福岡県弁護士会 宣言・決議・声明・計画
声明
2010年3月30日
国籍を調停委員・司法委員の選任要件としないことを求める声明
福岡県 弁護士会
会 長 池 永 満
当会は、最高裁判所に対し、調停委員・司法委員の選任について、日本国籍を要件とするとの取扱いを速やかに変更することを強く求め、福岡地方裁判所、福岡家庭裁判所及び福岡簡易裁判所に対し、当会が日本国籍を有しない者を調停委員・司法委員として推薦した場合、法律や規則の定める要件を満たす者であれば最高裁判所へ上申することを求める。
かねてより、最高裁は、調停委員につき「公権力の行使に当たる行為を行い、若しくは重要な施策に関する決定を行い、又はこれらに参画することを職務とする」ものと位置づけ、「その就任のためには日本国籍が必要である」との見解を表明してきた。しかし、当会は、この見解には、到底承服することはできない。
本年度においても、東京地方裁判所、大阪家庭裁判所、神戸家庭裁判所及び仙台家庭裁判所より、弁護士会員の調停委員への任命推薦の最高裁判所への上申を拒否されており、東京弁護士会、第二東京弁護士会、大阪弁護士会、兵庫県弁護士会及び仙台弁護士会から抗議の各会長声明が出されている。昨年3月にはそれまでの経緯を踏まえて日本弁護士連合会においても同趣旨の意見が表明されている。
調停委員・司法委員の役割は、社会生活上の豊富な知識経験や専門的な知識を基に当事者間の合意を斡旋して裁判手続きに至る前に紛争の解決を図るというものであり、職務の性質上当事者の権利を制約することは想定されておらず、その職務が公権力の行使に当たるものとは言い難い。調停調書には確定判決と同一の効力があるとされるが、調停調書はそもそも当事者の合意に基づくものであり、外国籍の仲裁人が当事者の意思に関わらず下した仲裁判断が日本において確定判決と同一の効力を有することと比較しても、外国籍の調停委員の任命を拒絶する理由とはならない。破産管財人や相続財産管理人などの公的側面を有する職務については外国籍の弁護士等の就任が認められていることなどに照らしても外国籍の調停委員を排除する理由とはならない。調停委員会による事件関係者の呼び出しや調停前の措置などに対する違反には過料の制裁の定めがあるが、これらは調停制度の実効性を確保するためのものにすぎないし、過料の制裁は裁判所が決定するものなのである。
また、簡易裁判所や家庭裁判所における紛争が国際化、多様化している現在、外国人を含む多くの市民の健全な良識と感覚を司法に反映させることは紛争解決を容易にするものであり、日本国籍を有しないことのみを理由として調停委員・司法委員への任命を拒否することには合理性はないし、多民族・多文化共生社会形成という観点からもそれが望まれる。またそれらへの就任が国民主権原理に反するとは到底考えられない。
日本国憲法が保障する基本的人権は権利の性質上日本国民のみを対象としているものを除き、日本国に在留する外国人に対しても等しく及ぶべきものであることからすると、法令に根拠のない基準を創設し、当該公務員の具体的な職務内容を問題とすることなく、日本国籍の有無で差別的取り扱いをすることは、国籍を理由とする不合理な差別であり、憲法14条に違反するというべきであり、職業選択の自由(憲法22条)を侵害すると言え、外国人を調停委員・司法委員から排除することは不当である。また、特別永住者について、このことはなおさらである。
よって、上記のとおり、国籍を調停委員・司法委員の選任要件としないことを求める。
以 上
2010年3月29日
平等な高校無償化制度の実施を求める会長声明
1 「公立高等学校に係る授業料の不徴収及び高等学校等就学支援金の支給に関する法律」(以下、高校無償化法案という)が衆議院で可決され、平成22年4月から施行される見通しである。
高校無償化法案は、日本における高等学校等における教育に係る経済的負担の軽減を図り、もって日本におけるすべての子どもたちの教育の機会均等に寄与することを目的とし(1条)、制度の対象となる「高等学校等」には、「高等学校の課程に類する課程を置くものとして文部科学大臣が指定する」各種学校が含まれると規定する(2条1項)。しかしながら、朝鮮学校については政治的理由あるいは教育課程等の確認ができないなどの理由により、当面、高校無償化の対象とせず、本法2条1項の指定要件を第三者機関に検証させることとなる見込みである。
