福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
声明
2009年6月 4日
消費者庁関連法成立に関する会長声明
2009年(平成21年)5月29日,消費者庁及び消費者委員会設置法,並びに同法関連法案が参議院本会議において全会一致で可決成立しました。
これらの法律は,これまでの産業育成の行政から消費者のための行政に大きく転換し,また従来の縦割り行政を打破して,消費者行政全般を司る司令塔としての役割を果たす消費者庁を設置するものです。しかも,当初の政府案に対し,衆議院での超党派の修正により,内閣府に独自の組織として消費者委員会が設置され,その独立と権限が強化されています。
この消費者庁及び消費者委員会は,国の仕組みの変革の基点となるものであり,このような極めて重要な国の組織変更を超党派の合意により断行したことは極めて画期的なことであり,高く評価します。
当会は,2008年(平成20年)6月18日に強力な消費者行政を一元的に担う組織を造ること,地方消費者行政をより充実させること,違法収益のはく奪等に関する実効的な法制度を導入すること等を求める「消費者行政の一元化と地方の相談体制強化を求める会長声明」を発表しています。今回,会長声明で求めた事項につき,その実現に向けた大きな第一歩が踏み出されたことは,繰り返されてきた消費者被害の防止と救済のための大きな前進であって,心より歓迎します。
同時に,当会は,消費者庁及び消費者委員会設置法の附則並びに衆議院と参議院の附帯決議で,今後の検討課題とされた、地方消費者行政の充実のために多くの弁護士が相談員の方々とともによりよい解決に向けて努力すること,市民の手による消費者被害の防止のための重要な制度である適格消費者団体の福岡県での設立を支援すること,悪質業者が得ている違法な利益を被害者に回復させることなどの課題について,消費者の権利擁護の立場から積極的に努力を続けていく所存です。
2009年(平成21年)6月4日
福岡県弁護士会
会 長 池永 満
2009年5月21日
声明(裁判員制度実施・被疑者国選拡大について)
会 長 声 明
1 はじめに
本日、裁判員裁判制度が施行されるとともに、被疑者国選弁護人制度の対象事件枠が大幅に拡大されました。このような刑事司法制度改革の節目にあたって、当会は次のとおり決意を表明します。
2 裁判員裁判の実施にあたって
主権者である国民が参加する裁判員裁判の審理は、従前、「調書裁判」と批判されてきた事態を脱却して、直接主義・口頭主義・当事者主義に基づく公判中心の裁判を実現する、刑事司法制度改革の契機となるものです。
裁判員裁判が実施されるまでの間に、公判前整理手続における検察官手持証拠開示が拡大されるなどの変化も生じていますが、取調全過程の録画による可視化が実現していないことや集中審理に対応しうるように保釈を原則とする制度的確立がなされていないことなど多くの重大な課題が残っていますので、引き続き被告人の権利擁護のため最大限の努力をしていく必要があります。
当会は、日本弁護士連合会と連携して、裁判員裁判に対応できる弁護技術を研究し、会員に対する研修にも取り組んできましたが、今後も裁判員裁判における弁護人としての経験交流を行うなど会員の研修を強化し、被告人の権利擁護のためにより一層努力する所存です。
また、裁判員裁判の運用状況について一般市民と当会会員によるモニター制度を実施するなどして情報収集をすすめながら、実際に進められている裁判員裁判の検証を行うとともに、裁判員制度の改革及び運用改善に向けた提言を行う所存です。
3 被疑者国選弁護拡大について
被疑者国選弁護の抜本的拡大は、刑事手続における被疑者の権利を充分に保障する基本的条件を整えるものであり、捜査の改革を推進する役割をも有するものです。
この制度は、当会が1990年12月に全国に先駆けて当番弁護士制度をスタートさせ、その後、全国の弁護士会が法律扶助協会(現・日本司法支援センター)と連携して弁護士費用がなくても弁護士に依頼できる被疑者弁護援助制度を実施し推進してきた到達点を示すものです。
当会は、当番弁護士制度をスタートさせて以来どのような地域においても全ての被疑者が弁護人選任の機会を得られるよう、弁護士が少ない筑豊地区へ福岡や北九州地区から弁護士を派遣したり、国選弁護人登録者の拡大などに取り組んできましたが、この制度が被疑者の権利を保障するとともに充実した刑事裁判を実現する前提となることから、当会会員がより一層充実した弁護活動を行えるよう環境整備に力を尽くす所存です。
