福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画

声明

2003年6月 6日

「『国を愛する心情』等の評価項目を定めた通知表を採用しないことを求める会長声明

福岡県弁護士会 会長  前田 豊

 平成15年(2003年)6月6日

 本年6月3日、「福岡市小学校公簿等研究委員会」は、今年度の通知表案として6案を示し、希望校への配布を開始した。そのうちの1案には、小学校6年生の社会科の「関心・意欲・態度」を評価する項目で、「我が国の歴史や伝統を大切にし、国を愛する心情を持つとともに、平和を願う日本人として世界の国々の人々と共に生きていくことが大切であることの自覚をもとうとする」との観点の趣旨が示され,これに「学習状況」と「評定」の欄において1,2,3の評価をすることになっている。\n 当会は昨年度、上記の観点の趣旨とほとんど同様の表記であった昨年度福岡市立小学校6年生の通知表\について、市民団体からの人権救済申立を受け、当会の人権擁護委員会において調査・審議をし、常議員会において承認をしたうえ、本年2月26日、「『国を愛する心情』『日本人としての自覚』といったものは個人の思想・良心に関わるものであり、こうしたものを児童の学習到達度を評価する通知表\に規定することは、公教育の現場において特定の思想・良心を児童に強制する結果をもたらすおそれがあり、とりわけ在日韓国人らの人権を侵害するおそれが高い」として、当該評価項目を削除し改めるよう、当該通知表採用校の福岡市立堤丘小学校校長に警告し、福岡市教育委員会に勧告した。\n ところが、6案中の1案とはいえ、再び本年度の通知表案において昨年と同様の評価項目が示されたことはまことに遺憾であり、当会は、通知表\案採否の決定権を持つ福岡市立の各小学校校長に対し、この通知表案を採用しないよう求めるものである。\n すなわち、上記の評価項目は、一部「世界の国々の人々と共に生きていくことが大切であること」との文言が挿入・付加され若干の修正が施されてはいるが、他は昨年の通知表と同文であり、当会の上記警告書及び勧告書に述べたことがそのまま当てはまるものである。それは、教員による評価を通じて、児童に対し、「国を愛する心情」を持つこと、及び「平和を願う日本人として世界の人々と共に生きていくことの大切さを自覚する」ことを求めるものであって、公教育の現場において特定の思想・良心を児童に強制する結果をもたらすおそれがあるものである。特に、我が国で共に学び生活する外国籍の児童の思想・良心の自由を侵害し、子どもの権利に関する条約29条に定めた「多文化共生教育」の要請にも反するものであり、加えて、児童の国籍の如何を問わず、同条約12条に定められた「子どもの意見を表\明する権利」の趣旨にも反するといわなければならない。
 また,児童が一生懸命考えているのに「国を愛する心情」がないと評価されたり、児童が教員からよい評価を得るため気持ちを曲げて「国を愛する心情」を表現したりするときには、当該児童に対する教育効果のうえでも大きな問題が残るのではないかと懸念される。\n 本年度の通知表案は、「福岡市小学校公簿等研究委員会」という任意団体が作成し、各小学校の校長が採用するか否かの決定権を持っているとされている。\n そこで、当会は、福岡市立の小学校校長に対し、憲法上も子どもの権利に関する条約上も重大な違反の疑いがある、「国を愛する心情」等を評価項目に定めた通知表を採用しないよう求めるものである。\n