2 福岡県北九州市にある九州朝鮮中高級学校をはじめ、日本全国に10校ある朝鮮高級学校は2000人近くの生徒が学んでおり、それぞれ都道府県知事から各種学校としての認可を受け、確立されたカリキュラムにより安定した教育を長年にわたって実施している。そして、朝鮮学校の教育課程に関する情報は各種学校の認可を受ける際に必要に応じ提出され、現に日本の多くの大学が朝鮮高級学校の卒業生に対し「高等学校を卒業した者と同等以上の学力がある」として大学受験資格を認定し、実際に朝鮮高級学校の生徒は日本の国公私立大学に進学している。
また、課外活動の分野でも、今年度の全国高校ラグビー選手権大会で大阪朝鮮高級学校ラグビー部が大阪府代表として全国3位の成績を上げる活躍だけでなく、全国高校サッカー選手権大会に複数の朝鮮高級学校が代表になるなど、朝鮮高級学校は日本社会から高等学校に準ずるものとして認知され、評価されている。
3 1998年2月及び2008年3月の日本弁護士連合会の勧告書が指摘しているように、憲法26条1項(教育を受ける権利)、同14条1項(平等権)、子どもの権利条約、人種差別撤廃条約及び国際人権規約(A規約)などにより、朝鮮学校に通う外国籍の子どもにも学習権(普通教育を受ける権利及びマイノリティ教育を受ける権利)が保障されており、その保障に関しては平等原則に違反してはならない。
したがって、日本の私立学校や他の外国人学校と区別して、朝鮮学校のみを高校無償化制度の対象から除外することは、朝鮮籍だけでなく韓国籍、中国籍及び日本籍の朝鮮学校に通う子どもたちの学習権を侵害し、合理的理由のない差別であって、平等原則に違反する重大な人権侵害であると言わざるを得ない。
なお、朝鮮民主主義人民共和国と同様国交のない台湾系の中華学校については、高校無償化制度の対象となることが想定されているのであるから、本国と国交のないことは朝鮮学校を対象外とする合理的理由とはならない。
4 よって、当会は内閣総理大臣及び文部科学大臣に対し、朝鮮学校を高校無償化制度から排除せず、速やかに本法2条1項の指定をするように強く求めるものである。
2010年3月25日
福岡県弁護士会
会長 池 永 満
2010年3月10日
ストリートビューに関する要請書
要請書
福岡市長 殿
2010年(平成22年)3月10日
福岡県弁護士会
会 長 池永 満
要請の趣旨
1 福岡市個人情報保護条例を改正し、市民の肖像などの情報が大量にインタ ーネット上に流出しない措置を講じて下さい。
2 それまでの間、個人情報保護審議会において、グーグル社のストリートビ ューサービス等の多数の人物・家屋等を映し出すインターネット上の地図検 索に関する調査を実施するとともに、事業者に対し、不適切な市民のプライ バシーの収集・利用を行わないよう指導、是正勧告等の必要な措置(福岡市 個人情報保護条例52条)をとって下さい。
要請の理由
当会は、2008年12月、Google(グーグル)社の「Street View(ストリートビュー)」機能サービスに対し、プライバシー権保護の観点から、問題点の抜本的解決を早急に図るよう求め、それができない場合には、このような画像の収集及びサービスの提供を中止するよう強く求める会長声明を発しました。
それは、東京、大阪など12都市について、グーグル社のホームページ上で、事前の同意なしに広範に撮影された何万という市民の肖像が、地図情報と連動する形で突然公開されたためです。
当会は、グーグル社の行為に対し、撮影の場面において、①都市のほぼ全域にわたる広範かつ無限定の多数の市民の肖像を根こそぎ撮影していること、②高い位置からの撮影のため、撮影対象が家屋内にも及んでいること、③事前に公表目的での撮影を行うことを説明していないこと、などの問題点を指摘しました。
しかしながら、グーグル社は、これらの問題点に対処することなく、2009年12月、福岡市全域を含む福岡県の市民のプライバシー情報を公開しました。
すでに全国約40の地方議会において、これらの行為に対する対処を求める意見書が採択されています。
日本弁護士連合会も、本年2月3日に、第三者機関を設置する条例の改正や、個人情報保護審議会によるそれまでの対処を自治体に求める意見書を関係機関に送付しました。
