死刑制度存廃につき国民的議論が尽くされないまま、死刑の執行が繰り返されてきたのはまことに遺憾である。しかも、今回の執行は、これまで国会閉会直後や国政選挙直前あるいは年末など、国会による議論を避け、国民の関心が他に向けられやすい日程で死刑の執行が行われているとの批判を一顧だにしないものであり,その点でも大きな問題があるのといわなければならない。
そこで、当会は、今回の死刑執行に関して、法務大臣に対し、極めて遺憾であるとの抗議の意を表明するとともに、更なる死刑の執行を停止するよう強く要請する。
以上
2006年12月27日
福 岡 県 弁 護 士 会
会長 羽 田 野 節 夫
2006年11月16日
教育基本法改正に反対する会長声明
2006年11月15日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
1 教育基本法の改正法案が臨時国会で審議されており,政府は改正案成立を強く企図していると伝えられている。
同法は,日本国憲法と同時期に憲法の理念を実現し,教育の中立性を守るために制定されたものであって,名宛人を国家又は公権力とする点で準憲法的な性格を有し,国際条約との間の整合性を確保する必要性も高い。従って,その改正の要否を含め,慎重な調査と広く国民の議論を経たうえで審議を行うべきである。しかし,これまで国民に向けて開かれた議論が行われたとはいいがたい。
例えば,先般,教育改革タウンミーティングにおいて,政府が同法改正への賛成発言を出席者に依頼していたことが発覚した。これは政府みずからが,教育基本法改正について国民に向けて開かれた議論の場を設けてこなかった証左というほかない。
2 もとより,現在多発するいじめや少年の自殺,不登校など現在の教育が抱える深刻な問題を改善するために現行法が支障となるのであれば,早急な見直しが必要であろう。しかし,政府の国会答弁でも,これらの問題点が現行法に起因するものでないことは,明確に述べられているところである。
そして,当会は,これまでも市民集会やシンポジウムを開催し,さらに,11月10日には150名を越える参加者による市民集会を開催するなど,広く市民に呼びかけて教育基本法改正を議論する場を設けてきた。そうした中で,戦前の教育への国家介入がもたらした惨禍を防ぐために,個人の尊厳を重んじ,真理と平和を愛する人間の育成を根本原則と定めた現行教育基本法が果たして来た役割を再認識し,同法の理念を今後も堅持することを,多くの市民が望んでいることも判明しているところである。
3 さらに,政府の改正案においては,公権力の教育への不介入を定めた現行法10条の改正によって,政党政治の下で多数決によってなされる意思決定に基づく教育が正当化され,教育の自主性・自律性が損なわれかねない。しかも,改正案2条に教育の目標として「徳目」を掲げることにより,子ども達に一方的な価値感が植え付けられ,憲法で保障された思想良心の自由がないがしろにされる恐れもある。
そもそも,「新しい時代に即した教育理念を教育基本法に盛り込まなければならない」との政府の改正目的については,必ずしも国民全体が納得して共有しているとはいえないばかりか,仮にこうした理念を教育基本法に盛り込むのであれば,いっそうの開かれた国民的議論が不可欠である。
4 このように,将来の教育のあり方を定める根本原則を改正するにあたり,未だ十分な調査や議論がなされたとは言い得ない状況にあり,かつ政府の改正案は教育の中立性を損なう重大な問題があると言わざるを得ない。
そこで,当会は,改めて,衆参両院に「教育基本法調査会」を設置し,教育基本法改正の要否を含めた十分かつ慎重な調査と議論を行うことを求めるとともに,政府案に基づく教育基本法の改正には,強く反対の意思を表明するものである。
以 上
NHKに対する国際放送命令に反対する会長声明
2006年(平成18年)11月15日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
菅義偉総務大臣は,今月10日,日本放送協会(以下「NHK」という。)に対して,放送法33条に基づいて,短波ラジオ国際放送で,北朝鮮による拉致問題を重点的に取り扱うことを命じた。