2009年5月21日
福岡県弁護士会
会 長 池 永 満
2008年12月 2日
ストリートビューサービスの中止を求める声明
2008年(平成20年)12月1日
福岡県弁護士会 会 長 田 邉 宜 克
本年8月5日から、Google(グーグル)社は、「Street View(ストリートビュー)」機能サービスの提供を開始した。
これは、東京、大阪など12都市について、グーグル社のホームページ上で、地図の道路上のある地点を指すと、同社が撮影専用自動車で移動しながら撮影したその地点での360度の画像が見える機能で、主要道路に限らず、住宅街の狭い道路をも対象とした広範囲の画像が撮影・公表されている。そのような撮影を意識しない多数の市民が写っており、中には、ラブホテルに入る寸前のカップル、立ち小便をしている男性、路上でキスをする学生等も含まれていた。
これらは、原則として正面の顔画像はぼかしがかかっているものの、撮影場所が明確に特定できるため、対象者を知っている人には、対象者の特定が可能である。また、顔にぼかしがかけられていない人の画像も散見されるほか、カメラの位置が歩行者の視点より約1メートルも高いため、通常であれば塀によって遮られる民家の中をのぞき見る形式の画像も散見される。
しかし、わが国においては、公道での様子であっても、個人の私生活上の自由の一つとして、何人も、その承諾なしに、みだりにその容ぼう・姿態を撮影されない自由(プライバシー権の一種である肖像権)を有する(最判昭44.12.24,京都府学連事件判決、東京地判平7.9.27等)。
グーグル社の行為には、撮影の場面において?都市のほぼ全域にわたる広範かつ無限定の多数の市民の肖像を根こそぎ撮影していること、?高い位置からの撮影のため、撮影対象が家屋内にも及んでいること、?事前に公表目的での撮影を行うことを説明していないこと、また、公表の場面において、?問題のある画像を事前に個別チェックしていないこと、?テレビのニュース番組等のように一時的・背景的に映像が流れる場合と異なり、撮影場所が特定できる状態で長期間画像がさらされること、?電子データの特性上、画像が容易かつ半永久的に第三者により2次利用されうるという問題点がある。これらの点を、グーグル社のホームページ自体がきわめて多数の市民の目にさらされる強力な媒体であることと考え合わせれば、プライバシー権侵害の程度は大きい。
これに対し、ストリートビューは、遠隔地の画像が簡単に見られるという便益をもたらすものの、このような多数の市民に対するプライバシー権侵害を強いても仕方がないといえるほどの対立利益があるとは言えない。
ユーザーの申告によって後から削除する仕組みによっても、すべての被害者が問題画像に気づく保証はなく、また、削除されたとしても2次利用の被害があり得るし、最初からプライバシー権侵害がなかったことにはならない。
グーグル社は、上記?〜?の問題点の抜本的解決を早急に図るべきであり、それができない場合には、このような画像の収集及びサービスの提供を中止するよう強く求める。
2008年9月 3日
伊藤和也さん殺害に対する抗議声明
2008(平成20)年9月2日
伊藤和也さん殺害に対する抗議声明
福岡県弁護士会
会 長 田 邉 宜 克
福岡市に本拠を置く「ペシャワール会」スタッフ伊藤和也さんが,拉致され,その後,殺害された。
福岡県弁護士会では,5月23日,憲法9条と国際貢献を考えるシンポジウムを開催し,「ペシャワール会」現地代表の中村哲医師にご講演いただいたばかりである。中村医師によれば,日本が過去半世紀以上にわたって一度も海外で軍事行動を起こしていないという歴史的な事実が,アフガニスタンの住民に良好な対日感情を育み,日本人であるがゆえ,身体・生命が守られ,無事,活動を進めることができたとのことであった。その体験談から,我々は、日本国憲法の平和主義が,民間の人道支援活動を実質的に支える意義をも有することを改めて認識することができた。
伊藤さんは,ペシャワール会現地スタッフとして,献身的に農業技術支援に取り組み,アフガニスタンの多くの民衆から,感謝と尊敬を集めていたとのことである。
伊藤さん殺害の実行犯やその動機の詳細は未だ明らかではない。しかし,いかなる動機であれ,尊い人命を奪う卑劣な行為を許すことはできない。
福岡県弁護士会は,伊藤さんの献身的な活動とその実績に対し,深い敬意を表し,謹んで哀悼の意を表するとともに,伊藤さんを殺害した卑劣な行為に強く抗議する。そして,伊藤さんの遺志に報い,民間の人道支援活動を支えるためにも,日本政府に対し,日本国憲法の平和主義を全世界にアピールする活動を推進するよう強く求めるものである。