福岡市においても、市民のプライバシー権を保護する観点から、市民情報が密かに撮影され、住宅地など、公開する必要性の乏しい地域を世界中にさらす行為を繰り返されないよう、所要の条例の改正をなされるとともに、それまでの間、個人情報保護審議会において直ちに調査に着手し、プライバシー権保護のために必要な措置を講じられるよう求めます。
2009年9月 9日
改正貸金業法の早期完全施行等を求める会長声明
改正貸金業法の早期完全施行等を求める会長声明
経済・生活苦での自殺者が年間7000人に達し,自己破産者も18万人を超え,多重債務者が200万人を超えるなどの深刻な多重債務問題を解決するため,2006(平成19)年12月に改正貸金業法が成立し,出資法の上限金利の引下げ,収入の3分の1を超える過剰貸付契約の禁止(総量規制)などを含む同法が2010年(平成22)年6月19日までの政令で定める日に完全施行される予定である。
改正貸金業法成立後,政府は多重債務者対策本部を設置し,同本部は①多重債務相談窓口の拡充,②セーフティネット貸付の充実,③ヤミ金融の撲滅,④金融経済教育を柱とする多重債務問題改善プログラムを策定した。そして,官民が連携して多重債務対策に取り組んできた結果,多重債務者が大幅に減少し,2008(平成20)年の自己破産者数も13万人を下回るなど,着実にその成果を上げつつある。
他方,一部には,消費者金融の成約率が低下しており,借りたい人が借りられなくなっている,特に昨今の経済危機や一部商工ローン業者の倒産などにより,資金調達が制限された中小企業者の倒産が増加しているなどを殊更強調して,改正貸金業法の完全施行の延期や貸金業者に対する規制の緩和を求める論調がある。
しかしながら,1990年代における山一証券,北海道拓殖銀行の破綻などに象徴されるいわゆるバブル崩壊後の経済危機の際は,貸金業者に対する不十分な規制の下に商工ローンや消費者金融が大幅に貸付を伸ばし,その結果,1998年には自殺者が3万人を超え,自己破産者も10万人を突破するなど多重債務問題が深刻化した。
改正貸金業法の完全施行の先延ばし,金利規制などの貸金業者に対する規制の緩和は,再び自殺者や自己破産者,多重債務者の急増を招きかねず許されるべきではない。今,多重債務者のために必要とされる施策は,相談体制の拡充,セーフティネット貸付の充実及びヤミ金融の撲滅などである。
そこで,今般設置される消費者庁の所管乃至共管となる地方消費者行政の充実及び多重債務問題が喫緊の課題であることも踏まえ,2006(平成18)年9月1日の当会の「例外なき金利規制を政府に強く求める会長声明」を実効化させるため、当会は国に対し,以下の施策を求める。
1 2010(平成22)年6月19日までに施行予定の改正貸金業法を早期(遅くとも本年12月まで)に完全施行すること。
2 自治体での多重債務相談体制の整備のため相談員の人件費を含む予算を十分確保するなど相談窓口の充実を支援すること。
3 個人及び中小事業者向けのセーフティネット貸付をさらに充実させること。
4 ヤミ金融を徹底的に摘発すること。
2009年9月9日
福岡県弁護士会
会長 池 永 満
2009年8月 6日
消費者庁長官及び消費者委員会委員人事に関する会長声明
消費者庁長官及び消費者委員会委員人事に関する会長声明
1 これまでの産業育成に重点を置いた行政から消費者・生活者の権利擁護のための行政に大きく転換をはかるべく,消費者庁関連3法が今国会で成立し消費者庁と消費者委員会がまもなく発足する運びとなっている。当会は,既に本年6月4日に消費者庁関連法成立に関し会長声明を発したところであるが,消費者庁長官及び消費者委員会委員(及び委員長)の人事は,今後の消費者行政のあり方に極めて重大な影響を及ぼすものであり,この度あらためて声明を行う次第である。