従前,NHKに対して放送事項等を指定して国際放送を命じることができる旨の放送法33条の規定に基づき,総務大臣によって,「時事」,「国の重要な施策」及び「国際問題に関する政府の見解」という3点の抽象的な事項を対象とした放送命令がなされてきた例があるが,この度の放送命令は,上記のとおり個別具体的な施策を特定して放送を命じたものである。
そもそも,放送命令制度は,国による放送に対する直接の介入という性格を有するものであるから,この制度自体が,NHKの放送の自由(同法1条),番組編集の自由(同法3条)などの基本原則を侵害し,ひいては憲法が保障する表現・報道の自由(21条)の根本原則をも侵害する問題性を孕むものであるところ,この度の個別具体的事項を特定した放送命令は,この問題性を顕在化させたものであり,その違憲性は看過できない。
そして,今回の事態は,国によるメディアへの介入という側面を持つものであることから,決してNHKだけの問題として矮小化することはできない。
よって当会は関係各機関に対して,以下の事項を求める。
1 総務大臣は,今回の放送命令を撤回すること。
2 政府及び国会は,放送法33条を,憲法が保障する表現・報道の自由を侵害しないように改正する検討を開始すること。
2006年9月14日
いかなる特例も認めない上限金利の引下げと利息制限法の厳守を求める緊急会長声明
2006年(平成18年)9月13日
福岡県弁護士会会長 羽田野 節夫
本年7月6日の自民党と公明党の「貸金業制度等の改革に関する基本的考え方」により、出資法の上限金利の見直し等を検討していた金融庁及び法務省は,9月5日,その内容を明らかにした。これによると、現行グレーゾーン金利を4年間存続させるとともに、その後、「少額短期特例」,「事業者向け特例」として,いずれも年利28%の新グレーゾーン金利を認め,しかも、現行の利息制限法の金額区分を変更して、元本10万円の定めを50万円に、元本100万円の定めを500万円に変更するというものである。これによると、元本10万円以上50万円未満のものについては、従来の18%から20%に、元本100万円以上500万円未満のものについては、従来の15%から18%に引き上げとなる利息制限法の大改悪である。
しかし、今回の法改正の目的は、最高裁判所が貸金業規制法43条(グレーゾーン金利)の適用を否定して利息制限法による債務者救済を図る判決を相次いで示したことを踏まえ、金融庁の「貸金業制度に関する有識者懇談会」や7月6日の自民党と公明党による前述の「基本的考え方」が、深刻な多重債務問題を解決するために、出資法の上限金利を利息制限法の水準まで引き下げるという基本方針にもとづき行われているものである。
ところが、この度、金融庁及び法務省が明らかにした前記内容は、「特例」という形で利息制限法による金利の一本化までに最長で9年間程度を要する上、特例の高金利の恒久化すら懸念され、しかも利息制限法の改悪を行おうとしているものである。これは、深刻な多重債務問題を解決するため、312万人を超える高金利引下げを求める署名や、39都道府県、880を超える市町村議会(福岡県においては、県議会をはじめ54議会)の意見書に現れた、多重債務問題の早期かつ抜本的な改革を強く望む国民の声に逆行するものである。
よって当会は、重ねて政府及び国会に対し、直ちにグレーゾーン金利を廃止し、出資法第5条第2項の上限金利を利息制限法第1条の制限金利まで引き下げ、少額短期特例や事業者特例を設けず、また利息制限法のいかなる改悪も行わないよう改めて強く求めるものである。
以 上
「政治家の思想・言論の自由を封殺する一切のテロ行為を断固として許さない」会長声明
2006年(平成18)年9月13日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
1、本年8月15日早朝、小泉首相は、国の内外から反対の声が強かった靖国神社への参拝を全国民注視の中で、実行した。
自民党の元幹事長で山形県選出の衆議院議員加藤紘一氏は、かねてより小泉首相の靖国神社への参拝を批判し、終戦記念日の参拝に反対し、当日の小泉首相の行動に対し、マスコミを通じ批判していた。