2003年5月21日

有事法制に反対する会長声明

福岡県弁護士会 会長  前田 豊

 平成15年(2003年)5月21日

 有事法制法案が5月15日衆議院を通過し、現在参議院で審理中である。
 この法案は、当初の政府案を修正したものであるが、「武力攻撃予測事態」の定義や範囲はなお曖昧である。また、「武力攻撃予\測事態」と周辺事態法でいう「周辺事態」の異同や、武力攻撃事態対処法と周辺事態法がどう連動するのかは依然として不明確であり、周辺事態法又はテロ特措法との連動いかんによっては、憲法が認めていない集団的自衛権と同様の結果となることも懸念される。さらに、有事認定の客観性も十分に担保されているとはいえず、国会による事前の民主的コントロールも確保されているとはいえない。有事における首相の地方公共団体や指定公共機関に対する指示権・代執行権は当面凍結されたものの何ら変更がなく、有事において民主的な統治機構\や地方自治を維持することができるのかという疑問は払拭されていない。民間放送局を含むメディアが有事に政府の統制下におかれる危険性も完全には排除されていない。しかも、国民的な議論が尽くされたものとは言いがたく、衆議院における徹底した議論も行われていない。
 いうまでもなく、この法案は、わが国の進路を決定し、国民の生命と安全そして憲法と基本的人権に関わる重要な法案である。当会は、このような憲法原理に関わる重要法案について、十分な国民的議論も国会審議もないままに、そのまま参議院において可決され成立することには反対せざるを得ない。\n この法案は、以上のとおり、平和主義、基本的人権の尊重、国民主権主義という憲法原理に抵触する重大な疑念が存在するものであり、当会は、その廃案を求めるものである。

2003年4月24日

個人情報保護2法案に対する会長声明

福岡県弁護士会 会長  前田 豊

 平成15年(2003年)4月24日 

 本年4月8日、民間部門を対象とする個人情報保護法案、行政機関を対象とする行政機関個人情報保護法案が衆議院で審議入りした。
 前者は主にメディアの取材・表現の自由、国民の知る権利を侵害する法案であるとして、また後者は情報の収集制限、不正行為者に対する罰則規定がないなど民間に比べ行政機関に甘い法案であるとして、市民、メディア、弁護士会からの批判を受け、昨年秋の臨時国会で廃案となった経緯がある。\n 政府はこれらの批判を一部受け入れ、前者についてはメディアに対する一定程度の配慮を行い、後者については個人情報の不正な提供行為に罰則規定を設けるなどした修正案を上程したが、いずれも以下のとおり、依然として個人情報の保護等について重大な危険性をはらんでいる。

 1 個人情報保護法案について
 (1)  規制が広範に過ぎる反面、真に規制が必要な分野では実効性がないこと
法案は、すべての民間部門を一律に規制するという基本構造をとっている。しかし、民間部門には、メディア、NGO、弁護士、弁護士会その他の団体ないし個人があり、他方で個人信用情報を悪用する名簿業者などがある。これらを一律に規制する法案は、前者に対しては規制が厳しすぎてその本来の活動を抑制することになり、後者に対しては規制としての実効性がない結果となる。\n 法案は、規制が広範に過ぎ、メディア、NGO、弁護士、弁護士会その他の団体ないし個人が情報を収集し、意見表明することを妨げるおそれがある。\n (2) 表現、報道の自由への侵害の危険があること\n 法案は、メディアの取材・表現の自由に対する配慮をしたとするが、「出版」が適用除外から外されており、また「著述の用に供する目的」や「報道の用に供する目的」についての審査権限は依然として主務大臣が掌握しており、主務大臣が「報道目的でない」と判断すれば、政府が取材・報道に事前に介入することができる余地があるなど、依然としてメディアの取材・表\現の自由に対する侵害のおそれがある。
 そこで、民間部門で一律に規制するのではなく、まず公的部門を対象とする法整備を先行させ、民間部門においては個人情報保護の必要性が高い個人信用情報、医療情報、電気通信情報、教育情報などの分野について、その特性を考慮した分野別個別法の立法がなされるべきである。