2 消費者庁は消費者問題に関する全省庁の司令塔としての役割を担う組織であり,その長官は,消費者の立場から組織の統制・指揮が期待できる人物でなければならない。また、消費者委員会は消費者庁から独立し消費者の権利擁護のために極めて強力な権限を与えられた組織である。その委員は「消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に関して優れた見識を有する者のうちから」任命する(消費者庁及び消費者委員会設置法10条1項)とされている。したがって,各委員は,消費者委員会設置の趣旨を十分理解し,消費者の権利擁護のために,その強力な権限を行使することが期待できる人物でなければならない。その上,委員長は,委員の互選により選任すべきものである(同法12条1項)。
3 そこで,消費者庁長官及び消費者委員会委員について適正な人事がなされるよう,政府に対し,以下の各事項を要求する。
(1) 消費者庁長官選任にあたっては,消費者の立場から組織の統制・指揮が期待できる人物を選任すること
(2) 消費者委員会の発足にあたっては,現在の準備参与を直ちに委員に任命するべきでなく,どのような基準で同法10条にいう「見識」を有していると判断したのか,その任命基準を明確にし,その任命理由について十分な説明責任を果たすこと
(3) 消費者委員会委員の任命については,実際の消費者問題に精通し経験豊かな人物を選任すべきこと
(4) 消費者庁長官及び消費者委員会委員選任にあたっては,既に衆議院が解散され,新組織発足時には新内閣も発足しているという状況を踏まえ,慎重な人事を行なうこと
2009(平成21)年8月6日
福岡県弁護士会 会長 池 永 満
消費者庁長官及び消費者委員会委員人事に関する会長声明
消費者庁長官及び消費者委員会委員人事に関する会長声明
1 これまでの産業育成に重点を置いた行政から消費者・生活者の権利擁護のための行政に大きく転換をはかるべく,消費者庁関連3法が今国会で成立し消費者庁と消費者委員会がまもなく発足する運びとなっている。当会は,既に本年6月4日に消費者庁関連法成立に関し会長声明を発したところであるが,消費者庁長官及び消費者委員会委員(及び委員長)の人事は,今後の消費者行政のあり方に極めて重大な影響を及ぼすものであり,この度あらためて声明を行う次第である。
2 消費者庁は消費者問題に関する全省庁の司令塔としての役割を担う組織であり,その長官は,消費者の立場から組織の統制・指揮が期待できる人物でなければならない。また、消費者委員会は消費者庁から独立し消費者の権利擁護のために極めて強力な権限を与えられた組織である。その委員は「消費者が安心して安全で豊かな消費生活を営むことができる社会の実現に関して優れた見識を有する者のうちから」任命する(消費者庁及び消費者委員会設置法10条1項)とされている。したがって,各委員は,消費者委員会設置の趣旨を十分理解し,消費者の権利擁護のために,その強力な権限を行使することが期待できる人物でなければならない。その上,委員長は,委員の互選により選任すべきものである(同法12条1項)。
3 そこで,消費者庁長官及び消費者委員会委員について適正な人事がなされるよう,政府に対し,以下の各事項を要求する。
(1) 消費者庁長官選任にあたっては,消費者の立場から組織の統制・指揮が期待できる人物を選任すること
(2) 消費者委員会の発足にあたっては,現在の準備参与を直ちに委員に任命するべきでなく,どのような基準で同法10条にいう「見識」を有していると判断したのか,その任命基準を明確にし,その任命理由について十分な説明責任を果たすこと
(3) 消費者委員会委員の任命については,実際の消費者問題に精通し経験豊かな人物を選任すべきこと
(4) 消費者庁長官及び消費者委員会委員選任にあたっては,既に衆議院が解散され,新組織発足時には新内閣も発足しているという状況を踏まえ,慎重な人事を行なうこと
2009(平成21)年8月6日
福岡県弁護士会 会長 池 永 満
2009年7月31日
法令なしに警察の監視カメラを設置することに反対する声明
法令なしに警察の監視カメラを設置することに反対する声明
警察庁は、7億円の補正予算を用いて、全国15地域で、街頭監視カメラを設置するモデル事業を実施する。福岡県警は、その1事業として、2009年度中に、子どもの登下校中の防犯のためとして、福岡市中央区大名校区に25台の監視カメラを自ら設置し、地元民間団体に管理を委託するという。
しかしながら、犯罪防止は、貧困や差別など犯罪の根本原因を取り除くための福祉施策の充実も含め、総合的な防止策を多角的に検討すべきである。