以 上
2008年7月 3日
少年法「改正」法案成立に対する会長声明
本年6月11日、参議院において、政府提出にかかる少年法一部「改正」法案が、民主、自民、公明三党により修正されたうえで可決成立した。
当会は、本年2月13日、法制審議会少年法(犯罪被害者関係)部会が、少年法「改正」要綱(骨子)を採択し、同年3月7日、少年法「改正」案が閣議決定され国会に上程された時点で、同「改正」法案は、少年の健全な育成を目的とするという少年法の理念を没却し、ひいては、社会全体の安全にも悪影響を及ぼすとして同法案に強く反対の意見を表明した。しかも、当会のみならず、日弁連及び全国の多数の弁護士会が、同様の反対の意見表明をしてきたにもかかわらず、十分な審議もなされず短期日のうちに成立に至ったことに対して、遺憾の念を禁じ得ない。
今回の「改正」法は、国会の審議の過程で、被害者傍聴の要件として、「少年の健全育成を妨げるおそれがない」ことを明記したうえ、12歳未満の少年の事件は傍聴対象事件から除外し、12歳、13歳の少年事件の被害者傍聴については、少年が精神的に特に未成熟であることを十分考慮しなければならないとの修正を施すなど、少年法の理念と目的の重要性に一定の配慮がなされたことは意義がある。
しかし、被害者による審判傍聴を許すにあたって、予め弁護士付添人の意見を聴かなければならないとし、少年に弁護士付添人がないときは、家庭裁判所が弁護士付添人を付さなければならないとしつつも、その例外を設けるなど不十分な点は否めないうえ、被害者が少年審判を傍聴することに対する根本的な問題点は、依然として払拭できない。
すなわち、審判を被害者等が傍聴することになれば、精神的に未成熟な少年は、事実に関する自己の率直な意見や心情、気持ちをそのまま発言することを躊躇し、審判に関わる関係者からの少年の問題に迫った更生への働きかけができなくなるおそれがある。また、被害者にとっても、少年審判は心理的な動揺が収まっていない状況で開かれることが多いため、被害者が傍聴する少年審判廷は必然的に非常に緊張度の高いものとなり、上記少年法の理念に基づく審判の実践はおよそ困難となる。さらに、プライバシーの観点から、少年の家庭生育環境や生い立ちなどに遡って非行の原因を掘り下げ、少年の適切な処分を選択するということができなくなる。以上の結果、少年に対して適切な処分が不可能となり、そのことはひいては社会全体の安全にも悪影響を及ぼすことになる。
当然ながら、犯罪被害者等の権利利益の保護が図られなければならないことは言うまでもないが、この点に関して今なすべきことは、各関係機関が被害者等に対し、2000(平成12)年少年法「改正」で導入された、被害者等による記録の閲覧・謄写(少年法第5条の2)、被害者等の意見聴取(少年法第9条の2)、審判の結果通知(少年法第31条の2)の各規定の存在をさらに丁寧に知らせ、これを被害者等が活用する支援体制を整備すること、さらには、より抜本的に犯罪被害者に対する早期の経済的、精神的支援の制度を拡充することである。
当会としては、今回の「改正」が再度見直されることを求めると共に,家庭裁判所に対して,少年法の理念を損なうことのないよう,厳格な運用を強く求める。
2008(平成20)年7月2日
福岡県弁護士会
会 長 田 邉 宜 克
2008年6月18日
消費者行政の一元化と地方の相談体制強化を求める会長声明
近年,こんにゃくゼリーによる窒息死事故や「船場吉兆」による一連の食品偽装表示事件が発覚し,また輸入冷凍餃子への毒物混入事件等により食品の安全・表示分野に対する消費者の信頼は著しく損なわれ,深刻な社会不安が広がった。また,ガス湯沸かし器一酸化炭素中毒事件,シュレッダーによる指切断事件,住宅の耐震構造偽装事件により,製品や住宅の安全性が大きな問題となった。更に,取引分野においても,年々巧妙化する振り込め詐欺,サラ金の違法取立,次々販売・モニター商法等に代表される悪質商法被害,英会話教室NOVAや福岡県に本店を置く株式会社エフエーシーの破産手続の開始等による消費者トラブルなど,多種多様な消費者被害が次々と発生ないし顕在化している。これに対し,従来の産業・業界別の縦割行政では,業界の育成を第一義としており消費者被害への対応が後手に回っている上に,それぞれの管轄と法的手続が複雑に分岐・錯綜しているために,これらの消費者被害の発生防止や被害救済の面において不十分である。