 2 行政機関個人情報保護法案について
 (1) 法案は、ほとんどの自治体の個人情報保護条例で規制されている思想、信条、病歴、犯罪歴などの他人に知られたくないようないわゆる「センシティブ情報」の収集を規制していない。
 (2) 法案は、行政機関が「相当な理由」があると判断すれば、個人情報を目的外に利用できる上、他の行政機関に提供することができるとし、行政機関による個人情報の使い回しを認めている。
 更に、昨年8月に稼動を開始した住民基本台帳ネットワークシステムで国民全員に対し11桁の番号が付番されたが、法案では、この番号をマスターキーとして個人情報が一元管理されることになる。防衛庁が住基情報を流用していたこと、親族情報や健康情報を付加利用していたことがマスコミ報道されたばかりであるが、法案では、そのような流用に対するチェック機能が働かず、また有効な歯止めにもならず、住民基本台帳ネットワークシステムのセキュリティが極めて脆弱であることからしても、個人情報は保護されないことは明らかである。また、本年8月からの住基ICカードの交付など住民基本台帳ネットワークシステムの本格稼動により、国民総背番号制へと導かれる危険性も高い。\n
 3 独立した第三者機関による行政チェックシステムの必要性
 行政から独立した第三者機関によって、目的外利用、他の行政機関への提供、センシティブ情報の収集等については、行政機関による相当性の判断に任せるのではなく、独立した第三者機関によるチェックシステムが必要である。

 4 裁判管轄
法案では、裁判管轄に関する規定を置いていないため、このままでは東京地方裁判所でしか裁判を提起することができないことになるが、それでは地方在住者の個人情報に関する権利保障は極めて不十分であり、請求者の居住地を管轄する地方裁判所にも管轄を認める必要がある。\n
そこで、今般の法案についても、以上の点で抜本的修正がなされない限り、当弁護士会は、法案の成立に反対する。

朝鮮学校に通う子どもたちへの嫌がらせ等に関する会長声明

福岡県弁護士会 会長  前田 豊

 平成15年(2003年)4月24日

  朝鮮民主主義人民共和国は、2002年9月17日の日朝首脳会談で日本人拉致事件を公式に認めるに至った。
 その日を境にして日本各地において朝鮮学校に通う子ども及び朝鮮学校に対する嫌がらせが顕著になってきている。福岡もその例外ではない。
 調査の結果、「拉致されるぞ」「朝鮮に帰れ」「死ね」等の暴言、追いかけられる、石を投げられる等の被害が多数にのぼっていることが判明した。\n また朝鮮学校も、学校のホームページの掲示板に「人殺し」「恥を知れ」等の嫌がらせの言葉が書き込まれ、掲示板を閉鎖せざるを得なくなったり、子どもへの危害を避けるためスクールバスに書かれていた学校名を消したり、チマチョゴリでの通学を一時取りやめるという措置を執らざるを得なかった。また一時的に休校せざるを得なかった学校もある。
 これらの嫌がらせは在日コリアン(在日韓国・朝鮮人)の子どもの心を深く傷つけ、生命・身体の安全と自由を脅かし、教育を受ける権利を侵害している。
 同時にこれらの行為は、憲法13条及び世界人権宣言第1条・第2条・第3条をはじめ、国際人権規約、人種差別撤廃条約、子どもの権利条約などにおける個人の尊厳の保障及び人種差別禁止の理念及び規定に反する。

  拉致事件が重大な人権侵害であることは当然のことであるが、これは朝鮮学校に通う子どもには全く責任のないことである。拉致事件に無関係の子どもに対して嫌がらせを行うことも決して許されることのない人権侵害である。

  これらの嫌がらせは、在日コリアンの子どもに対する不当な偏見に基づくものである。当会は、国及び地方自治体に対しこの偏見を取り除く対策を直ちに講じ、在日コリアンの子どもが安全・平穏に生きる権利を保障することを要請する。
 さらに当会は、国籍や人種の違いを超えてお互い思いやりを持って共生することができる社会が実現することを切に訴え、それに向けての活動を積極的に取り組む決意である。