そして、警察等による市民監視や不透明な個人情報の収集・利用は、個人のプライバシー権を侵害するばかりか、民主主義社会を支える言論・表現の自由を萎縮させる危険がある。
犯罪検挙のための警察の捜査手段は、具体的な嫌疑を前提とし、基本的人権を制約する場合には法令の根拠を必要とし、令状がなければ原則として行えないというのが憲法以下の法令の考え方である。犯罪防止のための監視が一定の場合に許されるとしても、具体的にその場所で起こり得る犯罪の軽重や蓋然性を度外視し、抽象的な「安全」や、単なる主観にすぎない「安心感」のために人権を制約することまで許されているのではない。
警察自身による監視カメラの設置の場合は、京都府学連事件判決(最判昭44.12.24)、山谷監視ビデオ判決(東京高判昭63.4.1)、西成監視ビデオ判決(大阪地判平6.4.27)など、令状主義を重視する判決があり、これらの判決によれば、①犯罪の現在性または犯罪発生の相当高度の蓋然性、②証拠保全の必要性・緊急性、③手段の相当性がある場合を除いて、警察が自ら公道に監視カメラを設置することは認められない。
ところが、全国的にも、福岡県下においても、犯罪は減少しており、大名校区で、特に通学路において犯罪が頻発しているとの事実は認められない。従って、その設置は、違法であるといわなければならない。
そもそも、監視カメラの設置に関する基準をはじめ、捜査機関に市民の行動が提供されないよう、適正な手続きを定めてプライバシー権を保障する法律や条例の制定が必要不可欠である。
当会は2007年7月21日、2008年4月1日にも同様の意見を述べているが、なんら法律や条例が制定されないまま警察主導による街頭監視カメラが増設されていることに対し強く遺憾の意を表するとともに、当該事業を撤回するよう強く求めるものである。
2009年(平成21年)7月31日
福岡県弁護士会会長 池 永 満
2009年7月30日
死刑執行に関する会長声明
死刑執行に関する会長声明
1 本年7月28日,大阪拘置所において2名,東京拘置所において1名の合計3名の死刑確定者に対して死刑が執行された。
これは昨年の15名,本年1月の4名に対する執行に引き続き,森英介法務大臣の就任後3度目の死刑執行である。このように短期間に,連続して多数の死刑執行がなされていることに対し,当会は,厳しく抗議するものである。
2 我が国では,過去において,4つの死刑確定事件(いわゆる免田事件,財田川事件,松山事件,島田事件)について再審無罪が確定している。また,本年6月にも,無期懲役刑が確定した受刑者に対する再審開始決定がなされ(足利事件),これを契機に精度の低いDNA鑑定に依拠した裁判の問題点が指摘されるという事態も生じている。これらの過去の実例が示すとおり,死刑判決を含む重大事件においても誤判が存在することは客観的な事実である。
3 しかも,我が国の死刑確定者は,国際人権(自由権)規約,国連決議に違反した状態におかれているというべきであり,特に,過酷な面会・通信の制限は,死刑確定者の再審請求,恩赦出願などの権利行使にとって大きな妨げとなっている。この間,2007年(平成19年),刑事収容施設及び被収容者等の処遇に関する法律が施行されたが,未だに死刑確定者と再審弁護人との接見に施設職員の立ち会いが付されるなど,死刑確定者の権利行使が十分に保障されているとは言い難く,このような状況の下で死刑が執行されることには大きな問題があるといわなければならない。
4 国際的にも,1989年(平成元年)に国連総会で死刑廃止条約が採択されて以来,死刑廃止が国際的な潮流となっている。1990年当時,死刑存置国は96か国で死刑廃止国は80か国だったのが,昨年(2008年)現在では,死刑存置国は59か国で死刑廃止国及び死刑停止国は138か国となっている。さらに,昨年12月18日には,国連総会において,すべての死刑存置国に対して死刑執行の停止を求める決議案が採択された。また,2007年(平成19年)5月18日に示された,国連の拷問禁止委員会による日本政府報告書に対する最終見解・勧告においては,我が国の死刑制度の問題が端的に示された。