一方,各地の消費生活センターなど地方自治体の相談窓口による相談・あっせん解決は,消費者にとって身近で頼りになる被害救済手段として重要である。ところが,自治体の地方消費者行政予算は,ピーク時の1995年度には全国200億円(都道府県127億円)であったものが2007年度は108億円(都道府県46億円)に落ち込むなど年々削減されており,地方の相談窓口は,十分な相談体制がとれない,あっせん率が低下している,被害救済委員会が機能していないなど,多くの問題を抱えている。
地方自治体における法律相談関連予算の規模も拡大することは望めない状況にある。
また,各消費生活センターにおいても,人件費削減のために相談員の有期雇用化が進み,そのため経験を積んだ相談員が退職していく上に,相談員の研修費用が削減されており,相談のノウハウの承継が困難となっている。
このような状況下において,2007年10月,福田康夫内閣総理大臣は,就任直後の所信表明演説において「生産第一という思考から,国民の安全・安心を重視し真に消費者や生活者の視点に立った行政に発想を転換し,消費者保護のために行政機能の強化に取り組む」と述べ,2008年1月18日の第169回通常国会での施政方針演説では「各省庁縦割りになっている消費者行政を統一的・一元的に推進するための強い権限をもつ新組織を発足させ併せて消費者行政担当大臣を常設する。新組織は国民の意見や苦情の窓口となり,政策に直結させ,消費者を主役とする政府の舵取り役になるものとする」旨表明した。
これを受けて自民党消費者問題調査会は,本年3月19日,「産業育成官庁から独立し,消費者・生活者目線で他省庁に指令を出す『消費者庁』の新設(強い監督権限)」,「地方消費者行政の充実」,「違法収益のはく奪」,「相談窓口の一元化」などを骨子とする最終取りまとめを行なった。また,民主党も消費者庁の創設に加えて,消費者保護官(オンブズパーソン)構想を提言するなど,野党各党も検討を進めている。3月27日には国民生活審議会総合企画部会が部会報告において消費者・生活者を主役とした行政への転換を提言し,4月2日には政府の消費者行政推進会議が発足した。
福田康夫内閣総理大臣は,本年4月23日,消費者行政推進会議において,「消費者を主役とする『政府の舵取り役』としての消費者庁(仮称)を来年度から発足させる」との意向を明らかにし,消費者に身近な問題を取り扱う法律は消費者庁に移管することや,地方消費者行政の強化を打ち出した。そして,消費者行政推進会議は,本年6月13日に,消費者に身近な30の法律を主管或いは共管することを明記したほか,消費者庁の果たす役割として,所管庁に対する指示・勧告権限など縦割り・すき間行政の弊害に対し迅速に対応するための諸権限や新規立法権限を持つ,司令塔の役割を求める最終報告を取りまとめたところである。
当会は,この方針を高く評価するものである。消費者が主役の実効性ある制度とするためには,新組織に消費者行政を一元化し,十分な権限を与えるとともに,都道府県・市町村など消費者に身近な地方相談窓口において,人的及び物的体制を十分に確保することが必要である。よって,当会は以下のような新組織や制度の創設を強く求める。
1.新組織が消費者政策の企画・立案を行なうとともに,消費者被害が多発する主要な分野については事業者に対する規制監督権限を直接行使できるよう,関係法の所管を新組織に移管し,かつ縦割りを排除した横断的・一元的な規制監督権限を付与すること。
2.新組織が消費者の権利擁護の理念の下にその責任を果たせるよう,消費者団体に新組織に対する調査・勧告権限発動を求める申立権を付与し,新組織の運営に消費者が参加し監督することが可能な組織とすること。
3.新組織に消費者・事業者・公益通報者等からの被害関連情報を一元的に集約し,調査・分析・公表する権限を与えた上,この権限に実効性を持たせるため,被害の原因究明等のための機関を設置すること。
4.消費者行政は地方自治そのものであるという視点に立った上で,消費者の苦情相談が地方自治体の消費者生活相談窓口で適切に助言・あっせん等により解決されるよう,地方の相談体制の充実,情報の集約と発信,国と地方の連携等の施策を強力に推進できるような制度・体制を構築し,そのために必要な予算を国の責任で確保すること。
5.新組織ないし関係省庁が調査把握した情報に基づき,違法収益の機動的な凍結及びはく奪を行ない,適正な手続のもとで被害者に分配する制度を導入すること。