2003年3月20日

アメリカなどによるイラク侵攻に反対する会長声明

福岡県弁護士会 会長  藤井克已

 平成15年(2003年)3月20日

 アメリカとイギリスは、日本時間3月20日午前11時40分頃、ブッシュアメリカ大統領がイラクのフセイン大統領に国外退去を求めた「最後通告」の猶予期限を徒過したとして、国連安全保障理事会の決議を経ることなく、イラクに対する武力攻撃を開始した。又、小泉首相はアメリカなどの武力攻撃を支持することを言明した。\n 国連憲章により例外的に武力行使が許されるのは、安保理が必要な措置をとるまでの間の自衛権の行使として、或いは、平和に対する脅威等に集団的措置で安保理の決議に基づく行動としてなされる場合に限られる。しかし、現在、イラクはアメリカ、イギリス等に対する武力攻撃をしておらず、自衛権の行使はその前提を欠き、安保理決議1441号などは、今回の武力攻撃に同意を与えるものではない。
 従って、今回の武力攻撃が、国連憲章に違反することは明らかである。アメリカなどの武力攻撃は、二度にわたる世界大戦の反省を踏まえて築き上げられた国際社会における法の支配と、国連の存在意義を根底から覆すものである。
 また、大規模爆撃を含む武力攻撃は、多くの市民の生命を奪い、最大の人権侵害を引き起こし、真の平和と安全をもたらさない。
 当会は、アメリカ等に対し、全世界の世論に背を向け、平和を放棄した今回の武力攻撃に強く抗議する。
 そして当会は、あらためて日本政府に対し、戦争に反対する圧倒的多数の国民の声を真摯に受け止め、憲法の平和主義・国際協調主義の理念に立ち返り、アメリカ等において早期に武力攻撃の収拾を為し、国連主導によるイラクの民主的復興を行うよう申し向けるなど、和平に向けた努力を行うよう求める。\n

2003年3月17日

国選弁護人の報酬引下げに反対し、大幅な増額を求める会長声明

福岡県弁護士会 会長  藤井克已

 平成15年(2003年)3月17日

 国選弁護人の報酬額は、2000年(平成12年)度から地方裁判所における標準的事件(3開廷)について、金86,400円とされ、その後2年間据え置かれている。ところが本年度の政府予算案ではこれを金85,600円に引き下げられた。減額は、戦後初めてのことである。
 刑事弁護の実情として、国選弁護人が選任される比率は極めて高く、わが国の刑事裁判は国選弁護人の犠牲と負担によって維持されているといっても過言ではない。
 このような実態に照らせば、国選弁護制度は、刑事被告人の憲法上の権利である弁護人選任権を実質的に保障する制度として機能していると言わなければならない。したがって、被告人が資格を有する弁護人による十\分な弁護活動を受けるためには、国選弁護人の活動を経済的に担保する必要がある。国選弁護人に適正かつ十分な報酬が支払われることは、憲法上の要請であるといっても過言ではない。\n しかるに、国選弁護人の報酬は、私選弁護人と弁護活動の内容に何ら相違がないにもかかわらず、低額に抑えられてきた。しかも、記録謄写料、交通費などの実費も原則として支給されず、国選弁護人の負担となっている実情である。
 更に、司法制度改革推進本部では、2006年度から国費による被疑者弁護制度導入を前提に検討作業が進行しているが、この制度の実現には、現状を大きく上回る弁護士の確保が要請されており、そのためには適正な国選弁護報酬が不可欠となっている。
 このような事態のもとで、2003年(平成15年)度政府予算案で示された国選弁護人の報酬引下げは、被告人に対する十\分な弁護活動を抑制し、ひいては、被告人の弁護人選任権を侵害するとともに、将来の国選による被疑者弁護制度の実現を阻害する要因となりかねない。
 よって、当会は、この政府予算案における国選弁護人報酬の引下げに強く抗議するとともに、国選弁護人報酬の大幅な増額のために必要な予\算措置を講じるよう強く求めるものである。