すなわち,死刑確定者の拘禁状態はもとより,その法的保障措置の不十分さについて,弁護人との秘密交通に関して課せられた制限をはじめとして深刻な懸念が示された上で,死刑の執行を速やかに停止すること,死刑を減刑するための措置を考慮すべきこと,恩赦を含む手続的改革を行うべきこと,すべての死刑事件において上訴が必要的とされるべきこと,死刑の実施が遅延した場合には減刑をなし得ることを確実に法律で規定すべきこと,すべての死刑確定者が条約に規定された保護を与えられるようにすべきことが勧告されたのである。しかも,昨年10月には,国際人権(自由権)規約委員会により,我が国の人権状況に関する審査が行われ,我が国の死刑制度の問題点を指摘するともに制度の抜本的見直しを求める勧告がなされた。
5 このような中で,我が国の死刑制度の抱える問題点について何ら改革が講じられることなく,今回の死刑執行が行われたことは極めて遺憾であり,当会としてはここに政府に対し強く抗議の意思を表明するとともに,今後,死刑制度の存廃を含む抜本的な検討がなされ,それに基づいた施策が実施されるまで,一切の死刑執行を停止することを強く要請するものである。
20009年(平成21年)7月30日
福岡県弁護士会
会長 池永 満
2009年7月10日
生活保護「母子加算」制度の復活を求める会長声明
生活保護「母子加算」制度の復活を求める会長声明
生活保護における「母子加算」(削減前の月額は都市部で2万3,260円、支給要件は15歳以下の児童を養育していること)は、厚生労働省告示により、段階的削減を経て本年4月1日に完全に廃止され、約10万世帯のひとり親世帯、約18万人の子どもが影響を受けることとなった。母子加算の廃止による収入減のために、十分な医療を受けることができなかったり、高等学校の入学に際しての費用や学費が支払えず、進学や通学を断念したり、また、修学旅行や部活動への参加が不可能となったりする子どもたちが続出することが懸念される。かかる事態は子どもの生存権・成長発達権・教育を受ける権利の保障の観点から看過することができない。
母子加算廃止の論拠として、「一般母子世帯の消費生活水準との均衡」、すなわち、母子加算を受給している世帯の消費生活水準が生活保護を受けていない一般母子世帯の消費生活水準を上回ることが挙げられている。
しかしながら、一般母子世帯の8割以上は働いているにもかかわらず、その年間の就労収入は、平均171万円に過ぎず、本来、生活保護の受給が可能でありながら受給できていないのがその実態である。生活保護基準以下の生活を強いられている一般母子世帯が多数存在することは、母子加算を廃止する根拠とはなりえず、母子加算は廃止すべきではなかったと言わざるを得ない。
当会会員が多数訴訟代理人を務めたいわゆる生活保護学資保険裁判の最高裁判決は、2004年3月16日、高校修学が生活保護制度で保障されていない当時の状況下で、「近時においては、ほとんどの者が高等学校に進学する状況であり、高等学校に進学することが自立のために有用であるとも考えられるところであって、生活保護の実務においても、前記のとおり、世帯内修学を認める運用がされるようになってきているというのであるから、被保護世帯において、最低限度の生活を維持しつつ、子弟の高等学校修学のための費用を蓄える努力をすることは、同法の趣旨目的に反するものではないというべきである」と判示し、高校修学の有用性を宣言した。これを受け、2005年度から、生活保護制度において生業扶助として高校修学費用の一部が支給されることともなった。ただ、この支給の基本額は月額5,300円程度であり、修学旅行積立金・課外活動費等を含む毎月の修学費を賄える金額ではない。そのために、これまで、ほとんどの母子世帯は、支給される加算の一部をきりつめ子どもの高校修学費用に充てたり、そのために蓄えたりしてきた。母子加算が無くなると、それが著しく困難になる。母子加算の廃止は、保護世帯の高校修学の有用性を宣言した先の最高裁判決の趣旨を踏みにじるものである。