2008年6月16日
福岡県弁護士会
会長 田邉宜克
2008年3月26日
少年法「改正」法案に反対する会長声明
法制審議会少年法(犯罪被害者関係)部会は、本年2月13日、少年法「改正」要綱(骨子)を採択し,さらに,3月7日少年法「改正」案が閣議決定され国会に上程された。
この「改正」案は,?犯罪被害者等による少年審判の傍聴規定を新設するとともに,?犯罪被害者等による記録の閲覧及び謄写を認める要件を緩和しているが,以下の理由により,当会は,同法案に強く反対する。
1 法案は,少年審判における犯罪被害者等の権利利益の一層の保護を図ることを理由に,審判の傍聴規定の新設を提案する。当然ながら,犯罪被害者等の権利利益の保護が図られなければならないことは言うまでもない。
しかしながら,そもそも少年審判に関しては,少年の健全な育成を目的とするという少年法の理念(少年法1条)の下,懇切を旨として和やかに行わなければならないと定められる(同法22条)など,裁判官,調査官,付添人ら関係者が少年に対して何よりも受容的に接したうえ,教育的・福祉的な働きかけを行うことにより,少年がその犯した非行事実に真摯に向き合い内省を深める場となることが強く期待されている。その場合,少年の率直な発言をきっかけに,少年の持つ問題性を浮き彫りしに,その未熟さを自覚させ,真の健全育成のための働きかけを行っていくことが重要である。
ところが,こうした審判を被害者等が傍聴するということになれば,精神的に未成熟な少年は,事実に関する自己の率直な意見や心情,気持ちをそのまま発言することに躊躇を覚え,必然的に被害者を意識した建前の発言に終始し,結果として,審判に関わる関係者からの少年の問題に迫った更生への働きかけができなくなるおそれがあるだけでなく,真実の発見にも悪影響を及ぼすことも危惧される。
また,非行の原因や少年の処分は,少年の家庭生育環境や生い立ちなどに遡って総合的に考えることが必要であるところ,被害者等の傍聴が許されるならば,プライバシーの観点から,こうした部分を審判において明らかにすることが躊躇され,非行の原因を十分に掘り下げることができず,かつ,適切な処分を選択することができなくなる。
さらに,多くの場合,審判は,刑事事件に比べても事件発生から間もない時期に開かれるため、少年のみならず、被害者にとっても、心理的な動揺が収まっていない状況で開かれることが多い。にもかかわらず、被害者が少年審判を傍聴することになれば、当該審判廷は必然的に非常に緊張度の高いものとなり、上記少年法の理念に基づく審判の実践はおよそ困難となる。
加えて,犯罪被害者等による少年審判の傍聴については,現行制度においても,少年審判規則第29条に基づき,裁判所が認める範囲で審判への在席が認められる場合があるのであるから,この規定に加えて「改正」案のような規定を設ける必要性は認められない。
2 同様に,犯罪被害者等の権利利益の一層の保護を図るという理由から,記録の閲覧・謄写を認める要件を緩和する点については,その対象範囲を法律記録の少年の身上経歴などプライバシーに関する部分についてまで拡大することになるが,少年の更生に対して悪影響を及ぼすおそれも懸念されるところであり,この拡大は認めるべきではない。
3 犯罪被害者等の権利利益の一層の保護を図るという理由から,今なすべきことは,各関係機関が被害者等に対し,2000(平成12)年少年法「改正」で導入された,被害者等による記録の閲覧・謄写(少年法第5条の2),被害者等の意見聴取(少年法第9条の2),審判の結果通知(少年法第31条の2)の各規定の存在をさらに丁寧に知らせ,これを被害者等が活用する支援体制を整備すること,さらには,より抜本的に犯罪被害者に対する早期の経済的、精神的支援の制度を拡充することである。
以上
2008(平成20)年3月26日
福岡県弁護士会
会 長 福 島 康 夫
2008年3月13日
捜査機関の違法捜査に抗議し代用監獄の廃止等を求める声明
2008年(平成20年)3月11日
最高検察庁 検事総長 但木敬一 殿
福岡県弁護士会 会長 福島康夫
福岡地方裁判所小倉支部は,2004年(平成16年)3月24日に福岡県北九州市八幡西区で起きた殺人・放火事件について,いわゆる代用監獄における身柄拘束を濫用した相当性を欠く捜査手法があったなどとして,本年3月5日,被告人に無罪判決を言い渡した。
すでに無罪が確定した佐賀北方事件,鹿児島志布志事件,富山氷見事件に引き続き,またしても捜査機関の違法・不当な捜査が裁判で明らかにされた。