2003年2月12日

弁護士報酬の敗訴者負担に反対する決議

福岡県弁護士会 会長  藤井克已

平成15年(2003年)2月12

 当会は、弁護士報酬を敗訴者の負担とする一般的な負担制度の導入に強く反対する。以上のとおり決議する。

  理 由
 2001(平成13)年6月12日、司法制度改革審議会は最終意見書を公表し、その中で、弁護士報酬の敗訴者負担制度につき、「一定の要件の下に弁護士報酬の一部を訴訟に必要な費用と認めて敗訴者に負担させることができる制度を導入すべきである」とした。この意見を受け、現在、司法制度改革推進本部司法アクセス検討会において、同制度につき本格的な検討がされようとしている。\n しかし当会は、以下の理由から、その一般的敗訴者負担制度の導入に反対の意見を表明するものである。\n
  訴訟は本来、当事者が自己の権利ないし地位を実現ないし保全するため提起するものであり、自分が依頼する弁護士の報酬を相手から回収できないために訴訟を回避することは、通常は考えられない。
 むしろ、当事者としては、敗訴した場合に相手方が依頼した弁護士の報酬を負担させられることを恐れ、訴訟を断念する可能性が高い。すなわち、訴訟においては、訴訟を提起する段階又は応訴する段階では勝敗の見通しが立たない場合が少なくない。薬害・医療過誤訴訟、公害訴訟など、証拠が偏在している場合も同様である。このように訴訟の勝敗の見通しが立たない場合、当事者は勝訴する可能\性よりも敗訴する危険性を恐れ、その結果当事者の訴訟提起を萎縮又は裁判による解決を断念させてしまい、市民の司法へのアクセスを阻害することが一般的に予想される。\n また、公害訴訟、消費者訴訟、労災訴訟などにおいては、従来裁判上認められていなかった権利が度重なる敗訴判決を経て漸く認められたり、またそのような事例が集積されて新たな法令や制度が創設された例が多数存在するが、このような訴訟の人権保障機能や法創造機能\は敗訴した場合でも自分が依頼した弁護士の報酬のみを負担すれば足り、敗訴の危険性を顧みず当事者が訴訟を提起できたからこそ生まれてきたものである。ところが、弁護士報酬の敗訴者負担制度が導入されてしまうと、自分のために全力を尽くしてくれた弁護士の報酬のみならず、相手方を弁護した弁護士の報酬まで負担しなければならなくなり、当事者としてはそのような危険を冒してまで訴訟を提起しようとせず、ひいては訴訟の人権保障機能や法創造機能\が損なわれることは明らかである。
 更に、資金力のない社会的・経済的弱者と資金力の豊富な社会的・経済的強者との訴訟では、訴訟の人権保障機能や法創造機能\が重要な役割を果たしている上、証拠が偏在している場合が多く、弁護士報酬の敗訴者負担制度の導入による弊害は著しく、弁護士報酬の敗訴者負担制度は社会的・経済的弱者の訴訟アクセスを断念させ、憲法が保障する「裁判を受ける権利」を侵害しかねないというべきである。
 当会は、司法制度改革審議会の意見書を尊重するものであるが、弁護士報酬の敗訴者負担の一般的導入は市民の司法へのアクセスを阻害するとともに、訴訟の人権保障機能や法創造機能\を損なうものであるから、改革審議会の意見書が意図したところではないと考える。敗訴者負担を導入するのであれば、司法へのアクセスを高めることにつながる片面的敗訴者負担制度(例えば、国や地方自治体に対する公益のための訴訟などに限って原告勝訴の場合にのみ被告に弁護士報酬を負担させる制度)を導入するべきである。
 よって当会は、弁護士報酬の一般的敗訴者負担制度を導入することには強く反対するものである。
日 