加藤紘一議員が自己の信念に基づき小泉首相の言動を批判するのは、思想、言論の自由が保障されている現代社会において、政治家として当然のことである。
2、然るに、本年8月15日夕刻、山形県鶴岡市に所在する、加藤紘一議員の実家と事務所が放火により全焼するという事件が発生した。新聞報道によれば、この放火事件は、小泉首相の靖国神社参拝についての加藤紘一議員の批判発言に対して、放火という暴力行為によって抗議しようとした、右翼団体に所属する男性の「政治的テロ行為」であることが明らかになった。
このような政治家の身辺に対するテロ、暴力行為は、それによって、他の政治家や他の諸団体、更には、国民の言論の自由や、政治活動の自由をも牽制し、健全な批判精神は元より、自由な意見発表などの言論活動を萎縮させる効果をもたらし、ひいては、マスコミの報道の自由に対してさえも著しく悪影響を与えるおそれがある。
3、とくに、今や、自民党の総裁が交代し、新政権の発足が予定され、憲法改正が具体的政治日程にのぼっている頃である。
当然ながら、憲法改正問題は、民主主義国家としての我が国最大の政治課題である。
今後、憲法改正の是非が国民の間で自由に、徹底的に論議されなければならない。
このような時にこそ、政治家に対してはもちろん、国民も、マスコミも、等しく、思想、言論、表現、報道の各自由が保障されるべきことは言うまでもない。自由で徹底的な議論や論争によってしか、真に国民の自由と権利を守る憲法は誕生しえないからである。
4、今回のような、政治家の言論をテロ、暴力によって封殺するような行為を断固として許してはならない。
福岡県弁護士会会員一同は、我が国の民主主義を守るためには、憲法で保障された思想、言論の自由、そして、政治活動の自由を絶対に保障すべきものと考える。
今後、再び、思想、言論の自由を封殺する一切のテロ行為を断固として許さない意思を内外に明らかにし、この声明によって、思想、言論の自由、及び政治活動の自由の大切さを強く表明するものである。
以上
2006年9月 1日
例外なき金利規制を政府に強く求める会長声明
平成18年9月1日
福岡県弁護士会 会長 羽 田 野 節 夫
多様な現在の貧困の原因のうち,高金利が貧困問題の重大な原因であることがかねてから指摘されていた。すなわち,1962年に米国で発表された消費者利益保護に関するケネディ教書において,「消費者の所得を増加させようと努力するよりも,同じ努力をするのならば,消費者の所得をできるかぎり有効に使う努力の方が,多くの家庭の福祉の増進に大きく寄与することができる」とされているとおり,消費者の利益を保護するためには,家計にとって完全な冗費である高金利の支払いを許容し続けるべきではない。ところが,我が国は,未だ高金利を認めているために,2000万人にも及ぶサラ金・クレジット利用者の日々の生活・生存が危機に直面し、経済苦を理由とする自殺者が年間8000人とも言われる事態にあること,国民の健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を保障すべき生活保護行政においても,高金利を原因とする多重債務問題が大きな問題を投げかけていることを認識できる。
政府与党は、平成18年7月6日、「貸金業制度等の改革に関する基本的考え方」をまとめたが、その内容は、少額短期の貸付や事業者に対する貸付につき特例金利を認める余地を残しているなど、未だ極めて不十分な内容であると言わざるを得ない。
その後金融庁は、貸付金利の上限を引き下げるのに併せ、少額短期の貸し付けについては、上限金利の上乗せを認める方向で検討に入ったと報道されている。当会は、断固としてこれに反対し、改めて社会的・経済的弱者の生存権の保障・救済という観点に立ち、以下の内容を含む例外なき金利規制を政府に強く求めるとともに、今後、多重債務問題に苦しむ市民を行政・司法といった枠にとらわれず,できるだけ広く救済していくために最大限の努力を尽くすことを誓い、ここに声明する。
1.出資法の上限金利年29.2%を、利息制限法で定める年15%から20%の制限金利まで引き下げること。