本件では,検察官は,代用監獄において同房者が被告人の犯行告白を聞いたということを理由として被告人を起訴した。
これに対し,裁判所は次のように判断した。
? 捜査機関は,同房者を通じて捜査情報を得る目的で,意図的に被告人と同房者を同房状態にしたと いうことができ,代用監獄への身柄拘束を捜査に利用したとの謗りを免れない。
? 同房者は,捜査官に伝えることを隠して,被告人から話を聞き出しており,被告人は,房内で,知ら ない間に同房者を介して取調べを受けさせられていたのと同様の状態にあったということができ,本来 取調べと区別されるべき房内での身柄留置が犯罪捜査のために濫用された。
? 本件における事情聴取は,単なる参考聴取の域を超え,同房者を通じて被告人の供述を得ようとす るもので,虚偽供述を誘発しかねない不当な方法であり,被告人の犯行告白が任意になされたものと はいえない。身柄留置を犯罪捜査に濫用するもので捜査手法の相当性を欠いており,適正手続確保 のためにも,証拠能力を肯定することはできない。
本件は,代用監獄における身柄拘束を捜査機関が組織的・計画的に利用すれば,どのような捜査でもできることを示している。警察庁は,本年1月24日,都道府県警察本部と全警察署に取調べ監督担当を捜査部門とは別の総務又は警務部門に置き取調べ状況をチェックすることなどを内容とする「取調べの適正化指針」をまとめたが,身内によるチェックでは違法・不当な捜査を防止できないことは本件をみても明らかである。
当会は,これまでも,代用監獄は冤罪・人権侵害の温床になることを指摘して代用監獄は廃止されるべきであることを主張し続けてきた。
国連拷問禁止委員会も,昨年5月に日本政府に対し,“法を改正し捜査と拘禁を完全に分離すること”を勧告している。
当会は,現在,捜査機関の違法・不当な取調べを防止するために,捜査機関における取調べの全過程の可視化(録画)の実現を求めて運動を続けているが,捜査機関の違法・不当な捜査を防止するためには,取調べの可視化に加えて代用監獄の廃止が実現されなければならない。本件は,その必要性を強く裏付けている。
わが国では,来年5月までに裁判員裁判が始まることになっているが,捜査機関による違法・不当な捜査が今後も続き,それが裁判で延々と争われることになると,およそ裁判員裁判は成り立たない。裁判員裁判実施を間近に控えた今こそ,取調べの可視化と代用監獄の廃止を実現されるべきである。
当会は,本件における捜査機関の違法・不当な捜査に強く抗議するとともに,違法な取調べを防止するために取調べの全過程の可視化の実現と代用監獄の廃止を求めるものである。
2008年1月24日
経済産業省産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会の割賦販売法改正に関する最終報告に対する会長声明
1 経済産業省産業構造審議会割賦販売分科会基本問題小委員会において2007年11月29日付で割賦販売法改正についての報告書が取りまとめられた(以下「報告書」という)。
これまで福岡県弁護士会は、悪質商法を助長するクレジットが深刻な消費者被害をもたらすことから、その救済と安全なクレジット社会の実現に向けて、割賦販売法改正を求め、シンポジウムの開催、意見書の提出、請願署名活動等に取り組んできた。
今回の報告書は、(1)個品割賦購入あっせん業者取引において、特定商取引法類型の取引を行う販売業者が与信契約に関する重要事項について不実の告知を行った場合、あるいは、与信契約の締結を必要とする事情または与信契約締結の判断に影響を及ぼすことになる重要なものについて不実の告知を行った場合、購入者は与信契約を取り消すことができるよう措置を講ずるとして、その範囲で過失を要件としない既払金の返還を認めた点、(2)すべての割賦購入あっせん業者に一般的義務として悪質な加盟店を排除し適正与信義務を負うこととした点、(3)特商法適用取引の場合の個品割賦購入あっせん業者に加盟店の勧誘販売方法等に関する調査義務を課し、その調査結果に基づく適正与信義務を負うものとした点、(4)すべての割賦購入あっせん業者に対し、一般的過剰与信防止義務と信用情報機関の利用義務を定め、支払い能力を超える与信を行わない点の義務違反の場合には行政処分の対象にするとした点、(5)特商法適用取引の場合の個品割賦購入あっせん業者には収入、資産等の支払い能力、販売数量や過去の購入履歴、購入意思などについて個別具体的な調査義務を課し、その場合における信用情報機関の利用義務及び調査結果の信用情報機関への登録義務を定めた点、このほか、(6)現行法の割賦要件を撤廃して、1回払い・2回払いのクレジット契約も適用対象とした点、(7)指定商品・指定役務制を廃止した点、(8)個品割賦購入あっせん業者に対し登録制を導入、(9)個品割賦購入あっせん業者に契約書面交付義務と、訪問販売に伴う個品式クレジット契約にクーリング・オフを導入した点、など従来我々が求めてきた消費者保護の観点に立つ重要な制度の策定であり、画期的な内容であると評価できる。