2002年9月24日

死刑執行に関する福岡県弁護士会会長声明

福岡県弁護士会 会長  藤井克已
 
 平成14年(2002年)9月24日

  本年9月18日、福岡拘置所及び名古屋拘置所において、それぞれ1名、合計2名に対する死刑執行が行われた。
 2 わが国での死刑執行は、1989年11月福岡拘置所での執行以来、1993年3月に再開されるまで3年余の間、その執行が控えられていたが、再開後今回の執行を含め被執行者数が43名に及んでいる。 
 死刑が人間の尊厳を否定する残虐な刑罰であることは明らかである。そこで、国際 的にも、世界の相当数の国が法律上あるいは事実上死刑を廃止している。また、1989年に国連総会において採択された死刑廃止条約が、1991年7月に発効している。さらに、1998年11月5日、日本政府の第4回定期報告書を審査した国連規 約人権委員会は、その最終見解において、我が国の死刑制度に関して1993年11月4日に同委員会が表明した懸念事項が実施されていないことにつき重大な懸念を抱いていることを示し、改めて死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。\n 他方、国内的にも、1993年9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見にて、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるとの指摘がなされている。
  当会は、これまで、1996年2月14日、1998年7月7日及び1999年12月28日に当会会長声明において、死刑執行に対して極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきとの要望を重ねてきた。\n
 そこで、当会は、今回の死刑執行に対して、極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対して、今後、死刑の執行を差し控えることを強く要望する。\n

2002年8月 5日

住民基本台帳ネットワークシステムの稼働の一時停止を求める声明

福岡県弁護士会 会長  藤井克已 

 平成14年(2002年)8月5日

本日8月5日、国は、改正住民基本台帳法の施行に伴い、住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)の正式稼働を開始した。
 住基ネットは、各市町村が管理する住民基本台帳に記載された高度のプライバシーに属する個人情報である住民票コードを含む6情報ないし13情報をコンピュータネットワークに乗せ、他の地方自治体や国の行政機関からのアクセスを可能にするシステムである。その前提として、個人情報の漏洩や、行政機関による個人情報の濫用を防止するための個人情報保護法制の整備がなされない限り稼働できないことが、国会における首相答弁や、住基法附則1条2項により確認されていたところである。\n しかるに、国は、稼働の前提条件である個人情報保護法制を全く整備しないまま、また、全市町村のセキュリティーに対しても、分厚いマニュアルを配布するのみで、経済的援助、及び技術的指導を全く放棄したまま稼働を強行した。このような状況においては、国の行政機関による個人情報の濫用や、個人情報の漏洩を防止する対策は極めて不十分と言わざるを得ない。\n この住基ネットについては、異例にも、24の市区町村長と、2県及び68市区町村の議会で、延期を求める意見書が採択されている。また、矢祭町、杉並区、国分寺市が離脱を表明し、横浜市は、希望しない市民には接続しない選択肢を与える運用を行う意思を表\明している。杉並区によれば、区民の72%が凍結・延期すべきと考えているという。このように、自己のプライバシー権侵害を危惧する隠れた多数の国民、及び住民のプライバシー権を保護しようと真剣に苦悩している多数の自治体の声を無視して、危険な住基ネットの稼働を行うことは、行政機関に対する自己情報コントロール権が保障されている国民のプライバシー権保護の観点、及び地方自治の本旨の保障の観点から、到底是認できないものであり、極めて遺憾である。
 従って、当会では、国における個人情報保護法制無きままの住基ネットの稼働の一時停止を求め、今後とも国に対して個人情報保護法の制定を求めていくとともに、住基ネットに載せる情報を住民基本台帳事項に限定することを求める。また、自治体において、緊急時に住基ネットとの接続を切断をするための法整備に協力するなどして、個人のプライバシー権が可及的に守られるための努力を継続する所存である。