2.貸金業の規制等に関する法律第43条(みなし弁済)を撤廃すること。
3.「日賦貸金業者及び電話担保金融に対する特例金利」を直ちに廃止すること。
4.少額短期の貸付や事業者に対する貸付も含め全ての貸付について特例金利を認めないこと。
5.保証料・振込手数料については、利息概念に含めること。
2006年7月13日
北九州矯正センター構想に反対する声明
2006(平成18)年7月12日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
同北九州部会 部会長 横光幸雄
1,当会は、平成7年2月に小倉刑務所敷地に医療刑務所・小倉少年鑑別所(現福岡少年鑑別所小倉支所)・福岡拘置所小倉支所の3施設を移転させるという「北九州矯正センター構想」(以下、「本構想」という)が発表されて以来、一貫して本構想に反対し、対策本部を設置して、様々な活動を展開してきた。その結果、本構想は長期にわたり凍結されたままの状態となっていたところである。
2,ところが、平成16年度に小倉少年鑑別所を小倉刑務所跡地に移転する計画が突然予算化された。そこで、当会は、本構想に反対することとあわせ、当面の問題として少年鑑別所を刑務所と隣接敷地に設置することにより、少年鑑別所に収容される少年に多大な悪影響を及ぼし、少年の健全な育成が阻害されること、少年鑑別所が刑務所と類似した矯正施設であるかのような誤解や偏見を世間に与える事態が生じることなどを理由に、小倉少年鑑別所を小倉刑務所跡地に移転させる構想に断固として反対してきたところである。
3,その後、法務省は、地域住民の反対もあって、一旦着工を延期したものの、地域住民から提出された道路整備等を内容とする要望書の一部を受け入れる形で地域住民の自治会組織である小倉南区自治総連合会の同意を取り付け、平成18年6月7日に小倉少年鑑別所新築工事の入札を実施し、平成19年3月までに完成させる予定で工事を着工しようとしている。
4,しかしながら、法務省は矯正施設である刑務所、鑑別施設である少年鑑別所、無罪の推定の働く未決者の拘置施設である拘置所を併設することの問題点について、抜本的な解決を図る姿勢が全くない。のみならず、地域住民に対して、本構想の全容、特に将来的には本構想に基づき福岡拘置所小倉支所の小倉刑務所跡地への移転計画が存在することについて十分な説明を行っておらず、地域住民の鑑別所移転についての合意形成手続についても重大な疑問があるといわざるを得ない。
5,そこで、当会としては、このような経過を踏まえて、改めて、本構想の撤回及び少年の健全な育成を理念とする少年法の趣旨に反する小倉少年鑑別所の小倉刑務所跡地への移転に断固として反対するものである。
さらに、当会としては、本構想に基づき近い将来予想される福岡拘置所小倉支所の小倉刑務所跡地への移転にも強く反対し、引き続き本構想の全面的な撤回を求めるものである。
以 上
死刑執行の停止を求める会長声明
2006(平成18)年7月12日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
1 わが国での死刑執行は、1989年11月から1993年3月までの3年以上にわたって執行が控えられていた。
ところが、その後死刑執行が再開され、2005年9月16日までに19回にわたり執行され、その被執行者数の累計は47名に及んでいる。
しかし、国際的には、1989年に国連総会において採択された死刑廃止条約が、1991年7月に発効しており、2006年6月7日現在、死刑存置国71カ国に対して死刑廃止国125カ国(法律で廃止している国と過去10年以上執行していない事実上の廃止国を含む。)と、死刑廃止が国際的な潮流となっている。その中で、1998年11月5日、日本政府の第4回定期報告書を審査した国連規約人権委員会は、その最終見解において、わが国の死刑制度に関して1993年11月4日に同委員会が表明した懸念事項が実施されていないことにつき重大な懸念を抱いていることを示し、改めて死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