しかしながら、報告書の意見にはなお不十分な部分があるので、改正の趣旨をさらに徹底させる見地から、福岡県弁護士会は割賦販売法改正の国会審議にあたり、以下の点を強く求めて意見を述べるものである。
2 悪質な販売業者が個品割賦購入あっせん取引を利用して不適正な販売方法により被害を生じさせる場合は、特定商取引法適用の訪問販売等の取引に限らず店舗取引においても大規模な被害が発生している(ココ山岡事件)。また、そもそも個品割賦購入あっせん取引は、販売業者がクレジット業者から代金の一括立替払いを受け、クレジット業者が購入者に割賦代金の支払い請求を行う構造なので、自ら代金回収の努力をしない販売業者の悪質商法に利用されやすい。また、購入者が販売契約の詐欺や債務不履行などに遭い契約の無効、取消、解除を訴え契約関係を解消しても、既に支払った代金を回収できず、あるいはトラブルの交渉の間も支払い請求を受けるので、悪質商法被害の負担は消費者にかかる。しかし、クレジット業者は加盟店管理を通じて販売業者の履行体制を調査・確認できる体制にあり、かつ、クレジットシステムを提供して加盟店との提携の利益を得る地位にあるので、クレジット契約のトラブルに関し加盟店のもたらすリスクを負担すべきは消費者ではなくクレジット業者であるべきである。さらに、特定商取引法適用に限定して店舗取引を除外すると、実態は訪問販売と異ならない販売方法を店舗販売に用いて脱法的な行為を助長することになり、規制の趣旨が潜脱されるおそれがある。
したがって、クレジットシステムから生じる被害の防止義務、救済措置は、特定商取引法適用取引以外の取引についても要請され、報告書のように限定すべきではない。
同様に、加盟店調査等の管理を適正に行なう適正与信義務についても、店舗取引被害が生じている実態や店舗取引に詐欺行為などの悪質商法があった場合には課されないのは狭すぎることから、特定商取引法適用取引に限るべきではなく広く適正与信義務を導入すべきである。
報告書は過剰与信防止についての義務に関し、何が過剰与信かの判断を一律に決めず、具体的な調査義務を課すことにしている。しかし実効的な過剰与信防止のためには明確な基準が必要であり、具体的数値を設けるか、具体的数値を盛り込んだ詳しいガイドラインを策定すべきである。
3 福岡県弁護士会は、今後国会での割賦販売法改正案審議にあたり、以下の点を強 く求めるものである。
記
(1) 個品割賦購入あっせん取引において、販売契約の取消・無効・債務不履行による解除事由がある場合は、クレジット事業者に対し、既払い金の返還を求めることができるよう特定商取引法適用取引に限らず対象を個品割賦購入あっせん全体に拡大すべきである。
(2) 適正与信を行うための具体的な加盟店調査義務、契約締結過程の調査義務は、適用対象を店舗取引・通信販売を含む個品割賦購入あっせん全体に拡大すべきである。
(3) 過剰与信に当たるか否かの具体的な判断基準が必要であり、年収基準などのわかりやすい基準を設けるべきである。
2008年1月24日
福岡県弁護士会 会 長 福島康夫
2007年12月10日
死刑執行に関する会長声明
1 本年12月7日、東京拘置所において2名、大阪拘置所において1名の死刑が執行された。今回の死刑執行は、昨年12月の4名、本年4月の3名、本年8月の3名に続くものである。
当会は、これまで死刑制度の存廃について国民的な議論が尽くされるまで死刑の執行を停止するよう法務大臣に求め続けてきたが、今回また死刑が執行され、この1年間だけで13名もの死刑確定者に対し死刑が執行されたことは誠に遺憾である。
2 我が国では、過去において、4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件、財田川事件、松山事件、島田事件)について再審無罪が確定している。また、本年4月にも、佐賀県内で3名の女性が殺害されたとされる事件(いわゆる北方事件)で死刑求刑された被告人に対する無罪判決が確定した。このような実例は、死刑事件についても誤判や誤った訴追があることを明確に示している。