2002年6月17日

住民基本台帳ネットワークシステムの稼働の延期を求める声明

福岡県弁護士会 会長  藤井克已 

 平成14年(2002年)6月17日

1.今年8月5日の改正住民基本台帳法の施行に伴い,住民基本台帳ネットワークシステム(以下「住基ネット」という。)の稼働が予定されている。これは,各市町村が管理する住民基本台帳に記載された高度のプライバシーに属する個人情報である住民票コードを含む6情報ないし13情報をコンピュータネットワークに乗せ,他の地方自治体や国の行政機関からのアクセスを可能\にするものである。
 確かに,行政の効率化の点では利便性があるかもしれないが,コンピューター上のデータは紙の上のデータと異なりネットワーク上での拡散も簡単であることから,ネットワークの広域化によりネットワーク外への情報流出の可能性が格段に高まり,その利便性とは裏腹にプライバシーに修復不可能\なダメージを与える危険性を孕んでいる。
 現在,93の国の事務が住基ネットを利用することが決まっているが,更に,「行政手続きオンライン化関連3法案」によって171事務が追加されようとしている。住民票コードに付された個人情報をネットワークに流通させることは,各事務で得られた個人情報を集約することを容易にするもので,それ自体が個人のプライバシーに対する脅威となりうる。

2.ところで,1999年6月10日に行われた地方行政委員会(第145国会)において,当時の小渕首相は,住基ネットの「実施にあたりましては,民間部門をも対象とした個人情報保護に関する法整備を含めたシステムを速やかに整えることが前提であるとの認識に至った」と答弁し,改正住基法付則1条2項には「この法律の施行に当たっては,政府は,個人情報の保護に万全を期するため,速やかに所要の措置を講ずるものとする」との規定が盛られているのであるから,住基ネットの稼働には個人情報保護法制の万全な整備が不可欠の前提である。

3.そこで,現行法制及び改正法案を見るに,現行の「行政機関の保有する電子計算機処理に係る個人情報の保護に関する法律」は,情報の収集制限に関する明確な規定がないこと,行政機関相互の目的外利用を広範囲に認めていること,安全確保義務違反に対する罰則がないことなど個人情報保護制度としては,極めて不十分である。\n 次に,今国会で審議中の「行政機関の保有する個人情報の保護に関する法律案」(以下,「行政機関個人情報保護法案」という。)においても,何ら問題点は改善されていない。すなわち,
 1:蒐集制限に関する明確な規定がないこと,
 2:「相 当の関連性」があれば利用目的の変更が容易に容認されること,
 3:「職務上必要な限度」「相当な理由」があれば行政機関相互の目的外利用が極めて広範に容認されること, 4:「2:」「3:」の判断は当該行政機関に委ねられていること,
 5:個人情報の開示義務規定は盛られているが,拡大解釈される懸念のある広汎な除外規定によって骨抜きになっていること,
 6:安全確保義務違反に罰則がないこと,
など多くの点に問題があり,個人情報保護制度としては極めて不十分であるどころか,逆に,現状以上に行政機関による個人のプライバシー侵害に適法性のお墨付きを与えかねず,国民の個人情報を保護することよりも,全ての国民の個人情報を一元的に管理することを狙いとしたものと言わざるを得ないものである。\n
4.今般,防衛庁による情報公開請求者の身元・思想信条等のセンシティブ情報を含む個人情報リストの作成保有並びに利用という事件が発覚し,防衛庁は内部調 査の結果,その行為の一部について違法性はないと結論づけている。
 この防衛庁の対応と一連の流れによって,個人情報を隠密裡に蒐集し管理しようとする行政機関の体質が露呈され,万全の個人情報保護法制を欠く現状においては個人のプライバシーがいかに脆いものであるかが明らかになった。

5.このように,行政機関個人情報保護法案には重大な問題があり,住基ネット実施のための前提条件である個人情報保護に万全を期するための「所要の措置」が講じられているとは到底評価できない現状にある。
 従って,8月5日に予定されている住基ネットの稼働は,万全の個人情報保護立法がなされるまでは延期されるべきである。\n

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