国内的には、1993年9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見にて、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるとの指摘がありながらも、十分な議論が尽くされないまま死刑執行が繰り返されてきた。
2 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえ、とりわけ、現に死刑確定者が収容されている死刑執行施設を備えた福岡拘置所がある当地において、当会は、これまでに、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件を受理し、同事件処理をとおして、死刑制度の存廃を含めた問題に取り組む必要性を痛感し、より積極的な取組みをするべきであると考えてきた。
ゆえに、当会は、これまで、数回にわたり、当会会長声明において、死刑執行に対して極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであるとの要望を重ねてきた。
また、当会は、2004年10月7日の日弁連人権大会に向けたプレシンポを九州弁護士会連合会と共に「アジアにおける死刑―死刑廃止の胎動」と題して9月4日に開催し、隣国の韓国及び台湾(中華民国)が死刑廃止立法に向けた確かな歩みをしている事例を紹介し、日本においても死刑廃止を含めた死刑制度の国民的議論の必要性を喚起した。
3 しかしながら、死刑制度存廃につき国民的議論が尽くされないまま、死刑の執行が繰り返されてきた。しかも、これまで国会閉会直後や国政選挙直前あるいは年末など、国会による議論を避け、国民の関心が他に向けられやすい日程で死刑の執行が行われている。
このような状況に照らせば、83名の死刑確定者(2006年6月6日現在)に対し、今後、近いうちに死刑の執行が行われる可能性がある。
そこで、当会は、法務大臣に対して、今後、死刑の執行を停止するよう強く要請する。
2006年6月29日
薬害肝炎被害の早期解決と肝炎の治療体制整備を求める会長声明
2006(平成18)年6月28日
福岡県弁護士会 会長 羽田野節夫
2006(平成18)年6月21日、全国5地裁(福岡、東京、名古屋、大阪、仙台)に係属している「薬害肝炎訴訟」の初めての判決が、大阪地方裁判所において下された。
この薬害肝炎訴訟は、血液製剤の投与によりC型肝炎ウイルスに感染させられた原告らが国と製薬企業を被告として、血液製剤を承認し、製造・販売したことが違法であるとしてその損害賠償を求めた訴訟である。
まず、判決は、血液製剤(フィブリノゲン製剤)の1987(昭和62)年の製造承認につき、「厚生大臣は、より一層の慎重な調査、検討をするどころか、非加熱製剤を加熱製剤に切り替えさせるという方針を立て、あらかじめ申請及び承認時期を定めた上で、極めて短期間に、いわば結論ありきの製造承認を行ったものであるから、安全確保に対する意識や配慮に著しく欠けていたといわなければならない」などと指摘して、原告5人の国に対する損害賠償請求を認容した。
次に、判決は、1985(昭和60)年、「製薬企業が、製剤の不活化処理について、ほとんど不活化効果がなかった方法に戻し、C型肝炎感染の危険性をより一層高めた」として、原告9人の製薬企業に対する損害賠償請求を認容した。
その上で、判決は、国及び製薬企業がフィブリノゲン製剤の危険性に関する情報を軽視した結果、原告らが「何らの落ち度がないにもかかわらず、C型肝炎ウイルスに感染し、その結果、深刻な被害を受けるに至った」ことを認めた。そして、高額な治療を受けることが容易でなく、社会の理解がいまだ不十分であるため、肝炎患者が、社会において多大な苦しみを被っていることをも指摘している。
以上から、当会は、国と製薬企業が法的責任に基づき薬害の被害者である原告らを直ちに救済するとともに、全国で350万人ともいわれるウイルス性肝炎患者の被害回復のために、肝炎患者らの訴えに真摯に耳を傾けた上で、治療体制の確立・新薬の開発等の恒久対策を一刻も早く実現するよう求めるものである。