1993年(平成5年)9月21日の最高裁判決中の大野正男裁判官の補足意見でも、死刑の廃止に向かいつつある国際的動向とその存続を支持するわが国民の意識の整合を図るための立法施策が考えられるべきであるとの指摘がなされている。
また、死刑と無期刑の選択についても、裁判所の判断が分かれる事例が相次いで出されておりその明確な基準が存在しない。
我が国の死刑確定者は、国際人権(自由権)規約、国連決議に違反した状態におかれ、特に過酷な面会・通信の制限は、死刑確定者の再審請求、恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなって来た。今般、刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが、未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど、死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難く、このような状況で直ちに死刑が執行されることには問題がある。
3 国際的にも、1989年(平成元年)に国連総会で採択された死刑廃止条約が1991年(平成3年)7月に発効して以来、死刑廃止が国際的な潮流となっている。すなわち、すでに死刑制度を全面的に廃止した欧州地域をはじめとし死刑廃止国が133か国であるのに対し、死刑存置国は64か国(本年10月2日現在)である。そのような潮流の中で、国連規約人権委員会は、1993年(平成5年)11月4日及び1998年(平成10年)11月5日の2回にわたり、日本政府に対し、死刑廃止に向けた措置をとるよう勧告している。
4 このような国際的な潮流と国内的な状況を踏まえて、日本弁護士連合会も、死刑制度の存廃につき国民的議論を尽くし、また死刑制度に関する改善を行うまでの一定期間、死刑確定者に対する死刑執行を停止する旨の時限立法(死刑執行停止法)の制定を提唱している。
当会も、これまで、死刑確定者からの処遇改善や再審援助要請といった人権救済申立事件処理を通じて、死刑制度の存廃を含めた問題に積極的に取組み、死刑が執行されるたびに、会長声明において、死刑執行は極めて遺憾であるとの意を表明し、法務大臣に対し、死刑の執行を差し控えるべきであることの要望も重ねてきた。
5 2007年(平成19年)5月18日に示された、国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては、我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち、死刑確定者の拘禁状態はもとより、その法的保障措置の不十分さについて、弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で、死刑の執行を速やかに停止すること、死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと、恩赦を含む手続的改革を行うべきこと、すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと、死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと、すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。我が国の死刑確定者が、同条約上の保護を与えられていないことが明確に指摘され、それゆえ、勧告の筆頭に死刑執行の速やかな停止が掲げられているのであって、その意義は極めて重い。
さらに、本年11月15日には、国連総会第三委員会において、すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議案が採択され、近日中に本会議で採択されようとしている。
6 このように国内的にも国際的にも、日本の死刑制度に対する非難が高まった状況下において断行された今回の死刑執行は、我が国が批准した条約を尊重せず国際社会の要請に応えないことを宣言するに等しい。
7 当会は、今回の死刑執行に関して、法務大臣に対し、極めて遺憾であるとの抗議の意を表明するとともに、更なる死刑の執行を停止するよう強く要請する。
2007年(平成19年)12月10日
福岡県弁護士会 会 長 福 島 康 夫