当会は、わが国の社会において、貧困と失業が拡大し続け、国民の生存権が重大な危機に瀕している現状の中で、本年度、「生存権の擁護と支援のための緊急対策本部」を設置し、2009年5月25日の定期総会において、「すべての人が尊厳をもって生きる権利の実現をめざす宣言」を行った。弁護士会として、生活保護受給を求める申請代理人の活動等による法的緊急支援サービスに取組み、社会的セーフティ・ネットを再構築するために、できうる限りの活動を推進することを宣言するとともに、国及び地方自治体に対し、社会保障費の抑制方針を改め、また、ホームレスの人も含め社会的弱者が社会保険や生活保護の利用から排除されないように、社会保障制度の抜本的改善を図り、セーフティネットを強化すべきという呼びかけを行った。
また、以前から、当会は、2007年10月29日には「生活保護基準の引き下げについて慎重な検討を求める声明」、同年12月5日には「生活保護基準の引き下げに反対する声明」を発出し、生活保護基準に関する議論は、公開の場で広く市民に意見を求めた上、生活保護利用者の声を十分に聴取して十分に時間をかけて慎重になされるべきである旨の意見をその都度表明してきたところである。
当会は、母子家庭の子どもたちが尊厳をもって成長し、貧困が次世代へ再生産されることのないよう、国会において、母子加算を従前の保護基準に戻し、かつこれを法律で定めるよう強く要請するものである。
2009年(平成21)7月9日
福岡県弁護士会
会 長 池 永 満
2009年6月26日
海賊対処法に反対する会長声明
海賊対処法に反対する会長声明
1 今国会に上程されていた「海賊行為の処罰及び海賊行為への対処に関する法律」案は,6月19日,参議院で否決されたにもかかわらず,同日,衆議院の特別多数決で再可決するという形で成立した。しかし,同法は,以下に述べるとおり,日本国憲法に違反するおそれが極めて強いものである。したがって,当会はこの法律の制定に強い遺憾の意を表明するものである。
記
① 自衛隊の海外活動に関する憲法上の制約への違反
同法は,海上保安庁が海賊行為へ対処することに加えて,自衛隊が海賊対処行動を行うことや一定の場合に自衛官が武器を使用することができる旨を規定する一方,その活動地域や保護対象となる船舶について何らの限定も加えていない。しかも,同法は緊急な事態に対処する特別措置法ではなく,恒久的な対応法として位置づけられている。しがたって,同法によれば,自衛隊が,領海の公共秩序を維持する目的の範囲(自衛隊法3条1項)を大きく超えた全世界の公海上で,全ての国籍の船舶に対する海賊行為に対処し,一定の場合には武器使用まで行うことを可能にすることになる。
しかしながら,日本国憲法は,恒久平和主義の精神に立ち,その第9条は武力による威嚇又は武力の行使を放棄し一切の戦力不保持,戦争放棄を宣言しているのであるから,本来,自衛隊の海外活動については,憲法上大きな制約が課されていると解されるところであり,同法はこの憲法上の重大な制約に違反するおそれが極めて大きい。
② 恣意的な武器使用につながる危険が大きいこと
しかも,同法では,自衛官が船体射撃(海賊船の機関部をめがけての射撃)や危害射撃(人に危害を与える射撃)を行う要件が,「他に手段がないと信ずるに足りる相当な理由」(同法6条)など,きわめて曖昧な規定内容となっているため,恣意的な判断の下に安易な武器使用がなされる危険性を否定できない。このような権限を自衛官に与えることは,一切の武力行使を禁止した憲法9条に違反するおそれが極めて大きい。
③ 民主的統制の観点からも重大な問題が存すること
さらに,同法は,自衛隊の海賊対処行動の判断は,内閣総理大臣の承認のもと防衛大臣が行うものとし,内閣総理大臣は国会に事後的な報告をすれば足りると規定しており,国会は承認機関ですらない。そして,海賊対処行動が急を要する場合には,内閣総理大臣の承認すら不要としている。このように同法は,海賊対処行動の権限を防衛大臣に集中させた内容となっており,民主的統制の観点からも重大な問題を有すると言わざるを得ない。
2 結論
現に海賊行為が行われているソマリア沖の問題を解決するために我国を含めた国際協力が必要であることは言うまでもない。しかしながら,武力を放棄し恒久平和主義を宣言した日本国憲法を有する我が国がとるべき国際協力の方法は,自衛隊の海外派遣という手段ではなく,無政府状態を原因とする貧困状態の解消に向けた支援活動など非軍事的国際協力によるべきである。したがって,海賊対処法は執行することなく,速やかにその廃止の手続きが執られるべきである。
以上
2009年6月25日
福岡県弁護士会 会長 池 永 満